インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE   作:バルバトスルプスレクス

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二話 セカンド、来日

 

「織斑君、クラス代表就任おめでとーー!!」

 

 一夏がクラス代表に就任したその日の夕方、食堂は一組が事実上の貸し切り状態で、遅れて来た主役の一夏とおまけのカナードを出迎えていた。

 就任パーティーと銘打ってはあるが、テーブルの上の皿には菓子が殆ど。その他はチェーン店舗のフライドチキン、サラダ、そして菓子パン程度。出されている食べ物を見る限り、さすが学生らしい出来だとカナードは二度三度頷きながら空いた席に座った。

 少しすると、二年生らしき女子生徒が首から高価そうなカメラを提げてボイスレコーダーを片手に登場してきた。新聞部所属二年の黛薫子と名乗った彼女は、いの一番に一夏にインタビューを開始し、次にセシリアにインタビューをするもものの数秒で終わりすぐさまカナードの番。

 

「じゃあ最後。 自作のISで代表候補生を追い詰めたISを扱える第二の男、大和カナード君のインタビューを開始します」

 

「よろしくお願いします」

 

 マイク代わりのボイスレコーダーを片手に、カナードのインタビューを開始する薫子は持参してきた鞄から数枚の紙を取り出すと、それに書かれている質問を飛ばす。

 

「大和君へのインタビューはね、事前に一組以外の女子からアンケート取ってそこから幾つか質問するけど良いかな?」

 

「構いませんよ、答えられる範囲なら」

 

「じゃあ一つ目、『研究者と言うのは事実ですか』って事なんだけど?」

 

「そうですね、事実です。 小学校入学と同時に研究員になりました」

 

「成程。 二つ目、『研究者と言うならば、今何の研究を進めているのですか?』ってのも」

 

「残念ながらそれは言えません。 漏洩でもしたら色々と面倒なことが起こりそうなのでノーコメントで」

 

「三つ目、『研究所にはウホって言えるほどのイイ男は居ますか?』」

 

「ウホって言えるかどうかは分かりませんが、イイ男とは二十人ほどで殆ど未婚の人がいますね。 事実私の両親以外の研究員は全員未婚で独身です」

 

「最後、『今この学園内で異性として見れて、且つ恋人にしたい人はいますか?』っていうどストレートな質問は?」

 

「まだ入学して数日程度なので、まだそういう人は見つけてません」

 

「ん、ありがとうね。 他にも質問あるんだけど、載せられない位のやつが多いのよね」

 

 恐らく性癖とか下ネタとかそういうものだろう。容易に予想できたカナードは冷や汗を流しながら苦笑い。そして一夏、セシリアとカナードのスリーショット写真を撮ろうとの事で、薫子がカメラを構え、シャッターを押すと、ワッとその他の女子も映り込む始末。ちゃっかり箒も一夏の隣に立っていた。

 食堂が閉まる少し前にカナードは、整備室へと足早に向かう。打鉄弐式の進捗状況が気になったからだ。クラスの皆には自機のメンテナンスとだけ言った。あながち間違ってはいない。

 打鉄弐式のコンセプトは射撃特化機体。セシリアのブルー・ティアーズよりもコンセプトとしてはカナードのランチャーストライカーの方が近かったが故の事。一夏の二次(セカンド)移行(シフト)には三か月ほどかかる。そこまで悠長に待っても、簪の機体は完成しない。それなら原作通り、だがカナードはイレギュラーな存在。何処かでシナリオが、ストーリーが変化するかもしれない。現にセシリアの態度が改まった事もそうだ。

 整備室に足を踏み入れると、簪がカナードに気が付き手を振った。向こうもカナードに合うのが少し楽しみである事が少しわかる。

 

「進捗どお?」

 

「…今度のクラス代表戦には間に合うかも」

 

 簪が言っているのは、一夏と鈴音が対決し無人機が乱入した大会のようなものだ。優勝したクラスには食堂のデザートフリーパスが交付されると言う正に女子高らしい副賞がある大会だ。

 

「ってーと、簪も出れんの?」

 

「…四組のクラス代表は違う人だから、出るとしてもタッグマッチトーナメント」

 

「なぁる」

 

 データの方は充分らしく、あとは機体本体の配線や試運転等の細かな調整を終えるだけだ。

 

「専用機か…簪って日本の代表候補?」

 

「…うん」

 

 カナードの質問で、簪は表情を暗くする。代表候補になるには血の滲む様な努力の末に国家に認められてなれると言う。簪もそうなのだろうが、この自身の無さは生徒会長である姉の楯無の存在によるものだと考えるカナードは休憩と称し熱いコーヒーが注がれた紙コップを自分と簪の分用意する。

