インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
鈴音が二組に転入し、一夏と箒の仲が少し進展して数日が経った。一組に新たに転入生が入った。何故二組や三組ではないのかと、心の中でカナードはそう突っ込む。
入って来たのは金髪ブロンドのISを扱える第三の男と、銀髪に眼帯の軍人風の少女だった。
「シャルル・デュノアです、フランスから来ました。 ここには僕以外にISが扱える男子が二人もいて、安心できますが、どうかよろしくお願いします」
礼儀正しく言ってきたシャルルの自己紹介。良く出来た方だと内心カナードは感心しつつ耳をふさぐ。そしてものの数秒ほどで黄色い歓声。良くこれほどまで声が出せるものだ。
その次はラウラ・ボーデヴィッヒ。カナードの前世での記憶によれば、彼女は千冬がドイツに居たころの愛弟子。出来損ないだった己をトップにまで育て上げてもらった恩が、
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
沈黙。ただ自分の名前を言っただけ。なのに妙な威圧感が漂ってきた。
「え、えーっと…ボーデヴィッヒさん? それだけですか?」
「以上だ!」
訪ねて来る真耶に冷たく返すラウラ。視線どころか身体すら真耶に向ける気配すら感じられない。
「自己紹介くらいまともにこなせ、ボーデヴィッヒ」
「はっ、織斑教官!」
「ここはドイツではない。 それにもう私は教官ではない、織斑先生と呼べ!」
「はっ、教官!」
治せない程身体の奥底に染みついているのかそう簡単には言い直せなかった。
そして間もなく一夏に近づくラウラ。振り上げられた右手が振り下ろされる前に、カナードが声を上げた。
「ドイツ人ってのは、恩師の血縁者に手ェ上げんのが礼儀なのか?」
「何だお前は。 お前には関係のない事だ。 コイツは織斑教官唯一の汚点!」
「だからどうした。 全ての決定権があんたにはあるのか? 俺は発言の度に、あんたに許可を取らねばならないのかい? それに一夏が織斑先生の汚点? 織斑先生がそう言ったのか? 違うよな、言ってないよな。 ちゃんちゃらおかしいぜ! ドイツ人はジャーマンポテトでも食って寝ろってんだ」
セシリアと鈴音に使ったお得意の口撃に、ラウラは怯む様子もなくどころか突っかかろうとするが、千冬がそれを止めた。
「いい加減にしろ。 大和とボーデヴィッヒ、今はHR中だ時と場所を考えろ。 それとドイツ人にジャーマンポテトと言っても通じない」
「知ってます態と言いました」
いざこざは起きたが、少ししてHRが終わって次は一時限目と二時限目を跨いで使った一二組合同のIS実習の時間。生徒は着替えてグラウンドに集合と千冬が言う。
一夏の席にカナードが近づくと、そこにシャルルが二人に挨拶する。
「大和君と、織斑君だね。 僕はシャルルだよ」
「どうも。 大和カナード。 カナードで良い」
「俺も、一夏で良いぜ」
もっとよく話そうとするシャルルの手を、カナードは引き一夏と共に教室を出る。思考が追い付かず、現状に理解できていないであろうシャルルにカナードは口を開く。
「一応確認しとくぜ。 俺たち男子はISを扱えるイレギュラーなワケですよ、でもここは元は女子校だったワケで何より…」
決死の表情のカナード、先程から視線が落ち着かない一夏、そして未だに首をかしげるシャルル。平穏に進む彼らに、神は情け容赦なく試練を下した。
はじめは僅かな揺れが壁や廊下に伝わり、次は足音、そして最後は黄色い声と学園の女子生徒たちの大波。カナードはこれを女子雪崩と呼んでいるが、今の彼らはそれから逃げ切るしかなかった。捕まったら終わる。捕まったら貞操が奪われかねないし、もし逃げ切ったとしても遅刻で千冬から出席簿クラッシュがくだる。その二つの未来から避けたいカナードと一夏は、シャルルとともに、アリーナへと向かう。
「むっきゃー! 大和君、織斑君ハケーン!」
「黒髪の織斑君に、こげ茶の大和君もいいけどブロンドのデュノア君も良いわぁ~!」
「もぅ、イケメンね! キライじゃないわ!!」
「ヤバスwwwwテラヤバスwwww! 織大? 大デュノ? これはご飯三倍イケますぞぉぉぉ!!」
「生んでくれてありがとうお母さん。 今年の母の日にはちゃんとしたカーネーションを贈るね!」
「ここに通わせてくれてありがとうお父さん。 今度お父さんのと私の洗濯されても我慢するわ!」
カナードかシャルルを捕まえれば玉の輿、一夏を捕まえれば千冬の義妹になれる。その思想が彼女らにあった。
それでも、何故彼女らが追ってくるのかシャルルはいまだに理解できていない。シャルルの正体を知りつつもカナードは分かり易く現状を解説する。
「いいかいシャルルよぉーく聞いて? 今俺たちは女子たちに追われています、それは何故か? もう一度言うけども、それはここがIS学園だから、IS使えるの普通は女性、んで俺ら男なのにここに居る。 女子高に男子生徒は珍しいしね、ある意味珍獣だ。 数十年前のウーパールーパーや河川敷のアザラシの気持ちがよぉーく分かるねこれは」
