インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
だいぶ時間かかってしまってすみませんでした
強化合宿二日目の朝を清々しく迎えたカナードは早朝の涼しい風をログハウス二階のベランダから肌で感じ、慣れ親しんだ故郷の山と山の間から顔を出した朝日を全身で浴びた事でようやく意識が覚醒する。やはり故郷の地で味わう空気は、IS学園付近のそれよりも数倍数十倍心地よく感じられる。
専用機持ち達は合宿中男女でそれぞれ二件のログハウスに別れて生活している。その他の女子生徒たちは整備科パイロット科も含めてモルゲンレーテ宿舎の一部を借りている。カナードと同じログハウスを使っている一夏もカナードより一時間早めに起きて早朝マラソンの最中だ。ここでふと隣の簪や箒らの使うログハウスに目をやると、竹刀を振るって朝稽古をしている箒が見えた。
「む、カナードか。 おはよう、随分と早い目覚めだな」
「おはよう。 やっぱ地元の空気のお陰だろうな多分。 小学校の時の夏休みを思い出す。 あー、あと一夏なら俺より一時間早く起きてそこらへん走り回ってるだろうよ」
「そうか。 なら、もう一本竹刀を用意しなければならないな」
朝っぱらから熱心な剣道少女だ。朝も早い時間にもかかわらず、竹刀を振るい続け尚且つ野試合まで熟そうとする。カナードは純粋に称賛つつ、部屋に戻り学園指定のジャージに着替え自身も軽いウォーミングアップに入った。
◇
二日目の専用機持ちは敷地内の山道を走り続けていた。今日の最初の合宿メニューである。
コースは完全に人の手によって整備されているわけでなく、コンクリートは一切ない所々木の根がむき出しになっているので下手をすればそこに足を引っかけて顔面を強打してしまうだろう。現にセシリアとシャルロットの二人が相次いでその被害に遭っていた。それに加え、この夏の猛暑もあってか疲労感や汗の流れも尋常ではなく、衣類が肌に引っ付く不快感で余計に疲れを感じてしまう。
一定の間隔で吸水ポイントもあるため実質マラソンであるこの合宿メニューではあるが、それはカナードら専用機持ちだけ。その他の専用機を持っていないパイロット科と整備科の生徒たちは揃って冷房の効いたモルゲンレーテ本棟ないにて座学の実習中である。
山道のコースを難なく走り続けるカナード。ここは彼の故郷の地、幼い頃からこの地を駆けまわったからか木の根に足元を取られる事無く一定の速度で走り続けていた。
「な、なぁどうやったらそんなにスイスイいけるんだよ。 ラウラとか鈴は兎も角カナードはどちらかと言えばインドア系だと思ったんだけど?」
「そう言われてもなぁ、昔から虫取りとかでその辺を走り回ってたからとしか言えないな」
覚えている限りの昔の事を思い出し、理由らしい理由も曖昧なまま答えつつも一定の速度で走り続けるカナード。それに対し、質問してきた一夏は若干呼吸が乱れてきている。その二人を中心に、前方をラウラと鈴音がほぼ並走してその後ろには箒。後方はシャルロットが若干疲れを見せつつあるセシリアと最後尾である簪の様子をカナードが見守りながら走り続けていた。
マラソン訓練が終われば10分間の休憩。日陰の道が多かったとはいえ、夏の暑い陽射しを受けながら走り続けているため、吸水ポイントでの水分補給でも足りなかったのか、気が付けばカナードらは合計2リットル近くのスポーツドリンクを飲み干していた。
その後はISを展開してからの模擬戦や、各自機体の調整作業、そしてそれらに関するレポートの製作などを行っていくと時刻は既に昼食の時間。千冬の号令で専用機持ち達は揃ってモルゲンレーテの食堂に向かう。料金は昼食代として社員たちのIDカードを通して給料から注文した分差し引かれているが、合宿で明日刃機業の施設を使わせてもらっているIS学園生徒及び引率の教師たちは食堂を利用する際、初日に配られた特別IDカードを通して篝の給料から半額で差し引かれているのだ。簡単に言えば篝の奢りと言えば良いだろう。
食堂の内装は一般的な社食というスタイルから少し外れたファミレスに近い内装になっている。メニューは元々いる社員のその日の体調に合わせたヘルシーメニューか普通の社食のどちらかが普通だったのだが、今日はどう言う訳かメニューが数種類のラーメンや餃子やチャーハン等中華料理屋か本格ラーメン屋の様なメニュー表に代わっていた。
券売機が三台並んでいてバリエーションの多さに怯みつつ、自分の食べたいラーメンやサイドメニューを選び、特別IDカードを読み込ませた。