 簪はそれを受け取るとシュガースティックの中身とミルクを入れる。

 

「凄いんだな、簪は」

 

「…え?」

 

「芯が強いよ。 到底俺なんて真似できない。 俺と一夏はイレギュラーなワケで専用機持ってるけど、簪のは認められたからだろ?」

 

「…私は、そんな……」

 

「謙遜すんなって」

 

 作業を再開する二人は着実に打鉄弐式を組み上げていく。

 やっと形だけ完成に漕ぎ付けた頃には消灯間際の時間帯。寮長である千冬から鉄拳制裁を受けたくない二人は、寮の自室へと向かう。

 

 

 

 

 次の日、実技の授業でグランドでは一組の生徒たちは千冬の前で綺麗に整列していた。

 

「織斑、オルコット、そして大和の三人は前に出ろ。 専用機持ちは展開と飛翔、そして急停止をやってもらう。 その他は打鉄、若しくはラファールの起動訓練とする」

 

 言われた三人は列から出て整列し、カナードのストライク、セシリアのブルー・ティアーズ、そして一夏の白式の順に展開が完了する。ここで千冬が言うにはコンマ一秒より早く素早く展開する事。そして次は武装の展開。一夏は雪片、セシリアはスターライトMarkⅢ、そしてカナードはストライカーの換装。

 実際にやってみると、一夏は展開に時間がかかり、セシリアは右腕を真っ直ぐ伸ばしたことが仇となり、二人そろって千冬の雷を受ける。

 

「織斑、お前はすぐにでも展開できるようにしろ。 オルコット、お前は誰を狙い撃つつもりだ」

 

「で、ですがこれが私のやりやすいイメージであって……」

 

「だからどうした。 もしその方向に人がいたらどうするつもりだ? 最悪怪我ではすまされないぞ。 試しに接近武器を出してみろ」

 

 そういわれてセシリアはインターセプターを展開しようとするも中々形にできず、挙句の果てにイラついて呼び出す事でやっと形にできた。殆どスターライトMarkⅢで決着をつけて来たらしく、カナード戦と一夏戦ではセシリア自身予想だにしなかった事で、接近戦闘が苦手と見える。

 勿論そこも千冬は見逃すはずもなく雷を落とした。

 

「どうしたオルコット。 先程の様に即座に出して見せろ」

 

「で、ですが戦いとなればすぐにでも…!!」

 

「では聞くが、代表決定戦の時に大和と織斑が接近してきたが、何故出せなかった? 今のお前の発言には些か矛盾が感じられる。 今日の過ちを認め、明日に進め」

 

 最後に良い言葉をセシリアに送った後、千冬はカナードに武装の展開、ストライカーの換装をやってみろと言い、カナードは難なくやってのけた。

 

「成程。 拡張領域内にあらかじめ換装武装を複数ストックし、状況に応じた装備を展開か。 今は三種類だけか?」

 

「今のところはそうですが、複合兵装型や特殊兵装型をインストールしようかと思ってます」

 

 そう言って設計図らしき投影ディスプレイを表示する。四枚羽に二門のレールカノンと二振りの太刀が備え付けられていたストライカーと、単独で飛行する無人機兼ストライカーだ。しかもそれは素人目には理解できないほどの難解さで、特に興味本心で覗いて一夏の頭がオーバーヒートしてしまった。そこを見越して、カナードはそれらを見せつけたのだ。

 ディスプレイを少し見た千冬は手で消せとジェスチャーし、カナードはディスプレイを落とした。

 武装展開に続いて、飛翔。あっという間に地上100メートルを越え、セシリア、カナード、一夏の順に上昇していく。あまり成果が出ない一夏に千冬の叱責が飛んだ。性能では白式の方が比較的高いとの事だが、今の一夏では十分に性能は発揮できていない。

 やがて規定の位置にカナード、セシリア、そして一夏の順に到達する。地表に居る人たちが蟻の様に見えるほど自分は高い所に居るんだと、カナードが感慨深げになっていると、一夏が二人に上手く飛ぶコツを聞いてきた。

 

「参考にならないかもしれないけど、やっぱ自分の合ったイメージが大切なんだよね。 例えば、円錐をイメージって言われてもしっくりこないと思う、だから形の似ている物、円錐だったら鉛筆。 立方体だったらサイコロってね」

 

「カナードさんの言う通り、イメージはしょせんイメージですわ」

 

「成程な…」

 

 深く納得する一夏。が、そんな彼の耳をつんざく声がした。箒だ。彼女が真耶のインカムを奪い、中々来ない彼らを呼んでいたのだ。無論、千冬から出席簿クラッシュが飛んだ。

 箒からインカムを奪い返した千冬が、今度は地表十センチ以内に降りて来いと指示を出した。

 

