インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE   作:バルバトスルプスレクス

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今回から夏休み編となります

DMMのISがまさかのサービス終了を聞いてプレイしている身としては寂しいですホント




夏休み合宿編
四話 モルゲンレーテへようこそ


 

 タッグマッチトーナメントも難なく滞りなく終了した翌日の事。

 二年二組の教室。朝のホームルームで真耶はカナードら二組の生徒達に『夏季強化合宿のお知らせ』と記された小冊子を配布した。夏休み中の二週間を使って、ある企業から提供された訓練施設に合宿を行うと言うのだ。パイロット科の生徒も整備科の生徒も強制参加のようで、不満を隠しきれていない生徒が鈴音を含めて半数近くはいた。

 夏休みと言えば学生が一番楽しみにしているビッグイベントと言っても過言ではない。一人一人夏休みの予定も合ることだろうが、冷静に考えればここはIS学園で自分達は二年生。それに加えてしつこいようだが前年度は亡国機業のテロ行為が盛んだった為か、今年度から本格的に生徒たちのレベルを底上げしようとの事なのだろう。

 程なくして日程やら合宿に使用する施設の地図やらが記載された冊子が真耶から生徒一人一人に配られ、全員に行き渡ると一瞬の内に教室内はざわつき始める。合宿中における訓練内容も勿論だが、持参品の制限に頭を悩ませている女子生徒が多かった。

 しかし、一人だけ他の生徒達とは違うページで頭を悩ませている生徒がいた。

 

「うっそだろおい……」

 

 小さく呟いたカナードは己の顔を引きつらせていた。

 訓練内容は問題はない。自身のレベルアップに繋げてくれるのでとてもありがたい。

 日程の方も問題はない。二週間と言う期間は夏休みの三分の一を使ってはいるが、訓練内容を鑑みるに妥当だと言える。

 その二つでないとすると何故カナードは顔を引きつらせているのだろうか。

 初めに気が付いたのは真耶だった。ざわついている教室内で、唯一と言って良いほど異様に静かで、尚且つ一番前の席であった為か真先に気が付いた。次いで隣の席の簪が何とも言えないと言ったような表情を尚もしているカナードの顔を覗き込んだ。

 

「えーっと……大和君、どうしたんですか?」

 

 恐る恐る尋ねて来る真耶に、カナードは苦笑い気味に答えるのだった。

 

「この合宿先………明日刃機業の施設だって事に驚いたんですが…」

 

 ――それ以上に、とカナードが付け加えて更に応える。彼の手には地図が記載されたページが開かれていた。

 

「――この施設の地図……私の実家の近くなんですよね」

 

 

 

 

 時は経ち、IS学園二度目の夏休み。その夏合宿の初日は五時起床六時出発でIS学園手前のモノレール駅から数台のバスに乗り込んだ二年生は、現地到着までの間足りなかった睡眠時間を貪るか、読みかけの小説に目を走らせるか、配布された冊子を何度も見直すものと様々だったが、特にカナードに至ってはそれのどれにも当てはまらない。

 従妹の篝に連絡を入れようにもどう言う訳か今日になっても連絡が付かず、着信を拒否しているのではないのかとさえもカナードは思いながら、諦めて携帯電話を懐にしまっていた。

 自分のあずかり知らない所で突然決まったこの合宿訓練。一番の疑問点である明日刃機業が今回関わっていると言うのに、従妹である社長の篝からは何の連絡もないのだから、意味なく困惑してしまうカナードだった。

 隣の座席に座る簪は恋人に声を掛けようかどうかを迷いつつ、取り敢えず窓の外の景色を眺めることにした。

 バスは下りの高速道路を走行しており、目的地に向かう途中に三回ほどサービスエリアにて15分ほどのトイレ休憩を設けている。その間にサービスエリア限定スウィーツを購入する計画を立てる生徒達も多かった。

 二か所目のサービスエリアに到着して、小用を済ませた一夏とカナードは自販機でジュースを買おうと財布から小銭を取り出そうとするが、カナードが手を滑らせて小銭を落としてしまった。篝の携帯に繋がらない理由を考えながらだったのか、手元が疎かになっていた。

 慌てて落とした小銭を二人で拾い上げると、見覚えのないグラサンを掛けた金色の長髪の男性が拾うのを手伝っていた。

 

「大丈夫だったかね?」

 

「すみません、大丈夫ですありがとうございました」

 

 頭を下げて礼を言うカナードの顔を笑みを浮かべて見ていた男性は、「気にすることは無い」と言いたげにジェスチャーする。猫糞(ネコババ)を決め込む事無いその男性の口元は微笑んでいる様に見えた。

