「ミノリー、起きてるかー!?」
階下からは声変わり前のルームメイトが呼び掛けている。
元気はつらつすぎる声は、聞いていて安心感がある。
若干うるさいと言えなくもないけれど。
「聞こえてるよ、あと、もう起きてる」
私が黒のアンダーシャツ姿で顔を見せると、ショウはすでに制服に着替えていた。
「それにしても早いな」
「やりたいことも覚えなきゃいけないこともたくさんあるしな!ミノリ、朝飯前に町のようす見に行こうぜ」
土地勘のない場所で、早く地形を覚えるに越したことはない。
地図よりも実際に歩くほうがためになる。
「いいと思うけど、新入隊員が勝手な真似は……」
「外出許可は昨日のうちに二人分もらってきた!遠くまでじゃなければいいってさ」
やることが早い。
となると、私の心配は杞憂に終わりそうだ。
「じゃあ、行こうか。待って、ジャケットはおるから」
用意を済ませ、ロフトから降りる。桃色の服に、ショウは首を捻っていた。
「あれ、ミノリ、アンダーも他のみんなと色違うのな」
「みたいだね」
大多数は、濃い緑だ。
「でも、物資不足なら仕方ないよ」
「まあな」
部屋の扉をしめ、寮を出る。
見上げると、薄い青空が広がっていた。
「いい天気だな」
「ほんとに。散策にぴったりだ」
平和で、温かくて。
穏やかな場所だった。
街は賑やかで、店にはそれなりに品物がそろっている。
人々の服は質素ではあるもののみられるものであるし、子供の姿もある。
「まあまあ恵まれてるよな、ここ」
ショウの感想は間違ってはいないだろう。
贅沢をしている人間でなければ、ここは天国と思うに違いない。
「そうだな。きっと、エンジェルガード本部がある街だから」
地上から運ばれる活用可能な資材は、人々の暮らしを守るエンジェルガードが率先してサルベージしている。
よって、回収物はエンジェルガードがまず活用する。
充足したものは付近の市場に出回るのだ。
物資は常に不足しているから、遠方の町まではなかなかまわらない。届けようにも途中で消費されてしまう。
「……生まれてくる場所は、選べないしな」
なにも言えなかった。
この世界には確かに、格差が存在しているから。
「っと、そろそろ時間かな」
ショウはくるりと背を向ける。
表情は見えない。
「帰ろっか」
背中はただ1つの答え以外、拒絶しているように見えた。
「うん、帰ろう」
そうして私たちは、守るべき街や人々から、目をそらしたのだ。
私たちはエンジェルガード。
街や人々を守るべき第一線の実行部隊。
それ以前に一人の人間として、自身の心を守るために。