 「お先に」とセシリアが先に急降下を始めた。その姿を例えるならば流星、真昼の空に輝く流星の様に見えた。それに続いてカナードも急降下。二人とも見事にクリアして見せた。最期の一夏の番。彼らに倣うように降下を開始する。

 

 降下する一夏のその姿は、まさに隕石。結末を知っているカナードは心の中で合掌。地表どころか穴を空けて地面に激突。さながら隕石であった彼に、千冬は雷を落とした。

 

 

 

 

 放課後、ストライクの整備をしていたカナードは整備室を出て寮に向かう途中、ボストンバッグを提げて動かずポツンと立っていたツインテールの髪型をした、IS学園の制服に身を包んだ女子生徒を見かけた。前世での記憶によるとその女子生徒の正体は(ファン)鈴音(りんいん)。一夏の幼馴染その二だ。

 この様子だと、入学手続きの場所が分からないようだ。親切心からカナードは彼女に声をかけた。

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「ん? アンタ男? IS学園って……ちょっとアンタ一夏知ってる?」

 

「知ってるも何も、同じクラスだよ?」

 

「丁度良かった! アンタさ、一夏のとこへ案内してくれないかしら?」

 

「いきなりですか? でもその前に、最初の質問に答えてくれますか?」

 

 質問を質問で返し、なおかつ要求までしてきた鈴音をカナードは取り敢えず一夏に会わせると言う名目で、事務室を経由して彼の部屋へと向かおうとした。

 これから起きる惨劇を、カナードは予測できずにいた。この状況はイレギュラーな事態だ。どうなるかも予想できない。が、一夏の部屋に行く前に鈴音は事務室での書類などで時間がかかり、下手したら手続きの終了が消灯の時間になるかもしれないと事務員の先生が言う。

 正直ほっとしたファース党のカナードは、この事態に感謝していた。

 

 

 

 

 翌朝。ホームルーム前の一組の教室では、二組の転校生の噂で持ち切りだった。その転校生が鈴音であることを知っているのはカナードくらいだ。

 

「二組に転校生ねー…」

 

 敢えて知らないふりをするカナードは棒読みでそう言った。

 

「この時期で…何か裏があるのか?」

 

「どんな奴なんだろうなぁ」

 

「まぁでも? 専用機持ちが一組と四組に集中していますから、転校生がどうであれ…」

 

「傲慢だよ、セシリア」

 

 セシリアの発言を遮ったカナードは、そろそろかと思い教室の後ろのドアを開く。ドアに手をかける寸前の鈴音がそこにいた。急な事態に慌てつつも、自分の中では格好いいと思っているポーズで立ちなおした。

 その鈴音の様子に、カナードは一夏に聞いた。

 

「ところで一夏、彼女を見てくれ。 彼女を見てどう思う?」

 

「すっごく……かわいそうです」

 

「なっ、何言ってんのよ、アンタも一夏も!! それにさっきの情報も古いっての! 二組のクラス代表にして中国の代表候補生、凰鈴音とはアタシの事よ!!!」

 

 両腕をブンブンと振りながら、鈴音はカナードと一夏に抗議するが、低身長な身体と行動が妙にマッチしており、見る人によっては『怖い』と言うよりも『可愛い』の一言に尽きる。ある意味マスコットキャラだなとカナードは思いつつ、教室に備え付けられた時計に目をやった。

 自分の席へと戻るカナードに目もくれず、鈴音は一夏に宣戦布告を申し込み、その一夏も久しぶりに会うもう一人の幼馴染み(一夏曰く、セカンド幼馴染)と談笑し、それを面白くないと言ったような表情をする箒。そして、鈴音に出席簿クラッシュを食らわせる千冬が現れる。

 

「お前ら、いつまでピーチクパーチク騒いでいるつもりだ。 さっさと席に着け、時間を常に意識しろ」

 

 千冬の説教が飛び、今日と言う一日が始まったなと、カナードを含めた一組の生徒はそう思った。

 

 

 

 

 昼食の時間、一夏と箒、カナードとセシリアの四人は食堂に訪れていた。目の前にはラーメンのトレーを持っていかにも「待ちわびた!」と言わんばかりの雰囲気を醸し出している鈴音が進路を遮っていた。それも器用に一夏たちだけをふさぐように。

 セカンド襲来。そう思ったカナードは一夏より先に鈴音に話しかける。

 

「えーっとね…とっととどいてくれるかな? 俺早く飯食ってその後やる事いっぱいあるしさ、時間が惜しい訳ね? で、君もヴァカじゃないなら分かるよね、どかないと俺たち織斑先生にどやされるし、それ以前に君のラーメンの麺も伸びてまずくなるだろうし、はやくね? お願いね? 分かるよね? アンダースタン?」

