インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
つまりは合宿編も今回でラストとなりますが今後とも今作をどうぞよろしくお願いいたします。
内容が濃く、それでいて実に充実した合宿もついに残すはあと三日。案外あっという間であったと感慨深げに夜空を見上げるのは大和カナード。地元での強化合宿を聞いて戸惑いはしたが、今となってはもうそんな気はしない。
IS学園では見えなかった星空も、故郷の地では満天の星。通いだす前では当たり前すぎて感じていなかったが、やはり故郷で見る星は格別なものだ。
「夏の夜空も結構綺麗だね」
「俺は簪のほうがきれいに思えるなぁ」
隣のログハウスの二階のベランダにいる簪と共に夏の夜空の天体観測。昨年の年末にカナードの実家にて冬の天体観測した時と違う夜空だが、これもまたいい物だ。カナードは視線を夜空から移して簪を見やる。
すると簪もカナードの視線に気が付き視線を合わせた。
「ん、どうしたの?」
首をかしげながら声をかける彼女に、カナードは「なんでもない」と短く答える。
耳をすませば少し離れた場所にある田んぼからカエルの合唱がかすかに聞こえてくる。都会出身の女子生徒たちは初日の夜はその合唱に慣れないせいであまり眠れなかったという。それは専用機持ちたちである箒たちも同様で、特に気にしなかったのはカナードと一夏それと簪の三人だけだ。
「簪ってさ、カエルとかの鳴き声とか大丈夫だったんだな。 よく眠れたな」
「それはここがカナードの故郷だから、いずれ慣れないといけないから」
「それもそうか……そうだよな、うん」
誰かが二人のやり取りを盗み聞いていれば間違いなく砂糖を吐く事態になっていたかもしれない。が、カナードと簪にとってはいつものやり取りなわけで特に問題はない。
女子専用機持ちの使用しているログハウス一階の明かりから箒たちの声、というよりも鈴音とセシリアの喧騒が隣の二階とはいえ、会話の内容がよく聞こえてくる。どうやらカードゲームに興じているようで、「粉砕!玉砕!大喝采!ですわーっっ!」とセシリアの声が高らかに響いていた。それに次いで高笑いまでするとなると自分の思うように展開でき鈴音を圧倒したに違いない。現に鈴音の再戦を申し込む声すら聞こえてくる。それは恐らく連敗記録更新の狼煙になるだろう。
「デッキにブルーアイズ新規融合モンスターを入れたんだって。 私のスーパーなHEROデッキですら歯が立たなかったもん」
「じゃ、一夏の銀河眼と俺のブラマジもしくはジャンドならギリギリいけるか?」
いくら消灯時間前の自由時間とは言え、まだあと三日残っているというのにあの様子では時間ギリギリまで対戦を申し込むだろう。
月明かりに照らされて夜空を見上げると、ついつい感慨深くなって初日から今日までの出来事が鮮明に蘇ってきた。
MRESAの稼働訓練の次の日はツーマンセルで模擬戦を行い、ペアになったセシリアとのタッグ戦では同じ射撃型のISながらも一夏・鈴音ペア、箒・簪ペア、シャルロット・ラウラペアと連戦。今までセシリアとはドラグーンの制御指導を受けるだけでタッグペアを組むことはなかなか無かったからか、いつも彼女とつるんでる鈴音の気持ちがどんなものなのだろうかと今でも想像してしまう。
その翌日以降は鈴音、シャルロット、ラウラそして一夏と関わることが多かった。他愛もない無駄話、戦闘時における自身の役割についての議論、更には課題の片付けなどをしてきた。それもあと少しで終わるのだ、感慨深くもなる。
◇
翌日の朝。昨日までであれば生徒たちは宿泊している部屋を出て食堂で朝食をとる時間帯なのだが、和やかな空気は一変し緊張感漂う空間に変化していた。食堂に備え付けられていたニュース映像が映し出されている大型テレビの前に全員が集まっており、神妙な面持ちでモニターに視線を向けていた。
画面に映し出されるのは、炎揺らめく廃墟と空を駆ける機械の鎧。その鎧の正体はデュノア社製第二世代ISラファールであることはIS学園の生徒であるならば知っていて当然なのだが、問題はそこではない。
『この映像は先ほど現地の中東国家から送られてきたものです。 驚くべきことに複数人の男性がISを操縦していることが分かります!』
ISを動かせる男は織斑一夏と大和カナードのただ二人だけというのが昨日までの世界での常識だった。それが今日破られたのだ。更に驚くべきところは、動かしているのが一人二人どころではなく、ニュースキャスターが言ったように複数人……映像を見る限り少なくとも十人以上の男性装着者が宙を舞い、引き金を引いているのだ。
