スリザリンの継承者―魔眼の担い手―   作:寺町朱穂

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29話 リディクラス

 今年の新学期は、色々と物騒な幕開けをした。

 1000人近い未成年が学校に集まれば、何かしら事件が起きるのは当たり前だ。しかし、今年のような人の生き死に関わる事件が起きるのは極めて稀だろう。

 1つ目は、言うまでもなく吸魂鬼に生徒が襲われかけた事件だ。

 シリウス・ブラックのホグワーツ侵入を防ぐために配置された吸魂鬼が、一般生徒を襲ったのだ。幸いにも近くに防衛術の先生がいたこともあり、寸でのところで救出され命に別条はなかったが、吸魂鬼の恐ろしさを学校中に震撼させた事件だった。

 そして、もう1つは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日になると、セレネの熱は下がっていた。しかし、「万が一のことがあるから」と、マダム・ポンフリーは退院の許可を出さなかったのだ。退院許可が下りなければ、医務室から出ることは叶わず、したがって授業にも出席できない。そのためセレネの初授業は、他の3年生より1日遅れて始まった。

 しかし、特に困ることは無い。3年生から選択授業が始まり、科目数が増えたとはいえ、予習に費やす時間は十分にあった。1回や2回、出席しなかったところで障壁にすらならないだろう。特に心配することはなく、しいて懸念事項を挙げるとするならば、宿題の有無くらいだった。

 

 

「セレネ!」

 

 

 古代ルーン文字学の教室に入ろうとした時、ハーマイオニーが後ろから声をかけてきた。走ってきたのだろうか、ハーマイオニーは荒く息をしていた。

 

 

「大丈夫?もう退院していいの?」 

「私は大丈夫ですが――貴方の鞄の方は大丈夫ですか?」

 

 

 ハーマイオニーの鞄は、今にも破裂しそうなほど教科書が詰め込まれている。今学期、彼女の鞄が限界を迎えなかったとしたら、それは奇跡としか言えない気がした。

 

 

「問題ないわ。ちょっと受講する科目が多いだけよ。それより、セレネは選択授業で何を選んだの?」

「『数占い』『魔法生物飼育学』『古代ルーン文字学』ですね」

 

 

 他にも「マグル学」や「占い学」といった科目が選べるようになっていたが、それを選ぶと時間割が重なってしまう。さすがに、自分を2人に分ける呪文は知らない。そうなると、必然的に2科目ほど削る必要が出てくるのだ。魔法使いの視点からマグル世界を学ぶ「マグル学」は、なかなか捨てがたい科目だった。何しろ、セレネの周りにいる魔法族と言えば、そろいもそろって純血主義ばかりで、誰もがマグルに対する偏見を持っている。純血主義ではない一般的な魔法使いのマグルに対する認識を深めておくことも、それはそれで興味深いだろう。そう考えたセレネだったが、これを受講するためには「数占い」を諦めなければならない。

 錬金術書の読み取りには、計算や論理的思考が非常に関係してくる。もしかしたら、「数占い」で習う内容が関係してくるかもしれない。2つの科目を天秤にかけ、結局――数占いを選んだのだった。

 

 

「セレネは占い学を受講しないのね?

それで正解よ!あの科目、インチキ臭いの。数占いとは大違いよ――あっ、私は全部の科目を受講しているの。今の所、数占いの授業で宿題は出てないわ」

「ありがとう。ちなみに、魔法生物飼育学で宿題は出ましたか?」

 

 

 そう尋ねると、ハーマイオニーの顔色が一気に曇る。何か嫌なことでも思い返したように、教室の中を覗きこんだ。彼女の視線を追ってみると、その先にはスリザリン生が纏まって座っていた。

 

 

「あの人達が何か?」

「うん――実はね、あの人達というかマルフォイが――」

「あらっ、ゴーント!!」

 

 

 ハーマイオニーは、小さく声を潜めて何か言うとした瞬間、スリザリン生の中から声が上がった。マルフォイの取り巻きの1人、パンジー・パーキンソンだ。今日は、彼女がクラッブとゴイルを率いていた。

 

 

「貴方、医務室にいたんでしょ?

