インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
そして今回初かもしれませんが、カナードの髪型の特徴が出ます
前回から数日。初夏のある日の休日。一夏と同室になったカナードは、ベッドの違和感によって目が覚めた。原因は分かる。その上でゆっくりと布団を翻す。そこに居たのは半裸のラウラで、カナードの左半身に抱き付いていた。そんな彼女をシャルロットに次ぐ度胸の持ち主と評したカナードは、何とか音を立てずに拘束から逃げ、布団をかけてやり、手挽きのミルでコーヒー豆を砕きながらこの後の展開を思い出す。が、自分と言うイレギュラーが起こしたことが必ずしも原作通りとはいかない。
カナードに次いでラウラが起床し、砕かれていく豆の香りで意識が覚醒する。作業中のカナードにラウラは声をかけず、コーヒーが出来るのを待ち始めた。
コンセントにつながれたサイフォン下部の水がお湯となって、上部の砕かれた粉状の豆を浸し始める。上からスティックでかき混ぜながらカナードはラウラに声をかける。
「いつ忍び込んだかは聞かない。 何故ここに居るかも、その目的も聞かない。 ただ寝るとしても服は着なさい、腹を下すぞ」
「…問題はそこか?」
「ついでに言っておくが、日本で夫婦になれるのは婚姻関係を結び婚姻届を役所に届けてからであって、対象の人物やキャラクターを嫁と言っても夫婦にはなれん。 あれは自分のイチオシみたいなもんだ。 あのアイドルは俺の嫁ってな」
「で、では私とお前は…」
「嫁でも夫でも夫婦でもねぇな。 でもまぁ、兄妹ならまかり通るかな、どっちも髪長いし」
バッサリと切り捨てて互いの小さな共通点を見付けたカナードは、男性にしては長めのこげ茶色の髪の毛先を弄る。髪を切るよりも、洗うのが大変でも伸ばした方がマシだとカナードは言う。
「なら私が姉だな」
「…どうしてそうなるの?」
出来上がったコーヒーを差し出しながらカナードはそういう。が、ラウラの中では既に決定事項らしく、変更は利かないようだ。
◇
あの後原作の様な騒動は起きず、カナードはシャルロットと共に学園発のモノレールに乗り込んだ。今度の臨海学校に必要な水着やら何やらの新調や買出しとの事でシャルロットにカナードは誘われていた。
モノレール内でカナードの長い焦げ茶色の髪に興味津々のシャルロットに、持ち主は隣に座っているシャルロットとは別の方向に髪を流す。気を抜いたら遊ばれると思ったからか、とりあえずカナードは自分の髪をシャルロットに向けるのを本能的に拒む。
「遊ぶなよ?」
「まだ僕何も…!!」
「じゃあなんで君の視線は俺の目じゃなく、髪の毛の方に向いているのかなぁ?」
言われて初めてシャルロットはカナードの髪に凝視しているのに気が付き赤面する。
度胸があると思えばこの反応。人によってはシャルロットの行動すべては計算なのでは、と疑う者も少なくない。しかしカナードにとってそんなことはどうでもいい。他人は他人で自分は自分だ。
少しならいいかと、髪の毛の三割ほどをシャルロットの方に寄せる。それに気が付いたシャルロットはカナードに了承を得ようかどうかを迷っているが、本人の首が縦に振られると、そっとシャルロットはカナードの髪に触れた。
「あ、意外と…お手入れしてるんだ」
「そうか? 切るよりかはマシだ」
「変わってるね」
そうして会話しつつ、二人を乗せたモノレールは目的地の駅に到着。この時カナードの髪の一部が三つ編みになっていた。駅に降り立つと同時にそれを解いたカナードは、残念がっているシャルルと共に、ショッピングモールへと歩いて行く
その少し後ろの自動販売機付近の物陰では、人ごみが嫌いな筈の簪とカナードの偵察目的で同伴しているラウラがそこに居た。彼女たちは先を行くカナードとシャルロットを見失わないように、極力見つからないように尾行する。