 

「あ、カナードそろそろバスが出る時間だぞ!」

 

 一夏に言われて時計を確認したカナードはジュースを買うのを諦め、小銭を拾うのを手伝ってくれた男性に再度深く頭を下げると、足早にバスの方へと戻っていった。

 一人その場で佇む男性は、一夏とカナードが乗り込んだバスが発車するのを見送っていた。

 

「(先程の二人、制服からしてIS学園の……。成程、あの二人がスコールの言っていた例の少年達か)」

 

 男性…ミッシェル・ル・クルーゼはいつもの白い軍服と無機質な仮面と言う出で立ちではなく、大量生産品で安物のシャツにロングパンツのラフな服装にグラサンを掛けただけの格好だ。とてもテロリスト集団の首謀者には見えず、傍から見れば観光客にしか見えない。

 やがて彼は踵を返してサービスエリア内を歩き出した。すれ違う人々の合間を縫うように移動しながら彼は喫煙所で足を止めた。

 

「団長、間もなく第二班が到着する予定です」

 

 クルーゼの横で新聞を広げたスーツ姿の若い男性が報告する。

 

「そうか。 予定より少し遅いようだが、そこまで大きな問題ではないな。 では出資者殿からの連絡はどうか?」

 

「そちらも同じく、第二班と同じ頃の到着となります。 その後は我々と合流後、目的地へ直行いたします」

 

 報告を終えたらしいスーツ姿の男性は広げていた新聞紙を畳み、持っていたカバンの中に入れて今度はタブレット端末を取り出すとそれをクルーゼに手渡した。画面に表示されていたのは一見すると最新のスウェットスーツのように見える代物だが、その正体が何であるかを理解しているクルーゼにとっては僥倖(ぎょうこう)である事に違いはない。

 それはジャミングスーツのテスト実績のデータであった。

 ジャミングスーツはクルーゼの所持している一着だけでない。データ採取の為に十着近くも生産されており、その十人分のIS稼働時のデータが事細かに記されていたのだ。

 

「成程……いいデータだ」

 

 今、カナード達の知らない所で新たな戦火の火種が生まれていた。

 ミッシェル・ル・クルーゼが率いる死霊の騎士団。彼らの宣戦布告のその日は、そう遠くはないのかもしれない。

 

 

 

 

 IS学園を発射したバスはついにカナードの故郷の地を走っていた。

 バスの向こうに見える山々の緑と、田んぼの成長した稲が風を受けて揺らぐのが良く見える。この時数人の女子生徒に囲まれてその口々から実家の場所を執拗に問われるカナード。対応に困っていた彼だったが、運がいいことにバスが目的地に到着。千冬の指示を受けて乗車していた生徒たちはバスを降りて整列する。

 ここ明日刃機業が有する訓練施設『モルゲンレーテ』は山に囲まれた平地にあり、建物は地上8階地下6階まであると言う。更に少し離れた山林の中にはキャンプ地や別荘地にあるようなログハウスが数戸建っている。そしてこの駐車場に整列する生徒達の前に、二人組の巨漢と少女が立っていた。一人は木坂でもう一人は篝だ。

 

「私が明日刃機業の明日刃篝だ。 今日から二週間、皆には私たちの施設での強化訓練を受けてもらう。 突然の事で未だに戸惑っている者もいると思うが、その辺は我慢してくれ」

 

 短いその挨拶の後、整備科の生徒と、パイロット科の生徒、そして専用機持ち達の三つのグループに分かれるのだが、この時篝はカナードら専用機持ち達の所で事の経緯を話すべく、今回の訓練でカナードが宿泊するログハウスに移動する。その間他の生徒たちは真耶と共に整備科とパイロット科も合わせて木坂に連れられ『モルゲンレーテ』内部へと案内されている。

 ログハウスの方は防音性に無駄に優れており、耐震は勿論耐火性にも無駄に優れていると篝は説明する。

 

「まずはカナードが気になっていた今回の事だが、この中で死霊の騎士団について聞き覚えがある奴はいるか?」

 

「俺は簪の親父さんから名前は聞いているが、聞くところによるとかなり面倒な事を仕出かしたらしい」

 

「で、その時お父さんそれ以外に何か言ってた?」

 

「つってものろけ話だったけど? あ、ごめん篝続けて」

 

「あ、ああ。 情報によると、連中は各国の様々な企業からおよそIS一機分に相当する部品やプログラムを強奪している。 更識刀眞氏の言った面倒な事とはこの事だろ?」

 

 篝の問いに首肯するカナードの脇で、千冬が手を挙げていた。彼女もどこからかで情報を得ていたのだろう、篝に指名されると一呼吸おいて重く口を開いた。

 