 

「ぐっ、ちょ、一夏何なのよコイツはぁっ?!」

 

「えーっと…似合ってないぞ、そのポーズ。 あとカナードの言う通りどいてくれ」

 

「アンタも大概ヒドイ!!」

 

 ややあって、一夏たちも昼食にありつくことが出来、鈴音も交えて五人で同じテーブルで食事をする。

 先ほどから鈴音と箒が仲良くする気配もなく、顔は笑顔でも眼だけは笑ってはいない。それを見ていた一夏はこの状況を半分も理解しておらず、暢気にクエスチョンマークを浮かべるばかり。少しでも和やかな雰囲気でも出そうかと、カナードが動いた。

 

「で、一夏。 そろそろ話すべきなんじゃないかな、二組の彼女の事」

 

「おお、そーだった。 箒が小学四年ごろ引っ越したろ?」

 

「あ、ああそうだ。 今思えば姉さんがあんなことしなければ…」

 

「で、五年になって鈴と同じクラスなんだ」

 

「へー、そーなんだー」

 

「あの、カナードさん。 何故棒読みなんですの?」

 

「特にこれと言って何の意味もないよ」

 

 しれっとセシリアにそう返すカナードは、味噌汁を啜る。

 話はクラス代表戦に移っていた。鈴音は既に二組のクラス代表の座に治まっており、初戦で当たる一夏に対し、宣戦布告に近い事を言ってきた。

 

「…ところで」

 

 突然カナードが言った。一夏たち四人は彼に視線を向ける。

 

「時間大丈夫? さっさと食べ終わらないと織斑先生の雷か出席簿が落ちるよ。 御馳走様」

 

 言われて初めて一夏たちは全然食べきっていない事と、既にカナードは食べ終えていることに気付いた。その恐ろしさを知っている四人は、下手をしたら喉に詰まるのではないかと思うほどの勢いだ。

 それに対し、カナードは既に食器を返して食堂を後にして、自室にへと歩を進めていた。

 

 

 

 

 部屋に到着して数分、カナードは廊下から来る騒ぎ声に気付くと部屋のドアを開けて周囲を見回すと、一夏と箒の部屋の前で箒と鈴音が口うるさく騒いでいた。

 理由がある程度分かっているカナードは、とりあえず二人の仲裁に入ることにした。

 

「お二人さーん、一夏の同室同居で争ってるお二人さーん。 ちといいかい?」

 

「か、カナード?!」

 

「おぅ、織斑先生でない事に感謝してくれよ箒」

 

「アンタにゃかんけーない話でしょーが!」

 

「一応隣人だよ、どーせあんたら一夏の同室問題で騒いでんだろ? 大方凰さんが箒に男との同室は気分が悪いとかで交代を申し出たんだろ? でも残念でした、寮監は織斑先生でそう簡単には変わらないと思うよ?」

 

「何コイツの全部見透かしましたって感じの発言は?!」

 

「さーぁ、何故でしょーねー?」

 

 またしても棒読みなカナードは周囲を改めて見回し、更に一夏がいるかどうかの確認にドアをノックする。誰もいない事が分かると、二人に一夏が好きかどうかを直球に尋ねた。しどろもどろに対応する箒に対し、鈴音は切り札でもあるのだと言わんばかりの勝ち誇った顔をしていた。

 しかしカナードは知っている。鈴音のプロポーズの様な言葉は一夏には届いていない…と言うよりも間違った形で伝わっている。典型的で最近聞かない「私の為に毎朝味噌汁を…」と言うあれだ。酢豚版を鈴音は一夏に対し言っていたが、あの一夏の鈍感具合を知っているカナードは、取り敢えず憐れみな視線を鈴音に送った。

 

「アンタ、アタシになんか恨みでもあんの?」

 

「いや、別に。 それよりも、二人とも時間時間」

 

 言いながらカナードは待機状態のストライクのディスプレイを出し、二人に現在の時刻を見せた。昼休み終了十分前を現していた。

 

 

 

 

 放課後の自主訓練では一夏対カナードの模擬戦闘が行われていた。

 カナードの今回のストライカーは一夏のスタイルに合わせたソードストライカー。雪片弐型とシュベルトゲベールを打ち合う二人を見に来るギャラリーは最近になって現れ、その中には簪と本音の姿も見えた。

 

「大振りすぎるよ、何やってんの!」

 

「だっ、こんのぉ!」

 

「最初から大きいダメージを与えるよりかは、序盤から徐々に少しずつダメージを与えるようにしなきゃ!」

 

