スリザリンの継承者―魔眼の担い手―   作:寺町朱穂

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2話 七つの不思議

「……ってことが、ありましたよね」

 

 リザに話を蒸し返され、アルバスは「またか……」と肩を落とした。

 

「エリザベス、それは1年生の時の話だろ? 僕たちは、もう3年生だ。

 あれ以後、僕とキアラさんは何もない! 君も知っているだろう?」

「なら、手を出してください。リザが治療します」

 

 アルバスは彼女に言われ、手を後ろに回す。

 先程の薬草学の授業で扱った毒触手草の棘に指先を刺され、少しばかり腫れあがっていたのだ。アルバスの見た限り、授業中に棘に刺されたのは自分だけだったので、ロングボトム先生に見つかって周りに露見するのが恥ずかしく、黙っていたのである。

 しかし、この幼馴染は見逃さなかったようだ。

 

「人に見られたくないのでしたら、あのタペストリーの裏で治療します。大丈夫、リザは治療魔法を練習しましたので!」

「……牙つきゼラニウムの傷を君に任せたら、余計に腫れあがったのを忘れてないからね!」

 

 指先が赤黒く膨れ上がり、今にも落ちそうになってしまったので、慌てて医務室に駆け込んだのは、たしか3日前のこと出来事である。

 そのことを指摘すると、リザも視線を右上に泳がせた。

 

「あー……今回は上手くいきます、たぶん!」

「たぶんじゃ困るんだよ。君、僕の指を失くしたいの?」

「アルバス! アルバス・ポッター!」

 

 アルバスがリザと軽く言い合っていると、後ろから声が追いかけてくる。

 振り返ると、ネビル・ロングボトム先生が息を切らしながら走り寄ってきた。ネビルはアルバスに近づくと、ほとんど囁くような声で

 

「さっき、棘が刺さってたよね」

 

 と言ってきた。

 アルバスは恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じた。

 

「はい、そうですけど……」

「これ、毒消しの薬。塗れば良くなるよ。その……気づいていたんだけど、みんなの前で渡されるのは、恥ずかしいよね」

 

 ネビルは他に誰も見ていないことを確かめると、そっと薬をアルバスのポケットに滑りこませた。アルバスはもぞもぞと礼を口にする。

 

「その、先生。いつも気を使わせてすみません」

「気にしないで。それでも良くならなかったら、すぐに医務室に行くんだよ」

 

 ネビルはアルバスの肩をポンッと叩いた。

 

「アルバスは、他に困っていることはある? 僕で良ければ相談に乗るよ」

「いえ、僕は……」

「あら、ネビル! アルバスとリザも久しぶりね!」

 

 アルバスがネビルと話していると、階段から黒ローブの一団が降りてきた。

 一団を率いる栗毛の女性を見た瞬間、アルバスは少し身を縮めた。しかし、つとめて存在感を消そうとするアルバスとは逆に、ネビルは嬉しそうに彼女へ声をかけた。

 

「ハーマイオニー! いや、もう気軽に呼べないや。君、魔法省大臣になったんだってね。おめでとう」

「ありがとう、ネビル。呼び方は今まで通りでいいわよ。肩が凝っちゃう」

 

 ハーマイオニー・グレンジャー―ウィーズリーは苦笑いを浮かべる。

 

「でも、今日はどうして? たしか、先週も来てたよね? 君の娘のローズが『ママがホグワーツに来ていたのに、クィディッチの試合を見てくれなかったのよ。せっかく、私がシュートを決めたのに!』って拗ねてたけど」

「私も忙しいのよ。これでも、魔法省大臣だから。

 今ね、ホグワーツ高等尋問官の復活について、ミネルバと話し合っているところなの」

 

 ハーマイオニーがその単語を口にした途端、ネビルの顔がさっと変わった。

 これまで見たことがないくらい青ざめ、ハーマイオニーを新種の生物のようにまじまじと見返している。ハーマイオニーは慌てたように言葉を付け足した。

 

「アンブリッジの時代の尋問官とは、もちろん違うわ!