「私がその組織の名を聞いたのは、新学期に入る前の事だった」

 

 

 

 

 IS委員会本部の地下で千冬は春十と会っていた。ヤタガラス事件の一件から直後の面会には時間や手間がかかり、ようやく面会が許されたのだった。

 以前あった時は敵同士。親は秘密結社の首魁、娘は世界最強の名を頂いた学園の教師。それが事件後になれば以前の様な親子関係に戻っていると言われれば答えはノーだ。そんな二人は今、ガラス越しの対面となっていた。

 

「……久しぶりだね、千冬。 一夏はどうしたんだ?」

 

「あいつは学園です。 今貴方と顔を合わせる時ではないと判断しました」

 

 その判断は正しかったと言えよう。こんな状況では面会時間ぎりぎりまで会話をすることはできない事は予想できる。

 しかし、千冬も何か話そうと気持ちを落ち着かせようとする。

 見合いの話をしようにも、現在窓木小次郎との付き合いは時間が合った時にいっしょに酒を飲む程度で互いに色恋沙汰には奥手なのか、なかなかそれ以上に進展はしていない。だが決して相性が悪い訳ではないのである。

 

「早速親子の会話と行きたいが、どうもそれ以上に話さなければならない事がある。 よく聞いてくれ」

 

 眉間にしわを寄せて語られるのは、亡国機業とは別の脅威の存在であった。

 第二次世界大戦前後には幾つものの秘密結社が存在していた。亡国機業もまたその一つ。それが現実に壊滅したとしても、それで世界が平和一色になると思ったらそうではない。また別の組織が現れるだけだ。

 その中にひそかに動き始めているのが死霊の騎士団である。組織の名前は裏社会にあるものの、構成員の素性や人数だけでなく、どこの国に存在及び活動しているのか裏社会でも明らかになっていない。しかし、それだけならば他の組織や結社も同じではあるが、他とは違う特徴があった。

 

「構成員の何人かは既に()()()()()()()の人間だ」

 

 不思議と千冬は驚きはしなかった。行方不明者が死亡宣告後にひょっこり帰って来るパターンは物語とかでよくあるし、稀に現実に起こってニュースになった事もあった。

 

「だが、問題はそこではない」

 

 しかしその後に紡がれた春十の告白には、流石の千冬でさえも驚きを禁じ得なかったのだ。

 

 

 

 

「連中は……死霊の騎士団は男性でもISが操縦できるスーツの開発に着手していると言っていた」

 

 それは突然投下された爆弾的発言だった。誰もが開いた口が塞がらない状態で、金魚の様に口をパクパクしている。しかし、その中でカナードと篝は「やはりか…」と呟いて口元に手を置いていた。

 

「俺と一夏のあのニュースが引き金になったんだな、恐らくは」

 

「だろうな。 二人の登場から一年以上経っている。 先天的に動かせる因子を持つ男性を新たに探し出す、もしくは遺伝子操作で生み出すよりも、後天的に因子を持たせたほうが時間的労力は低いと踏み込んだんだろうな」

 

 篝の見解は間違ってはいない。そもそも一夏の登場後世界規模で捜索したものの、唯一見つかったのはカナードだけ。今年の三月にも行われはしたが結果は空振りに終わっている。だからこそ後天的に動かせる因子を持たせることしか道はなかったのだろう。

 そんな中、セシリアが挙手した。

 

「先程織斑先生はスーツの開発に着手したと仰いました。 それはつまり、ISが女性にしか動かせない理由が判明したと言う事も考えられませんか?」

 

 セシリアの仮説は一理ある。そもそもISと言う物は女性にしか動かせない欠陥機である。何故そうなのか、どうしてそうなのかは開発者の篠ノ之束すらも分かっていない。もしくは本当は原因を知っていながら敢えてそうしているのか、真相は定かではない。しかしその中でのイレギュラーが織斑一夏と大和カナードの二人である。一夏の場合は白式のコアに取り込まれ融合した織斑秋百の遺伝子情報により操縦することが可能なのだが、それに対し未だにカナードが動かせる原因が未だに判明していない。

 その仮説の通りでスーツが量産体制に入ったとして、死霊の騎士団はそれを以って何を遂げるのかが彼ら彼女らの新たな疑問となった。

 

「確実に販売の線は無いだろうな」

 

 ラウラが、言った。彼女が言うには国際IS委員会の女尊男卑派がスーツの存在をデマであると風評するか、適当な理由やこじ付けで販売の差し押さえされるとの事。

 