 「駄目だろ」、と最後に追加したカナードは右足を振り上げ、一夏の左腕を蹴り付け体勢をくずして隙を作らせてシュベルトゲベールで一閃。一夏の敗北が決定した。

 模擬戦闘が終わった二人は地上に降り立ち、投影ディスプレイを表示する。

 

「一夏の(ワン)(オフ)(アビリ)(ティー)の零落白夜だっけ? 確かに一撃必殺の大技だね」

 

「当たればこっちのもんなんだけどなぁ」

 

「でもその前に、ダメージ受けちゃ意味ないでしょ? セシリア戦を思い出してみ? 最後の最後でシールドエネルギーが底を着いて負けた事を。 あのときはしょうがなかったけど、序盤でダメージをたくさん受けてちゃあね」

 

「む、むぅ…」

 

「大振りの癖を治すためにも、箒と剣道の練習は欠かさない方がいいね」

 

 言い終えると、壁際では箒とセシリアもカナード達と同じようにISの修練を行っていた。実はカナードがセシリアに頼んでやってもらってのこと。彼女自身二つ返事で承諾してくれた。いい傾向だと思いつつ、カナードはセシリアに感謝している。

 四人で、アリーナの更衣室へ向かう途中、鈴音がスポーツドリンクとスポーツタオルを手に、一夏の前に現れそれらを一夏に手渡した。自らの良妻ぶりを箒に見せ付けてやりたいのか、一夏に自分を選んでもらいたいのか定かではなかったが、カナードはその行いで箒の機嫌が悪くなっていることだけが分かった。

 

「はい、一夏。 ぬるめのスポーツドリンク飲んで」

 

「お、サンキュー」

 

「いきなり冷たいの飲んじゃ意味ないしね」

 

 言いながらカナードは自分で用意した一夏の飲んでいるのとは別メーカーのスポーツドリンクを飲んでいた。

 

「でもさ、そろそろ代表戦じゃなかったっけ? 敵状視察するにしては大胆だぁね」

 

「そ、そんなつもりじゃ!」

 

「な、何だとカナード、それは本当なのか?!」

 

「鈴、お前まさか…」

 

「アンタは簡単に信じるなー!」

 

 荒ぶる鈴音をほったらかしにしたカナードは、さっさと着替えてその足で自室へと向かう。後ろの喧騒など聞かない事にして、彼は歩みを進めていた。先程の模擬戦闘で気になる個所を幾らか見つけ、もっとよく調べるべく整備室へと向かった。

 そのカナードの背を、一夏たちは見送っていた。

 

「…あいつ、何か変わってるよな。 変な意味じゃないけど」

 

「やけに熱心すぎるしな…」

 

「それに、カナードさんは私たちに深い所を見せつけない節があります」

 

「ホント、何者なのかしらねー」

 

 四人の言葉はカナードの耳には届かなかったものの、彼らの中でカナードに対する謎が更に深まってしまった。しかし、彼らにカナードの謎を深く追及するつもりはない。もしそうしたら、彼らの前からカナードと言う存在が消えてしまいそうだと思ったからだ。それが、彼らの心の奥底に出来てしまっていた。

 深く知りたいと言う彼らの本心が、本能的に心の奥底にへと押し込められている。今は知るべき時ではないのだろう、いつか知る時が来るのだろう、その時が来るまで彼らはカナードとの絆を深めようと心に誓った。

 

 

 

 

 その日の夕方、整備室からの帰りにカナードは一夏の部屋から飛び出して来た鈴音と衝突。彼女の頭がカナードの鳩尾に激突。激しい痛みがカナードを襲い、主犯である鈴音はちょうど現場がカナードの部屋の前であることに気が付き、部屋のドアを開けてカナードを引きずり込み、ついでに鍵を閉めた。

 呻くカナードを何とかベッドの上に寝かせると、申し訳なさげに鈴音が反対のベッドに座っていた。

 

「…たた……、にゃろ~…」

 

「…ごめんなさい」

 

「気にするな…。 大方、一夏に昔の約束を出して、あいつが勘違いしたんだろ? あんたが箒と一夏の部屋の前でケンカしたとき、俺聞いたよな、一夏好きかって。 箒はしどろもどろだったけど、あんたは誇らしげだった。 なんか切り札でもねぇとあんな顔はしねぇ。 そんでさっきの衝突事故、一夏の部屋から飛び出た所を見るに、一夏がその切り札の意味を履き違えていた…違うか?」

 

 すべてを見透かしたかのようなカナードの言い分に、鈴音は信じられないと言ったような表情をする。カナードの前世での記憶なのだが、それは鈴音は知らない。知ったところで彼女の得にはならない。

 カナードが探偵か何かを疑って問う鈴音、しかしそれをカナードは笑って否定する。

 

「俺はただの科学者だよ。 それにさっき言ったのは俺の勘だ」

 

