※名前が明記されていない隊長も、便宜上名前をつけています
「ありがとうございました。失礼します」
丁重に扉をしめ、ほうと息をつく。
入隊の場は襲撃でぶち壊されたが、バンパレット属が撤退したあともやるべきことは残っていた。
軽傷者を中心に、負傷者の確認、治療。
警戒強化に、今後の流れについての大まかな説明。
加えて、自身はバンパレット属と互角に戦った新入隊員という見方をされ、簡単な状況説明。
いろいろなことがありすぎた。
だから気を抜いていたのかもしれない
「おっつかっれちゃーん!」
緑のインナーシャツに包帯をぐるぐるまきにした誰かがばふりと追突してくる。
思わず一、二歩よろめいてしまう。
無言で振り返ると、ここでは珍しくない、茶髪と同じ色の瞳があった。
「え、あれ?上官?違うよね?俺はみてのとおり、さっきの入隊式にいた新人だけど」
ため息をつく。
人懐っこいというか、遠慮がないというか。
怒る気も失せた。
「うん、同期だよ」
大柄な体は、他の新入隊員よりも頭ひとつ飛び抜けていた。
「やったー!俺、ショウっていうんだ。11歳。そっちは?」
「ミノリ。同い年」
「よかったー!俺、遠くからきたからこっちに知り合いいなくてさ、いろいろ教えてくれよな」
「あいにくだが、その期待にはこたえられないよ。私も
遠くからきたから」
出身地を口にすると、ショウは目に見えて驚いていた。
「うーわー、俺より遠いところから来たんだな。飛行船で何日かかるんだよ」
答えるより前に、会議室の扉が開く。
私たちは柱の影に隠れた。
新米のエンジェルガードが制服を返し、泣きながら頭を下げている。
そして、年かさの女性に連れられながらその場を去った。
「あれは……」
「入隊早々やめたんだろ。あれで五人目らしいけど」
「なっ……!」
まだ一日も経っていない。それなのにやめるなんて。
「無理もないっしょ、入隊式でいきなりあんなふうにバンパレットに襲われたんだから。死人がでなかったのが奇跡だってお偉いさんも言ってた」
「……だとしても、平和を守るのがエンジェルガードの仕事のはずなのに」
「覚悟ができてるか、そうでないかの違いでしょ」
ショウはゆっくりと歩きだす。私はそれについていく。
「俺、早めに会場ついたんだ。みてのとおりでかいから、みんなこわがって友達はできなかったけど、大体の事情はわかった」
「……?」
「俺やミノリは、家から通えないからエンジェルガードの寮に入るでしょ?でも、通える範囲でも新入りのうちは寮に入れるんだ」
「……それで?」
「ごはんが食べられる。これは心惹かれるでしょ」
顔がかっと熱くなる。
「食事に釣られて入隊するとでも……!」
「ミノリはさ」
声が少しだけ低くなる。
「育ちが良さそうだから、もしかしたら知らないかもしれないけれど」
心がずきりとする。
「俺が住んでた町は、いつも食べるものに困ってたよ」
ショウは大柄だった。けれど、顔にはたくさんのニキビのあとがついていた。
「俺しか試験に受からなかったけど、でも、町には11歳に早くなりたがってるやつらがたくさんいた」
11歳。
エンジェルガードへの入隊可能な年齢だ。
「もちろん、誰かの役に立ちたい、守りたいって思いは、みんな持ってると思うよ。だけど、エンジェルガードに入らないと生きていけないやつも、たくさんいると思う」
窓からは、さきほどの新入隊員がとぼとぼ歩いていくのが見える。
「たとえ向いてなかったとしてもさ」
夕日が沈んでいく。
影が長くなっていった。