カナードが注文したのは味噌ラーメンに追加のトッピングに煮卵とコーンを乗せ、サイドメニューに餃子を一皿。
一夏と箒は塩ラーメンに追加トッピングは無かったが、一夏の方だけ餃子とミニチャーハンの皿があった。
次いで鈴音は醤油ラーメンに追加トッピングの焼きネギと煮卵にサイドメニューの餃子。
簪はチャーシュー抜きの塩ラーメンだけ。後のラウラは味噌、セシリアとシャルロットは醤油で簪同様三人ともトッピングもサイドメニューも注文しなかった。
「ねぇ皆。 ラーメンの卵っていつ食べる?」
四人テーブルを二つ繋げて着席して食べ始めた時、レンゲでスープをすくいながら不意にシャルロットがそう言った。何処かのドラマCDのやり取りじゃねぇかよと内心突っ込みつつも髪が邪魔にならないように一本に纏めたカナードが先に答えた。
「俺はその時々だけどな。 先に食う時もあれば、半分だったり最後だったり」
「俺は最後だな。 最後のお楽しみにな」
「私もだ」
「私は最初よ」
「わたくしも最後ですわね」
「私も鈴と同じくだ」
「カナードと同じく。 じゃあシャルはどうなの?」
「僕は半分過ぎた頃…かな」
何が彼女の疑問だったのかはさておき、食のスタイルは人によって違う事は確かである。
生まれや育ちによって個人の味覚は様々に差別化され、育っていく。甘い物が好き。辛いのが平気。癖のある食べ物が好き。質素な食べ物が好きと、自分の食べ方と言うのは長い時間をかけて形成されていくのだ。これは餃子にも言える事だ。現にカナードは醬油とポン酢を1:1、一夏は醤油とラー油を8:2、そして鈴音は酢と胡椒を9:1の割合で付けダレを用意している。さらに言えば今カナードらが食べているこの餃子はニンニクやニラの代用として数種類のハーブが使われているため、その他の女子生徒達から受けもよい。
「つーか、何でまたンな事聞いてんだよ」
「だってこうやって皆でラーメン食べるなんて、学園の食堂でも中々出来ないよ」
言われてみれば、と一斉に納得した反応をみせるカナード達。学園の食堂では料理の種類が豊富な為、全員が全員ラーメンを頼むことはまずないし、かと言ってそんなにしょっちゅうラーメン屋に行く事も今までなかった。
この様な機会が無ければ、友の食の嗜好を新たに知ることも無かっただろう。
それから昼食の時間も終わり、午後の教練の時間。モルゲンレーテ正面グラウンドに明日刃機業のロゴがプリントされた五台のトラックが停車し、コンテナ内部から二十機程のISとはまた違ったパワードスーツが降ろされた。
「ではこれより、お前たちには現行出回っている強化服EOSの稼働訓練をやってもらう」
「あの、その前に織斑先生、EOSとは別にあるあのパワードスーツって、何ですか?」
女子生徒の一人の疑問はカナードらも同じである。
件のパワードスーツはEOSと比べスッキリとした印象が持てる。さらに特徴的なのは、かつて第二世代以前のISに存在していた
「これより君たちにはMRESA及びEOSの稼働テストを受けてもらいます。 EOSを専用機を所持している生徒に、MRESAはそれ以外の生徒に装着していただきます。 自己紹介が遅れましたが、俺は明日刃企業技術部門所属の
「同じく、
「大和生物機械技術研究所所属の飛鳥真です」
昨年の今頃だったか、一夏たちがカナードの実家の研究所に見学に行った際に見たカナード曰く「男性にも扱えるISの代わり」の発展型であることはまず間違いない。というよりも骨組みに近かったあの状態から飛躍的に進化し過ぎではなかろうか。
カナード自体部門が違うためか、MRESAのデザインだけでなく性能面においても興味津々の様子で爛々と目を輝かせている。特にデザインに関しては厨二心をくすぐられる物で、トリコロールカラーで往年のヒーローロボの様な外見である。彼と同じように目を爛々と輝かせるのは簪と一夏。静かに興奮している三人をよそに稼働テストの準備が着々と進んでいく。
「大和君、衛宮さんと新田君のアドレス教えて!」
「いきなりなんだよ。 つかあの二人は明日刃機業の社員だからそんなに顔合わせとかしたことねぇーし、真に関しては彼女がいるから無理だろうよ」
「え、真って彼女いたの?」
迫る女子たちをどうにかさばいて見せたカナードだったが、同僚のシャルロットはその事実を認知していなかった様だ。しかし、これ以上長引くと後々面倒なことになるので、さっさと訓練に移ることにした。