「勘にしてはズバッと当たりすぎよ……」

 

「…認めたな」

 

 痛みが引いてきたカナードは部屋の水道の蛇口を捻り、流れ出る水を電気ケトルの容器に入れ湯を沸かす。カップを二つ用意したところで、誰かがドアをノックする。

 

「カナード、いるかー?」

 

 声の正体は一夏だった。恐らく鈴音を探しているのだろうとカナードは思いつつ、鈴音にしばらく待つようジェスチャーを送り返事を出した。

 

「居るけどどうした?」

 

「鈴来てないか? 俺、何か悪いことしたみたいでさ…」

 

 この鈍感具合。やはり面倒だとカナードは溜息をもらして返答する。

 

「来てはいるが、今はお互い頭冷やせ。 話はそれからの方がいいし、確か明日は代表戦だろ? 今ここで更にこじれてややこしくめんどくさくなるのは嫌だろ?」

 

 半分怒気を含めながら、一夏にそう返したカナードはドアから離れる。

 

「さてと、あんたもさっきの聞いてたろ?」

 

「余計なお世話よ!」

 

「そうか? コーヒー飲んで少しは落ち着けよ」

 

「……角砂糖四つ…」

 

「スティックのしかないから四本な」

 

 カナードは自分用と来客用のマグカップにインスタントコーヒーの粉末を入れ、鈴音に出す方に四本のスティックシュガーの中身も入れて電気ケトルの中のお湯を流して粉末を溶かしてかき混ぜる。

 部屋中にコーヒーの良い匂いが立ち込めて来ると、鈴音は心を落ち着かせる。

 

「研究所の仲間が言った事なんだけど、コーヒーの香りは一種のアロマテラピーの様なもので、人によっては安らぎを与えることがあるそうだ」

 

 差し出されたコーヒーの入ったカップを鈴音に差しだしながらカナードはそう言った。

 カップを受け取った鈴音は香りを楽しみながら、しばらくはコーヒーの水面に暗く映る自分を見つめていた。それをカナードはデスクの椅子に座り、一口飲んでから部屋の鍵を開け、投影ディスプレイの電源を入れて、待機状態の愛機にケーブルを刺した。

 無言の空間に、カナードと鈴音はいた。カナードはコーヒーを飲みながらキィを叩き、鈴音はやけに静かにちびちびとコーヒーを飲んでいく。明日は代表戦、鈴音と一夏が戦い無人機が襲来する。それを知っているのはこの学園内だけではカナードだけ。察しのいい彼は無人機が誰が送り込んだモノか心当たりがあった。

 しかし、そのマッドサイエンティストの名前を出す必要は今のところ必要はない。いずれ一夏たちには正直に話そうとカナードは思ってはいた。

 

 

 

 

 代表戦当日。カナードは整備室にいた。クラスメイト達には新型のストライカーの初展開に取り掛かると言って、今彼はここに居る。事前に千冬には許可も取っている。

 愛機を展開し、何も装備していない素体状態にして新しく拡張領域に新しくインストールしてあるストライカーを選択し、呼び出した。

 

「I.W.S.P.!」

 

 カナードの呼び声とともに、背面には四枚の羽と二門のレールカノン、二振りの太刀が備え付けられた複合兵装特殊ストライカーが出現し、左腕にはガトリングとブーメランが備え付けられたシールドが出現する。

 初展開はインストールしてから八時間以上が経っていた。昨夜のインストール作業時にこれと言った以上も無く、今日の初展開も特に問題は無かった。

 あとは自立機動のストライカーの二種類。しかし、構造等が複雑な為形にすることは今のカナードには難しい。愛機を待機状態にして、投影ディスプレイを表示し設計を始めた。現時点、第三世代が主流となり始めた現状で、自立機動の無人支援機の開発は出来ていない。セシリアのBT兵器とはまた違う、装着者の脳波で動く訳でなく、独立で動くものだ。単独で飛行、援護、脱着を可能にするのは今の技術では形は出来ても中身は難しい。

 その二種類は、片方は支援機としても使えるタイプと相手のビーム兵器のエネルギーを利用するタイプだ。

 

「…時間がかかりすぎる……、あの篠ノ之束(マッドサイエンティスト)なら可能か?」

 

 接触(コンタクト)が可能なら、臨海学校その時だけ。しかし彼女自体カナードに興味が湧くかどうかが疑問だ。束は興味のあるモノ以外見向きもせず、また対応も酷い。人格に大いに問題あり。

 もし可能だとして、彼女にそれらの開発が可能なのだろうか。また彼女の人格からして開発には携わるのだろうか。しかし、無いものねだりは良くない事をカナードは知っている。仕方ないから自分で出来るところまで手を付け始めた。