そんなこんなで更衣室に辿りついた三人。カナードとシャルルは素手に着替えを終えているのだが、一夏は着替えに手間取っている為、仕方なしに置いてけぼりにして先を急ぐ。
道中、カナードは遅刻しない程度の速度で隣を歩いているシャルルに質問を投げかける。
「所でシャルル、君はいつまでその性別を偽るつもりだい? 確かデュノア社に子息は居なかったはずだし、君がニュースに話題にならなかったのもおかしい」
「な、何を言うのかなカナードは…」
額から流れる一筋の冷や汗。それが自分から流れていることに気が付かないシャルル本人に、カナードは追及するのをやめた。これ以上やると千冬にどやされると思ったからだ。
◇
整列する一組と二組の生徒。一期メインキャラが揃ってるなとカナードは感心しつつ千冬の話に耳を傾ける。
彼女曰く今回は一組と二組から代表者を出しての模擬戦と、専用機持ちの指導。それだけだ。ただし専用機持ちの指導に使う人数分の打鉄の用意はカナードと一夏の仕事。何故シャルルはやらないんだと一夏は疑問に思うが、実姉の恐ろしさを十分に理解しているため深く考えるのをやめた。
用意が終わり、千冬がセシリアと鈴音を呼び出し、前に出させる。この時セシリアの好意は一夏に向けられてない上に、カナードによって多少の傲慢さは和らいでおり、何でも来いと言った表情をしている。それに対し、鈴音はやはり一夏の事を諦めていないのか、千冬に言われるまでやる気も何も出せずにいたが豹変。やる気マックスと言った感じだ。
そうして意気込む二人。相手は誰だと言うが、カナードは知っている。これから起きる出来事を。
その時、空を切る様な音と女性の情けない悲鳴がカナード達の耳に届いてくる。その正体は学園に配備されているフランス・デュノア社製量産IS、ラファールだ。今の真耶の装備は遠距離ライフルがオプションされており、そのボディの緑色も相まって、某マイスターを彷彿させる。その内「狙い撃ちます」とか真耶が言い出しそうだとカナードは思いつつ、その身を構える。
「どいてくださぁぁぁぁい!!!」
辛うじて見て取れる泣き顔の真耶の落下地点、そこには今も尚ぼぅっと突っ立っている一夏の姿。カナードはタックルする事で一夏と自身は真耶の直撃もその後の惨劇から回避することが出来た。
一夏に激突する代わりに、真耶は地面に激突。それも尻を突き上げた体勢で。
「山田先生、早く準備を。 でなければ明日から一週間座布団運びさせますが?」
「は、ハイっ!」
「さて、オルコットに凰の相手はこちらの山田先生だ」
「……え?」
「あ、あの……よろしいんでしょうか?」
セシリアが疑問を持つのも無理はない。先程の真耶の失態が未だにセシリア達の脳内に焼き付いている為そのイメージが固定されている。それに対してカナードは前世での記憶で、この後の出来事を思い出していた。それを踏まえてカナードは二人に忠告しようとするが、先に千冬が一言。
「安心しろ。 お前らの負けは確実だ」
千冬に言われ、何処か納得がいかないセシリアと鈴音対、普段通りのほんわか笑顔の真耶の対決が始まった。
同時に飛翔し、交戦している中、千冬がシャルルを指名して真耶が使用しているラファールを解説させた。
「山田先生が使用しているラファールは、フランス・デュノア社製のISです。 第二世代最後発にありながら、汎用性が高く、また……」
シャルルの説明を聞き流し、セシリアと鈴音のコンビネーションを、カナードは見ていた。どっちもどっちのスタンドプレー。援護するそぶりすらも見えない。そして数秒後に二人そろって敗北。いつぞやの一夏と同じように地面に激突するのだった。
見てられない。それがカナードが二人に対して抱いた感想だ。
「これで分かっただろう。 以後、教職員達には敬意を以て接するように。 そして山田先生は元日本の代表候補だった方だ」
「やめてくださいよ、織斑先生。 昔の話ですし」
知っていたカナード以外驚きと言った表情だ。普段ホンワカとしている印象の彼女を、元ではあるが日本の代表候補だったと言う事を信じることが出来なかった。
その後は、一夏、シャルル、カナード、ラウラ、鈴音、セシリアの専用機持ち五人に別れて箒を含めたその他の女子生徒がそれぞれの班に分けられるはずなのだが、どう言う訳か一夏たちに女子生徒が集中する事態に。ラウラはその冷たい雰囲気が、鈴音とセシリアは先程の情けない敗北が原因で誰もよりつかなかった。
哀れ、鈴音。千冬がその他の女子生徒たちをどやすまで誰も寄り付きはしなかった。
一夏の列に箒がいることにほっと胸を撫で下ろすカナードの列には、見覚えのある女子やそうでない女子が並んでいる。その中には本音の姿さえもあった。
「かなかな~、よろしくねー」
「はーい、じゃやりますか」
◇
昼休み、屋上では一夏と箒だけでなくカナードにシャルル、鈴音にセシリアの六人が揃っていた。この集まりは一夏が提案した事。その事実に箒は苛立ち、カナードは頭を抱える。