 ホグワーツの教師が、ちゃんとした授業を行っているか公平に査定するだけよ。例えば、ロックハートの自著を読み解くだけの授業は、正直、闇の魔術に対する防衛術の授業として相応しくないでしょ? あれでOWL試験を合格できると思う?」

「それは……難しいと思うけど……」

「それに、時代が変わったわ。セレネが魔法界をマグルから隠そうと必死に飛び回ってる。でも、その前に、旧時代的な考えを植え付けるような教育を変えないといけないわ。

 魔法使いはマグルを馬鹿にせず、むしろ、良き隣人として受け入れ、それでいて、そっと身を隠す。

 そんな価値観を子どもたちに身に付けさせないといけないの」

 

 それに対し、ネビルは怪訝そうに眉をひそめた。

 

「でも、それならマグル学を必修にすればいいと思うけど?」

「甘いわ。かぼちゃジュースよりも甘い考えね!

 マグルの首相の言葉を借りるけど、最も優先するべき改革は1に教育2に教育、3に教育なの!

 イギリス魔法界の未来を背負っていく子どもたちの意識を高め、基礎的な魔法を扱う水準を高めることが大事になってくるのよ。目の前に起こっていることを額面通りに受け取るだけでなく、自分で考え、情報を正しく取捨選択しながら、自分の意見を表出できるような子どもを育てていく必要があるんだから!」

 

 ハーマイオニーの声にだんだんと熱がこもり、早口で言葉をまくしたて始めた。

 

「高等尋問官は、ちゃんとした授業を行っているか確認するの。

 まずは学校長に査定結果を報告し、基準に達していない教師を雇っている理由と改善点を確認する。そして、次に来た時、改善した様子が見られないときは、魔法省ではなく、理事会の議題としてあげるの。

 そうすれば、魔法省が過度に肩入れしなくて済むし、もっと開かれて透明化した学校運営が――……」

「……そこの二人」

 

 ハーマイオニーが話していると、その後ろにいた金髪の青年が小さく囁きかけてきた。

 

「いまのうちに、黙って逃げな。長くなるから」

 

 青年は小さく頷く。

 確かに、ハーマイオニーは自分が語るのに夢中で、聴衆が一人二人減ったところで気づきそうになかった。アルバスはリザと一緒に小さく一礼すると、そそくさと別の廊下へ逃げ込んだ。

 

「あの人、確か、カローとかいう人ですよ。デルフィー姉さまの友だちです」

「デルフィーの……凄いな」

 

 アルバスは叔父のパーシーが「出世は男の本懐だ」と話していたことを思い出す。

 ホグワーツを卒業してから数年で、ハーマイオニーと一緒に行動を共にする役職を手に入れるなんて、相当優秀なのだろう。

 

「……話は戻りますけど、ロングボトム先生は優しいですよね。薬をくれるなんて」

「違うよ。たぶん、僕の父さんたちから言われてるんだ」

 

 アルバスは薬を指先に塗りながら、ますます気持ちが落ち込んでいった。

 

「父さんの友だちだからね。『僕のことを気にかけてくれ』とか頼まれているんだよ」

「でも、ロングボトム先生は他の生徒にも優しいですよ」

「それは、みんなが僕より優秀だからだよ。僕みたいな落ちこぼれは、どの先生だって嫌ってる。だって、そもそも、僕はポッター家の――……」

 

 アルバスはここで一度、言葉を切った。

 ちょうど、1年生の集団と鉢合わせてしまったからである。

 しかも、運が悪いことに、グリフィンドールの1年生だ。赤毛の妹は友だちとおしゃべり花を咲かせていたが、アルバスを見ると会話を一度切り上げ、こちらに手を振ってくる。

 

「アルバス!」

「……はぁ、今度はリリーに見つかった」

 

 アルバスはすぐに別の道に入ろうとしたが、妹のリリー・ルーナ・ポッターが邪魔するように駆け寄って来たので、断念せざるをえなかった。

 

「兄さん。パパとママが心配しているわ! まだ1度も手紙をくれないって!」

「僕のことは気にするなよ。ほら、君の友だちも待ってる」

「それとこれとは関係ないわ! 私は兄さんと話したいの」

 

