スリザリンの継承者―魔眼の担い手―   作:寺町朱穂

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75話 秘宝

 空を飛ぶことは、マグルにとって甘美でもあり、呪われた夢でもある。

 

 飛行機は人々を世界各国、未知の場所へと連れ出す手段にもなったが、殺戮と破壊の道具にもなった。戦闘機の登場で戦は激変し、それなしの戦争など考えられなくなってしまっている。

 

 では、魔法界はどうだろう?

 

「……なるほどね」

 

 セレネは箒にまたがりながら、静かに考察を深めていく。

 もちろん、自前の箒ではない。ウルクハートからの借りものだ。今日のスリザリン・クィディッチチーム選抜が始まる前に、少し借りているのである。セレネは箒の黒い柄を握りしめながら、すぅっと競技場を一周した。

 

「……バランスはとれる。クッション魔法のおかげで、お尻も痛くない」

「ゴーント先輩っ!」

 

 セレネが上空で浮かんでいると、下から誰かが上昇して来た。ウルクハートと同じく親衛隊幹部であり、クィディッチチームの得点王 ベイジーである。

 

「どうです、箒の乗り心地は」

「まずまずといったところかしら」

 

 バランスを取るのが少し難しいが、なかなかに悪くない。

 少し願っただけで箒は想いをくみ取り、その方向へ進む。だが、これも正確に念じなければ意味がない。速度、方向、そのすべてを頭と体に叩き込み、操縦する――。ある意味、ハンドルを握って、アクセルを踏めば動く自動車の運転の方が百倍楽そうだ。もっとも、あちらはあちらでアクセルの踏み具合など気をつける点は山ほどあるが。

 

「ねぇ、ベイジー。ここからそうね……あれ、狙える?」

 

 セレネは競技場の門戸を指さした。

 

「杖でですか?」

「壊さない程度に。そうね、あっちからそっちに飛びながら。どう、できる?」

「任せてくださいっ!」

 

 ベイジーはセレネの命じた通り、右から左へと目にもとまらぬ速さで飛びながら、門へ衝撃呪文を放つ。ベイジーの杖から放出された魔法は門へと向かったように見えたが、途中で狙いがそれてしまったのだろう。門から少し離れた壁に激突し、飛散した。

 

「どこ狙ってんだよ、ベイジー」

 

 下で観戦中のウルクハートが笑い声をあげる。ベイジーは怒って何やら言いかえし、ウルクハートに呪文を放った。今度は止まった状態で放たれた魔法は、ウルクハートに向かってまっすぐ突き進む。彼が盾の魔法を展開しなければ、正面から呪いと激突していたことだろう。

 

「このーっ、やりやがったな! この、『エクスペリアームス‐武器よ去れ』!」

 

 ウルクハートも負けじと魔法を放ってくるが、宙に向かって普通の魔法が届くわけない。

 

「……まるで、戦闘機に銃で対抗するようなものね」

「せんとうき、とは?」

「いや、気にしないでください。ですが――……」

 

 セレネも杖を取り出したが、飛びながら狙いを定めるのが難しい。

 バランスの維持をしていたとしても、微妙に揺れている。足場が悪い岩場で魔法を使った方が、まだ命中率が高くなるだろう。これでさらに飛びながら的に当てるとなれば、もっと難易度が増すに違いない。

 

「まあ、箒で飛ぶということは理解できました」

 

 セレネはふわりと降下すると、下草に足を付けた。 

 やはり、足が地面についていると落ち着く。そのまま、セレネは微笑を浮かべ、ウルクハートに箒を渡した。

 

「ウルクハート、ベイジー、協力ありがとう」

「い、いえ。ゴーント先輩たっての頼みですから!!」

「でも、ゴーント様の飛びっぷりも良かったですよ! チームに入ってもらいたいくらいです」

「大袈裟よ。それでは、選抜。応援していますね」

 

 セレネは敬礼する二人に手を振ると、クィディッチの観客席へ向かった。

 競技場には、もうかなりの人数が集まっている。皆、自分の箒を手にして神経を統一させているように見えた。会場全体に、肌を刺すような緊張感が漂っている。ただ、不思議なことに、その中にドラコ・マルフォイの姿は見当たらなかった。ぎりぎりに来るつもりなのだろうか、と考えながら歩いていると、その中に特別見知った顔があることに気づいた。