一夏が箒のから揚げを褒め、鈴音がカナードにもだが酢豚を進めるところまで原作通り。そして魔の時間が訪れた。セシリアの手料理、見た目はいいサンドイッチだ。カナードは知っている。これがある意味生物兵器でお世辞にも美味いとは言えない代物だと。
何も知らない一夏が手に取る前に、カナードは勇気を振り絞ってセシリアのサンドイッチを手に取り、思いっきり齧る。
「……まっずい。 何これ、舌痺れるほどマズイ」
「そっ、そんなはずは…?!」
カナードの感想に抗議するセシリアは、納得がいかない様子だ。
「じゃあ聞くが、味見はしたか?」
「…あじ……み?」
「箒に一夏に鈴、このイギリス人に日本語をとことん教えてくれ」
「そこまで言いますかっ!」
「いいか、味見てのはな料理の過程で必要な工程の一つで、自分で一口味を確かめる事なんだ。 それは一流の料理人でも欠かさない初歩の初歩。 何で君はそれをしないんだい?」
痺れが残る舌を酷使しながらカナードは言った。しかしセシリアは詫びるどころか自分は悪くないといった風に言い返す。
「お言葉ですがカナードさん。 私はこの抜群なプロポーションを維持するのに…」
「その話長くなりそうだからこの話題ここで終わりにしようか」
「そうしましょ」
「え、聞いておいて……カナードさん?!!」
カナードと鈴音は強引に終了して酢豚を食べ、セシリアがそれに反応しているその近くで、シャルルが彼らを羨ましげな眼差しで見ていた。
◇
一夏たちより先に部屋に戻るカナードは、その途中で千冬とラウラが向かい合って立っているところを目撃。身を隠して二人の会話を聞いていた。
「教官、貴女が
「15で選ばれた人間のつもりかボーデヴィッヒ。 それにここはドイツでもなければ、私はお前の教官でもない」
「で、ですが…!」
「くどい!! 正直お前には失望した。 それに私も暇ではない」
千冬に強く突き放されたラウラは、一礼し去っていく。去りゆく少女の背中を見送った千冬は、カナードに気が付いていたのか、彼に忠告がてら話しかける。
「盗み聞きとは感心せんな、大和」
「たまたまですよ、たまたま。 それより、良いんですか? 一夏のやつ、あいつのビンタの意味理解してないと思いますが、余計な詮索でしたか?」
「そうだ余計な詮索だ。 今聞いた事は忘れろ、一夏には伝えるな」
「はい」
◇
「よろしくね、カナード」
「お、よろしくなシャルル」
カナードの部屋に、どう言う訳かシャルルがやってきた。未だに箒と一夏は同棲と言う名の相部屋状態。そろそろ箒の引っ越しではないのかと疑問を持つが、カナードはすぐにそんな疑問を捨てた。それよりも、カナードにとって重要なのは目の前のシャルルの事だった。
今も目の前でにこにこと愛想よくいるシャルルに、カナードは追及しはじめる。
「相部屋になって早速で悪いが、何度か質問しても良いか?」
「うん、良いよ」
「なら一つ目。 前にも言ったが、お前本当は女だろ」
疑問形でない実にストレートな質問と言うより確認の様なカナードの問いに、シャルルの表情は次第に強ばっていく。
「安心しろ、強請る気も摘発も告発する気もない」
「……あ、あはは。 カナードは冗談が上手だね…」
「不安にしていることに関しては謝罪する。 すまない。 しかし、お前が男だろうと女だろうとこれだけは言っておく……自分がどうしたいか、何処に居たいか自分で決めろ。 誰かに自分を委ねるんじゃねぇ、自分の道は自分で決めろ。 例えそれが、あった回数が五回にも満たねぇ親父相手もだ。 出来れば、俺とお前だけの時は、お前を偽る
沈黙。誤魔化せないと言ったシャルルは、シャワールームに入り少しして出る。現れたのは豊かな胸のふくらみを持ったシャルル。
「……いつから気付いてたの?」
「具体的にいつって言われても…強いて言うなら、お前が一組に転入して俺たちの前で挨拶していた時、喉仏が見えなかった。 いくら体が華奢な男でも、太った男でも喉仏ってのは出るもんだ。 因みに喉仏ってこれな?」
自分の喉元の部分をカナードはシャルルに教えた。
ペタンとベッドの縁に腰を落としたシャルルは、自分の身の上を語り始めた。自分を生んだ母はデュノア社社長の愛人で、その母親と共に貧しくも逞しく、慎ましく幸せに暮らしていた。
しかし、母親が亡くなってからのシャルルに幸福は訪れなかった。デュノア社社長に呼び出されたかと思うと、有無を言わさずシャルルを自社のテストパイロットに起用され、デュノア夫人からも手痛い扱いを受けていた。他国が第三世代に乗り出している最中、未だに第二世代で戸惑っている事に困惑した社長が一夏とカナードのニュースに目を止めて、シャルルを呼び出し現在に至ると言う。
「そんで、シャルルを男と言う事にしてIS学園に転入して、俺と一夏のどっちかが相部屋になった時、データを盗み取れ……と?」
「うん」と、暗く返事するシャルル。
「…事情は分かった、分かったけどシャルルはどうしたいんだ?」
質問するカナード。しかしシャルルは意味が分からないでいた。それを悟ったカナードが質問を変える。