 ふと、整備室に供えられた電子時計に目をやった。そろそろ一夏と鈴音との対決中に例の無人機が出現する頃だ。待機状態のストライクに手を置いて心を落ち着かせた。

 

「あれ、カナード…?」

 

「え、簪?」

 

 予想外の人物の出現に、カナードは呆気にとられていた。

 

「ねぇカナード。 どうしてここに居るの?」

 

「新しいストライカーの着工だよ。 織斑先生にも許可はとってあるから大丈夫だけど、簪は?」

 

「……人ごみが嫌い」

 

「あ、さいでっか…」

 

 少しして、整備室が揺れた。アリーナに無人機が襲来したのだとカナードは推測する。

 少し離れたここ整備室にまで揺れが来るとは、どれ程の衝撃なのだろう。不謹慎ながらカナードは興味が湧いた。

 避難勧告のアナウンスが整備室にまで聞こえてきた。それに従いカナード達二人も避難しようとしたその時、壁が崩れて無機質な四肢とスラリとしたボディの物体が現れる。しかもその物体は二人の退路を塞いでいた。見るからにIS、なのだがカナードはそれが無人機だと言う事を知っている。それをここに送り込んだのが誰なのかも。

 

「あらら~、これどう見てもイイヒトには見えませんね」

 

 出来るだけおちゃらけた風に言うカナードに簪は無言で首肯する。

 

「さて、簪は怪我しないように隠れてな。 俺は織斑先生たちに連絡して奴さんの相手やる」

 

「え、でも…危険……!」

 

「良いから。 俺も男だし、カッコつけさせてくれよ」

 

 そう言ってカナードは簪の手を引き、壁に掛けられた内線電話に近づき、千冬がいるであろうアリーナの管制室へと回線をつなぐ。無人機は彼らを探しているのか、辺りを散らして闊歩している。

 

『管制室だ。 誰だこんな時に』

 

 千冬の苛立った声が受話器の向こうから聞こえてきた。理由は分かっている。だが今はこちらの状況を伝えるしかなかった。

 

「こちら整備室の大和カナードです。 整備室にISが!」

 

『くっ、やはりか…こちらでも信号は確認している。 退避できるか?』

 

「出来ません。 奴が出入り口をふさいでいる状態です。 尚私の他に女子生徒が一名」

 

『学年と名前は分かるか?』

 

「一年四組、更識簪です」

 

 その瞬間、カナードの隣にいた簪の表情が曇った。同時に通信相手の千冬も参ったかのような息を漏らした。

 

『大和、よく聞け。 現在教員部隊はアリーナの対処で数が割けん』

 

「私がやります。 先生方が来るまで持ちこたえてみせます!」

 

 『任せたぞ』と千冬の返事が返ると同時にカナードは通信を切り、ストライクを展開装着する。

 

「ゴメン簪、さっき引き合いに出しちゃって…」

 

「……別に、気にしてない」

 

「打鉄二式、展開は出来そう?」

 

 その答えに簪は首を横に振った。

 

「なら、今は君を守らせてくれ! 何もしなくていいとは言わない、俺を信じて待ってくれ! せめて今は、君を守るヒーローにならせてくれ!!」

 

 返事も聞かず、カナードは飛び出し無人機にタックルする。左腕に構えていたシールドの先の突起が無人機の装甲と装甲の隙間に運よく入る。これにより無人機の動きが制限された。

 零距離でのビームライフルの連射。抵抗する無人機の装甲が一枚はがれた。お返しに無人機は掌底ビーム砲を撃ちだし、それをカナードは至近距離で受けてしまい、シールドエネルギーを削られてしまう。無人機の特性は理解しているはずのカナードは、頭で理解しても対処できずにいた。

 まるでやまびこの様にこちらから仕掛けて来る攻撃に反応して攻撃をし返してくる。

 

「ソードストライカー!」

 

 近接攻撃装備(ソードストライカー)を選択し、シュベルトゲベールを両手に握りしめて切りかかる。堅牢な装甲、一筋縄ではいかない事は理解できている。一夏の零落白夜なら貫くことは出来るあの装甲、カナードは如何に貫くかを戦いながら思案する。

 左腕に装着されているアンカーワイヤーで無人機の足を絡め、体勢を崩させる。鈍重なフォルムが仇となったのか、転倒する。完全に倒れる直前にランチャーストライカーに換装する。右肩のウェポンのガトリングとミサイルを撃ちだして確実にダメージを与えていく。起き上がる前に胸元を足で踏み、カナードはアグニの砲身を、銃口を無人機の頭部に向けた。

 引き金が引かれると、撃ちだされたアグニのビームが無人機の頭部を包んだ。警戒してカナードはエールストライカーに換装し、簪の近くへと飛んだ。無人機だと知らない簪に詳しい事を話しながら。