「ラウラの言う通りかもしれないけれど、それは表立った場合よ。 例えば裏社会とかで非合法に秘密裏に売買するとかじゃないかしら」

 

「あと考えられるのは、自分たちで運用するとかじゃないかな?」

 

 鈴音とシャルロットもラウラの考えに補足するように言った。

 

「だが、問題はそこじゃない。 いずれにしてもそうなった場合、委員会はお前たちIS学園に出動を要請するだろう。 だからこそ私の会社とでこの合宿を考案したんだ」

 

「そういう事だったのか……それなら納得だ」

 

「新たな脅威に対する戦力の向上か。 カナード、お前は良い従妹を持ったな」

 

 自分の従妹の仕業に納得がいったカナードに箒が横目でカナードに言った。

 会議が終了してログハウスから出たカナードらは、自身らにあてがわれた(と言っても男女別にしただけ)別のログハウスの中でISスーツの上にジャージを纏った格好に着替えてから篝と千冬指導の下トレーニングメニューに取り掛かった。

 トレーニング内容は個人ごとに違っており、それぞれの長所及び短所の具合によって構築されている。

 例えば、接近戦に弱いセシリア。彼女は昨年の一夏とカナードの初戦時それぞれに接近を赦してしまった事がある。今では距離を縮めさせないようになってはいるが、今後も昨年と同じようなハプニングが起きないとは限らない。なのでその対処法を現役ドイツ軍人であるラウラからナイフを用いた模擬戦を通して教わっている。

 次に一夏。白式第二形態雪羅は零落白夜の爪や楯を有しているが、如何せん燃費が悪い為自滅する事もしばしば。そこで彼に課せられたメニューは異なる三基のピッチングマシーンから放たれる野球の硬球玉、サッカーボール、バレーボールの雨霰を避けながらマシーンに接近してそのスイッチを切ると言う物。

 これを一夏は顔を腫らしながらもなんとか達成したが、

 

「誰がこれで終わりと言った」

 

 と言う篝の宣告と共にまた新たにピッチングマシーンが一基追加され、更にスイッチを切ったピッチングマシーンのスイッチを戻して四基から再スタートすることになった。

 この時一夏は悟る。「クリアする毎に一基ずつ増える奴だ」と。

 

 

 

 

「――シンクロ率67…69…75…88……、シンクロ率100%突破しました。 おめでとうございます団長、プロヴィデンスの完成です!」

 

 商談を終えて直ぐに東北某所の地下施設では、クルーゼら死霊の騎士団たちは歓喜の中に包まれていた。

 簡潔に言ってしまえば今この瞬間、プロヴィデンスが完成したのだ。

 ISを待機状態に戻し、スタッフに預けたクルーゼは吹き出た汗を拭って賛辞の言葉を送る。これまで彼らには苦労を散々掛けてしまったが、今この瞬間総てが報われた気がしていた。

 互いに手を取り合い、肩を寄せ合い、抱き合ってる職員たちをスコールは少し離れた場所で一人眺めていた。あの輪の中に入るべき人間でない。元々スコールは騎士団のメンバーではなく、拾われた身。あの中に入る気がしない。

 

「どうしたのかね? 君にも十分苦労を掛けてしまったよ」

 

 一人だけ離れている彼女を見かねたのかクルーゼが歩み寄ってきた。右手を差し出しながら彼女に握手を求めるも、その手を取らずスコールは踵を返して足早に去っていった。数人のスタッフが彼女の行動を怪訝そうに見ている中、クルーゼは「彼女はあくまで協力者」とだけ言い残して彼もまた割り振られた自室へと向かった。

 残されたスタッフ達は休憩を交代でとりながら、データの整理作業に入る。

 部屋へと向かう道中で突然胸掴んでよろめいて壁にもたれかける。

 普段のイメージとは違う荒々しい呼吸をしながら忌々し気に口元をゆがませて、懐にしまい込んでいたピルケースから乱暴に錠剤を口の中に放り込んでかみ砕いた。誰にも見せたくない彼唯一の弱み。もう十年近くこの症状に悩まされている。最初は年に四回だったのが徐々にその感覚が短くなってきた。不治の病と言う訳でもない身体的なストレスによるものである。

 錠剤の成分が効きだして呼吸が楽になると今度はロケットペンダントを取り出して中の写真を開く。

 

「決戦の時まで、しばしの休息も必要と言いたいか君は……」

 

 写真の中でカメラ目線に微笑む女性をクルーゼは愛おしそうに指で撫でた。

 その後は何とか立ち上がって部屋へと歩いて行った。

 

 

 

 

続く




実はIS小説第三弾として胸ライオン系を製作中です
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