インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
指令室で千冬が今作戦の概要を、通信機を通しオープンチャネルで白式を纏う一夏とその作戦パートナー、紅椿を纏った…箒に伝える。その様子を、離れた場所でカナード達が眺めていて、今作戦の行く末を見守ろうとしていた。その中でカナードは箒に釘を刺そうかと思ったが、今の彼に命令権もなく千冬がプライベートチャネルで一夏に向けて箒の様子に注意しろと伝える。
作戦開始とともに、何故か居た束が突然カナードを何処かへと連れ出した。この事に関して千冬も承諾済みだ。もしかしなくてもこれは新型ストライカーの着工だ。束に手を引かれながら連れ去られるカナードは、どうか密漁船が出ないようにと心の裡で祈った。
そもそも何故束が未だここに居るのに政府に見付けられていないのか。それは簡単、彼女のウサ耳カチューシャがステルス機能が備わっており、今現在もそれが機能中だそうだ。
早速束がカナードの設計図に目を通し、興味深い所が多いのか随所随所でフムフムとわざわざ口で言いながら感心していた。
「ほほ~、中々おもしろいね~」
「通常はバックパックとして、その他は援護機能付きの無人機として使えるようにするのがブルーブースター。 敵のレーザーやビームを吸収してそれをシールドエネルギーの代わりとして超巨大レーザーを放つユニバースブースターと専用のライフルとシールドです」
「なぁんだ、てっきり手間取るモノかと思ったら……オッケー、
たった3分。彼女はそう言った。天才の名は伊達ではないと言う事か。後ろでカナードがカップ麺の容器にお湯を入れて蓋をした瞬間、束の指が分身している様にも見えた。高速でキーを叩いている彼女は、まるでピアノを演奏している小学生の様な表情をしていた。その上、目は狂気じみていた。
きっかり3分。出来上がったプログラムの仕上がりを見て、カナードは驚愕する。見開いた目で見た物は、現在の自分の腕ではまともに到達できない代物。計算式等寸分の誤差もなく、完璧に仕上がっていた。
そのカナードの様子を見ながら束は出来上がったカップ麺を啜っていた。しかも割り箸ではなくマイ箸で。
「むっふっふ~。 驚いた驚いた驚いたぁ? 束さんの手にかかりゃぁ…」
「本当に素晴らしい。 私にはここまで……そうか、ここはこうでそこがこうか。 そうか、こうすりゃあ良かったんだ。 ありがとうございます、束さん」
「束さんの台詞を遮らないで欲しいな。 でもいい返事だよ少年! でもインストール終了まですんごい時間かかるよ~」
「少なく見積もって…10時間程でしょうか?」
「ノンノン、4分の1の2時間半! その後直ぐにでも初展開できるよ。 じゃ、束さんもう行くね。 またね、
その言葉に、カナードの思考が一瞬ではあったが止まった。
どの様にしてカナードの正体を知ったのか定かではないが、そう言い切ってすぐに屋根裏を通って束は去っていく。カナードはこの世に転生して一度も誰にも自分が転生者だとは名乗ってはいない。もし伝えたとしてもそれでは只の厨二病患者と受け止められてしまう。
新型のストライカーの完成を手伝って貰えた事に感謝は禁じ得ない。が、それでも彼女が何故カナードの正体を知っているのか、今のカナードには解らない。イレギュラーに興味はあると彼女は言ったが、ならどうやってカナードが転生者だと知っていたのだろう。
しかしそれ以上にも心配な事がある。一夏と箒の二人だ。まだ十分しかたっていないが、そろそろ福音に接触してもおかしくはない。二人の無事を祈りつつ、カナードは作戦司令室へと戻る。
◇
指令室に戻ったカナードは、簪の隣に座り彼女から現状を聞いた。福音への零落白夜は失敗。その後戦闘に持ち込み、今二人は福音の弾幕を避けながら何とか二度目の零落白夜を出す機会を窺っているところだ。
この時カナードは、ある事を思い出していた。それは恒例となった前世の記憶だ。
「織斑先生、付近の海域は既に教員部隊が封鎖しているんですよね?」
「それがどうした、大和」
「もし封鎖前に船が出港していた場合の、そう言う情報はありませんか? もしかしたら密漁船が出た可能性も無くもありません」
「既に漁協に一時出向の停止は出ている……が、密漁船か…。 有り得なくもないな」
密漁船が出ているかどうかを他の教員に千冬が指示を出すのと同時に、一夏からのオープンチャネルが届いた。
『千冬姉、密漁船がいる!』
「織斑先生だ。 今大和から密漁船の心配を聞いたばかりだったが…封鎖する前に出たのだろうな。 いいか、臨機応変に対処しろ」
