スリザリンの継承者―魔眼の担い手―   作:寺町朱穂

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68話 選択の自由

 アンブリッジが校長に就任した。

 

 

 しかし、その悪い知らせよりも、ホグワーツ生たちの関心は「ダンブルドアが魔法省大臣、アンブリッジ、大臣付きの下級補佐官、闇払い2人を一撃で倒して、颯爽と姿をくらました」という噂に向けられていた。

 朝食の席では、アンブリッジの手前、あまり大きな声でこの話題をすることができなかったが、グリーングラス姉妹は、額を寄せ合ってひそひそと話し合っている。

 アステリアは姉に向かって

 

「あのね、グラハムから聞いた話なのだけど、大臣はダンブルドアに頭をカボチャにさせられて、病院に入院しているんだって」

 

 と、まことしやかに話していた。

 

 さすがに、ダンブルドアはそこまでしていないだろう。

 

 ちなみに、スリザリン寮付きゴースト「血みどろ男爵」曰く、アンブリッジは校長室に入れず、相当癇癪を起こしていたらしい。 

 その証拠に、今日のアンブリッジは朝からどこか不機嫌だった。

 せっかく念願の校長に就任したにもかかわらず、スリザリン生以外の近づく生徒に、とにかく当たり散らし、理不尽な罰則を与えている。やれ、シャツがはみ出しているだの、男女の距離が近いだの、そんな具合だ。

 

 生徒たちにとっては面白く、アンブリッジにとっては最悪な事件はまだまだ続く。

 

 双子のウィーズリー兄弟が巨大な魔法花火を爆発させ、学校中に花火ドラゴンやネズミの花火を徘徊させ始めたのである。この花火は興味深いことに、失神呪文を撃つと大爆発を起こし、消失呪文をかけると魔法生物マタゴのように二つに分かれる。アンブリッジを狙うようにインプットしてあったのか、巨大なドラゴン花火は、全力で逃げるアンブリッジを追いかけまわしていた。本当に、愉快かつ素晴らしい魔法花火だ。ぜひ、どうやって開発したのか聞いてみたい。

 ちなみに、首謀者の二人は罰則を受ける前に箒で逃走。ダイアゴン横丁で「悪戯専門店」を開店するという宣伝までして、楽しそうに去って行った。

 

 

 

 

 

 しかし残念ながら、この程度でアンブリッジがへこたれるわけがない。 

 双子の自由への逃走の翌日には、まるで自分が女王のように踏ん反り返っていた。

 

「音楽は禁止、ジョーク製品は禁止、手紙はすべて検閲を受けなければいけない。これらをすべて教育令として発令している魔法省の気がしれませんよ」

 

 セレネは秘密の部屋にこもると、両面鏡に向かって愚痴を零す。教育令のせいで、談話室はおろか、自室でさえレコードをかけることすら禁じられてしまった。これが他の寮であれば、こっそり聞けたのだろうが、スリザリンは高等尋問官親衛隊が多く所属している。同室のパンジー・パーキンソンなんて、アンブリッジのお気に入りだ。下手にレコードをトランクから出そうものなら、鬼の首を取ったように喜んで減点してくるだろう。

 

 いまでは、秘密の部屋でしかレコードは聴けなくなってしまった。

 

「保護者からのクレームが来ますよ。ホグワーツはいつから監獄になったのか、とね?」

『反論は握りつぶしているのだろうよ』

 

 鏡の向こうのグリンデルバルドが静かに答えた。

 両面鏡は、テーブルに固定しているのだろう。グリンデルバルドの全体像が映るようにセッティングされている。彼はゆったりと肘掛椅子に腰を下ろし、手の中で小さなものを弄繰り回していた。

 

『手紙が検閲を受けている時点で、内部の不利益な情報は外に伝わらない。伝わったところで、魔法省大臣が新校長の後ろ盾になっている。魔法省に反旗を翻したとみなされ、アズカバンに放り込まれるのが関の山だ。

 それよりも、ダンブルドアの行方はつかめたか?』

「いいえ」

  

 セレネはレコードの奏でるギターの音に耳を傾きながら、首を横に振った。

 

「ハリー曰く、不死鳥の騎士団の本部にはいないそうですよ」

 

 先日の一件はあったが、何事もなかったかのように「必要の部屋」で月の一度の茶会は開かれた。

 ハリーの話によると、セレネの放った守護霊のおかげで一早く、自分以外の皆を逃がすことができたらしい。ハリーは校長室に連行され、ダンブルドアが魔法省大臣以下4人を一撃で倒して、不死鳥と一緒に逃げるところを目撃したそうだ。

 

「身を隠すわけではないと言ってたそうです」

『なるほど、身を隠すわけではないか』

 

 グリンデルバルドは面白そうに口の端を歪めた。

 