◇
最初に二人が訪れたのは水着店だ。原作だとここでは一夏が見ず知らずの女性に水着を押し付けられそれを片づけるように言われた場所でもある。その面倒くささから回避すべく、極力カナードはシャルロットから離れずにいる。
季節が季節なだけに店内の品ぞろえはそれなりに良い方だ。男用女用との棚の区別もきちんとしており、値段はどれもお手頃価格。普段このような場所には来ないカナードにとって、この店は何処か新鮮だった。小中と夏休みの殆を実家である研究所で過ごしていたからである。前世も同じようなもので殆どは実家で夏休みを過ごしていた。所謂インドア派だ。
シャルロットと共に自分の新しい水着を選んでいるその時、カナードの視界の端に簪とラウラが見えた。これがイレギュラーか、とカナードは内心独り言ちる。シャルロットもカナードの反応に気付いていたが、敢えて気にしない事にした。彼女にとってこの雰囲気がとても気に入っているからだ。
それが終わり、ショッピングモール内を散策していると二人は一夏と箒がデートしているのが見えた。カナードとシャルロットはそれなりに良識がある方なので、わざわざ合流すると言う無粋な真似はせず、某猫型ロボットの様な温かい目で過ぎ行く二人を見送った。
「…微笑ましい限りだな」
「僕たちもあんな関係になれたらなぁ…」
「……その事に関して、俺には時間が必要だ。 心の整理がつかない内は、答えは出ない。 だからよシャルロット、今はまだ受け入れねぇよ」
「…ずるいよ、そういうの」
そのまま二人は買い物を続け、更に絆を深めていった。
◇
臨海学校当日。目的地へと走るバスの中で、カナードは爆睡していた。同室の一夏曰く、昨夜遅くまで新型ストライカーの設計に当たっていたと言う。また彼の隣では本音も爆睡。その内二人の鼻提灯が合体するのではないかと、運転手と千冬以外誰もが思っていた。二人の鼻提灯はそれほど大きくはないのだが、それでもそう思ってしまう。
やがてバスは海沿いに差し掛かり、バス車内のテンションは一部上昇。はしゃぐのも良いが、と真耶がなだめようとするも、千冬の冷たく鋭い視線が無理やり黙らせる。
バスが旅館に到着するとカナードと本音が目を覚ます。
「よし、一夏行くぞ」
カナードと一夏が先にバスを降り、積んである荷物を降ろし始める。二泊三日と言う日程なのに、それ以上泊まるのではないかと疑ってしまうほどの荷物の量に、一夏とカナードは揃って同じ疑問を持った。が、気にしても解明されない謎なので、カナードは気にするのをやめた。
すべての荷物を降ろし終え、旅館の女将に挨拶を済ませ、早速今日一日は自由行動の日。一日中遊びまくると言う行動概念が、女子生徒たちを駆らせる。彼女らの背を見送って、カナードは一夏と共に、自分の泊まる部屋へと移動する。
◇
水着に着替えたIS学園の生徒たちに、真耶は夕方になったら旅館に戻るように大声で言い、一夏達はそれに返事をする。その近くで、木陰で体育座りをしている二人がいた。カナードと簪だ。根っからのインドア二人は、取り敢えず海辺で遊ぶ級友たちを眺めていた。せっかく二人とも水着を新調したばかりなのだが…。
そんな二人に、共通の友人である本音が狐の着ぐるみ姿でカナードと簪の手を取ると、そのまま一夏達の下へと連れて行く。そのままカナードと簪はビーチバレーやスイカ割りに参加。思いの外二人は海の遊びを誰よりも楽しみ始めた。
そこからは誰もが、泳ぎ、潜り、遊び、散々楽しんでいたのだが、カナードはふとした違和感を感じ取った。ラウラが生地面積の少ない水着を着て恥ずかしがっている?違う。セシリアのサンオイルの件が起きなかった?それでもない。鈴音と一夏の水泳対決が何事もなく引き分けで終わった?でもない。掴めない違和感の正体を探っていると、シャルロットと簪が気付いていてカナードに教える。