「リリー、そんなやつ放っておけよ!」

 

 リリーをからかうように、新たな声が加わった。

 その声を聞き、アルバスは疲れたように肩を落とす。新たな声の主は友人たちに囲まれ、冷やかすような笑みを口元に浮かべている。

 

「ズルズルズルのスリザリン野郎なんてね!」

「ジェームズ! あんまりだわ!」

 

 リリーは少し怒ったような顔で、兄のジェームズを見上げる。

 

「リリー。怒り方がママに似てきたな。気を付けた方がいいぞ?」

「ママは関係ないでしょ! 私は、貴方がアルバスのことを言い過ぎだって思ってるだけよ!」

「行こう、エリザベス」

 

 リリーの意識がジェームズに逸れた隙に、アルバスはリザの手を引いて別の廊下に駆け込んだ。

 タペストリーの裏から別の廊下へ抜け、リリーたちが追ってこれない場所まで来た時に足を止め、彼女の手を離した。

 

「……言い過ぎ、か」

 

 アルバスは妹の放った言葉を繰り返す。

 彼女は「酷いわ」でも「そんなことない」ではなく「言い過ぎ」と叫んでいた。

 それは、グリフィンドールに入寮した妹も、アルバスについて兄と同じような気持ちを抱いていることに他ならなかった。

 ぽつんっと水に落とした黒い絵の具が浸食していくように、心が沈んでいくのが分かる。

 

 ホグワーツも今年で3年目。

 ジェームズは、クィディッチで素晴らしい成績を誇り、みんなから好かれている。

 リリーは、1年生だがグリフィンドール寮のムードメーカーとして楽しく学校生活を送っている。

 

 二人に比べ、アルバスの評価は芳しくない。

 ポッター家の落ちこぼれで、唯一のスリザリン生。何をやってもダメダメで、ポリー・チャップマン曰く

 

『アルバスが通ると肖像画でさえ、背を向ける』

 

 らしい。

 なお、彼女はこの発言のすぐあと、エリザベスに「結膜炎の呪い」をかけられ医務室に運び込まれた。

 このせいで、スリザリンは20点減点。エリザベスは「アルバス・ポッターのブレーキが壊れた忠犬」という二つ名が付けられるのだが、本人はいたって平然としている。むしろ、「犬って可愛い二つ名ですよね!」とか理解に苦しむ喜びを口にしていた。

 

 だから、アルバスはリリーたちから逃げる際、リザが余計な行動を起こさないように、連れてきたのである。

 

「……はぁ、ジェームズの冗談はいつも通り相手にしないでね。報復とか駄目だから。というか、他の人が悪口を言っていでも気にしちゃだめだよ。だいたいが本当のことだし……エリザベス?」

 

 アルバスは首を傾げた。

 非情に難しい顔で黙り込んでいる。耳の先まで、まるで湯気が立ちそうなほど赤く染まっているので、無理やり、引き離されたことを怒っているのだろうか。

 

「エリザベス?」

「す、すみません……ちょっと、心の準備が出来てなくて……」

「なに言ってるか分からないよ。

 あーあ……こんなとき、スコーピウスがいてくれたら……」

 

 アルバスは大きく息を吐いた。

 一番の友だちは、昨日から自宅へ帰っている。母親のアステリア・マルフォイの容体が芳しくないらしい。スコーピウスは週末になる度に帰宅し、母親との最期の時を過ごしている。

 

「……スコーピウスのお母さんの病気……かなり深刻なんですね」

 

 リザはいつもの顔色に戻ると、ちょっと俯いた。

 普段なら月曜日の朝には帰ってくるのだが、水曜日になっても戻る様子はなかった。

 アルバスは「きっと、大丈夫だよ」なんて無責任な発言をすることもできずに、重たい空気の中、ただ黙って廊下を歩く。

 すると、正面玄関のところで見慣れたブロンドの髪が目に飛び込んできた。

 少年はアルバスたちに気付くと、肩で息をしながら走り寄ってくる。

 