『ダンブルドアは滅多にホグワーツから離れることができない。だが、あいつを縛る鎖は解かれた。きっと、いまごろ分霊箱の痕跡を探すための旅をしていることだろう』

「分霊箱ですか」

 

 セレネはテーブルに頬杖をついた。

 最大10個は存在するとされる分霊箱、その2つしかまだ破壊していない。セレネは試験勉強やら何やらで手いっぱいで、まったく分霊箱の調査に手を付けていなかった。

 

「あの蛇男は物凄くプライドが高いので、きっと珍しいものに魂を封じ込めておくはずですよね」

『そうだ。珍しいものだ』

 

 セレネの発言を受け、グリンデルバルドはゆっくりと頷いた。

 

『君は、私がこの数か月間、なにもしないでいたと思うか? この老体に鞭を打って、あることを調査していた』

「もう老体ではありませんよね」

『精神的には、十分老体だ』

 

 グリンデルバルドは胸ポケットから手帳を取り出した。表紙こそ新しいものだったが、何度も書き込みを重ねたのだろう。鏡越しにもページの端が破れていたり、よれよれになっていたりしているのが分かった。

 

『相手の趣味嗜好、思考パターンを詳しく知るためには、その人物について詳しく知らなければならない。

 特に幼少期の成育環境が、その後の人物形成に大きくかかわってくる。私はこの数か月間、ヴォルデモートがトム・リドルであった頃を調べていた』

 

 そう言いながら、彼は白い指先で手帳のページを丁寧にめくっていく。

 

「ありがとうございます。ですが、あの蛇男がトム・リドルだった頃は50年以上も昔ですよね?」

 

 セレネはつい口を挟んでしまう。

 2年生の時に一度、トム・リドルの姿を見たことがある。背も高く、鼻筋の通った美少年だった。現在のホグワーツ随一の美少年 セドリック・ディゴリーに匹敵するか、それ以上だ。そんな完璧な美少年と毛根のない蛇男は、どうひっくり返したところで同一人物に見えない。ヴォルデモートとトム・リドルを結びつける人は少ないと思った。

 たとえ、同一人物だと知っている人がいたとしても、ヴォルデモートの名前を口にするだけでも震え上がるような世界だ。よほどのことがない限り、口を割らないだろう。

 

「たった数か月で調べられるわけが――」

『君は私を過小評価しているぞ、フロイライン』

 

 グリンデルバルドは、にたりと笑った。そして、わずかに手帳に目を落とす。

 

『リドルの出身はロンドンのウール孤児院だ。いまは別の建物が立っていた。もしかしたら、あいつが成長してから直接”負の歴史”として消し去ったのかもしれん。だが、手がかりをすべて消せるわけでもない。

 孤児院時代のリドルは、同じ孤児たちに大層嫌われていたらしい。大切な物を力づくで奪い取り、取り返そうとしたら不可思議な現象が起きる。たとえば、吹き出物だらけにされたりとか、ペットのウサギが首をつって自殺していたりとか、そんな具合だ。他にも断崖絶壁に連れ出され、死に瀕した者もいたらしい』

 

 グリンデルバルドは淡々と読み上げると、ぱたんと手帳を閉じた。

 

『以上のことから、君は何を推測する?』

「推測と言いましても……」

 

 セレネは口元に指を添えると、少しだけ考え込んだ。

 

「信じがたいことですけど、蛇男はホグワーツ入学前から魔法を使いこなしていた?」

 

 セレネはゆっくり答える。

 自分の場合は、ホグワーツ入学前まで魔法を使えるなんて考えたこともなかった。少なくとも、魔法らしき徴候はなかったように記憶している。せいぜい、自分が不機嫌な時に風が強くなったり、雷が鳴り響いたりする程度であった。だが、あれは自分がやりたくて天候を支配していたわけではない。たまたま、自分の感情に呼応して、天気を魔法で操ってしまっただけである。

 

 

 しかし、トム・リドルは違う。

 

 

 かなり意図的に、自分と敵対する相手に魔法で意地悪をしていた。言葉にすれば簡単なことだが、そんな上手くいくものではない。

 成人の魔法使いでも、杖を使わず正確に魔法を操ることは難しい。その証拠に、ホグワーツの7年生になっても杖なしの魔法など扱わない。

 孤児院時代のヴォルデモートが杖など手にしているはずもない。つまり、彼は杖もなく、的確に魔法を行使していたとなる。それだけ、魔法の才能に恵まれた人物と言うことだ。

 セレネは改めて、敵の強さを実感した。

 

『そうだ。他には?』

「えっと……人の嫌がることを率先して行っていた?」

『20点だ』

 

 グリンデルバルドは再び先ほどの小さな何かを触り始めた。

 