「もし……もしだ、このまま卒業して母国の企業に俺のストライクのデータを渡せなかったら…」
「うーん、どうなんだろうね…」
「おいおい、お前自分の事だろ? 何他人ごとにしてんだよ!! もしばれたらお前、最悪…」
言いたくなかった。最悪な結果は口にしなくとも分かり切っている。対象に自分の正体を知られた上に、何のデータも持って帰らずのこのこ帰国でもしたら…。
鈴音の時とは違う沈黙がカナードとシャルルを包み込んだ。何かいい案が浮かばないカナードに、シャルルはもういいと諦めた様子で言った。
「もういいよカナード。 これが僕の運命だったんだ…」
「だからって……」
今何もできない自分に苛立っているカナード。その時ふと、前世で読んだ原作を思い出し、シャルルの両肩に手を置き語り掛ける。
「確か、IS学園は在学中の三年間はどこの国家・企業・組織に干渉されないんだったよな? だったらその間に方法を考えよう、その間は俺が君の居場所になるさ!」
ドンと胸を叩き、頼もしく言うカナードにシャルルはどうしてか目に熱いものが込上げてくるのを感じた。
―――嗚呼、自分はここに居ていいのか。
そう思えたシャルルは大粒の涙を流し、号泣した。泣きじゃくるシャルロットあやしながら、カナードはこれからの事を考えていた。
◇
翌朝、誰も起きていないだろう時間帯に、シャルルとカナードは起床していた。これからの事についてだ。現状シャルルの正体を知っているのはカナード以外無に等しい。
「ねぇカナード、こんな朝早くに一体何なのぉ…」
やや寝ぼけ眼のシャルルにブラックコーヒーを差し出すカナードは早速本題を切り出した。
「卒業まで君の性別を偽るのは困難極まりない、いつ織斑先生たちに切り出すかを今の内に決めないか?」
「…でも、まだいいんじゃないかなぁ」
「そうは言うがな、状況は常に最悪を想定しろと言う。 もしもだ、もし一夏の奴がお前と一緒に更衣室で…」
「それは危ない……じゃない、具体的にいつにしようか?」
コーヒーのカフェインのおかげか、シャルルの意識は完全に覚醒。一夏は無遠慮が入り混じった所が少なからずあるせいで、報復を受ける事もしばしば。いつ言い出すべきかを模索していると、カナードの腹から低く、シャルルの腹から可愛らしい腹の虫が鳴り響く。そろそろ時刻は食堂が開くころ。
指先で自身の腹と時計を指さすカナード。それに首を縦に振るシャルル。二人は制服に着替えて食堂へと向かった。その道中で彼らは小声で会話する。
「普段はコルセット巻いてんだなシャルルは」
「…カナードのえっち」
「今言う事か? 俺が言いたいのは、苦しくねぇのかって事だよ」
「んー、慣れればそうでもないよ」
ケロッとカナード的には予想外な答えをシャルルはする。慣れとは凄いモノだと、無理やり納得するしかないカナードはこれ以上質問するのをやめた。
朝も早いせいか、食堂で朝食をとる生徒は少なかった。
「日替わり和食スペシャル!」
「あいよー!」
カナードが受け取った朝食のトレーには中盛りの白いご飯、わかめと豆腐の味噌汁、出汁巻き卵が三人分に焼き鮭、たくあん等のお新香、3パック分の納豆が載っており、これが今日の日替わり和食スペシャルのメニューだ。対してシャルルはモーニングセット(トースト、サラダ、半熟卵、コーヒー)だけ。
「朝食は一日のエネルギーだ。 コイツを胃に流し込んでこそ、一日が始まるってもんだ。 いくら俺が研究員だとしても、そいつぁ欠かせるこたぁ出来ねぇよ」
「僕にそういわれても……」
食べながらそう話す二人の横を、簪が普通の日替わり和食セットを載せたトレーを持って通りかかる。
「お、簪おはよ!」
「あ、おはよう…」
「そうだ簪、紹介するよ。 三人目のISを扱える男で俺と同室になったシャルルだ」
シャルルを紹介したカナードは簪も招き入れ朝食の席に同席させる。最初は怪訝な表情をする簪だったが、食べ終える頃には満更でもなかった様子だった。
彼女の交友関係を広げたいカナードは満足して食器を戻し、シャルルもそれに続いて食器を戻してカナードの後に続く。
◇
その日の放課後、アリーナでは白式とストライクを展開した一夏とカナードが自身の機体の調子を見ていた。反応速度、照準や武装の展開速度などあらゆる部位をシャルルも交えてタブレットを通してチェックしていた。細かな異常は特に見られず、至って良好と言える状態だ。これなら今度のタッグマッチトーナメントには万全の状態で出られる。
更にそこに箒に鈴音、セシリアも合流。と、同時に異様な殺気を感じ取ったカナードと一夏はその方に視線を向ける。
そこに居たのは黒い鎧。重戦車をも彷彿させる砲台を右肩に構えたその正体はドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒとその専用機シュバルツェア・レーゲンだ。
「おいおい、ドイツでトライアル段階に入った第三世代様じゃあーりませんか?」
「織斑一夏、私と勝負しろ!」
「断る。 戦う理由が無い」
「貴様に無くても私には…ある!!」