その指示に承諾する一夏と、自身の愛機の力を無暗に振り回している箒がカナード達の目に入っていた。
そして、悪夢とも言える瞬間が訪れた。
◇
一夏が撃墜され意識不明の重体になってしまい、箒は箒で力の有りようと自分の不甲斐無さに嘆き、今は一夏の傍で項垂れていた。
見舞いとしてカナードと鈴音がその部屋に訪れていた。いつもポニーテールに結っていた箒の髪は、結んでいたリボンが焼けてしまっていた。それだけでなく、いつもの彼女の風格も消えてしまったかのようで、暗かった。
「……どうだ、一夏の様子は」
「………」
「だんまりかよ…。 密漁船の乗組員は既に全員捕まったぜ。 今頃ワッパ掛けられてムショかブタ箱かもな」
「それで、アンタはどうしたいの? 答えなさいよ」
カナードには答えなかったが、鈴音のその言葉で箒は力の抜けたような声で二人を見ながら言った。
「私はもう……ISには乗らない。 私には……過ぎた力だ」
その言葉に鈴音が反応してぶっ叩こうとしたところ、カナードが代わって箒の肩を掴んで無理に視線を合わせて力強く叫ぶ。
「甘ったれんじゃねぇよ馬鹿野郎がっ!! 簡単に乗らねぇとか抜かすんじゃねぇ、紅椿はテメェの……テメェの姉さんがテメェの為に作ったんだぞ!! 現にテメェは束さんの身内で女だ! それだけでも束さんを獲得する重要な交渉カードで、同時に束さんに対する最終兵器だ! 今と学園に来る前のテメェは政府の保護下であると同時に、政府に所有されてんだぞ?! その紅椿はなぁ、どの国の物でもない何より優れたISだその持ち主はテメェだ!! それになァ、束さん言ってたんだよォ! 自分の妹に迷惑を掛けてしまって申し訳ねぇ、自分は今妹に嫌われてると思うって。 とんだ妹思いの良い姉さんじゃねぇか!!! テメェはその……肉親の好意を無下にすんのかよ、答えろよ! 答えろよ、篠ノ之箒!!! 紅椿はテメェにとって過ぎた力じゃねぇんだ、一夏と肩を並べられる力だ!!!!」
カナードの口撃。実に的をよく射ている。
「で、アンタはどうしたいのよ」
鈴音が箒の手を取った。
「私は私の友達の敵を討ちます。 オルコットの名に懸けて」
セシリアの手が重なる。
「僕も。 一夏も皆も大切な友達だよ」
シャルロットの手も重なった。
「既に福音の所定位置は既に我が黒ウサギ隊が捉えている。 いつでも仕掛けられるぞ」
ラウラの手も。
「……それで、箒はどうしたいの?」
簪も。
「み、皆……私は…私はもう一度戦う。 姉さんから貰った力、一夏の為に使う! 自分の為ではない、惚れた男のために戦う!!」
「そこまで言えるんだったら、もう何もこわ……」
『死亡フラグ!』
「はい、すみません皆さん」
かくして、福音への再戦が決まった。待機中の身での命令違反。それをカナード達は敢えて破る。友の仇をとる為に。
◇
胎児の様に体を丸めた福音は、一夏と箒との戦闘でのダメージを癒していた。そこへ、プラズマレールカノンとアグニが直撃した。ラウラのとカナードの攻撃だ。
「初弾、命中!」
「大和カナード、及びIS学園一年専用機部隊!」
『任務、開始!!』
散開してカナード達は福音に攻撃を仕掛けはじめる。この時のカナードのストライカーは只のランチャーストライカーではない。
鈴音とセシリアがいつになく統一のとれたコンビネーションが取れていた。セシリアがビットで福音を鈴音の距離へと誘い込んでいく。
「たぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
双天牙月を繋げず二刀流で重い斬撃を繰り出していく。その斬撃を躱そうとする福音だったが、完全に避け切れておらず、掠ってばかりである。引き際に鈴音が衝撃砲で福音を撃って距離を取り、シャルロットのアサルトライフルの弾丸が雨粒の様に福音に降りかかる。
また入れ替わってラウラがプラズマ手刀で頭部の翼を切り落とし、直ぐに福音本体を
「…ターゲットロック、『山嵐』!!」
AICの拘束から解かれた福音は自由落下し、そこに簪の打鉄弐式の弾道ミサイル弾『山嵐』が全弾命中する。大ダメージは食らわせる事に成功したが、問題はその後。やや早い段階で福音を撃墜できたが、安心するのはまだ早い。
すると、何処からか教会の鐘の音が聴こえてきた。周囲にそれらしき場所はなく、あるとするなら福音のみ。祝福を意味する筈のその音色は、悪夢の産声にも聴こえた。
失われた筈の福音の翼が、四枚に増えて蘇った。
「……馬鹿な、早過ぎる!