「アルバス、エリザベス! ちょうど良かった、探していたんだよ」

「スコーピウス、戻ってきて平気だったの?」

「母さんの容体が安定したんだ。そうしたら、父が『いまは学業に専念しろ』ってさ。そんなことより、大事な話があるんだ。ちょっと来て」

 

 スコーピウスは大広間に先導する。

 すでに、昼食の準備が整えられていた。アルバスたちは端の方の席に座る。ほとんど満員だったが、アルバスたちの周囲一つ分ほど席が空いていた。

 一致団結した寮風のスリザリンでも「ヴォルデモートの子とポッターの落ちこぼれ、ブレーキの壊れた忠犬には近づくな」という風潮が広まっていた。事実、同室のカール・ジェンキンズはアルバスたちと一切の関わりを断っている。彼がアルバスの名を上げるのは、悪口を言う時くらいだ。

 

「ここなら、誰にも聞かれない。みんな昼食かおしゃべりに夢中だ。僕たちみたいな外れ者の話に耳を傾ける生徒はいない」

 

 スコーピウスは少しだけ声を潜めた。

 アルバスは眉間にしわを寄せた。

 

「それで、話ってなに?」

 

 スコーピウスはもったいぶるように笑うと、ポケットから綺麗に折り畳まれた羊皮紙を取り出した。

 

「『ホグワーツ七不思議』?」

 

 リザが羊皮紙に書かれた文字を口に出して読む。

 

「この間、帰省する前に聞いたんだ。ホグワーツの七つの驚くべき話をね」

「ここに書かれているのが、その七不思議ってこと?」

 

 アルバスは少し怪訝な顔で続けて書かれた文字に目を落とした。

 

「『首無しチェイサー』

 『深夜2時に踊る鉢植え』

 『グリフィンドール塔のダンブルドア』

 『地下牢の亡霊』

 『禁じられた森の狼男』

 『青のジャック・オ・ランタン』。

 七つの驚く話なんでしょ? 1つ足りないよ?」

「最後の1つを知った人は、生きて帰れないんだって」

「はぁ……その噂、ナンセンスです」

 

 リザが呆れたように首を横に振った。

 

「『七不思議』というのは、東洋の怪談ですよ。それをホグワーツに当てはめようとするなんて……その時点で、おかしいですって。

 だいたい、ここは魔法学校です。謎だらけではありませんか! 金曜日だけ通じる階段とか、くしゃみしないと開かない扉とか」

「甘いな、エリザベス」

 

 スコーピウスは熱を込めて言い放った。

 

「いいかい、ここに記した不思議な出来事は、祖父がホグワーツに在学中にはなかった話なんだ。帰省した時に確認したら、1つも知らないって」

「お父さまはご存じだったのですか?」

「『禁じられた森の狼男』だけね。後は知らないらしい。

 ……それで、ここからが大事な話なんだ。

 新しい謎が七つもある。この新しい謎のうち、どれか1つでも解決できたら……100点貰えるそうなんだ」

「「100点!?」」

 

 アルバスはリザと顔を見合わせてしまった。

 ハリー・ポッターが「賢者の石」を護ったときや、シリウス・ブラックを助けに「魔法省」へ赴き死喰い人と戦ったときでさえ、50点しかもらえなかったのだ。

 その倍ともなれば、一般生徒が一回で稼げる点数ではない。

 

「でも……これって、危険だよ。基本的に立ち入りが禁じられている場所だし、夜間の出歩きはフィルチに見つかったら大変だ」

 

 アルバスは親友の考えに疑問を投げかける。

 禁じられた森に入ることは禁じられているし、地下牢だって薄気味悪くて行きたくない。深夜2時の鉢植えを確かめるためには罰則覚悟で夜歩きをしないといけないし、首無しチェイサーなんて想像するだけでおっかなかった。

 

「それに、僕たちが解決できるとは思えない。僕の父さんだったら別だけど……スコーピウス、君らしくない」

 