ドラコの容体はどうだった?」

 

 

 パーキンソンは、真っ先に昨日――医務室に緊急搬送されてきたドラコ・マルフォイの容体を尋ねてきた。そのことに思い至った時、セレネは、どうしてハーマイオニーの不機嫌な表情を浮かべたのか理解できた。

 

 

「痛がっていましたよ」

 

 

 昨日の昼過ぎ――丁度、魔法生物飼育学の授業が行われていた頃、ハグリッドがマルフォイを抱えて医務室に飛び込んで来たのだ。あまりにも勢いよく飛び込んで来たものだから、医務室が揺れて棚から幾つかの小瓶が床に落ちたことを覚えている。

 

 

「遠目から見た限りですと、鋭利な刃物で切られたようでしたね。

もっとも、マダム・ポンフリーが杖を一振りしたら塞がりましたが。念のため、一日泊まらせただけのようです」

 

 

 セレネは、それだけ言うと手近な席に着いた。

 パーキンソンは何か言いたそうな表情を浮かべていたが、こちらに背を向け、スリザリン生の輪に戻って行った。

 

 

「じゃあ、マルフォイの腕は治ったのね」

 

 

セレネの隣に腰を下ろしたハーマイオニーは、どことなく嬉しそうに話し始める。

 

 

「もちろんですよ。だいたい、骨が無くなった腕を一夜で元に戻す程の医療技術があるのですから、あの程度の傷は直ぐに治らないと逆に変です。

それで、宿題は出ましたか?」

「出なかったわ。ハグリッド、授業中に戻ってこなかったもの。

でも、良かった。マルフォイの傷が治ったなら、そこまで大きな問題にはならない――といいんだけど」

 

 

 その時、教師が入ってきたので、話は終わりになってしまった。

 しかし、ハーマイオニーの望みどおりに事態は進まない。マルフォイの傷は完治したはずだ。しかしマルフォイは、白い包帯を大げさなくらい巻いて退院したのだ。時折、もうないはずの傷口に手を当て、痛がって見せたりするものだから、マルフォイは重症としてホグワーツ生の間に浸透してしまった。

 スリザリン以外からも、ハグリッドに対する責任追及の声が上がったのは言うまでもない。

 廊下ですれ違ったハグリッドは、あまりにも落ち込んでいるのだろう。

 見上げるばかりの巨体なのに、何故か小さく縮んで見えてしまった。通り過ぎていくハグリッドを横目で見ながら、「闇の魔術に対する防衛術」の教室の扉を開けた。

 

 前任者2人と比較すると、かなりまともな教室だ。誰かの後頭部の匂いを隠すために漂っていた強烈なニンニク臭は充満していないし、自分の写真をベタベタ貼り付けているわけでもない。ただ、机とイスと黒板だけがある平凡かつ質素な教室だった。

 今年から『闇の魔術に対する防衛術』の授業を担当するリーマス・ルーピンは、汽車で見かけた時より健康そうだった。セレネの記憶が確かならば、頬がこけていた。だが、今日は少し丸みを帯びて血行が良さそうになっている。もしかしたら、ずっと貧しい暮らしをしていて、ろくに食事をとることが出来なかったのかもしれない。ルーピンは、集まったスリザリン生を眺める。そして、安心させるような笑顔を浮かべた。

 

 

「教科書を鞄に戻してもらおうかな。今日は実地練習をすることにしよう。杖だけあればいいよ、ついてきて」

「実地練習? いままでそんなこと、あったか?