「もしかして、箒がいない?」
「…さっきまではいた」
「そうか……一夏と水着デートしてっと思ったんだけどなぁ…」
原作を知っていた筈のカナードでさえも、いざその場面に自分がいると知っていても気が付かないものだとしみじみ思う。それでも最終的には一夏とくっつく事を祈りつつ、海の遊びを楽しんでいた。
◇
箒は一人、沈む夕日を見て佇んでいた。昨夜の実姉との電話にて専用機に関しての話で、箒にも作ってくれるとの事。正直現在絶賛行方不明中で、一夏と離れ離れにした張本人に電話を掛けるのも躊躇したが、やはり血の繋がった実の姉、彼女に頼むしかなかった。電話口の彼女はふざけ過ぎていたが、それはいつもの事。
専用機を送り付けるのは明日、しかもその日は専用機持ち達の訓練があり、もしかしたら箒もそこに参加できるかもしれない。
一夏に近づくかもしれないと言う淡い期待感がある反面、迷いや葛藤の念が彼女から滲み出ていた。それは表情にも出ており、そんな顔を見られたくない為に今日は一人になりたかった。
「こんなところに居たのか篠ノ之。 一夏が探していたぞ」
「…今日は、一人になりたかったんです」
「お前の専用機についての話は、
やれやれと言った表情で千冬は言った。その妹である箒も嫌と言うほど姉を理解しているので、千冬の見解に激しく同意する。しかし問題なのは彼女の人格ではなく、彼女御手製の箒の専用機。実の妹に道化を演じろと言うのだろうか、戸惑いを隠せずにいる箒。
その箒の心情に、千冬も痛いほど理解できた。自分もかつて道化を演じる羽目となり、結果今の様なゆがんだ世界を生み出してしまった。その片棒を担がれた彼女は、その罪滅ぼしとして、そして二度と自分の様な人間を世に出さないように教鞭を振るっている。時には厳しすぎる事もあるが、それは生徒を愛するが故の事。
本来の目的を思い出した千冬は、箒に要件を伝える。そろそろ集合時間だと。
それを聞いた箒は頷いて沈む夕日に、これから自分のになるだろう専用機の名前を呟いた。
「…
その小さな呟きは、沈む夕日が静かに包み込んだ。
◇
その日の夕方、旅館の宴会場でIS学園の生徒たちが夕食を取っていた。刺身やあら汁など海の幸が目立つものだ。その宴会場は半分がテーブル席となっていた。宗教上の問題や正座に慣れない国出身の生徒の為の措置だそうだ。ここでカナードはふとした疑問を抱いた。
「…テーブルなんか使ったら、畳痛んで勿体無いだろうに」
「……生粋の日本人なんだね、カナード」
「日本人だよ、俺は。 なぁ、簪」
「…うん」
「何か二人してひどくない?」
カナードの疑問に左隣のシャルロットは呟き、カナードの右隣の簪は首を縦に振りシャルロットをおちょくるカナードの援護に回る。勿論シャルロットは冗談だと言う事を理解して半笑いで最後に言った。その後彼女は誤ってワサビの山を丸ごと口に入れて涙目になり、少々呆れたカナードがお茶ではなくゼロカロリーのコーラを差し出した。こっちの方がお茶よりもワサビのツーンとする辛さが早く抜けるそうだ。
食事は静かに行うのが信条であるカナードに、目の前の席で長い袖が邪魔で持ちづらそうに箸を持った本音が糸目で見つめているのが見えた。これはカナードは分かる。簪もシャルロットも気付いている。シャルロットは鎌かけも兼ねて、以前カナードから教わった言葉を言った。
「本音、次に君はこう言う。 『かなかな~、あーんして~』と」
「かなかな~、あーんして~……え~?」
何処かの漫画のセリフを用いられたうえで自分の言いたいことを言われた本音は訳が分からなかったが、直ぐにどうでもよくなりカナードに詰め寄り始めた。それが引き金となり、周囲の女子生徒たちがわらわらと一斉にカナードと一夏に群がり始めた。