テレビにかじりついている集団の後ろでは千冬がどこかと通話し、敬語で話していることから恐らくは学園の上層部か或いは委員会の方のどちらかと連絡を取っていた。そして通話を終えて携帯電話を懐にしまい込んでカナードら生徒に指示を出した。
「お前らよく聞け、この後の訓練は予定を変更して中止とし、指示が来るまで全員部屋で待機。 尚、専用機持ちはこの後私と山田先生の後について来い。 解散!」
千冬のその号令で集まっていた女子生徒らは真っ直ぐ割り当てられた部屋へと戻り、専用機持ちたちは千冬と真耶を先頭にモルゲンレーテ内の一画にある大会議室に到着する。窓の外の山々の景色を臨むこの大会議室では篝や木坂だけでなく、静蘭カンパニーの悠那もいた。カナードは篝から話を聞いていたが、このような状況下でようやく顔を拝むことができた。
連れてこられたカナードらを確認した篝から合図を受けた木坂がリモコンを操作すると、全ての窓にシャッターが下りて外からは覗けないようになると、篝の背後にあった食堂の物よりは巨大なモニター画面に先ほどのニュース映像のラファール達が映し出された。
「恐らく死霊の騎士団がついに動き出したものとされる。 先ほどのニュースにもあった通り、あの集団は現地の武装集団もしくは反米勢力の過激派のいずれかであり、駐留米軍の所有するISを騎士団から入手したと思われる特殊なISスーツで強奪したようだ」
「このニュース映像に映っていたあのウェットスーツのような物が例のISスーツで間違いないようだな」
千冬のその言葉は正解である。篝も言っていたようについに死霊の騎士団が男でもISが動かせるISスーツを世に出せる程に本格始動したのだから。
これにより、国際IS委員会は事態の鎮圧を図るため、国連加盟国所有のIS部隊を派遣したのがつい先ほどになる。
「しかし、もしもの事がある」
それは、中東で起きている今回の事件が陽動の可能性があるということ。仮に大勢の操縦者が対処に向かってしまえば、その分守備が手薄になった国の軍事、もしくは民間の施設が襲撃される恐れもある。しかし、それだけが死霊の騎士団の目的とは限らない。今日になって妄想の産物でしかなかったスーツが世界中に知れ渡り、十年にも満たないISの歴史や常識が
現在IS学園の守りは数人の専用機持ちがいるとは言え、完璧な守りとは言い難い。もしもの時はISを展開したカナードら専用機持ちが学園のほうに急行しなければならない為、現状は待機するしかないのだ。
「この事態になるなら、たとえ失敗作でも厳重に厳重を重ねて保管或いは廃棄すべきだったよ」
絞りながら漏らすのは静蘭カンパニーの悠那。篝からの愚痴を聞いていなければ中々の好青年に見える彼は、篝同様年若い会社経営者。両親の傀儡とは言え、彼自身今回の件について悔やんでも悔やみきれないだろう。
「悠那、今は悔やむことより先々の事を考えろ。 木坂、現地の状況はどうなっている?」
「たった今派遣されたIS部隊がテログループとの交戦に入ったという情報が届いてきた。 しかし、戦況は拮抗していると言っていい」
曰く、十人の男性装着者に対し五人の派遣IS部隊が対処しているのだが、どちらとも一進一退の攻防で統率の取れたツーマンセルで相手を翻弄し技術と経験の差を埋めていた。彼らが着用しているISスーツが如何なるものかを知らしめるには十分だろう。
テログループのISスーツを千冬は便宜上特殊スーツと呼称。更に先ほどの映像を少し見ていただけだというのに、メリットとデメリットを即座に見付けたという。メリット自体は男性でもISを動かせるということ。
「そして、デメリットはISの基本スペックの低下だろうな」
これにはカナードがいち早く気が付いて「やっぱそうか…」と呟いた。
現に木坂からもたらされた情報とを照らし合わせると、男性操縦者二人で熟練操縦者一人を相手に互角に渡り合えていた。特殊スーツを通せば基本スペックを半減する代わりに男性でもISが扱える事は、ニュース映像でも証明されている。
その時、真耶が慌てた様子で現れた。彼女が持ち込んできた派遣IS部隊の敗北を知らせに、誰もが予想だにしなかった様子で驚いていた。詳しく聞いてみると、地上で待機していた同じテログループの他のメンバーから援護を受けて派遣IS部隊は全滅。しかもそのテログループは派遣IS部隊から纏っていたISを強奪したのちに元々の搭乗者を射殺している。
「最低でも15機が奴らの手に渡ったというのか!」
驚愕や怒りが入り混じったような表情の千冬が頭を抱えた。数が限りがあるとはいえこの世界において最強の機動兵器が詳細不明のテログループに奪取されたこの状況に、新たな争いの因子が生まれてしまったのだ。