僕は、こんな怪我をしているというのに」

 

 

 マルフォイがクラッブとゴイルに悪態をついているのが聞こえてきた。

後半の言葉には同意しないが、前半の言葉にのみ同意する。今まで、一度も授業で実地練習をしたことは無かった。

 ルーピンに続いて廊下に出る。授業中のため、誰もいない廊下を歩いていく。時折、ゴーストがふわふわ浮いているのを見かけた。だが、それ以外は特に何もなく、職員室に辿り着いた。ただ今は授業中なので誰も先生いない。

 

 

「こんなところに危険が潜んでいるんですか?」

 

 

 ブレーズ・ザビ二が疑問を口にした直後だった。

 職員室の奥のタンスが、不自然に揺れたのだ。あまりにも唐突に揺れたものだから、全員に緊張の色が奔る。セレネの隣にいたダフネが、ひぃっと小さな悲鳴を上げた。

 

 

「心配しなくていいよ。中には『まね妖怪』、通称『ボガート』が入っているんだ。

こいつは暗くて狭いところを好む。これみたいなタンスとか流しの下、それから食器棚などかな。さてと、では『まね妖怪』とはいったい何でしょう」

 

 

 何人かが手を挙げる。ルーピンは、最初に手を上げたノットを指名した。

 

 

「形態模写妖怪。一番怖いと思うものに姿を変えることが出来る」

「その通り。だから、中の暗がりに座り込んでいる『まね妖怪』は、まだ何の姿にもなっていない。

戸の外にいる誰かが、何を怖がるのかまだ知らない。『まね妖怪』が一人ぼっちの時にどんな姿をしているのか、誰も知らない。しかし、私が外に出してやると、たちまち、それぞれが一番怖いと思っているものに姿を変えるんだ」

 

 

 ルーピンが話している間にも、タンスは揺れていた。

 あの中に潜む「まね妖怪」は、どのような姿をしているのだろうか。少しだけ、興味が湧いてくる。

 ビデオカメラをタンスに仕掛けておけば、その正体が分かるかもしれない。だが、ホグワーツに電気製品であるカメラを持ってきたら壊れてしまう。もし「まね妖怪」の正体が知りたいのであれば、学校の外で探さないといけないのだ。そのようなことを考えている間にも、ルーピンの説明は続いていく。

 

 

「『まね妖怪』を退治するときには、誰かと一緒にいるのが一番いい。どんな姿に変身すればいいのか分からずに、混乱するからね。

こいつを退散させる呪文は簡単だ。しかし、精神力が必要だ。こいつを本当にやっつけられるのは『笑い』なんだ。君たちは『滑稽』だと思う姿に『まね妖怪』を変身させる必要がある。

初めは杖なしで練習しよう。私に続いて言ってみようか――――『リディクラス―バカバカしい』!」

「「「リディクラス―バカバカしい!」」」

 

 

 クラス全員が一斉に唱える。その声に反応したのか、タンスが呼応する様に揺れる。さらに奥にも突然揺れたタンスが見えたことを考えると、どうやら他のクラスの分もあるらしい。

 ルーピンは、出席簿に目を落とした。

 

 

「よし、じゃあ、まずは――ダフネどうだい?」

「わ、私ですか!?」

 

 

 突然指名されたダフネは、絶望した様に立ち尽くした。あのタンスを開け放った瞬間、自分の苦手とするものが飛び出してくるのだ。誰であったとしても、好んでやりたいとは思うまい。ダフネは、おずおずと先生に近づく。ルーピンは、ダフネの方を軽く叩いた。

 

 

「ダフネ、君が世界で一番怖いと思うものはなんだい?」

「バロール」

 

 

 囁くように、小さな声でダフネは答えた。ルーピンは何やら考える仕草をする。

 確かバロールというのは、ケルト神話に登場する魔神だ。「すべてを殺すという眼を持っている」と本に書いてあった。ある意味、自分の「眼」と似ている能力だ。セレネは、そっと眼鏡を直した。

 

 

「ふむ――つまり、『眼』さえなければバロールは怖くないよね?