『嫌がらせに生きがいを感じていたのは事実かもしれないが、それだけが真実ではない。

 ヴォルデモートは収集癖があった。おそらく、人が大切にしている物を奪い、所有することに優越感を抱いていたのだろうよ』

「優勝トロフィーみたいにですか?」

『まさに、その通りだ。だが、それは孤児院時代のこと。これは推測だが、自分の出生の秘密が分かるにしたがって、ただ他人の宝物程度では飽き足らず、強力な魔法の歴史を持つ物の収集を好んだ可能性が高い。

 事実、フロイライン――君が破壊した指輪は非常に価値のあるものだ』

「ああ、あの指輪ですか」

 

 セレネは机の端に転がる指輪に視線を向けた。

 黒い石のはまった指輪は、死の線で切り刻まれている。不思議なことに、黒い石の部分だけ線が視えない。このことだけ不思議だが、リングの部分には線が奔っている。なによりも、この指輪に宿っていたヴォルデモートの魂は欠片も残っていなかった。

 

「友人が、ペベレルの紋章が刻まれていると教えてくれました」

『……やはりな。

 ゴーントといえば、あのカドマス・ペベレルの末裔だ。いかにも、あいつが欲しがりそうな遺物だろうよ』

 

 グリンデルバルドは納得したように目を瞑り、静かに何度か頷いている。

 

「つまり、単に珍しいものではなく、魔法界における高名な遺物を分霊箱にしていると? たとえば、魔術王の指輪とかマーリンの杖のような遺物でしょうか?」

『それよりも、一番考えられるのはホグワーツ関係の品だ。創始者――とくに、サラザール・スリザリンゆかりの品を探したと考えていい』

「スリザリンゆかりの品ですか」

 

 セレネは腕を組んで考え込む。

 だが、ホグワーツに在籍して5年にもなるが、創設者のゆかりの品など聞いたことがない。例外としてグリフィンドールの剣なら校長室にあると噂を耳にしたことがあるが、他の創設者にまつわる品は一切耳にしたことがなかった。

 

『そのあたりを、君の方でも調べてもらえないだろうか』

「了解しました。ところで、先程から気になっているのですが、あなたが手にしている物は何ですか?」

『ああ、これか。飴だよ』

 

 グリンデルバルドはオレンジ色の鮮やかな飴を掲げる。

 

『ダイアゴン横丁で売っていてね。なんでも、食べた相手を吐かせ続けるらしい』

「それ、ウィーズリーのいたずら専門店の品では?」

『実に気のいい若者が経営していたよ。私の注文に可能な限り応えようとしてくれる』

「……何を注文したのですか? そもそも、ダイアゴン横丁に行って大丈夫なのですか?」

 

 セレネが呆れたように話しかけると、グリンデルバルドは愉快そうに笑った。

 

『安心したまえ。ポリジュース薬なしでも変装術は得意でね。魔法省大臣の片腕に変身して1か月以上、皆を騙し通したこともある。

 それに、注文もたいしたことは言っていない。せいぜい『被るだけで呪文が跳ね返る帽子が欲しい』と注文を付けたくらいだ。それをわずか三日で完成させただけでなく、失神呪文レベルまで反射できるようにするとは、誠に素晴らしい才能だ』

「……通っていませんよね?」

『君のためだ。マグルの義父のために、盾の帽子は便利だろ?』

 

 グリンデルバルドはおどけたような声で言ってみせたが、セレネは湿った視線を向け続けていた。おそらく、半分はセレネのために行動していたのだろうが、残りの半分は個人的な興味に違いない。

 

「正体が露見しないように、注意してくださいね」

『もちろんだ。双子の前では”気のいいパーシバルおじさん”で通ってるよ』

「……本当に気をつけてくださいね」

 

 セレネは疲れたように息を吐くと、鏡の通信を切った。

 

 グリンデルバルドがウィーズリーのいたずら専門店に通い始めたことも気になるが、まずは創設者ゆかりの品探しである。

 自分が耳にしたこともない品物を下級生はもちろん、上級生が知っているとは考えにくい。そもそもヴォルデモートが在学中に盗み出して、分霊箱にしてしまっていた場合、それは50年も昔の話になってしまう。おそらく、先生方も知らないだろう。

 

「『血みどろ男爵』にでも聞いてみようかな」

 

 セレネは寮付きのゴーストを思い浮かべた。

 どろどろした血にまみれ、重たい鎖を引きずる怪しげなゴーストである。彼がいつからホグワーツにいるのか知らないが、少なくとも先生より昔のことに詳しいに決まっている。上手くいけば、創設者ゆかりの品について教えてもらえるかもしれない。

 

 セレネは前向きに考えると、血みどろ男爵を探しに出かけた。

 

 

 

 

 

 だが、そこまで簡単に物事は進まない。

 

 セレネが血みどろ男爵を捕まえるところまでは上手くいったのだが、世間話の延長で創設者の話題を切り出したときだ。

 

「そういえば、グリフィンドールの剣が校長室にあると聞いたことがありますけど、スリザリンやレイブンクローとか他のゆかりの品は聞いたことがありません。ご存じないでしょうか?」