 

「ノーマン? それに、アステリアも」

「せ、セレネ先輩っ!!」

「いつからそこにいらしたのですか?」

 

 ノーマンとアステリアはびくりと震えあがる。

 2人とも、よほど緊張しているのか、顔の表情はもちろん、肩も足も手もすべてがカチコチに固まっている。

 

「先輩も受けるのですか?」 

「いや、私は観戦だけです。二人はどのポジションを受けるの?」

「わたしは、チェイサーです。ノーマンは……」

「えっとですね。そのぉ……シーカーを、希望してます」

 

 ノーマンは恥ずかしそうに口にする。

 セレネは、ほうっと片方の眉を上げた。シーカーは一番倍率が高い。クィディッチの詳しいルールを知らないが、花形であり、エースでないとできないことくらいは知っている。ある意味、非常に勇気のある決断だ。だが、小柄で小回りの利く彼は、図体ばかりでかい純血派のハーパーよりずっと合っているかもしれない。

 セレネはすれ違いざま、2人の肩を軽く叩いた。

 

「ベストを尽くしなさい」

「は、はいっ!!」

「ぜ、全力で頑張ります!」

 

 ノーマンもアステリアもは顔を輝かせると、それぞれの集合場所に向かって行った。

 セレネはその後姿を見送ると、観客席に腰を下ろす。まだ時間にならないので、セレネは鞄から一冊の本を取り出した。分霊箱のありかを探すため、さまざまな魔法界における伝説級の宝物を探しているのだが、これもなかなかうまくいかない。すべてグリンデルバルドに放り投げればいいのかもしれないが、あの男にすべてを任せきりにするのは大変危険な気がするのだ。

 

「なに読んでるんだよ」

 

 ページをめくっていると、横から少年の声が聞こえてきた

  

「聖剣伝説です。エクスカリバーのことを調べたくて」

 

 セレネは本から顔を上げずに答えた。

 

「やはり、魔法界のエクスカリバーは興味深いですね。

 手にした者は光の翼を纏って瞬間移動すら可能にし、一振りで空間も切り裂くそうです。しかも、英国産の最高級海苔巻きをつかった帽子を被り、朝はコーヒーを――……」

「違う、それは絶対に違う!!」

 

 セレネの隣に座った少年――セオドールはそう叫んだ。

 

「絶対に偽書だ。エクスカリバーが帽子を被るわけない!」

「突っ込むところはそこですか」

 

 セレネはぱんっと音を立てながら本を閉じた。

 

「まあ、私も読み始めて『これは違うな』って思いました」

 

 無性に腹の底から「うざい」気持ちが湧き上がって来る本であった。まるで退屈極まる五時間の朗読会に参加したような気分である。

 きっと、もう二度と読み返すことはないだろう。

 

「で、どういうつもりなんだよ。聖剣を調べるなんて。マーリンにでもなるつもりか?」

「あら、アーサー王ではないのですね」

「お前は騎士王って柄じゃないだろ」

「確かに、その通りですね」

 

 セレネは深く息を吐いた。

 選抜は始まったのか、数人の生徒が箒にまたがり空を飛び始めていた。

 

「魔法界における価値のある宝物を調べているだけです。たいしたことではありませんよ」

「魔法界の宝、か……」

 

 セオドールもスリザリン生たちが空を飛ぶ様子を眺めながら、小さく呟き返してきた。ちょうど、調子に乗ったグラハム・プリチャードがコメット260号で宙がえりをしようとし、競技場の柱に激突していた。

 

「エクスカリバーも宝だが、聖杯の方が宝物っぽくないか?