言い切る前に一夏に迫るラウラ。その間にカナードがエールストライカーを装備して間にシールドを突き立て、レーザーライフルの引き金を引く。威嚇射撃。光の筋は青空に吸い込まれていく。
「次は本当に当てるぞゲルマンが!」
一言一言に怒気を秘めるカナードの目は、至って冷静なのだがその瞳の中には夜叉を秘めていた。
互いににらみ合ったまま動かないところに、管制室からスピーカーを通して教職員の警告が届いた。
『そこの生徒何をしている!!』
「…邪魔が入ったな。 織斑一夏、私はお前を許さない!」
捨て台詞を吐いて逃げ去るラウラの背を見送って、カナードはストライクを待機状態に戻しシャルルの腕をとって自分もそそくさと逃げ去った。一夏にこの場を任せようとの魂胆だ。その意図に気付かない、あるいは反応が遅れた一夏たちはアリーナに取り残されてしまった。
先に逃げて部屋に戻ったカナードとシャルルは互いに肩で息をするほど息が上がっていた。いたずら小僧の様な笑みを浮かべるカナードは、ベッドの上に大の字で寝っ転がった。今頃の一夏達はどうしているかと、ハメた側が心配する。
それから息が整ると、カナードはデスクのパソコンを起動。待機状態のストライクに繋げ、即座にキーを叩いて行く。
「……確かシャルルの専用機って、
「うん、そうなるね」
「となっと……色々と調整が必要だな。 よし、シャルル、一緒に『ウルトラマンティガ』見ようぜ!」
「さっきの流れ関係ないよねこれ!!?」
シャルルのツッコミも聞かず、カナードは部屋に備え付けられたテレビと機器を起動させ、映像ディスクを挿入。鑑賞会が始まった。
◇
翌日の放課後、包みを持ったカナードとシャルルは保健室に駆け込んだ。原作を思い出したカナードはセシリアと鈴音を痛めつけた本人が瞬時に分かってしまう。ラウラだ。
「どう焚付けられたか知らないけど、その様子だとブルー・ティアーズと甲龍のダメージレベル高そうだな」
「フン、あんな奴アタシ一人でも」
「負けた奴が言う事か」
鈴音の額にデコピンをかましながらカナードは言った。強がりを言える状況か、そう言った目をセシリアにも向ける。呆れたと言った様な冷めた視線も向ける。
更にそこに真耶が現れ、ブルー・ティアーズ、甲龍の破損状況を記したデータを持って来た。カナードは許可を得てそれを手に取ると、文面に目を走らせる。
「……どんなぼろ負けしたか、容易に想像できるなこれは。 ダメージレベルC、修復に数日から数週間。 これは誰が見ても、安静にしてろと言いますね山田先生」
「そうです。 なのでお二人の専用機は、しばらくこちらで預かります」
「山田先生、私でも何か手伝う事はありますか?」
「気持ちは嬉しいですが、オルコットさんと凰さんはイギリスと中国の代表候補、なのでその他の国家が容易に触れると言うのは難しい事なんですよ」
「そうですよね、申し訳ありません。 出過ぎた真似でした」
二人のやり取りが終わり、真耶が保健室を出て数分、数人数十人の女子が突如殺到。彼女らが要件を言う前にカナードがシャルルの腕を掴み、一夏と箒を合わせて言った。
「皆が何を言いたいのかよぉーくわかるが、惜しいなもうちょい前にペアは決まったんだ。 俺はシャルルと、一夏は箒と決まったから」
次の瞬間、一夏と箒とシャルルの三人は顔が赤くなり、その他の女子達はあっという間に保健室を出て行った。口々に腐った妄想を呟く者もいたが、カナードは聞かないふりをした。
その他の女子達が全て出ていくと、カナードは持っていた包みを解き、その中にあったものをそれぞれセシリアと鈴音に渡した。それは特撮やアニメの映像ディスクだ。
「セシリアのは『ウルトラマンネクサス』、鈴のは『機動武闘伝Gガンダム』と『新機動戦記ガンダムW』ね。 暫くIS使えないみたいだし、良かったらこれを見るといいよ」
そのチョイスに戸惑うセシリアと鈴音をよそに、一夏達を連れて保健室を出るカナード。道中一夏がカナードにセシリアのチョイスについて質問する。『ウルトラマンネクサス』は鬱作品の一つにも数えられている作品で、土曜の朝の子供たちを一気にテンションダウンにさせたと言われているが、よく見ると傑作とも言えるものだ。
それに対し鈴音に対するチョイスは一夏は納得した。
「セシリアに勧めたのは、その傲慢さを完全に消えるかなって。 鈴のは、どっちも中国のキャラが出て、機体が似てるって事かな」
「だとしてもなぁ…」
「それよりもだ、問題はラウラだ。 あいつをどうにかしないとな」
話題を切り替え、ラウラの問題にカナードは変える。納得する三人を連れ、カナードは自分の部屋へと案内し、缶コーヒーを三人に配る。
「あいつの機体、聞いた限りだと慣性停止結界使ってんだろ? そいつの対処法考えねぇとな」
「カナードはどのストライカーを使うつもりなんだ?」
一夏の問いにカナードは考えるそぶりを見せて言った。
「そうさなぁ、取り敢えずエールかI.W.S.P.で押す。 あとは状況に応じてなソードなりランチャーなり、臨機応変にやるさ」
そう言ったカナードは、缶に残ったコーヒーを飲み干して笑みを浮かべる。