 

 と、最後まで言い切る前に、男爵は頭に血が上ったような怒り顔で

 

「そんなものは知らん! くだらん失われた宝を探す暇があるなら、学生らしく試験勉強をしたらどうだ!? 進路指導も近いのだろう?」

 

 と叫び出し、分厚い壁の向こうに消えて行ってしまったのである。

 しつこく食い下がることもできなくはないだろうが、あの男爵には逆効果だ。よほど良いカードを切らない限り、ますます頑なになって口を閉ざしてしまうのがオチだ。セレネは少し項垂れた。

 

「でも……進路指導か」

 

 セレネは掲示板に張り出された個人面談表を見て、少しため息をついた。

 来週から一週間、それぞれ30分ずつ寮監と進路について話し合う時間が設けられている。気が付けばOWL試験も差し迫り、セレネがホグワーツに在籍できる期間は実質2年しかない。掲示板の下には、様々な職種のパンフレットやチラシが見せつけるように置いてある。

 セレネが退屈そうにチラシを手にしていると、ふらりとダフネとミリセントが姿を見せた。

 

「進路指導か。なんだか、卒業が近いって言われているみたいだよね」

 

 ダフネはパンフレットを一瞥すると、苦笑いを浮かべた。そして、そのまま個人面談の時間を手帳にメモすると談話室のソファーへ向かってしまう。

 

「ダフネ、あなたはパンフレットを見ないのですか?」

 

 セレネは少し驚いてしまった。

 少し楽観主義なミリセントならともかく、慎重派のダフネが将来に関わるパンフレットを手に取りもしないとは考えにくかった。セレネが驚いている横で、ミリセントは呆れたように息を吐いた。

 

「あんた、馬鹿? ダフネはグリーングラス家の長子よ? 家業を継ぐに決まってるじゃない。ま、あたしもだけどさ」

 

 ミリセントは気楽そうに伸びをしながら、勢いよくソファーに腰を下ろす。セレネはいくつかパンフレットを手に取ると、彼女たちの横に座った。

 

「ブルストロード家の家業は、魔法使い専用高級農場の経営よ。ダフネのところは薬関係だっけ?」

「うん、新薬の開発。だから、魔法薬学のOWLは絶対にパスしなくちゃ!」

「2人とも、もう将来が決まっているのですね」

「私たちだけじゃないわ」

 

 セレネが感心したように呟くと、ミリセントはクッションを抱きしめながら指を折り始めた。

 

「パンジーも長子だし、ドラコやセオドールたちも家業を継ぐはずよ。将来について考えないといけないのは、セレネとブレーズくらいじゃない?」

「なん、ですと?」

 

 セレネは改めて、同級生に聖28族や高名な家柄が多いことを自覚する。

 いままであまり気に留めたことがなかったが、彼女たちはマグル世界でいうところの貴族であり上流階級だ。本来なら住む世界がまるで違う。

 一応、「自分も聖28族の末裔だ」と主張することも可能だが、したところで相続できるのは壊れかけた薄気味悪い小屋だけだ。考えるまでもなく、資産は皆無だ。

 

「お言葉だが、ミリセント。俺もそこまで真剣に考えるつもりはないね」

 

 気が付くと、ブレーズ・ザビニがソファーの上から覗き込んできていた。背もたれに腕を乗せ、面白そうに笑っている。

 

「あら、なによ。あんたもアテがあるの?」

「父上がニンバス箒会社の取締役でね。今からポストを用意してくれている」

「それ、コネ入社じゃない!」

「持つべきものは人脈ってこと。というわけで、これが必要なのは、君だけだ」

 

 ザビニは軽く杖を振り、残ったパンフレットをすべてセレネの膝の上へ乗せた。セレネはパンフレットの重みで気持ちも沈みかける。グリンゴッツ魔法銀行から始まり病院に魔法省――さまざまな冊子が進路の決定を急かしているようで、あまり良い気持ちがしなかった。

 

「でもさ、セレネはいいなって少し思うよ」

 

 ダフネがぽつりと呟いた。セレネが顔を向けると、彼女は少し俯いていた。

 

「セレネの成績なら、どんな職業も選び放題だよ。……人生を自由に選ぶことができて、ちょっぴり羨ましい、かな」

「ダフネ……」

「あ、でもね! 私は家業が嫌いじゃないよ! これも、グリーングラス家の務めだから!」

 

 ダフネは取り繕ったように笑うと、部屋へ駆けて行ってしまった。

 家業を継ぐということは、生まれた時から将来のレールが決まっているということだ。そこから外れることは許されない。ミリセントやパーキンソンのように気ままに生きているように見えても、彼女たちにかかっている親の期待や重圧はかなりのものなのだろう。

 

「あの子の言ったこと、気にしないで」

 

 ミリセントは素っ気なく言うと、数枚のパンフレットを手に取った。

 