その中にちゃっかり簪にシャルロットまで混じっているので少々質が悪い。腕を十字に組んで謹んで辞退するカナードとは違い、一夏はこの状況に慣れず戸惑っていると、千冬降臨。一夏の後ろの襖を開けて現れた彼女は、群がる女子達に雷を落とす。その脇でカナードは何事もなかったかの様に箸を進めている。
料理一つ一つの味を楽しみつつ、千冬の説教をもおかずにし箸を進めていく。
◇
その夜。カナードは割り振られた部屋にいた。本当ならカナードは一夏と同じく千冬と同じ部屋だったのだが、千冬と真耶がカナードの性格等を考えた結果だ。淫行目的の女子達を丁重に返す事を千冬たち教師陣は知っていた。
それを知ってか知らずか、カナードは自分の周囲に投影ディスプレイを表示、新型ストライカーの着工を進めていた。
「セシリアのビットを参考……駄目だ、仮にも他国。 現時点での日本でビットを扱っているのは心当たりない。 やはり、あのマッドサイエンティストに当たるしかないのか…」
壁にぶち当たっていたカナードは小休止にディスプレイを閉じ、伸びの姿勢を取る。するとストライクにプライベートチャネルの通信が入った。携帯で言う非通知。相手の名前どころかISの機体名すら出ない。怪しみつつもカナードはその通信を開いた。
『はろー、いっくんと同じくISが使える少年!』
この声、この口調、このノリ。間違いない。篠ノ之束だ。まさか彼女自身から連絡が来るとは、カナードはいまだに信じられずにいた。
「…驚きました。 現在行方をくらましている貴女から、恐らく興味対象外だと思っていた私に連絡をするとは……」
『かしこまらなくてイーよ。 束さんと言う天才科学者はイレギュラーと言うものに関心があるのだ!』
「同じ研究者として、それは同意します。 それで本題ですが、貴女の目的をお聞きしたい」
『ん? 目的? 君のISを通して面白いの見せてもらったよ。 凄いね、いっくんが見たら頭爆発しちゃうモノ作るなんて』
「新型ストライカーの設計図ですか? 確かに彼の頭はオーバーヒートしてましたが……まさか…」
『そのまさか! 束さんが手伝って進ぜよう!』
思っていた以上に事が運んだ。本来ならばカナードが束が紅椿をお披露目する明日に見せる筈が、どう言う訳か彼女から連絡が来て完成を手伝うと言う発言が出た。ある意味願ったりかなったりのこの状況に、感謝半分嫌疑半分。
ギブ&テイクと言う言葉がある通り、何かをするには代償が必要となる。
「それで、貴女は私に何を望むんですか?」
『ん? そだね、箒ちゃんといっくんの二人を幸せに導いてほしいな。 束さんのせいで箒ちゃんはいっくんと離れ離れになっちゃったからね』
「……罪滅ぼし、ですか?」
『そーしたいけど、束さん箒ちゃんからちょち嫌われてるみたいでさー』
「それは箒が戸惑っている様にも思いますが、私も箒と一夏には幸せになってもらいたいと思っています。 あの二人の空白の六年は、そう簡単に埋まると思ってません。 貴女もそれを理解しているはずですね」
疑問詞でない確認の言葉に、束は肯定する。
これ以上の通信は政府にも嗅ぎ着かれてしまうかもしれないと言う事で、束の方から強制的に通信が遮断する。嵐のような人間だとカナードは解釈する。それ以上は知る気はしない。人間台風とも相応しい彼女を理解するなど、タイムマシンを現実に作り上げるほど困難この上極まりない事である。
ふと、部屋に掛けられている時計に目を向ける。時刻はそろそろ消灯。用心に用心を重ねる彼は、入り口や窓を内側から頑丈に厳重に固める。ラウラの様な人間がいる。クラスのモブ女子生徒達が彼女の技術を習得し、いつカナード一人の部屋に侵入するかたまったものではない。
最終確認を終え、カナードは敷いた布団にくるまって深い眠りについた。
◇
翌朝、カナードはメカニカルなウサ耳を前にしゃがみ込む一夏を見付けた。ここに来る前に少々不機嫌な箒とすれ違ったカナードは原作を思い出していた。ここであのウサ耳を引っこ抜けば、大型ニンジンロケットに搭乗した束が現れる。そして一夏は躊躇いつつもそのウサ耳を引っこ抜いた。