◇
タッグマッチトーナメント当日。カナード&シャルルペアの初戦の相手はラウラ&簪ペアだった。
「……あれ? 何で簪が?」
原作とは違う展開に、カナードの思考は定まらなかった。しかしこれは自分と言うイレギュラーによるものだと無理にでも理解するしかなかった。
ピットに入り、カナードとシャルルはそれぞれ自機を展開。カタパルトに足を固定する。
『ストライク、ラファール・リバイブ・カスタム、カタパルト固定。 発射タイミングを大和君、デュノア君に譲渡します』
管制室からのアナウンスに、カナードとシャルルはピットから飛び立った。
「大和カナード、ストライク、行きます」
「シャルル・デュノア、ラファール・リバイブ・カスタム行きます!」
降り立った先に見えたのは、蒼と黒。打鉄弐式とシュバルツェア・レーゲンの二機。カナードは簪を相手にしようとするが、シャルルが制した。
「カナードはラウラの相手をしてきてよ。 彼女は僕が相手をするよ」
「でも…」
「友達とは戦い辛いでしょ? 大丈夫だよ、僕も彼女と同じだからさ」
「任せて」と最後に付け足し、シャルルは簪に勝負を仕掛けた。彼…いや、彼女の言う通りだ。カナードは何処か簪に対して罪悪感を持っていた。本当ならカナードは簪と組みたかったが、シャルルの事がある。仮にその手を選んだりでもしたら、最悪の事態が起きるかもしれない。それはシャルルも分かっていた、だからこそ彼女は自ら簪の相手を買って出たのだ。
シャルルの恩に感謝し、カナードはラウラと対峙する。
警戒すべきは
目の前の軍人相手に、カナードはレーザーライフルを構え、引き金に指をかける。
「一夏が相手じゃなくて悪かったな、あんたのお眼鏡に叶うかどうかわからないけど、いい勝負をしようか!」
「ほざけ!」
挨拶代わりのアンカーワイヤーがラウラの腕から放たれ、カナードのレーザーライフルに絡みついた。
「雑魚とは違う。 雑魚とはっ!」
ラウラが某機動戦士のセリフの一つを叫んだその瞬間、アンカーワイヤーがレーザーライフルを締め付けて破壊し、カナードはとっさにシールドを掲げる。行動も似ていることにカナードはつい苦笑いをする。
レーザーライフルが破壊されても怯まないカナードはラウラを中心にして円を描くように動き、ヘッドギアから小型小銃を撃ちだす。
「牽制のつもりか、
「…牽制……ね、あんたにゃそう見えるか。 だとしたらそいつぁ、あんたの判断ミスだ!」
スラスターの出力を上げ、速度を上げ残像を生んでいく。しかし、それだけで軍人である彼女を欺くのは難しいし、ラウラ自身カナードを残像の中から見破る事も造作もない。狙いを定め、右肩のレールカノンを放つ。すかさずの爆発。その爆炎の中から、ソードストライカーに換装したカナードがシュベルトゲベールを振り上げて突撃する。
一撃目をサイドステップで避けるラウラに、カナードは説明する。
「残像を生み出すほどのスピードを出すのに、スラスターの火は大きくなる。 俺はあんたにそれを狙わせて、ストライカーを排除し換装してドーン!」
途中で説明するのが面倒臭くなったカナードは終いには擬音で〆る。
「だがそれで私に勝ったつもりか!」
「勝つかどうか、それは今決める事じゃねぇと俺は思うね!」
二撃目、突きで攻撃するカナード。それをラウラはAICでカナードをシュベルトゲベールごと動きを止めようとするが、寸前にカナードはシュベルトゲベールから手を放し、ソードからランチャーにストライカーを変え、アグニを構える。
AIC発動中は集中力を要する。シュベルトゲベールを止めている今、切り替えるのに一瞬の隙が生じる。その隙がカナードにとって十分すぎていた。
アグニの砲身から赤と白の入り混じったような光の筋がシュベルトゲベールごとラウラを包む。二人のシールドエネルギーが急激に減っていく。カナードの方はアグニのエネルギーに、ラウラはそのダメージとして減っていく。
少し離れた場所で、シャルルと簪はお互いに弾丸を撃ち尽くしており、肉弾戦に入ろうとしているところだった。カナードのアグニが撃ちだされたと同時に、二人はカナードとラウラの方に視線を向ける。
誰が見てもラウラの敗北。アグニの光の中で、ラウラは空けてはいけないパンドラの箱を開いた。
『VTシステム・スタンバイ』
「んなっ!」
不気味な電子音声がカナードの耳に入る。
咄嗟に距離を開け、シャルルと簪の元へと移動するカナードは、ストライカーをエールに変えた。
ドロドロとシュバルツェア・レーゲンの装甲がラウラを見えなくするように包むと、別のものに変化する。それは二メートルを越えた巨体で、近接ブレードを持ち、なおかつ女性の形をしていた。
「……噂にゃ聞いていたが、これがVTシステムかっ!」
VTシステム…ヴァルキリー・トレース・システム。それは千冬がかつて出場したモンド・グロッソでは多大な成績を残した各部門最優秀者には様々な称号が送られ、そのうちの一つに千冬が受賞したのがヴァルキリーだ。その動き、反射、攻撃方法など様々なものをトレースしたのが通称VTシステムと呼ばれるものなのだ。発動方法は多大なダメージがかかるその時、使用者の意思によってだ。しかし現在では、その研究・製造・使用全てが禁止されている。