未だテログループからの犯行予告自体はどこにも届いていないが、予断を許さない状況に誰もが歯噛みする。
そんな時、まるでファーストフードのセットメニューかと揶揄したくなるように、それでいて決して安心とは言えない知らせを真耶が息を切らせて持ってきた。
「あ、IS学園及び各国主要施設に死霊の騎士団の代表と思われる人物からのメッセージ映像が届きました! 今モニターに出します!」
抱えていたタブレット端末をBluetooth接続でモニター画面に映像を表示させる。
頭上のスポットライトに照らされた顔の上半分をマスクで被った白い軍服の様な服を着用した男が、後ろ手に組んでいた。この映像がどこで撮影されたものなのか分からない程、男の周囲は深い闇に包まれている。
『まずは初めましてというべきか。 私の名はミッシェル・ル・クルーゼ、
画面の中の男が語る宣戦布告。今頃各国では同じように驚きの浮かべる人間がどれ程いるかは分からない。
クルーゼなる男は後ろ手に組みながらその場に直立したままではあるが、彼の背後にはうっすらと何人物の人影が映り込み、その人影たちは隊列を組んで整列されていた。
『君たちも既に察しがついていようがいまいが、我々は男性でもISを動かせる特殊なスーツ、言わばジャミングスーツの開発に成功した。 我々は死霊の騎士団。 我々は男女問わずこの世界のルールから虐げられて来た。 夢も、希望も、愛も何もかもが、増長し腐敗したこの世を一度破壊し新たな秩序のもとに、本来あるべき世界を取り戻す。 そのために、我々は今日この日を以て立ち上がる! これこそがその力だ!!』
画面の中の彼が突如光に包まれたかと思えば、次の瞬間彼はグレーの装甲に円形の大型ユニットを背負ったISを展開していた。
大型のレーザーライフル、左腕を肘まで覆う特殊な形状のユニット、更にカナードらの目を引き付けたのは背面のドラグーンユニットではなく、クルーゼがISを展開したことだ。これでニュース映像のISを展開した男たちがフェイクでないと嫌でも理解してしまう。
少なくとも昨年の亡国機業以上の戦力を有しているのは想像に難くない。当時の機業の単純な戦力は三人ほどであったが、今回の戦力はその数は明らかになっていない。
そんな事態なので、この日の午後は予定を繰り上げて専用機持ちも含めてバスに乗り込みIS学園に戻る事となった。
死霊の騎士団のテロ活動がいつ何処で起きるか分からない。そのためにも、一度戻り情報を集める必要もある。バスの発車間際に篝宛にいざという時は手を貸してほしい旨をメッセージアプリで送った。
◇
そして夏休み最終日を迎えた一夏たち。
休みらしい休みすら送れなかった一年から三年までの専用機持ち達は死霊の騎士団の宣戦布告から今日まで学園での待機が命じられ、死霊の騎士団関連の事件発生の際に援軍として各国に派遣されていた。その発生件数は10件にも満たなかったが、専用機持ち達が派遣されたのはそのうちの半数ほど。発生のその都度学園から直接出撃、もしくは襲撃が予測される地域や国に短期間の滞在をするなどして対処にあたっていたのだ。
「あーもー、何なのよ…ったく!」
今ここにいる専用機持ちの中で一番気が短いほうである乱音が学生らしい休みを満喫できなかった事と、死霊の騎士団に対して大きく不満を漏らす。次いで二番目に気が短いほうの鈴音が同意するように「まったくよ!!」と腕を組んで行儀の悪い椅子の座り方をしてふんぞり返る。二人だけでない。口にしていないだけではあるが、同じ思いをしているものは少なくない。
件数こそ多くは無いものの、一件につき死霊の騎士団の構成員が最低でも二名以上がテロ行為を起こしている。
因みにその分夏休みの課題の何割かが免除されている事が専用機持ちたちにとって唯一の救いではある。
「それにしても、連中はもっとまともな方法でスーツを発表すれば良い物を」
箒のその一言に何人かが頷いた。が、一人だけ反応が違っていた。
「恐らくこのやり口は、白騎士事件の意趣返しだな」
大和カナードは腕を組みながら語る。
「そもそもISが兵器として認知されたあの事件、白騎士事件がどういった事件だったか、覚えているか? 本来ISは宇宙開発用のマルチフォームスーツ。 だが、最初のIS白騎士が日本に飛来してきたミサイルの撃墜、これがきっかけにより世界はISを兵器として見るようになった」
それがどうしたと言いたくなるのを抑えた一夏達だが、楯無はカナードが何を言いたいのかを理解していた。
「つまりカナード君、貴方が言いたいのは」