『当たり! けど景品はないよ』
おふざけ度マックスレベル。ウサ耳にはそんな札が付けられていて、それが一夏とカナードの視界に入る。何というか、二人は一瞬虫の居所を悪くされた感じがした。
すると、上空で風を切る音が聞こえ、上空には次第に大きくなっていく黒い点が見えた。音と共に巨大化するそれは、ついには一夏の手前に激突。正体を掴めているカナードと掴めてない一夏は、そのニンジンロケットの中に人がいるのを確認した。その正体、着ている服のテーマは『一人不思議の国のアリス』、十分に眠る事が出来ていないのか半目に隈、髪留めカチューシャは機械的なウサ耳、そして出鱈目ワガママボディ。
「ヤッホー、いっくん!」
篠ノ之束本人だ。
「出た」
「あの…、お久しぶりです束さん」
現在行方をくらましている人間が今目の前にいる現実を、一夏とカナードは否定したかった。いくら否定をしたところで目の前の現実は変わらない。
「あ、ねーねーいっくん、箒ちゃんどこかな?」
しかし束は一夏に聞くだけ聞いておいて答えを聞かずにその場から走り去る。
「……何だったんだ、一体?」
誰に言うまでもなく呟いた一夏の一言に、カナードが敢えて一言を加える。
「俺が知るか」
◇
朝食後、カナードを含めた専用機持ち達+αは海岸沿いの断崖絶壁の場所にいた。2時間ドラマのラストによく使われそうな場所で、カナードとは違う+αのイレギュラーに気が付いた鈴音は、思った事を素直に千冬に伝える。
「よし、専用機持ちは全員そろったな」
「ちょっと待ってください。 箒は専用機を持っていないでしょう?」
そう鈴音が言う。今の彼らの立ち位置は、鈴音、セシリア、一夏、カナード、簪、シャルロット、ラウラ、そして箒。それぞれ自前のISスーツを着用しており、その中で箒は先日までのとは違うデザインだ。カナードの視界の端で一夏の鼻の下が少し伸びていたが、それは気にしない事にした。
理由を話そうとする千冬だったが、それを遮るように誰かの声が木霊する。心当たりがある四人は警戒する。これから来るであろう人災に備える。
すぐ近くの斜面に一筋の土煙が舞う。そこか、と一夏達は視線をそちらに向けた。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
掛け声をあげたその人物は勢いよくジャンプし、千冬の下へと自由落下を開始する。そのシルエットは大の字に両手足を広げて、その姿を鮮明に見せた。千冬と同じかそれ以下の年齢の女性だ。天真爛漫な表情をしたその女性は、有無を言わさず千冬のアイアンクローの餌食となった。
「ちぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
物の数秒、千冬はその女性にアイアンクローで鷲掴みにしただけでなく、受け流して女性の威力を殺す。アイアンクローは人によってダメージが違う。千冬のは本気を出せば相手を悶絶させるほどの威力で、カナードはその恐ろしさを知っている。今の千冬のアイアンクローは殆ど本気に近い、常人だったら既に虫の息…なのだが、その女性は千冬のアイアンクローなど物ともせず…と言うかまるで利いていない様子。
旧友との再会を喜んでいる女性は千冬に接触を図ろうとしていた。が、当の千冬はそれを拒み、アイアンクローの威力を強めるが、未だにその女性は参る様子はない。
「さぁさぁ、ちぃちゃん! 愛を確かめ合おうよぉ!」
「いい加減にしろ」
ややあって、箒が岩陰に隠れ、千冬のアイアンクローから逃げ延びた女性が見つけ出し、セクハラ発言からの木刀クラッシュ。原作通りの展開に事が進み、女性はくるっと一回転し自己紹介を始める。