 あとは、メディアの金羊皮紙とか、ニワトコの杖とか、エメラルドの板とか……」

 

 セオドールが幾つかの宝物を例に挙げていく。セレネはそうした宝物を聞き流しながら、ヴォルデモートがいったいどのような秘宝を集めたのかに思いを馳せていった。

 

「お前、宝探しでもするつもりか? 七つの財宝を探しに冒険の旅へ、って?」

「別にトレジャーハンターになるつもりではありませんよ。……七つ? なぜ、七つなのですか?」

 

 セレネは少し頭に引っかかった。今まさにゴールを決める瞬間のアステリアから、隣に座る少年へ視線を移す。彼はたいして考えずに言ったのだろう。セレネが問うと、少し肩をすくめながら口を開いた。

 

「適当に言っただけだ。でも、七ってよく使われるだろ? 七つの大罪とか、七大天使とか、第七の災いとか……それに、七は一番強い魔法数字だって、数占いで習ったじゃないか」

 

 セオドールは取って付けたような説明をする。

 セレネは少し考え込むように、人差し指を口元に添える。

 

「そうね、七は最も強い魔法数字……最も、強い……」

 

 ふと、嫌な予感が脳裏を横切った。

 セレネは勢いよく立ち上がると、観客席を駆け下りていた。

 

「お、おい! どこに行くんだよ!?」

「ごめん、用事ができましたので、私はこれで!!」

 

 セレネは城に向かって奔り出していた。

 ノーマンやアステリアがクィディッチチームに入れるのか、少し気になったが、今はそれよりも大事なことがある。随分と飛躍した考えかもしれないし、誤った思考かもしれない。だが、確かめる価値だけはあると思った。

 ホグワーツの城内に入ると、セレネは一旦、足を止めた。

 ちょうど運が良いことに、マクゴナガルが歩いていたのだ。新品の本の束を抱えながら、廊下をいそいそと歩いている。

 

「先生、お手伝いします」

 

 セレネは笑顔の仮面をかぶると、マクゴナガルに近づいた。

 

「ええ、ミス・ゴーント。ありがとうございます」

 

 マクゴナガルはセレネに本を渡してきた。

 ずっしりと重たい本の表紙には「現代変身術8‐変身術の栄枯盛衰‐」と書かれている。

 

「面白そうな本ですね」

「軽い読書にと買った本です。先ほど届きましてね……あなたも読みますか?」

「ありがとうございます、嬉しいです!」

 

 セレネはにっこり微笑んだ。

 マクゴナガルも満足そうに微笑む。セレネは彼女の後に続き、マクゴナガルの執務室へ足を踏み入れた。内装はアンブリッジの執務室とは正反対だ。全体的に落ち着いた空間で、目につくような派手なものは全くない。壁一面に本が並び、無駄な物など一切置かれていなかった。ただ数個、古びた写真が立てかけてある。

 

「そこに置いてください」

「はい、先生」

 

 セレネはシックなテーブルの上に、本を置いた。

 マクゴナガルはローブを翻すと、セレネに微笑みかけてくる。

 

「ありがとうございました。スリザリンに5点あげましょう」

「いえ、点数が欲しいから手伝ったわけではありません」

 

 セレネは気恥しそうに言いながら、これはチャンスなのでは?と思った。

 

「あの……先生。ひとつ、質問をしてもいいですか?」

「かまいませんよ。遠慮なく聞きなさい」

 

 マクゴナガルは仕事を始めるつもりだったのだろう。

 綺麗に磨き抜かれたオークの机の前に書類を乗せ、羽ペンにインクを浸していた。セレネは少し息を整えると、できるかぎり静かに口を開いた。

 

「その、先生。ご存知でしょうか……ホークラックスのことですか」

 

 最後の単語を口にしたとき、マクゴナガルの手が止まった。羽ペンをテーブルの脇に置き、じっとセレネを見つめている。

 

「……『闇の魔術に対する防衛術』の課題ですか? それでしたら、スネイプ先生に尋ねなさい」

 

 マクゴナガルはそう言いながらも、学校の課題ではないことを百も承知なのだろう。猫のような瞳はまっすぐ、セレネに向けられ続けていた。

 

「いえ、そういうことではなくて……図書室で本を読んでいて、見つけた言葉だったのですが、完全には理解できませんでした。本当に、一行しか書かれていなくて……」

「私としては、貴方が何故、その単語を見つけたのか気になりますね。ホグワーツでホークラックスの詳細を書いた本を見つけるのは骨ですよ。おそろしい、闇の魔術です」

「ですが、先生はすべてご存じなのですよね?