「ダフネがこの生き方に後悔しているなら、とっくに逃げ出してるはずだから。ブラック家のシリウスって知ってるでしょ? あの大量殺人犯。あいつは、ブラック家を継ぐのを嫌がって弟に押し付けたのよ。ま、弟も死んだらしいから、ブラック家はもう駄目ね。没落よ――って、セレネ! これなんか面白そうじゃない!? 呪い破り!」

 

 ミリセントが冊子をセレネの前で掲げる。王家の谷のような場所を背景に、探検家風の魔法使いが金銀財宝を手にしている絵だった。

 

「すごく楽しそう! 悩んでいるなら、これにしなさいって!」

「ありがとう。考えておきますね」

 

 セレネは大量のパンフレットを手にしながら、ゆっくりと微笑み返した。

 

 魔法省関係は、少なくとも大臣が変わらない限り就職したくない。

 グリンゴッツや病院関係も勤務内容を読む限り、かなりブラックだ。なにしろ、勤務時間はおろか、定時すら記載されていない。呪い破りは魅力的かもしれないが、ロンドンを長期間離れなければならなかった。

 ほかにも箒会社や薬会社なども探してみたが、魔法使いの平均寿命は総じてマグルより長い。そのため、退職時期が定まっておらず、なかなか枠に空きが出ないのだ。空いている職は、よっぽど運よく年寄りの退職者が出た部署か、ブラック極まる部署しかない。

 自営業という選択もあるが、自分に経営ができるとは思えないし、そもそも売りに出せるものを作り出せるとも思えなかった。

 

 自分の最優先事項はヴォルデモートの排除と義父の安全確保である。

 そのことを考えると、勤務時間が定まっていて、残業もなく、自宅から通える範囲の職場がいい。

 

 

 しかし、そんな仕事が都合よく見つかるわけがない。

 

 

 そもそも、自分にどのような仕事が向いているか見当もつかない。

 一瞬、自分の適性を診断して将来を決めてくれるシステムがあったらいいのに、と考えてしまったが、そんなことをしたら最後、職業選択の自由がなくなってしまう。きっと、適性なしと判断されてしまう人だっているだろう。それに、いくら適性があったとしてもやりがいを見いだせない職業に就きたくはない。

 

 進路を自分で決めることができるのは、とても幸せなことなのだ。

 その分、「自己責任」という言葉が重くのしかかってくるわけだが――。

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしている間にも、月日はすぐに流れてしまう。

 気が付くと、個人面談の当日になってしまっていた。

 

「……はぁ、ついにこの日が来てしまった」

 

 セレネは小さく肩を落とすと、スネイプの執務室に足を向ける。

 

「入りたまえ」

 

 セレネが扉をノックすると、いつにも増して不機嫌極まりない声が返ってきた。よほど前の面談者――ビンセント・ゴイルが酷かったのかと思いながら扉を開け、すぐに納得した。扉のすぐ脇に、ピンク色のガマガエルがどっしり腰を下ろしている。まだ、セレネは入室したばかりだというのに、ガマガエルはクリップボートに何か書いていた。

 

「座れ」

 

 スネイプは短く告げた。セレネはアンブリッジに背を向けるように座った。

 

「この面談は卒業後の進路について話すための時間だ。ホグワーツ卒業後、どのような職種に就くか考えているか、ミス・ゴーント?」

「そうですね、教師には憧れます」

「教師?」

 

 スネイプが聞き返してくる。少し意外だったのか、彼はわずかに右の眉を上げていた。

 

「ええ、ホグワーツの教師になりたいです」

 

 セレネは静かにうなずいた。

 

「その――……アンブリッジ先生も校長先生になられたわけですし、闇の魔術に対する防衛術の枠が空きそうだと思いまして。あ、もちろん、スネイプ先生がその職に就いて、私が魔法薬学の職に就いてもかまいません。

 闇の魔術に対する防衛術でも、魔法薬学でも、指導科目は何でも構いません。どうしても、ホグワーツの教師になりたいです!」

 

 セレネは取り繕うように言葉を足すと、少しだけ眉を緩めた。

 

「一度は、魔法省も考えました。

 ですが、私はこれまでマクゴナガル先生やスネイプ先生、そして、アンブリッジ先生など様々な先生方からアドバイスをいただいてきました。まっすぐ自分の信念を曲げず、指導してくださっている先生方の姿が印象に残っています。その姿に、少し憧れていました。

 それに――、下級生や友達に勉強を教えるとき、彼らが『分かった!』と喜ぶ姿を見ると、心がぽかぽかします。とても嬉しいですし、教えることが楽しいです」

 

 どこか懐かしむような口調で最後まで言い切る。

 

 

 当然のように、アンブリッジのくだりは嘘だ。

 さらにいえば、志望理由も半分は嘘だ。

 