そうだな、ダフネ。出来るだけバカバカしいアイマスクを思い浮かべるんだ。出来るかな?」

 

 

 ルーピンの問いを聞いたダフネは、やや考えた後、躊躇いがちに頷いた。その反応を視たルーピンは、穏やかな口調のまま口を開いた。

 

 

「『まね妖怪』がタンスからウワッーっと出てくるね?そして君を見ると『バロール』に変身するんだ。

そしたら君は、杖を上げて叫ぶ『リディクラス』ってね。

その時に、脳内に思い描いたアイマスクに全神経を集中させる。全て上手くいけば、バロールはアイマスクで視界が遮断され、慌てふためくことになる」

「ほ、本当に?私に出来るかな?」

 

 

 ダフネの顔色は、いつになく不安そうに歪んでいた。緊張のあまり、顔が青ざめていた。

 

 

「出来るよ、君なら。

じゃあ、みんなもちょっと考えてみて。何が一番怖いかってこと。そして、どうやって可笑しな姿に変えられるかもね」

 

 

 部屋が、静まり返る。誰もが、目をつぶって考え込んでいた。セレネも目をつぶると、少し俯きながら考え始めた。

 自分の怖いモノは決まっている。昏睡状態の時に触れた「」や「死」だ。あれより怖いモノは思いつかない。だが、果たして「まね妖怪」が「」に変身出来るかどうかと聞かれたら、首を横に振る。 「」は、「まね妖怪」ごときが表現できるモノではない。物というよりも、概念に近いように思える。仮に「」に変身したとしても、「」をどうやったら可笑しくできるだろうか?

 セレネには、まったく想像できなかった。

 

 

「みんな、いいかい?」

 

 

 セレネは弾かれたように顔を上げた。周りを見渡してみれば、みんな覚悟を決めたような表情になっている。ミリセント・ブルストロードなどは準備万端らしく「いつでも来なさいよ!」と言いながら腕まくりをしていた。

 セレネは無表情を装いながら、内心酷く困っていた。まだ「まね妖怪」が何に変身するのかさえ思いつかない。優等生で通っているセレネ・ゴーントならば、ここで颯爽と倒すのだろう。しかし、今のセレネにはそんな自分の姿が思い浮かばなかった。

 せいぜい、自分の番が来る前に終わることを祈るしかない。

 

 

「ダフネ、3つ数えてからだ。1、2、3、それ!!」

 

 

 ルーピンの杖の先から、火花が迸り、タンスの取っ手に当たった。タンスが勢いよく開き、中から何かが現れる。

 寝起きのようにボサボサと広がった痛んだ長髪――ケルトの魔神「バロール」が、のっそりとタンスの中から姿を現した。片目は開きギラギラとした目でダフネを睨んでいたが、もう片方の「バロールの魔眼」と恐れられる方の眼は、大きく重い瞼で覆われていた。ダフネは杖を振り上げ、震える手で狙いを定めると、目をつぶった。

 

 

「り、リディクラス!!!」

 

 

 パチンっと鞭を鳴らすような音がしたと思ったのもつかの間、次の瞬間になるとバロールが躓いた。真っ赤な布地に、人を挑発するような大きな目が描かれたアイマスクをかけられた状態で。馬鹿馬鹿しいアイマスクを取ろうとするバロールだったが、取れないらしく悪戦苦闘している。

 どっと笑いが上がった。「まね妖怪」は、その笑い声に戸惑ったように動きを止める。

 

 

「パンジー、前へ!」

 

 

 パンジー・パーキンソンが、前に出てきた。ダフネは、慌てて後ろに下がる。バロールはパーキンソンの方を向いた。すると、またパチンっという音を立ててバロールは消えた。

 そこに現れたのは、粗い毛並に鋭い牙と爪をもった二足歩行の動物――ダラリと涎を垂らしている狼男が立っていた。ルーピンの横顔が辛そうに歪んだように見えたのは、気のせいだろうか――。

狼男は一吼えすると、パーキンソンに襲い掛かろうと膝をかがめた。パーキンソンは真っ直ぐ狙いを定めて叫ぶ。

 

 

「リディクラス!」

 

 