 その、先生ほどの魔法使いでしたら――……すみません。先生が教えてくださらないなら、他に聞ける先生がいらっしゃらなくて……先生は、いつも真摯に質問に向き合ってくださいましたから――……ごめんなさい。無理なら構いません。ですが、とにかく伺ってみようと、思いまして――……」

 

 セレネは徐々に声を潜めながら、マクゴナガルから少し顔を背ける。

 マクゴナガルはじっと何か考え込んでいるようだった。

 

「まあ、その言葉を理解するため、だけでしたら――……かまわないでしょう」

 

 マクゴナガルは机の上に置いてあった眼鏡をかけながら、静かに言った。

 

「ホークラックスとは、人がその魂の一部を隠すために用いられる言葉です。分霊箱とも呼ばれています」

「でも、先生。魂を隠すだなんて……どうやってやるんですか?」

 

 セレネはとうに知っていたが、その先の言葉を引き出すために、無知の振りをした。

 

「魂を分断するのです。そして、なにか物の中に隠します。そうすることで、体が攻撃されたり、破滅したりしても、死ぬことはありません。

 もっとも、その状態では生きているとは、とても言えないと思いますが」

 

 マクゴナガルは激しく顔をしかめた。

 セレネも彼女と同意見だ。霞のような状態での生存など、生きているとは言えない。

 

「どうやって魂を分断するのでしょう?」

「健全なる魂は健全なる精神と肉体に宿ることを知ってますね? それを無理やり分断することは暴力行為であり、自然の摂理に反する行いです。

 つまり、殺人ですよ。自分の生存のためだけに、人の命を無理やり奪うのです」

 

 マクゴナガルは自分でも口にして恐ろしくなったのだろう。瞬間的に、彼女が微かに震えたのが分かった。セレネも少し顔をしかめた。

 

「……おそろしいですね」

「あなたがそう感じる生徒で良かったと思いますよ」

「ありがとうございます」

 

 セレネは言った。

 

「ですが、私が分からないのは――……もちろん、ほんの好奇心ですが、一個だけの分霊箱で役に立つのでしょうか? 苦労して作っても破壊されたらそれまでですし、魂は一回しか分断できないのでしょうか?

 たとえば、七という数字は最も強い魔法数字ですよね? 七の場合は――……」

「七個ッ!?」

 

 マクゴナガルが甲高く叫んだ。

 

「人を一人殺すだけでも、おそろしい悪行です!! それを七回もするなんて――ッ!?」

 

 マクゴナガルは困り果てた顔で、それまで一度もセレネをはっきりと見たことがないような目で、じっとこちらを見つめてくる。もしかしたら、マクゴナガルは、こんな話を始めたこと自体を後悔しているのかもしれない。

 

「もちろん、仮定の話です。学術的な理論の話です。先生は私が人殺しをすると思いますか?」

「……そう、ですよね」

 

 マクゴナガルは深く深呼吸をした。

 

「……ええ、机上の話では、そうなると思います。

 ですが、それも同時に七分割しなければ意味がありません。魂は分割するたびに、小さくなっていくのですから」

「小さくなっていく?」

 

 セレネは本当に首を傾げた。

 マクゴナガルの言っている意味が、いまいち理解できなかった。マクゴナガルは羊皮紙を一枚呼び寄せると、その上に羽ペンで円を描いた。

 

「単純な分数です。最初の分断で半分に分かれた魂を、またここで分断したら、本来の魂の四分の一になってしまいます。三分の一ではありませんよね?」

「つまり、一気に七分割せず、その時々に応じて七分割したら最後に残る魂は……百二十八分の一?」

「ええ。ただ一度分割するだけでも、魂はかなり不安定になります。その魂がそこまで切り裂かれたら――……不安定どころか奇跡です。正気を保つことすら難しくなるでしょう」

「そう、ですよね」

 

 セレネは自分の考えの甘さに気付き、少し顔を暗くする。 

 マクゴナガルに礼を言い退室しながら、セレネは大きく息を吐いた。

 

 

 セレネは「魔法数字で最も強いのは七」ということから、ヴォルデモートが分霊箱を七つ作ったのではないかと考えた。だが、それは考えすぎだったのかもしれない。

 一度に七分割したのならともかく、何度かに分けて七分割すれば、マクゴナガルが言った通り、復活して猛威を振るっているヴォルデモートは当初の百二十八分の一に過ぎないことになってしまう。まさか、いくらヴォルデモートでもそのような凡ミスをするとは考えにくい。