 ホグワーツには、ダンブルドアがいる。

 イギリスで最も安全な場所だ。ヴォルデモートも恐れて進行してこない。この安全地帯でヴォルデモートを破滅に追いやる方法を模索するのが一番いい。それに、ブラック企業より働きやすそうだ。最悪、義父の身に危険が迫ったとしても、素早くホグワーツに匿うことだってできるかもしれない。

 

「……なるほど、教師か」

 

 スネイプはしばらく、訝しむような目でこちらを見てくる。

 万が一、開心術を使われていると困るので、閉心術で心を隔てるように壁を立てる。4年生の時はヴォルデモートにまんまと土足で踏みにじられた心だが、今はあの時のように弱っていない。ゆえに、平静に心を閉ざすことができる。

 

「……しかし、そう簡単に枠が開くわけではない。ホグワーツの教員になるのは狭き道程だ。それに――」

「エヘン、エヘン」

 

 アンブリッジが独特な咳払いをする。かなり大きな咳払いで、話の腰が折られてしまう。スネイプは訝しむようにアンブリッジへ視線を向けた。

 

「いかがなさいましたか、校長先生?」

「ごめんなさいね、セブルス。ちょっと話させてもらってもいいかしら?」

 

 アンブリッジは身体を揺らしながら、スネイプとの間に割り込んでくる。セレネは少しだけ椅子を引いた。

 

「ホグワーツの教師の枠は、そこまで空かないわ。もちろん、あと数年のうちに教師の大半に辞めていただくことになるでしょうけど」

「トレローニー先生のようにですか?」

 

 アンブリッジが高等尋問官の権限でトレローニーを辞めさせ、城から追い出そうとした事件を思い出す。あのときは、ダンブルドアが去る前だった。そのため、ダンブルドアは新たにケンタウロスを「占い学」の教授に任命した。トレローニーは職を失ったが、城に引き続き住み続けることができるように手配され、いまも北の搭に彼女はひっそりと暮らしている。

 

 なぜ、ダンブルドアがトレローニーを留まらせたのか。魔法省による自分の大事な部下に対する不当な仕打ちに怒りを感じたのか、別の理由があるのか。その真意は分からない。

 だが、いまとなってはダンブルドアが消え、アンブリッジがホグワーツの人事権を握っている。彼女がケンタウロスもろとも追い出されるのは、きっと時間の問題だろう。

 

「ええ。いまの私は高等尋問官であり、ホグワーツの学校長ですから。教師に対する人事権は、すべて私に一括されています。魔法省と教育令に従わない一部の教師は、悲しい話ですが辞めていただくことになります」

「……では、私が卒業するころには枠が空きますね」

「でも、あなたは18歳でしょ? さすがに、教師として雇うには若過ぎるわ」

 

 アンブリッジが残念そうに肩をすくめた。だが、口元に歪んだ笑みを浮かべている。

 

「それに新しい教師は、きちんとした魔法省の人間が任命されることになるの。もうまもなく、大臣の承認を得て、新しい教育令として施行されるわ。だから、卒業してすぐに教師になることは不可能なの」

 

 よほど、アンブリッジは占い学の新教師がケンタウロスであることが嫌だったに違いない。

 

 セレネは少し目を瞑った。

 ケンタウロスとトレローニーを追い出し、きっとマクゴナガルやスプラウトたちのようにダンブルドアを慕う教師も追い出し、自分の意に適う魔法省の人間だけで周囲を固めていく。

 

 教師たちは辞めさせられないように、必死でアンブリッジを称える。

 教師たちは彼女の覚えをよくするため、そしていつかは自分も権威を手に入れるために、アンブリッジを崇めたてる。

 

 そして、彼女自身は女王のように校長の座に君臨する。

 女王は権力を暴力のように振りかざし、自己満足に浸るのだ。

 

 

 

 ああ、それはなんて――醜い夢なのだろう。

 

 

 それは偽の王国だ。偽りの忠誠心と恐怖に塗られたガマガエル王国である。教師がアンブリッジの顔ばかり見て、ごまをすっているような環境で、よりよい教育活動が行われるわけがない。

 

 ホグワーツはこの女がいる限り、必ず腐敗の一途をたどる。

 

 セレネは心の底から軽蔑した。

 自分も大した理由で教職を望んでいるわけではないが、この女の理想よりマシである。

 

「だからね、あなたは魔法省に入りなさい。それが夢をかなえる一歩ですし、それに――」

「お断りします」

 

 セレネは、考えるより先に否定の言葉が口から跳び出していた。そっと瞼を空ければ、アンブリッジの強張った顔が見える。

 

「え――っ?」

「先生、以前も言いましたよね。私は政治に興味がありません」

 

 政治と権力。

 それはたしかに魅力的だ。

 扱う者によって、良い方にも悪い方にも転がることができる。権力があれば、世界を自由自在に操ることだってできるかもしれない。たとえば、権力の使い方次第では、イギリス魔法世界のすべてを対ヴォルデモートに気持ちが向かうように一致団結させることだって可能だろう。