カナードが言った。恐らく箒達も同じ様な事を思っているに違いないだろう。現実の悪夢そのものだ。
移行後の福音は先程の戦闘スペックを遥かに凌駕しており、あっという間に形勢が逆転された。数で押していた筈が、圧倒的力によって押し返されていた。
「何なのよ、コイツはぁっ!」
衝撃砲を放ちながら鈴音がステータスアップされた福音に対し悪態を突いた。全くその通りなのだが、今は福音の沈黙に集中するしかない。例え自分達が倒れようとも、刺し違える覚悟で闘っていた。未だ目覚めぬ友の為に、カナード達は闘っていた。
現実は実に不条理に出来ている。ある人物が言っていた。『努力とは、宝くじを買うことである。努力そのものはやれば実る当たりくじのようなモノではない』と。カナード達は自分達が努力すれば、化け物じみたISに勝てるだろうと思っていた。が、現実は真逆で既にカナードはパーフェクトストライカーを破壊され、今はI.W.S.P.を使用しており何とか立ち回っていた。
セシリアの場合はビットが半分も落とされ、鈴音は片方の双天牙月が砕かれ、シャルロットはスラスターを、ラウラはプラズマカノンの砲台を破壊されていた。未だほぼ健在なのは紅椿と打鉄弐式のみ。
福音の多数の
「やられるかよ、こなくそぉぉぉぉ!!」
レーザーライフル、レールカノン、ガトリングのフルバースト攻撃。カナードも弾丸の嵐を福音に向けて撃ちだしていく。
◇
そこは辺り一面水浸しな場所。大小様々な形の雲が青空の中で流れていき、水面はくもりない鏡の様に空を映していた。
福音の集中攻撃を受け意識不明の状態に陥っているはずの一夏はそこに居た。
これは夢?それとも天国か?見つからない答えを探す彼の耳に、心地よい歌が聞こえてくる。その調、その歌詞、そしてその歌を謳う少女を一夏は知らない。そのはずなのに、どう言う訳か知っていた。
気が付けばその近くに流木があった。目の前の少女は成人男性程の大きさの木の枝に腰をかけており、一夏も同じ様に流木に腰をかけ、彼女の歌に聴き入っていた。
聴いている内に、少女は謳うのをやめると、急に青空を見上げた。
「もう、行かなきゃ」
そう言った彼女の言葉に疑問を持った一夏は、その少女に声を掛けようとするが、彼の背後に金属がこすれる音がし、その方に視線を向ける。そこに居たのは、身の丈ほどの大剣を片手に持っていた純白の鎧を纏った純白の騎士だ。
純白の騎士は凛とした佇まいで尚も一夏をバイザー越しに見つめていた。一夏から見えていないが、バイザーの奥の瞳には悪意も敵意すらも感じさせていなかった。
「あなたは力を欲しますか?」
RPGでのお決まりの台詞が、今一夏に問いかけられていた。答えは既に決まっている。
「俺は力が欲しいさ。 でも、独りよがりなのは嫌だ! 仲間と、友達と、好きな女を守る力が欲しいんだ!!」
力強く言い切った一夏に、騎士の露わになっている口元は笑って、少女は笑って一夏に言う。
「なら行かなきゃね。 友達のところ、仲間のところそして、愛する人の場所にね」
その瞬間、一夏の意識は覚醒する。
◇
圧倒的火力。それは簡単に避け切ることはかなわない。
圧倒的速度。それは簡単に逃げ切ることはかなわない。
二次移行後の福音の強さに翻弄されっぱなしのカナード達は、シールドエネルギーの殆ど、若しくは武装の殆ども底に突きかけていた。パーフェクトストライカーと同様にI.W.S.P.は破壊され、エールストライカーにシュベルトゲベール、そしてI.W.S.P.のガトリングシールドを装備したカナードは、シルバー・ベルの弾幕をガトリングシールドで防ぎつつ、仲間たちの状況を聞いた。