 兄のジェームズなら意気揚々と解決に乗り出すのだろうが、スコーピウスがこの手の話を持ち掛けるのは珍しく、極めて異様に思えた。

 アルバスが指摘すると、スコーピウスは少しばかり顔を俯かせる。

 

「……僕は、母を安心させたいんだ」

 

 スコーピウスは、ぽつりと言葉を零す。

 

「正直、僕は成績が良い方とは言えない。魔法史だけは自信があるけど、ずっと悪い噂が付いて回ってるから、母はいつも心配している。

 ……この中の1つでも謎を解決することができれば……母は安心してくれるんじゃないかなって思うんだ」

「スコーピウス……」

「この事件を見事解決してさ、『心配しないで。僕は大丈夫だから』って言いたいんだ。100点は、そのオマケみたいなものさ。

 だからその……ときどき、寮を抜けることがあると思うんだ。そのとき、ちょっと言い訳を考えてもらえると……」

「僕も手伝うよ、スコーピウス」

 

 アルバスは、スコーピウスの言葉を遮った。

 

「君と一緒に謎を解く。だって、僕たち友だちだ。君の願いを叶えたい」

 

 そう言いながらも、アルバスは頭の片隅で別のことを考えていた。

 友だちの望みを叶えるのは、当たり前のことだ。

 それに、もし、この謎を解決出来たら、誰も「スリザリンの劣等生」とか言われなくて済むのではないか。「ポッターの落ちこぼれ」とか後ろ指をさされずに済むのではないか。

 スコーピウスは少し驚いたように瞬きをすると、目元を緩めた。

 

「……ありがとう、アルバス」

「いや、やっぱりおかしいですよ」

 

 しかし、リザがまだ苦言を漏らしている。

 

「七不思議、だなんて……東洋の怪談……はっ、もしや、キアラさんが噂を流しているのでは?」

「そこは既に調査済みさ」

 

 スコーピウスは少し得意げに鼻を鳴らした。

 

「キアラさんは、噂について全く知らなかった。それに、東洋系の生徒は大勢いるよ。レイブンクローのディゴリー先輩も東洋系の血を引いているし、エリザベスみたいに東洋の知識がある生徒は多い」

「うう……」

 

 リザは反論の言葉を探すように唸った。

 だが、ややあってから、彼女はとうとう折れた。

 

「分かりました。リザも手伝います。スコーピウスは友だちですし、なによりも、アル様が危険に巻き込まれたら大変ですから」

「エリザベス、ありがとう」

 

 スコーピウスはアルバスとエリザベスを交互に見ると、やや挑戦的な表情になった。アルバスたちは無意識のうちに額を寄せ合い、羊皮紙を見下ろしていた。

 

「まずは、これを試してみたらどうかなって思うんだ」

 

 スコーピウスは『グリフィンドール塔のダンブルドア』を指さした。

 

「1時11分にグリフィンドール塔の入り口に、ダンブルドアが現れる」

「1時11分……不吉な数字だね」

 

 アルバスは身震いした。

 111は「蛇の眼」を現す数字だ。あまり良い並びの数字ではない。

 

「1時11分って指定もあるから、確認しやすいと思ったんだ」

「だけど、スコーピウス。ダンブルドアは、その……死んでる。とっくの昔に」

「そう、だから不思議なんだよ。きっと、ダンブルドアのふりをした魔法生物か怪奇現象なんだ!」

 

 スコーピウスが目を光らせた。

 

 そして、その日の夜。

 アルバスたちは談話室に残り、寮生が一人、また一人と部屋へ戻っていくのを待った。三人のことを気に留める生徒は誰もいない。

 寮の結束の強いことはスリザリンの特質だったが、嫌われ者三人組は別扱いされている。そのことが、ここまで良かったと思ったことは一度もなかった。

 

「よし、行こう」

 

 アルバスは、がらんとした談話室を見渡した。

 廊下へ出たが、しんと静まり返っていた。高窓から月の光が廊下に縞模様を作っている。エリザベスが杖を取り出して、なにか唱えようとしたのが見えた。

 

