空気が重い。
重力発生機は一人の大人だ。
いつ止むのかは、誰も知らない。
「えー、君たちは入隊式当日から早々にヴァンパレットの襲撃を受け、鍛練に入る前から実戦を経験した特異な世代である。座学の時間が必然的に削られ、加えて適切な課題も補講も与えられなかったのは我々の責任でもあるのだがーー」
ドンっ!
教卓が叩かれ、エンジェル達の肩がびくりと震える。
「入隊後最初のテストで合格者か一人だけとは、一体どういうことだぁ!?」
大柄なショウの体でさえしおしおと小さくなっている。
ただひとり、涼しい顔をしていたのはミノリだけだった。
「エンジェルガードは入隊後、まずはクラス『エンジェル』に振り分けられる。……なあミノリー、これ以外にどう書けばいいんだよー」
エンジェルガードについての理解度テストで合格しなかった者は、レポートを書くように。
ショウはその宿題にてこずっているようだった。
「エンジェルガードのしおり見ながら書けばいいんじゃないの?資料は入隊のときにもらってるんだし」
「あんな分厚いのみてられるかよ。ミノリは見たのか?」
「一通り」
「マジでか」
くるくると回されていた鉛筆が机に落ちる。
ショウはエンジェルガード規則集を引き寄せた。
全て重ねて頭を叩くと意識を失いそうな厚さになる。
「まずさ、エンジェルガードの組織ってどうなってるかがわかんねえんだよな。新入隊員期間がエンジェルで、あとは適性に応じてクラスが別れるってのはわかるんだけど」
「そうそう、アークエンジェル、トロウンズ、プリンシパリティ、パワーズ、バーチュー、ドミニオン、セラフフィム。エンジェルを合わせると全部で8つ」
「っしゃ、それを書こう」
「じゃあ、クラスが違うことで何が違う?」
「…………何だっけ」
「まず、装備もクラス毎に違う。装備にはクラス毎に自分の能力を高めてくれる効果がある。例えばドミニオンは素早さ特化型。陽動や、露払い、先手必勝のミッションにアサインされることが多い。逆にバーチューは攻撃特化型。強襲作戦や、手強い敵が出てきたときに呼び出されるね。逆に、守らないといけないときはパワーズ。守備特化型のクラスだ」
「ふんふん。そういえば翼の形が違うやつがいたな」
「そうそう、翼の形が違うのが特徴。これで書けそう?」
「もうちょっと。…………最強のクラスってセラフィムであってたっけ?」
「合ってる。ちなみにクラスを移る条件ってなにか知ってる?」
「志願制?」
「あたり。でも例外がひとつあって、セラフィムだけは自分からなれない」
「まあ、最強は誰かから認めてもらうんであって、自称最強で激よわだったら目もあてられないもんな」
鉛筆の音が止んだ。
「ありがと、これでなんとかなりそうだ」
「よかった」
「にしても、クラスどうする?」
「こればっかりはわかんないけど、ショウは?」
「決まってる。俺は強くなってひとりでも多くのヴァンパレットを倒す。目指すはセラフィムだ!」
「たぶん座学の成績も見られると思うよ」
「うげ!」
なにもない、1日だった。
なにかある日から振り返れば、平和だと思えたくらい。