 

 しかし、それは望んでない。

 権力などを手にしたら、きっと忙しくなってしまう。権力を手にした座から見る景色は、きっと自分が欲しい幸せから程遠いものだ。

 

 だから、セレネはゆっくり首を横に振る。

 

「興味があるのは学問です。教壇に立つことです。もし、それが無理なのでしたら――私、少し進路を考え直したいと思います」

 

 セレネはそれだけ言うと、アンブリッジの横からスネイプに視線を向けた。

 

「ちなみに、現時点でホグワーツの教師になるならば、OWLでどのような成績をとる必要がありますか?」

「……大いに優秀のO、もしくは期待以上のEが求められる。担当したい科目によって変わってくるがな」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 

 セレネは立ち上がると、静かに一礼をする。

 

「それから、親衛隊入隊の件ですけど、少し考えさせてください。私、いまはOWLに集中したいので」

 

 立ち去る間際、アンブリッジに営業用の微笑みを向ける。

 彼女の醜悪な顔からは何も読み取れない。予想外の反撃に愕然としているようにも見えるし、セレネの判断を嘲笑っているようにも見えた。

 

 だが、そんなことは気にしない。

 なにしろ、ダンブルドアにアンブリッジ程度が勝てるわけない。きっと、あと数か月以内に戻って来るはずである。

 

 

 それは、同時に魔法省がダンブルドアの意見に賛成――つまり、ヴォルデモートの復活を認めるという事態が訪れるということだ。きっと、魔法省大臣は事実から目を背け、隠蔽していた事実を糾弾されることだろう。

 

 魔法省大臣さえ失脚してしまえば、子飼いのアンブリッジなど怖くはない。

 大臣と一緒に、仲良く坂を転がり落ちていくに違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツ城の庭は、ペンキを塗ったばかりのように日差しを浴びて輝いている。

 艶やかな緑の芝生は優しいそよ風にさざ波を立てていた。実に美しい風景だが、それを見惚れる5年生はいない。

 

 進路指導も終わると、あっという間に6月に突入していた。

 

 つまり、とうとうOWL試験がやって来たのである。 

 

 この頃になると、先生たちは宿題を出さず、代わりに試験に最も出題されそうな予想問題の練習に時間を費やすようになっていた。

 談話室には必ず遅くまで5年生が勢ぞろいし、必死に勉強をしている。極度の緊張感のせいで、誰もが苛立ちを募らせていた。マルフォイなんて、下級生が近くを横切っただけで理由をつけて罰則を言いつけている。もっとも、彼の場合は誰よりもイラついているのは無理がなかった。なにしろ、あのクラッブとゴイルが試験に通るように勉強を付きっ切りで教えているのだ。不機嫌になって当然であるし、よく匙を投げないものだと感心する。

 だんだんと口数が少なくなっていき、おしゃべりなミリセント・ブルストロードですら試験前日の夕食時には一言も話さなかった。

 

 

 そして、重い朝食の時間が終わると、最初の試験――「呪文学」の筆記試験が始まる。

 

 いったん、玄関ホールに出されてから試験会場の大広間に入る。四つの寮のテーブルは片づけられ、代わりに個人用の小さな机がたくさん並んでいた。

 椅子を引く音と着席していく音が、異様なまで大きく響いているように感じた。全員が着席し、あたりがしんと静まり返ると、試験官が開始の合図を口にする。その途端、ほぼ同時に試験用紙をめくる紙の音が会場を支配する。

 セレネも羽ペンにインクを浸すと、素早く羊皮紙をめくった。

 

 

1 a.物体を飛ばすための必要な呪文を述べよ。

  b.そのための杖の動きを記述せよ。

 

2 a.鍵のかかった扉を開ける呪文を答えよ。

  b.また鍵をかけるための反対呪文を答えよ。

 

 

 セレネは少しだけ心が軽くなるのを感じる。

 これは1年生の問題だ。焦ることなく、慎重に問題を解いていく。ひっかけ問題もあったが、冷静に考えれば間違えることはない。周りの羽ペンを奔らす音を気にすることなく、丁寧に解いていく――。

 

 1時間の試験が終われば、次は実技試験だ。

 数人ごとに呼ばれて、試験会場に入っていく。セレネの班はゴイル、ハーマイオニー、そしてダフネと一緒だった。だいたいは筆記試験で出た呪文が出題される。

 試験会場を出ると、傷心中のダフネよりも先にハーマイオニーが話しかけてきた。

 

「セレネ、どうだった? 思ったより簡単じゃない? あれで、本当に良かったのかしら?」

「そうですね。まさか、浮遊呪文が出るとは思いませんでした。あれ、1年生で習った基本呪文ですよね。サービス問題でしょうか?」

「きっとそうよ。でも、サービスだらけだったわね。私はてっきり、成長呪文や元気爆発呪文が出ると思ってたわ」

「私もです。驚きですよ、本当に」

 