 

「…そんな、ISは人が乗って初めて……」

 

「動くんだろ? でもいい言葉を教えてやる、『有り得ないなんて有り得ない』。 何百年前の人間が現代の科学を予想できたか?」

 

「…確かに」

 

「それに、あれから人の気配どころか息遣いすら感じない。 有人の物さえできれば、無人も出来る。 今のうちに!」

 

 簪を抱え、整備室から抜け出せたカナードは彼女を下して、再び無人機に警戒する。

 動き出さないよう祈るカナードだが、案の定無人機は鈍い動作で立ち上がった。撃ち抜かれた頭部の装甲は破壊され、装甲の下にあった基盤や配線が覗く。

 

「ありゃりゃいりゃ~……。 決死覚悟ですかそうですかっ!」

 

 両手にビームサーベルを持ち、無人機に突貫するカナード。後ろには簪がいる。避けることは出来ない。無人機の光弾をビームサーベルで弾く様に切り捨てる。

 しかし、近づくにつれ流れ弾がエールストライカーに当たり、ついには翼をもがれた。誘爆を避ける前に切り離し、手に持っていたビームサーベルを無人機目掛け投げ捨てる。

 

「こんにゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 両腰部に収納してある折り畳み式のコンバットナイフ、アーマーシュナイダーを取り出して刃を展開。肩関節部位に一つずつ突き刺した。更にそれだけでは終わらなかった。二度目のI.W.S.P.の展開。至近距離でのガトリングが右腕を飛ばし、二振りの太刀を両手に持ち×字に切る。

 

「これで、とどめだぁぁぁ!!」

 

 レールカノンの砲門二つが無人機を捉え、火を噴いた。

 

 

 

 

 気が付いたらカナードは保健室にいた。ふと、横を見る。こちらに気付いているのかいないのか、一夏にキスしようとする鈴音の姿が見えた。

 

「寝ている相手に何無粋な事してんだ?」

 

「んなっ、あ、アンタ何見てんのよ!」

 

「いや、目覚めて直ぐの光景が……なぁ?」

 

「…っていうか、何でアンタがここに居るのよ」

 

「目ェ覚ましたらここに居た。 その前は…整備室で無人機相手にしてた」

 

「「嘘ぉっ!?」」

 

 カナードのカミングアウトに鈴音と目が覚めたばかりの一夏の驚きの声が上がった。

 

「あー、一夏目ェ覚めたんだな」

 

「何とかな。 と言うか鈴、お前…何してんだ?」

 

 一夏が鈴音に何故いるかを聞いていると、保健室のドアが勢いよく開いて箒が入室し、おまけ程度にセシリアが入室。心なしかセシリアがかわいそうに見えた。

 箒は入って来るや否や、真っ先に一夏の元に。彼女なりに一夏の安否がとても気になったのか、口では情けないだのなんだの言っている割には、寝ている一夏に抱き付いていた。その後ろでは鈴音が負けたと言った様な、少しうつむいた表情をしていた。

 ふと、カナードは自分の周囲を見回す。誰もいなかった。

 

 

 

 

 その日に部屋に戻れたカナードは、痛む体に鞭を撃ちながらも、キィを叩いていた。無人機との戦闘で使用したI.W.S.P.の性能が予想よりも低かったからだ。本来の性能ならば、今回の様に気絶することは無い。それでも守れた命はあった。

 調整終了と同時に、誰かがドアをノックする。来客か、とカナードは鍵を開けて出迎える。

 

「あれ、簪?」

 

「…お見舞いしようと思ったら、もう部屋に戻ったって聞いて……」

 

「立っているのもナンだ。 入るかい?」

 

「お邪魔…します」

 

 簪を部屋に招き入れたカナードは彼女の手に紙袋があることに気が付いた。

 

「さっきお見舞いがどうと言ってたけど、もしかしてその紙袋とか関係ある?」

 

 自分用と来客用のマグカップにティーバッグを一つずつ入れ、電気ケトルで沸かしたお湯を注ぎ蓋をしたカナードは尋ねる。

 

「あの子の完成と、私を守ってくれたことのお礼に…」

 

 言いながら簪は紙袋の中身を取り出す。綺麗に出来たカップケーキが一つずつラッピングされていた。

 

「へぇ、おいしそうだね。 紅茶に合いそうだし、良かったら一緒に食べようか?」

 

 コクリと首を縦に振る簪に、ティーバッグを取り出したマグカップを差し出しながらカナードは言った。

 誰かと一緒のティータイムもいいものだと、カナードは微笑んだ。

 

 

続く

 




次回はシャルとラウラを出す予定です。
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