 パチン!という音が響く。狼男の口に輪がはまり、口が開かなくなった。御丁寧なことに、鉄製の輪には可愛らしいレースがついている。ゆったりとした女性物の服も着せられており、セレネはグリム童話を思い出した。お婆さんの服を剥ぎ取った狼は、このような姿で赤ずきんを待っていたのだろうか。

 

 

「次、ドラコ」

 

 

 マルフォイが、腕を庇いながら顔で前に進み出る。パチンっと音を立てて「まね妖怪」が変身したものは、頭をフードにすっぽり包んだ何かだ。セレネは吸魂鬼かと思ったが、どうやら違うらしい。フードを被った何かは、まるで獲物をあさる獣のように地面を這ってきた。銀色に光る液体が、隠れた顔から滴り落ちている。

 マルフォイの顔は一瞬ギクリと強張っていたが、左手につかんだ杖で何とか狙いを定めると叫んだ。

 

 

「リディクラス!!」

 

 

 パチンっと音とともに、それはネズミに変身した。自分のしっぽを追いかけて、クルクル回り始める。

 

 

「次は、ザビニ!」

 

 

 ネズミが尻尾を追いかけるのを止めて、ザビニの方を見た途端、パチンっと音とともに今度は巨大な黒い犬が現れる。目をギラつかせたクマほどもある大きな犬は、ザビニにゆっくりと近づいて行った。

 

 

「リディクラス!」

 

 

 ザビニが叫ぶと、パチンっと音を立てて、バルーンアートの犬になった。先程までの凶暴性は消え、ふわりふわりと職員室を漂い始める。

 

 

「次、セレネ!」

 

 

 もう自分の番が来てしまった。

セレネは杖を構えた。まず、「」に変身するとは思えない。死という概念に変身するとも思えない。一体、何が現れるのだろうか。砕かれた完成目前の賢者の石、とかかもしれない。そんなことを考えながら、セレネは犬の間抜け面を視た。

 

 

パチン!

 

 

「えっ?」

 

 

 セレネは呆気にとられてしまった。

 現れたのは、女の子だった。

 肩にかかる程の艶やかな黒い髪が風に揺れ、袖から伸びる手足は何処までも白い。どことなく儚げな雰囲気を醸し出している。

 顔は見えない。黒い影が顔にかかり、表情が見えなかったのだ。ただ、唯一――眼だけが光っていた。禍々しいくらい蒼い瞳は、まるで、そう――

 

 

「リディクラス!」

 

 

 セレネは、問答無用に杖を振るう。

 人形のように突っ立っていた「まね妖怪」は、前に躓いた。少女の姿は消え、一瞬、馬鹿馬鹿しい服に身を包んだピエロが浮かび上がったかと思うと、「まね妖怪」は破裂し、何千という細い煙の筋になって消え去った。

 

 

 

「良くやった!」

 

 

 全員が拍手をする中、ルーピンが大声を出した。

 

 

「みんなよくやった! そうだな、まね妖怪と対決したスリザリン生1人につき5点あげよう。最初に僕の質問に答えてくれたセオドールにも5点だ。

みんな、いい授業だったよ。宿題はまね妖怪――ボガードに関する章を読んで、まとめを提出してくれ。期限は次の授業までだ。今日は、これでおしまい」

 

 

 その一言と共に、スリザリン生は興奮しながら職員室を出た。

 しかし、セレネはあまり心が弾まなかった。まね妖怪は無事に倒すことが出来た。しかし――

 

 

「でも、最後――セレネの時、何に変身したの? 知り合いの子?」

「さぁ、分かりません。ずっと昔に出会った誰か、かもしれないですね」

 

 

 ダフネの問いに、セレネは嘘をつく。

 セレネにも、最初は誰に変身したのか分からなかった。だけれども、あの青い眼を見た瞬間、気がついたのだ。

 

 

 

 まね妖怪は、自分に変身した。

 セレネ・ゴーントに。

 

 

「本当に、馬鹿馬鹿しい」

 

 

 小さく呟くと、セレネは図書館へ足を向けた。

 今の授業を忘れ、錬金術の勉強に打ち込むために――。

 

 

 


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