セシリアはビットが、鈴音も片方の衝撃砲を、ラウラは右肩のプラズマカノンを破壊され、シャルロットと簪はストックしていたアサルトライフルと弾丸が無くなりかけていた。箒は展開装甲を駆使する事でシールドエネルギーの消費は半分近くだけ削られていた。
「ちゃー、まずいなぁー」
「…そういうカナードは?」
「ぶっちゃけ今持ってる装備で最後です。はい」
シュベルトゲベールを握り直して簪に答えるカナード。切っ先は尚も余裕な感じの福音に向けられていた。
エールストライカーのスラスターを吹かし、カナードが突撃し、シュベルトゲベールを突き立てるが福音はそれを軽々避ける。しかしそこを読んでか、セシリアのスターライトMarkⅢから撃たれるレーザーが福音の背面に直撃する。福音の注意がセシリアに向けられた瞬間、左右からカナードのシュベルトゲベールと鈴音の双天牙月の斬撃が直撃する。しかしそれでも福音はのけぞらず、怯まず、ただ相手を殲滅せんとしていた。
ラウラのアンカーワイヤーが飛び、シャルロットのシールドピアースが天使を穿つが、どちらも福音への決定打に至っていない。
やがて、鈴音が、ラウラが海面に打ち付けられついには箒も福音に捕まってしまい、同じように海面に激突した。
「まだ使えねぇのかよ、くそっ!」
インストール終了まで時間はかかる。それまで持ちこたえられるか、カナードには不安しかない。
ダメもとで何度目かのスラスター最大出力で福音に突貫する。
◇
福音には歯が立たない。それを箒は痛いほど理解していた。一夏の仇を討ちたかった箒は、自分を愛してくれている自慢の姉から受け取った紅椿の性能を、十二分に発揮出来ずに、また扱いきれずに負けてしまった。
情けない。惚れた男の分まで戦うと決意した結果がこれだ。
ふと、誰かが自分の顔を覗いている気がした。重たい瞳を開け、ぼやけた視界がクリアになると、そこには今はここに居ないはずの男がそこに居た。
「よっ!」
「い、いち……か! 本当に、お前なのだな…?」
「ヒドイな箒、俺は生きてるぜ。 せっかくお前に渡したいものあるのにさ」
そういうと一夏は懐からあるモノを取り出した。それは髪留めなどに使うリボンそのもの。今までしていたのは昼間に福音戦にて焼き切れてしまっている。
「誕生日、おめでとうな」
それは箒への誕生日プレゼントの新しいリボンだ。実はこのリボン、カナードとシャルロットの二人が臨海学校前にショッピングモールに訪れた際に、同じように一夏と箒もそこに訪れていたその時に一夏が箒に内緒で買ったものだ。
一夏の手からそれを受け取った箒は、長い髪を元のポニーテールに結い直す。
「ん、やっぱ箒はポニーテールが似合うな。 そんなお前が俺は大好きだ」
「私もお前の事は好きだ。 きっと来ると信じていたぞ」
「いけるか、箒?」
「ああ。 だが、先に行ってカナード達の援護に回ってくれ、私は少し遅れるぞ」
「ああ」と、一夏が短く言った。
飛翔する一夏の背を見た箒は、白式の左腕とスラスターの変化を見た。一夏も福音と同じ様に二次移行に成功したのだろう。どういった経緯かは分からないが、箒にはこれだけは言える。
――やっと、あの背中に追いついた。ならば、自分は肩を並べても恥じないように戦うだけだ。
その箒の決意が、紅椿に更なる力を目覚めさせた。
◇
福音のシルバー・ベルの掻い潜りつつ、カナードは次の一手を考えていた。が、そうは簡単にいかない。今のカナードにはこの後の展開が、理解できるはず状況が頭になかった。だから、その人物の登場に思考が追い付いていなかった。
二枚から四枚に増えた背面のウィングスラスター、左腕の大きな武装と見た事の無い部分はあれど、右手に握られていた鋼色をした日本刀、それを装備した純白の鎧は、間違いなく彼の物だった。
「……けっ、主役は遅れて登場かよ、いぃぃちかさぁん!!」