「私が天才の束さんだよー。 はろー、おわり」
「出たなマッドサイエンティスト」
カナードの思っていた言葉が呟きとなって口から出る。その呟きを聞いていた一夏と千冬の二人は特に否定はしなかった。
そして束と言えば、ISを開発した自他共に認める天才科学者。未だ各国でも解明されていないISのコアを唯一製作できる人間で、この狂った世の中を生み出した張本人だ。正体が分かった各国の代表候補達は現在行方をくらましている束が目の前にいる事実に驚愕の表情を浮かべていた。
自分がある意味注目の的だと理解している束は細めた目を光らせると、急に天を仰ぐ格好をすると高らかに叫ぶ。
「さぁ、大空をご覧あれ!!」
彼女の呼び声に呼応するように、上空からまたも風を切る音を出しながら何かが落下する。上空の点が徐々にこちらに近づいてくると、そのまま誰にも被害を与えずに束の隣に着地する。その正体は正八面体のモノリスで、カナードと簪はそれに似ている物の名前を言おうとしたが自粛する。
「これが、これこそが! 箒ちゃんの為の、箒ちゃんだけの専用IS! その名も
正八面体のモノリスが可愛らしいエフェクトをまき散らしてその全貌を晒す。現れたのは紅く染まった装甲のISだ。可憐に咲く紅色の椿、はたまた勇ましい鎧武者のようにも見えた。その上世代が最新の第四世代である事から、この場に居る四人以外驚いていた。
「凄いな、現状じゃほとんどの国家が第三世代に踏み切ってるってのに…」
「そこがホレ、天才の束さんの手に掛かれば御茶の子さいさいへのへのカッパ! 天才束さんの成せる業なのだよ」
カナードの問いに束が気を良くして答える。その対応に実の妹である箒や、彼女の得性を理解している一夏が目を丸くしたりポカンとした表情で彼を見る。カナードも興味の対象であることを意外と思っていたのだ。それを知らずに、束の裏の性格を知らないセシリアが興味本位で話しかけようとするがそれに気づいたカナードが全力で阻止する。
邪魔されて憤慨するセシリアは尚も阻止しようとしているカナードを突破。目を輝かせたセシリアは、ISの第一人者に声を掛けたのだが……、
「あ? 何邪魔してんのアンタ。 今束さんいーとこなのに邪魔すんなんて、分かんないの? 理解できないの? 何がしたいの? まったく、自分が何者かを理解してんの? してないから平気で束さんの邪魔すんでしょ、あれだよねー、アンタ果てには首チョンパな結末迎えたいの? それとも黒くて巨大なISに乗って頭おかしくなりたいの? それとも白くてフリフリな格好してお子ちゃま達のプリティでキュアなヒーローにでもなんの? 巨大なひまわりの着ぐるみでも着てたら? これから束さんさぁ、箒ちゃんのフィッティングやパーソナライズしたいんだけどさ、邪魔だからもうどいてくんない? これだから外国の連中はヤなんだよね」
怒涛の口撃に遭いましたとさ。
これで如何に束と言う人物かを身を以て知ったセシリアを見て、カナードがあるカードゲームアニメのセリフ言った。
「もーやめてー、セシリアのらいふは0よー…」
棒読みだった。
ややあって箒のフィッティングとパーソナライズの作業に入った。流石天才科学者を自称しているだけあってか、両手の指先と関節を駆使して投影型のキィを叩いて行く。人は慣れれば片手でキィを叩く事も出来るが、彼女の場合は常識を逸していた。もし今の彼女に石で出来た変な仮面を渡したら、「人間をやめる」とまで言い出しそうな感じだ。
カナードの隣で簪が束の指先を見ていた。自分にはとても真似出来る芸当ではないと悟った目で。
作業が終了して、箒は紅椿と共に飛翔。流石最新世代IS、白式やストライクの比ではなかった。ここでカナードに一つの疑問が浮上した。
「…問題は、