 しばらく二人で今の試験に付いて話していたが、ダフネが傍で聞いていたらしい。ハーマイオニーと別れた後、彼女は疲れ切った顔で「セレネってさ、やっぱり呪文の才能があるよね。羨ましいよ」と言われ、少しだけバツの悪い気持ちになった。

 

 呪文学を皮切りに、怒涛の試験ラッシュが幕を開ける。

 翌日の変身術に始まり、薬草学、闇の魔術に対する防衛術、古代ルーン文字学、魔法薬学、魔法生物飼育学、数占い、天文学、そして最後が魔法史と続いていく。

 

 特に自信があったのは、変身術だ。取り換え呪文でウサギの耳を自分の耳と取り換えたり、ケナガイタチの色をきらきらと輝く虹色に変えたり、フクロウをゴブレットに変身させたり、イグアナを丸ごと一匹消失させたりした。試験会場を出るとき、扉の脇で見守っていたマクゴナガルと目が合った。彼女の口元は嬉しそうに少し緩んでいる。

 なんとなく、これは確実にO――大いに優秀が取れた気がした。

 

 もちろん、他の教科も自信がある。

 闇の魔術に対する防衛術は杖の振り方、反射速度、魔法の威力の調節まで完璧にこなし、最後の課題――「まね妖怪」をくるくる回る道化に変身させると、試験官のマーチバンクス教授は目を大きく見開きながら

 

「いい杖捌きだね。NEWT試験のダンブルドアを思い出すよ。さすがに、あそこまでではないが、いい腕をしてる」

 

 と感心したように呟いていた。

 きっと、これも満点を取れているはずだ

 

 ルーン文字学、魔法薬学、数占いも問題ない。

 魔法生物飼育学の実技で火蜥蜴に服の袖が焦がされそうになってしまったが、それ以外は順調に試験が過ぎていく。

 

 一番苦手な天文学の実技は夜遅く――1番高い塔で行われた。

 もともと、あまり星を見るのが好きではない。ずっと見ていると、こちらに落ちてきそうな不安を感じる。それに、よく見ようと目を凝らせば、線まで見えてしまいそうで怖い。

 とはいえ、試験なので天文学は確実にパスしたい。セレネは星を見ながら星座表に書き込んでいると、とても重大な事件が起きた。

 

 突如、ばんっと響く音が聞こえたのである。

 セレネは凄く気になったが、今は試験中だ。ぐっと堪えて星座表を睨みつけるが、まともに試験を続けたのは数名だったらしい。ほとんどの受験生は、音の在りかに視線をやり、一部始終を目撃していた。

 

 どうやら、アンブリッジが手下を率いてハグリッドを襲ったらしい。

 ハグリッドは逃走し、止めに入ったマクゴナガルの胸に4本も失神呪文が突き刺さったそうだ。可哀そうな先生は、いまだに意識が戻らないらしい。

 

 マクゴナガルは好きな先生だった。

 寮が違っても、どのような生徒にもまっすぐ向き合ってくれた。質問に対しても、的確に答えてくれた。彼女のおかげで、リータ・スキーターを手駒にすることができたし、グリンデルバルドを脱獄させることだってできた。

 それに、ただ止めに入っただけの先生に対し、敵のように失神呪文を放つなんて極悪非道である。

 

 セレネは試験が全部終わったら必ず見舞いに訪れ、本格的にアンブリッジへの報復を検討することにしようと心に決めた。

 

 

 

 ところが、マクゴナガルを見舞いには行けずじまいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 試験最終日――それは突如として起きた。

 

 

 魔法史の試験が終わりかけた頃、ハリーが突然、悲鳴を上げて椅子から転落したのである。

 試験官がすぐに駆け付け、ハリーは医務室へ行くために退出した。その様子を横目で見たが、顔からは血の気が引き、この世の絶望を飲み干したような姿になっている。

 その答えは、すぐに判明した。セレネが試験会場から出た途端、ハリーは待ち構えていたように駆け寄ってきたのだ。

 

「ロン、ハーマイオニー、話があるんだ!! セレネも来て、すぐに!!」

 

 ハリーは困惑するセレネの手を取ると、そのまま玄関ホールを走り切り、空き教室まで連れ出した。彼の膝は震え、声も酷く震えていた。まるで、深刻な病気のようだ。ハーマイオニーもウィーズリーも心底心配そうに彼を見つめているが、セレネも心配になった。

 

 だが、3人が心配して口を開く前に、ハリーは急き込んで話し始めた。

 

 

 

「落ち着いて聞いて。シリウスが、ヴォルデモートに捕まったんだ!!

 どうやったら、すぐに魔法省に行けるのか方法を教えてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 


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