それが今、カナード達の目前で起きた。
黒い巨体が近接ブレードを手に、カナード達に迫る。先程まで味方だった簪をもターゲットに含んでいるのか、と言うよりもこの雰囲気は、この黒い巨体から醸し出されている物は全てが敵だと言っているようだ。
誰もが感じ取る黒い巨体から出るすべてに対する敵意は、カナード達にとって心地の良いものではない。捌ききれるかどうか、今のカナードには難しいのかもしれない。それでも、カナードはやるしかない。一夏の代わりに黒い巨体を倒すしかない。
「さぁて、どうするよお二人さん」
「どうしようも…ないよね」
「…私とデュノア君、弾丸すべて撃ち尽くした」
「俺は俺でシールドエネルギーが少ねぇ。 さて、どーしましょ」
出来るだけおちゃらけても、この畏れは拭えない。
「更織さん、僕にいい考えがあるんだけど……」
「…奇遇。 デュノア君と考えが合うなんて」
横目でお互いに頷き、機体の展開を解除する。この事態にカナードは一瞬目を丸くする。緊急事態、それも絶体絶命に近いこの状況で。
「おいおい、お前ら!」
突然の行動に、カナードは驚いたが、前世で読んだ原作の流れを思い出し、二人の真意がすぐに読み取れた。だからそれ以上何も言う必要もなく、ストライカーを
「カナード、僕たちのシールドエネルギー…」
「…貴方に、預ける」
「っしゃあ!!」
待機状態のラファール・リバイブ・カスタムと打鉄をコードでストライクとつなげる。使用者二人の許可が下り、ストライクのシールドエネルギーは回復しきった。
「さんきゅ、二人とも。 さて、行きますか」
意気込んでいると、オープンチャネルで千冬から通信が入った。
『大和、デュノア、更識。 直ちにアリーナから避難しろ、そいつは教職員部隊がやる』
「申し訳ありません織斑先生、その案はお断りいたします。 奴の狙いは私です、仕留めます」
『退けと言った』
「聞けません、通信を終わります」
一方的に千冬との通信を終えると、カナードは拡張領域内に収納してあるI.W.S.P.を選択。両腕に太刀を握りしめ、黒い巨体と対峙する。
「力を求めた果てのその選択!」
片方の太刀で近接ブレードの一撃をいなし、もう片方の太刀で切り付ける。
「故のその暴走!」
レールカノンからの砲撃が着弾し、怯ませる。
「そんなモノ使うなら、自分自身の力で来い!」
思っている言葉を吐き出しながら、神経を研ぎ澄まして切り付けていく。懐に入ったカナードが優勢。かと思いきや、黒い巨体はその腕でカナードを掴んだ。
そして地面に叩き付け、足で踏みつける。相当の圧がカナードに掛かり、レールカノンが撃てずにいた。ダメージが溜まり、シールドエネルギーを減らしていく。ISを装着している限り死ぬことは無いが、もしシールドエネルギーが無くなったりでもしたら、カナードは間違いなく死ぬ。
一度死んでまた死ぬと言う最悪な事態を拒むカナードだが、既に残りのシールドエネルギーは三割を低下していた。
刹那、黒い巨体が大きく揺らぎ、カナードを踏みつけていた足はどかされた。
「カナード、無事か?!」
一夏が雪片弐型を構えながら言った。
「……これが無事に見えるか?」
フッと口角を吊り上げてカナードはそう返し、一夏の隣に移動する。幸いまだレールカノンも生きている。
「一夏、俺が奴の動きを止める。 その間に零落白夜かましたれ」
「そのつもりだ」
言い終えると同時に、カナードはガトリングシールドを呼び出すと、レールカノンとで黒い巨体の動きを止める。やがて懐ががら空きになったところで、一夏が
黒い巨体の後方で一夏が着地すると同時に、中からラウラが落ちてきた。地に落ちる前にカナードはそれを受け止め、ストライクを待機状態にした。
◇
夕焼け色に染まった保健室。ラウラが目を覚ますと、傍らには千冬とカナードがいた。手ぶらな千冬に対し、カナードは紙袋を手に持っていた。
「気が付いたようだな」
「教官……私は…その男と戦っている時に…」
「お前の機体にはVTシステムが組み込まれていた。 お前は知っているだろうが、大和、説明しろ」
「はい。 通称VTシステムと呼ばれるヴァルキリー・トレース・システムとは、モンド・グロッソにてヴァルキリーの称号を得た人物の操縦技術を
「ほぉ、よく知っているな大和。 つまりそう言う事だ」
禁忌のシステムを使っても負けてしまった事に、ラウラはひどく落ち込んでいた。
去り際に、千冬がラウラに聞いた。
「ボーデヴィッヒ、お前は何者だ?」
その当然すぎる問いに、どう言う訳かラウラは答えられずにいた。答えられるはずの質問なのにだ。
そもそも自分は何者なんだ?ドイツ軍シュバルツェア・ハーゼ隊隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ。戦うだけに生まれた試験管ベイビー。恩人の名は織斑千冬。なのに、何故答えられないのだろう。