転生してこの世に生まれ、更にISまでも動かせるカナードは原作には無かった様々なイレギュラーを起こしてきた。大まかなところは原作通りなのだが、この後起きる事件で箒がミスしてしまう事を思い出したカナードはその事を危惧して呟いた。その呟きは運がいいのか悪いのか、誰一人としてその耳には届かなかった。
自立機動ドローンを右手に握られた
その時、山田真耶が息を切らして千冬に近づいて耳打ちすると、千冬の表情が一変してカナード達に言った。
「訓練中止。 非常事態発生。 至急作戦室に集合! これより、極秘任務に入る!」
それは、最悪な事件の始まりだった。
◇
「今から二時間前、アメリカとイスラエルの合同軍事演習の際、新型のIS『シルバリオ・ゴスペル』通称『銀の福音』が突如暴走。 搭乗者は意識不明の状態のまま日本に向けてマッハの速度で接近中。 委員会から学園の方にこれの対処が下り、我々が一番近い場所にいることから」
「私たちにその暴走ISの活動を止め、尚且つ搭乗者の救助を任された……と」
「そうだ大和」
「それを何故、どの国家、どの組織にも属さない私たちが……それも学年の一年が対処しなければならないのでしょうか。 確かに私たちが一番近いのは分かります。 が、これでは…失礼ですが相手国の尻拭いを私たちがしなければならないのでしょうか」
「…私もそうは言った。 それを上が聞かなかっただけだ」
臨時の作戦室。そこは宴会場に学園の機材を積んだ場所で、カナード達一年の専用機持ち達は千冬から現状を聞き、カナードが思った事を言った。
続いてセシリアから福音の詳細なスペックデータを要求。それに対して、
「…化け物だなこりゃ」
「どれもこれも常軌を逸してる……」
カナードと一夏が素直な感想を箒たちが同調する。
「そして規格外の速度で移動している為に攻撃が追い付かない。 アプローチは一度、そこで一撃必殺の威力を持った攻撃で止めるしかない」
「それが出来るのは……」
そこで一斉に一夏に視線が集まり、当の本人は何故自分なのかが理解できずに居た。そう、一夏の白式の単一仕様、『零落白夜』と言うバリア無効化攻撃。それが決まれば、福音のシールドエネルギーは底を突き、搭乗者も救える。
しかし、問題は如何にして福音に接触するかだ。悩んでいる一夏達をよそに、カナードが何処からか持って来た柄の長いモップを取り出すと、天井を一突き。するとどう言う訳か突いた所から束が一枚の天井板と共に落下。千冬の隣に落ちて尻餅を打った。
「こ、これが日本で有名な『ムッ、曲者』と言うやつか」
「違います」
爛々と目を輝かせて言うラウラにカナードがツッコミを入れる。
「もー、酷いなぁ」
「さて束、盗み聞きとはいい度胸だ。 用が無いなら今からサメの餌になるか、それとも政府に売り出されるかどちらかを選べ」
「ちーちゃんヒドイ! お困りのところに束さんがいーこと教えようと思ったのにー」
「大和、確かこの近くにサメの巣があったな」
「そうですね、何ならすぐにでも篠ノ之
「うぇーい、全然聞いてないよぉ。 箒ちゃんの紅椿の展開装甲を使えばあっという間なんだよ」
『展開装甲』。その単語に、千冬までもが反応する。
それはすなわち、第四世代の特徴で、
そこへセシリアが手を挙げて箒の代わりに自分がと名乗りを上げる。
「お待ちください。 本国より強化パッケージ、ストライクガンナーが送られています」
「インストールは?」
「まだですが、七時間はかかります」
「束、そちらはどうだ?」
「ばっちしばっちり7分で完了するよ」
この時点で千冬の判断はもう決していた。
◇
二時間後、一夏は海岸沿いに立っていた。待機状態の白式のディスプレイを表示して時刻を確認する。もうすぐ作戦時間。まだかまだかと、今回の作戦パートナーを一夏は待っていた。
そして、やって来た作戦パートナーと共に、一夏は白式を展開する。
続く
次回で福音戦&第二移行出します頑張ります
応援よろしくお願いします