今回行うのは先にスティングが言った通り、カナードら専用機持ちたちがEOSをそれぞれ装着したのだが、一歩踏み出すごとに疲労感が増していく。それだけEOSが鈍重であることは間違いない。
その後EOSとMRESAを交換しての稼働訓練に移ったのだが、性能面すべてにおいて全くと言っていいほど比較にならない。IS程ではないにしろ、MRESAは使い易くそれでいて程よい重量感がある。何しろEOSとは雲泥の差だ。
訓練終了後、案の定囲まれてしまったスティングとアウルを見捨てた専用機持ちたちはいつの間にか真を確保していた。
「え、言っちゃったんですかカナードさん!」
「物の弾みでな。 正直すまんかった」
「それよりも真、いつの間に彼女なんか」
「あーそれだったらなずっと前からだな。 もう二年以上になるか?」
同僚であるシャルロットの疑問をカナードにあっさり答えられた上に交際期間まで暴露されたことに「アンタって人はぁーっ!」と真は怒鳴りつつも仕方なしにスマートフォンを操作し、嫌々シャルロットたちに画面を見せ付けた。
画面に表示されていたのは男女のツーショット写真。片方は真だが、問題はその隣の少女。金髪のセミロングに子犬のような人懐っこさそうな印象がある。背景から何処かのテーマパークで撮影されたようで、ジェットコースターの特徴的なレールが一部写り込んでいる。
「ステラって言います。 実を言うと秋の彼女の誕生日に何かプレゼントを贈ろうかなぁーっと思って」
「そんで、篝のところで募集してたバイトに応募したってのか? つかうちの研究所バイトとか副業とか掛け持ち禁止じゃなかったか?」
「所長からは出向扱いで、特別給与が出るって言ってました。 プレゼント買うのに資金が足りないなぁって時に紹介されたんですよ」
現役高校生ながら研究所所属はISが普及している現代においてそうそう珍しいことではない。
部署は違うとはいえ、後輩の頑張る姿を見て自然とやる気が生まれたカナードは、この後に行われるEOSとMRESAに関するレポート制作に気合を入れるのだった。
◇
和気藹々とカナードたちが強化合宿の最中とは別のとある地下施設では壮年の男がジャミングスーツを着用した状態で打鉄を纏い、縦横無尽に飛行しながら浮遊しているターゲットバルーンを近接ブレードで一つ一つ乱雑に切り捨てていた。水を得た魚のごとく、操縦者は嬉々とした表情で打鉄の感触を確かめていた。
この日もクルーゼはジャミングスーツの商談で自分たちと同じ境遇の団体を訪ねていた。彼らもまた、混迷する現代の被害者。職や地位を追われ、理不尽な仕打ちを受けてきた。そんな中クルーゼら死霊の騎士団に出会えた彼らは、胡散臭い団体だと最初は警戒していたが、今日になってようやく同志として手を取り合ったのだ。
「これは……凄い」
「気に入ってくれて幸いだよ。 それで急で申し訳ないが――」
「手を貸そう。 こんなにも素晴らしいプレゼントは初めてだ」
固い握手を交わし、クルーゼの中で着々と自身の野望が組み上がっていく。しかし実行に移すにしてももう少し人手が必要である。今はまだ小さい一歩に過ぎない。ジャミングスーツの量産自体は滞りなく進んでおり、このまま何も問題がなければ秋ごろには彼の野望が成就される。
今はまだ下準備に過ぎない。商談の予定は来月いっぱいまで終わらない。
この日の商談の後、クルーゼは石動が運転する車に乗り込み、次の目的地へと向かっていった。
窓の外を眺めることなくピルケースから錠剤を取り出して口の中に放り込む。商談中も鈍い痛みに襲われていたが、ようやく解放された。
「団長、今日はもう休まれてはいかがでしょう。 当日になってあなたが倒れては総ては水の泡です」
バックミラー越しに振ってくる部下の視線と心配にクルーゼは苦笑いを浮かべるだけ。今日は商談のため無機質な仮面ではなく、サングラスを着用している。仮面をつけている時より表情が比較的豊かに見える
「しかしだね、トップが動かなければ部下は動かないのは定石ではないかね? 君とて重々理解しているはずさ」
「そうですが、少しは私たちを頼ってください」
これでも大変頼っていると思っているのだがね、と内心思うクルーゼは次の目的地に到着するまで仮眠をとることにした。
続く
夏休み編は次々回で終了です
所で原作ISで一夏がISを動かせる理由が判明しましたが、この作品内の織斑姉弟はSEEDでいうナチュラルとして生を受けました
ならばこの作品内におけるプロジェクトモザイカと同様の計画によってSEEDでいうコーディネーターとして生を受けたのは……
次回も応援よろしくお願いいたします