口を悪くして言うカナードだが、その顔には笑みが浮かべられていた。ハイパーセンサーを通してみた白式第二形態雪羅。
一夏の登場と同時に、カナードの方である処理が完了する。二つの新型ストライカーのインストールが完了し、確認ボタンを押す。その瞬間、ストライクの追加武装が排除され、背中に新たな武装が現れた。
可動式のウィングと砲門が二つあるその新型ストライカー、ブルーブースターがストライクの背面にマウントされる。
「っしゃあ、インストール及び展開完了! おい、一夏。 共にお披露目会といこうか?」
「ああ! 雪羅、クロ―モード!!」
一夏の左腕、雪羅の指先から零落白夜の爪が出現する。その後ろでカナードが二門のレール砲を稼働させ、赤い極太レーザーを照射。一夏の援護に回る。それらに続くように、簪達も出来る限りの範囲内で援護を始める。
しかし、問題なのはシールドエネルギー。特に一夏の場合、クロ―モードの雪羅と雪片の双方に零落白夜を起動しているためシールドエネルギーの消費が否めない。このままでは福音を止める前に、また一夏がやられるかもしれない。
だがカナードは知っている。二つ目の切り札がこれから登場する事を。
「一夏っ!」
「待っていたぜ、箒」
現れたのは金色に輝いていた紅椿を纏った箒。それは紅椿の単一仕様、『絢爛舞踏』が発動していた。差し出された箒の手を一夏は握り返すと、白式のシールドエネルギーが一気に回復した。これが絢爛舞踏の能力。シールドエネルギーの回復のみならず、余剰した分を僚機に譲渡出来る。
つまりはこの箒の紅椿と、一夏の白式は対の存在であることが分かる。
そこからカナード達の快進撃が始まった。しかし現状は福音の方がやや優勢で六割ほど。それでも逆の可能性は零ではない。カナード達は攻撃の手を、回避する足を止めなかった。手を止めれば福音を止められず、足を止めれば逆にこちらが落ちてしまう。暴走を止めるのに、福音から操縦者を救うのに休む暇はなかった。その時点で問題が変わる。シールドエネルギーの消費から体力の消費だ。
「弾幕、来るぞーっ!」
疲弊していれば、カナードの叫びを聞いても判断が一瞬遅れてしまう。遅れたのは……簪だった。
「…っ!」
「か、簪ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
疲労で反応が少し遅れた簪の回避行動。直撃の寸前、カナードがその間に入り込んだ。シルバー・ベルの弾幕が、カナードと簪を包む…筈だった。
シルバー・ベルの弾幕が、ストライクに吸収された。いや、正確にはストライクの左腕のアブゾーブシールドに吸収されたのだ。更に背面のブルーブースターはパージされると無人機へと変わり、また新たなストライカーが装備された。白い装甲のユニバースブースターである。
このストライカーには専用のレーザーライフルと先程シルバー・ベルの弾幕を吸収したアブゾーブシールドが付属されている。
「………無事か、簪。 ブルーブースターに掴まってくれ、それを足に使うんだ」
いつもより強いカナードの口調。彼の後ろで簪は悟っていた。彼は今、燃えたぎる溶岩の様に
「……充填完了。 これが、新型ストライカーの力だ! 括目せよ、その眼で! 肌で感じろ、我が存在を!!」
その瞬間、カナードの前方に光のゲートが出現。それを一気にくぐると、装備しているユニバースブースターから蒼く輝く可視化したシールドエネルギーの翼が展開されるとカナードは、一気に福音に距離を詰めてその胴を思いっきり蹴り付ける。その吹き飛ばされた先には、双天牙月を両手に握っていた鈴音がいる。
投手の投げた球を打ち返す強打者の様に、鈴音は福音を撃ちあげる。またその先に居たのはセシリアだ。唯一残っていた右腰のビットのミサイルを撃ちだし、インターセプターを投擲した。