「はい。 ISのプロデュースの方法がもし違っていたらジャミングスーツのプロデュースも評価も変わっていたってことです。 例えば災害救助、例えば土木作業、それこそ本来の月面開発などでプロデュースしていれば、少なくともISによる現在の女尊男否の風潮は低く、ジャミングスーツも違う名前として発表されていたでしょうに」
憶測にすぎませんがね、と付け足した彼の仮説。
確かにそれは誰もがみな一度は考えはしたifではあるが、今回のジャミングスーツもアプローチの違いという点では白騎士事件と少し類似している。
「じゃあ何? あいつ等は篠ノ之博士に恨み持ってる連中の集まりだっていうの?」
「少なくとも、現代社会の風潮により居場所を失った人たちの集まりじゃないのかって話だ」
「『お前たちのせいでこうなった』『お前たちの使い方が正しければこうならなかった』……仮に白騎士事件が起きなかったとしても姉さんのことだ、あの人は人命救助という選択肢はまず取らなかっただろう」
実妹である箒が姉の業をつくづく実感してしまう。いや、今回のは氷山の一角にすぎず、実際には自分の与り知らない事実がいくつもあることだろう。
いつの時代も道具は使い道次第でその用途を変える。料理で人を喜ばせる事ができる包丁も、他人の命を奪う凶器にもなるように。今の世の中ではISがまさにそれだ。
改めてこの世界が如何に歪んでいるかを再認識した専用機持ち達。自分達が無意識のうちに見ないようにしていた世界の影の部分が、知ろうともしなかった現実が、関心を持とうともしなかった結果が今の世界なのだろうか。
「――うむ、貴重な情報感謝する。 皆少し良いか」
いつの間にかスマートフォンでどこかの誰かと連絡を取っていたラウラが通話を終え、その場の視線を一身に受ける。
「今し方母国にいる私の部下から死霊の騎士団に関する報告が来た」
僥倖とはまさにこの事か。内心思うカナードら達にラウラは語りだす。
十数年前に廃墟となったとある研究所にここ数か月の内に人の出入りが激しくなったと思えば、今はぱったりと人の出入りが無くなったという。そのタイミングが死霊の騎士団の宣戦布告の前後の時期。
その出入りしていたのが死霊の騎士団であるならば直ぐにでも調査するべきなのだが。
「しかし、私の部下達が上層部に調査の打診をしたものの、その隙に騎士団が手薄になった首都機能を攻撃しない筈がないとのことで調査の件は一旦保留となった」
何よそれと憤る鈴音、それもそうかと頷く楯無と反応は様々。
出来るならば然るべき団体や組織が調査を執り行うはずなのだが、ラウラも言っていたように調査中に襲撃されないとも言い切れない。
現状稼働状態のISコアの数を鑑みても、余裕があるとはとても言い切れない。
そしてカナードたちは待機中の最中。今日で夏休みが終わろうとしているが、それでも指示には従わなくてはならない。
いつから自分たちは学生の身分から軍人の真似事をやる様になってしまったのか。こういったことは大人の仕事ではないのか。
今度はセシリアに着信が入った。彼女がディスプレイを覗き込むと、表示されていたのはオルコット家に仕えるメイドのチェルシーの名前。彼女は教室の隅に離れて回線を開いた。短いやり取りではあったが、最後の方でセシリアは焦った様子になり、一息ついて回線を切った。
「皆さん、少しよろしいでしょうか?」
「お前達、揃っているか?」
ほかの専用機持ち達の視線を集めようとするセシリアだったが、突然千冬が入室してきた。いつも以上に顔をこわばらせる彼女の様子に、その場にいた生徒たちは一斉に視線を向ける。
「先ほど、IS委員会から通達があった。 現時刻を以てお前達への待機命令は解除され、それに伴い学園に新たに代表候補生の補充が決定された」
「補充って……」
いつから俺達は軍人になったんだ。そう言いそうになるのを必死に抑え、強く拳を握るカナード。だが今の状況を考えればそうなるのも仕方ないのかもしれないと冷静になる。いや、冷静になるしかなった。
織斑千冬は曲がりなりにも教師だ。彼女とて、きっと心苦しい思いで委員会からの通達を受けたに違いないだろう。
「教官、実は先ほど母国の部下から死霊の騎士団に関する報告を受けました」
「私もです」
ラウラの報告はカナード達も聞いた通りの事。しかし、問題はセシリアが母国から受けた情報だった。それを聞いた面々は途端に表情を強張らせ、次第に窓の向こうの空を睨んだ。
セシリアが受けた情報、それは……。
「我が国イギリスが打ち上げた人工衛星の一つが、死霊の騎士団を名乗る集団に奪取され現在兵器としての改造がされているとのことです」
続く
次回も未定ですが、そろそろカナードの核心に触れようと思います