「何者でなければ、お前はラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「…え?」
「それとだボーデヴィッヒ。 お前は私にはなれんぞ」
そう言って千冬は退室する。それを確認して、カナードは紙袋の中の物を取り出すとそれをラウラに手渡した。
「暫く退屈するだろうし、餞別ね」
「……何だ、これは?」
「『ウルトラマンコスモス』ていって、特撮ヒーローね。 あとは『仮面ライダーJ』」
その映像ディスクを手渡すと、カナードは丸椅子に座り、ラウラに話しかける。
「俺は実は、五歳までガラスケースの……それも液体の入った中で過ごしたんだ」
ラウラにだけ話した過去の自分。今日までカナードは誰にも言わなかった。
「家が大和生物機械技術研究所って言うところで、産まれて直ぐ体の出来が悪かったらしくてな」
「……」
「でも俺は、それに感謝してんだ。 この世で生きると言う素晴らしさを知れたし、あとは……まぁ、色々言い表せないけど……とにかくだ、生まれた事に感謝ってこと」
そう言ってカナードも保健室を後にする。残されたラウラは急にリラックスしたかと思うと、急に笑い出した。大きく、響くほど。
◇
その日の夜。カナードが一人かけうどんを啜っていると、カルボナーラをトレーに乗せたシャルルが隣に座った。
「タッグマッチトーナメント、中止らしいな」
「まぁ、あんな事態になったしね。 でも後でデータ採取のために一回戦の組み合わせやるらしいよ?」
「ほぉ…」
その後、一夏と箒も合流し四人で共に箸やフォークを進めていると、息を切らした真耶が現れ特別に大浴場が使えるとカナード達に言った。カナードと一夏が入学してから今日まで使えなかったのが、今日の事で貸し切りになったそうだ。
湯船でゆっくりと浸かりたいカナードと一夏にとって嬉しいニュースだ。早速準備しようとする一夏の頭を、誰かが掴んだ。その正体は千冬で、彼女は自身の弟の頭部を鷲掴みにしていた。原因はカナードには分かっている。無断発進の事だろうと容易に予想できた。
仕方なしに一夏を取り残した二人は、千冬と真耶に一礼し、箒に「一夏をよろしく」と言い残したカナードはシャルルと共に部屋へといったん戻る。因みにカナードの命令違反は、暴走状態のシュバルツェア・レーゲンを止めた事で相殺された。
◇
大浴場の入り口には筆で「本日男子の貸し切り」と書かれていた。また古風なものだとカナードは思い、部屋でシャルルと決めた通り、カナードが先に入ることにした。今日のダメージを癒す為と、シャルルの裸体を見ないようにする為だ。
熱くもぬるくもない丁度いい湯加減。その湯船に浸かったカナードは、自分の体が解れていくような感じがした。心地よいこの上ないこの極楽気分に、カナードは浸っていた。
その時、入り口が開いた音がした。カナードは予想が出来ていた。シャルルが入って来たのだと、カナードには分かっていた。分かっていたのだが、前世と今世含めて親族以外の女性と素肌で触れあった経験が無いので、内心動揺しすぎていた。
湯船にシャルルが入り、背中合わせで湯船に浸かる。
「ま、まったく…お前ほど度胸がある女は初めてだ」
「そうかな……ここに来る前は男としての立ち振る舞いを叩きこまれたから…実感がないなぁ」
「一応褒めてる方なんだが……」
こめかみを指で掻くカナードは知っていながらシャルルの話に耳を傾ける。
本当の名前、母との思いで等聞いているうちに、いつの間にかカナードは彼女の頭をなでていた。無性に撫でたかった。
「……まぁ、何だ。 お前が良けりゃ…卒業したら家の研究所にテストパイロットか研究員として来いよ。 皆には俺から言っておくけど…」
「……ありがとう、かなーど」
◇
翌日、教壇上の真耶が苦い顔でSHRを進めていた。感づいた上に恐怖心に駆られているカナードは、自然とストライクに右腕を乗せていた。
そうしていると、真耶が教室の外に居るであろう人物を呼んだ。入って来たのは女子生徒。女子生徒なのだが、昨日まで男子制服に袖を通し、その下にコルセットを巻いていたはずのシャルル…否、
「シャルロット・デュノアです。 今日まで騙してすみませんでした」
そこから数分女子生徒たちのこそこそ話。昨日の大浴場の件でカナードとシャルロットが混浴状態になった事が知れ渡り、一夏にも疑惑の目が向けられたが、一夏と箒の証言で二人が入った時はまだ千冬にこってり絞られていたと言う。
一気にカナードに視線が集中する最中、ラウラが教室に入って来た。この原作とは違う展開に、少なからずカナードは動揺する。そんな彼の席にラウラが近づくと、いきなりキスを仕掛けた。
その時女子生徒の誰かが「痺れる」だの「憧れるゥ~」等と言っていたが、カナードの耳には届かない。ついでに言えばラウラの嫁宣言も聞こえなかった。
この件でそれから一週間、簪はカナードに口をきかなかったそうだ。
続く
これにて残りは楯無生徒会長となりましたが、タイミングとしては夏休み後となります
次回をお楽しみに