弾かれた先にはラウラがおり、ペンデュラムブレードでインターセプターを絡め取ると、それを福音に向けて投げ返すも二度目は簡単に避けられた。が、その福音の逃げた先にはシャルロットがいた。彼女はシールドピアース・パイルバンカーを何度も打ち付け、最後の一発で打ち上げる。
姿勢制御のその瞬間、福音に隙が生まれた。簪が瞬時に福音に照準を付けると、ブルーブースターがそれに従い砲撃を開始した。原作でシャルロットが一夏にアサルトライフルを貸し出したのと同じ要領だ。
続けて箒の空裂の巨大な光刃が福音の翼を二枚切り落とす。これで福音の機動力は激減する。間髪入れずに今度は展開された雪片と雪羅の零落白夜が、福音のシールドエネルギーを大量に削っていく。
『今だ!』
一夏達が揃ってカナードに言う。
「目標、銀の福音。 フルバースト!」
アブゾーブシールドとライフルが直結すると、ライフルの砲身が変形して銃身が伸び、更にユニバースブースターの砲身も展開。三つの砲門が福音を捉えていた。引き金を引くと、それぞれの砲門から赤みがかった白い光の奔流が放たれ、あっという間に福音を包んだ。
二枚の翼が、全身の装甲がシールドエネルギーと共に消え去っていく。
「ぜぁおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
そうして残ったのは、武装の殆どが機能しなくなった福音と、操縦者の女性だけだった。
落下する女性をカナードが受け止め、一夏達に向かって拳を突き撃だす。
「作戦、完了!」
一夏達の拳もカナードの拳に合わせていく。
◇
旅館に戻った彼らを待ち受けていたのは、修羅と化した千冬。今カナード達は全員畳の上で正座をさせられていた。この程度ならまだいい、問題は処分内容だ。帰ったら特殊メニューと反省文の提出と、彼らには厳しい処置だった。
かれこれ一時間近く経った頃だろう、真耶が人数分のスポーツドリンクを両腕に抱えて持って来て、千冬にその辺でと言う。
「…まぁ、生きて帰っただけでも良しとするか。 今日は皆休め、いいな? 今からメディカルチェックを受けろ」
「では私と一夏は別室で待機しています」
そう言ってカナードは一夏を連れて一旦司令室を出て、自分たちの番が来るのを待ち始めた。
◇
その日の夜。夕食の席でカナード達は、一般の生徒たちから福音事件についてしつこく話を要求された。しかし専用機持ち達には漏洩した場合の処罰を理由に断っていた。最終的にはラウラの口から聞いた方にも厳しい罰がくだると言って、強制的に質問攻撃をした場合の処罰を理由に断っていた。最終的にはラウラの口から聞いた方にも厳しい罰がくだると言って、強制的に質問攻撃を封じ込めた。
その代わりと、カナードは懐からボイスレコーダーを取り出して再生ボタンを押した。
『惚れた男のために戦う!!』
『そんなお前が俺は大好きだ』
「良い収穫だったにゃ」
「…弟よ、お前いつの間に一夏と箒の録音を……」
「何か知らんけどストライクが録音してました!」
清々しいほどの笑顔とサムズアップでラウラに答えるカナード。それを聞いていた一般の女子生徒たちの興味話題は福音から即座に変わる。
この時、カナードは誰よりも早く一夏と箒がいない事に気が付いたが、転生前からのファース党である彼は周囲には伝えず、自分の胸にしまい込むことにした。今頃海辺でラブロマンスなんだろうなと、カナードはそう思いながら箸を進めていた。
因みに鈴音は、二組なのでカナード達より少し離れた場所でルームメイトの隣で夕食を食べていた。
◇
同じころ、一夏は旅館を出て海で泳いでいた。規則違反であるにもかかわらず、彼はどう言う訳か泳ぎたくなってここに居る。月夜の水泳も良いモノだと、爺臭い感想を持った一夏は岸に上がって腰を下ろして休憩する。