「待って、エリザベス」

「ルーモスをしようとしただけです」

「こんな廊下で灯りを持って歩いたら、それこそフィルチに見つかってしまうよ」

 

 アルバスが言うと、リザは渋々杖をしまった。

 

「こっちだよ」

 

 スコーピウスが辺りを確認しながら素早く移動した。

 曲がり角をに来るたびに、アルバスは老いた管理人のフィルチか配下の猫のミセス・ノリスJRに出くわすような気がしたが、出会わずに済んだのは幸運だった。

 大急ぎで廊下を走り、グリフィンドール塔に続く階段を進んだ。あまり走ると足音が城全体に響くのではないかと思うほど高らかに木霊したので、途中からは抜き足差し足でタペストリーの裏の隠しドアを潜りながら目的地を目指す。

 

「……ここが、グリフィンドール塔の入り口だよ」

 

 スコーピウスが立ち止まった。

 アルバスたちは、ホグワーツ城の東にそびえる丸い塔の入り口に来ていた。

 しん、と静まり返っていて、人どころか、ゴーストの気配すらない。アルバスは腕時計に目を落とした。

 

「1時5分。あと6分か」

 

 三人は廊下の角に蹲る。

 

「11分になったら、ダンブルドアが現れるんですよね」

「そう。ゴーストじゃない、ダンブルドア本人がね」

「ダンブルドアは現れて、なにをするの?」

「冥界に連れていかれるんだって」

「冥界?」

 

 アルバスは聞き返した。

 

「スコーピウス、ありえませんよ。ダンブルドアが生徒を死後の世界に連れていくなんて!」

「だから、ありえない怪奇なんだよ。

 もちろん、クー・フリンみたいに冥界へ下っても戻って来た戦士は神話に出てくるけど、あれは神話の話だし、現実的にありえない。だから、この謎を解決すれば――……」

 

 ここで、スコーピウスは口を閉ざした。

 アルバスは「どうしたの?」と尋ねようとしたが、彼の視線の先を見て、はっと息を飲んだ。グリフィンドール塔の奥で、なにかが、ゆらり、ゆらりと揺れている。

 

 たいへん背が高く、とんがった帽子を被り、ふわふわした白くて長い髭が揺れていた。

 ちょうど目があると思われるあたりが、篝火に反射して、きらりと光る。まるで、眼鏡が反射するかのように。

 

「まさか……」

 

 アルバスは咄嗟に杖に手が伸びる。

 そして、スコーピウスたちと目を見合わせた。 

 

「1時11分。グリフィンドール塔のダンブルドア……」

 

 アルバスは目が釘付けになっていた。

 スコーピウスたちもまさか本当に現れるとは思っていなかったのか。アルバスと同じように固まって動けない。

 

 

 だから、三人は気づかなかった。

 

 

 背後から忍び寄る、人物の存在に。

 

 

 

 




新規登場人物

〇ハーマイオニー
 「呪いの子」通り、魔法省大臣に就任。
 原作だと政策とか何も見えてこなかったので、マグルへの偏見をなくすこと、そして、魔法教育に視点を置きました。

〇ネビル・ロングボトム
 原作通り、薬草学の教授。
 おそらく、グリフィンドールの寮監。
 「呪いの子」を読み始めた頃、どこで活躍するのかなー!ってわくわくしてました。
 退任後のスプラウト先生の行方が知りたい……誰か、知りませんか?

〇ジェームズ・シリウス・ポッター
 グリフィンドールの4年生。
 アルバスの兄。
 原作で箒を貰っている描写があったので、クィディッチのシーカーという設定をつけています。
 原作では、アルバスを虐める兄としてしか描かれていないから、とても悲しい。

〇リリー・ルーナ・ポッター
 グリフィンドールの1年生。
 アルバスの妹。
 原作にほとんど出てきていない……とても寂しい。


〇エドモン・カロー
 本作オリジナルキャラ。
 魔法省大臣下級補佐官。
 ラダルファス・レストレンジとフローラ・カローの息子。デルフィーニの友人。
 19年後時点では魔法運輸部所属でしたが、下級補佐官に出世しました。


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