するとそこに、箒が現れ一夏と背中合わせで座り込んだ。突然の彼女の登場とその水着姿にしどろもどろな反応を一夏は取った。一夏から見て、箒は真面目な方で規則違反をする人間だとは思っていなかったが、次の箒の言葉を聞いて、考えをかえた。
「……6年」
「え?」
それは二人が離れ離れに合った年月。ISが…白騎士事件がそのきっかけになった。コアを唯一製造できる束の家族はある意味格好の獲物。そのせいで箒は一夏と自分の家族と離れ離れになってしまった。
「……今でも思うのだ、もし姉さんがISを開発していなければ、お前と離れ離れになる事もなかったのかもしれない………と。 だが私は…これでもよかったと思っているぞ」
「……俺もだ。 IS学園に入学する前はあの環境に馴染めるかなって不安だったけど、箒に再会できて俺は良かったって思ったよ。 もし俺が、愛越学園に入学してたら箒…お前とも再会できなかったはずだ」
「一夏……」
「箒……」
いつの間にか、いつからか、箒と一夏の二人は互いを意識し始めていた。
そして、二人の影が一つに重なる。
筈だった。
「…人前でラブロマンスとは、偉くなったな織斑と篠ノ之」
一夏の姉にしてブリュンヒルデとヴァルキリーの称号を持った千冬が、ジャージ姿で、竹刀を持って、睨みを利かせて二人を見下ろしていた。
「げぇっ、千冬姉?!」
「あ、あの…お、織斑先生、こ、これは……!!!」
もはや弁明の余地はなかった。
「それとだ二人とも、大和からの伝言だ。 『二人の愛の前に何が出ても怖くないだろ?』だそうだ」
この時一夏と箒には『たたかう』等と言う選択肢はなく、『にげる』しか残されていなかった。
因みに、何故千冬かというと、カナードが彼女にだけ情報をリークしたのだった。そして、この二人に更に追加メニューがくだったのは言うまでもない。
◇
同じ頃。風呂上がりのカナードを簪が待ち受けていた。てっきりシャルロットがやるだろうと思った所業を、簪が成し遂げてしまった。
「……どしたのよ簪」
「…今日の、お礼」
「お礼つったって…あぁ、あの時」
移動しながらカナードは福音戦時、簪を庇った事を思い出した。あの時はカナード自身無我夢中であり、下手をしたらカナードまで一夏の二の舞だったのかもしれない。
「…ありがとう、カナード」
「どういたしまして。 あの場で簪を助けないとって、体が勝手に動いてたしね」
それから二人は旅館内を歩き、簪が寝泊まりする部屋の前に到着するまで二人は会話を続けていた。勿論、アニメ・特撮談義である。
「それじゃ、お休みな簪」
「……おやすみなさい、カナード」
◇
翌朝、バスの中では一夏と箒に対して冷やかし合戦が起きている中、見知らぬ女性が乗車した。カナードはその女性の正体を知っている。福音の操縦者で名はナターシャ・ファイルス。
「ねぇ、この中で自作でISを作った男子って誰?」
その答えに皆一斉してカナードを指差す。差された本人は挙手して座席から立った。彼の姿を見付けたナターシャは、軽くカナードにヘッドロックを掛ける。何故この仕打ちなのかと思うカナードにナターシャが答える。
「君の攻撃でねぇ、ダメージレベルがBに近いんだあの子。 止めてくれたのはありがたいけど、や・り・す・ぎ・だ・よ・ね?」
小声で話すナターシャであったが、その代わり腕に力が伝わっていきカナードの首を段々に絞めていく。しかし殺す勢いではない為死ぬことは無いが、意識が堕ち掛けていた。
堕ち掛ける寸前で拘束を解いたナターシャはカナードの頬に軽くキスをする。当人曰くお礼だそうだ。
その後夏休みが来るまで、またも簪はカナードに口を利かなかった。
続く
次回冒頭から一夏とカナードがやっちゃいます