 グリンデルバルドは、ヴォルデモートが分霊箱を複数作っている可能性を論じていたが、実際のところは7つより少ないのではないだろうか。

 

「日記帳、ロケット、それから、指輪。これで3つ。あいつの魂は当初の八分の一……うん、これ以上はない。うん、絶対にない」 

 

 下手したら、これで分霊箱は打ち止めだ。

 あとは、本物のロケットの在りかを探すだけだ。そう思うと、セレネの目の前は一気に明るくなった気がした。心なしか、足取りも軽やかにスキップなんてしてしまっている。

 

「あっ、セレネ!」

 

 だから、ハリーに声をかけられたときも、まったく悪い気はしなかった。

 

 最近、魔法薬の授業でハリーが常にトップの成績を収めている。優等生に固執はしていないが、ハリーがハーマイオニーや自分を楽々と抜かして魔法薬の名手になるなんて、正直なところ絶対にありえない。確実に裏があり、ズルをしているはずだ。

 なので現状、セレネのハリーに対する好感度が駄々下がりなのだが、今はそのような些事は気にならないくらい上機嫌だった。

 

「ちょっと話、いいかな?」

「ええ、かまいませんよ。必要の部屋を使いますか?」

「うーん……いや、空き教室でいいよ」

 

 ハリーはセレネを近くの教室に連れ込むと、杖を取り出した。

 

「『マフリアート‐耳塞ぎ』!」

 

 ハリーは教室の入り口に向かって呪文を放つ。

 

「うん、これで僕たちの話は外に聞かれないようになったよ」

「便利な呪文ですね。教科書に載っていましたっけ?」

「ううん、実は――……って、それよりも、マルフォイのことを聞きたいんだ」

 

 ハリーは切羽詰まった様子で尋ねてくる。

 

「マルフォイの不審な行動、見かけなかった?」

「少なくとも校則を破る行動はしていませんね」

 

 セレネはハリーが言っていた「マルフォイ死喰い人説」をようやく思い出した。

 

「もっとも、今日のスリザリンチームの選抜には来ていませんでした。遅れてくるのかもしれませんが……」

「マルフォイが選抜に来ない!?」

 

 ハリーは仰天している。眼鏡の奥の瞳がこれ以上ないくらい丸くなっていた。

 

「ええ、ですので、クィディッチがどうでもよくなったのかと」

「ありえない! どういうわけだ……?」

 

 ハリーは腕を組むと、その場を回るように歩き始めた。

 

「ちなみに、マルフォイは死喰い人になったと仮定して、サイコパスから何を任されていると思いますか?」

 

 セレネは近くの椅子に軽く腰を掛けた。

 

「マルフォイにしかできない仕事です。それは、なんでしょう?」

「ホグワーツのスパイ?」

「そうですね、それが妥当です。ですが、何故?」

 

 セレネは、マルフォイを死喰い人にするメリットが何も思いつかなかった。

 せいぜい、あったとしても、魔法省で失態を犯したマルフォイ家に対する嫌がらせか罰だ。むしろ、そっちの意味合いが強いに違いない。それなのに、マルフォイはいまだにスリザリン寮で踏ん反り返っている。純血派のリーダーとして、少人数の純血派に囲まれて鼻を高くしている。

 

「それは、僕にも分からない。だから、セレネにお願いがあるんだ。君にマルフォイを見張って欲しい」

 

 ハリーが頼んできた。

 

「ここ最近の行動、いかにも怪しいだろ?」

「……分かりました。できる範囲で」

 

 死喰い人かはともかく、マルフォイが昨年までと違った行動をとっていることには変わりない。

 セレネが小さく頷くと、ハリーは嬉しそうに表情を崩した。

 

「ありがとう、セレネ! じゃあ、僕はこれで。ダンブルドアに呼ばれているんだ」

「ええ、って、待ってください。ダンブルドアに何故呼ばれているんですか?」

 

 ハリーがセレネに背を向けて駆け出した。セレネが慌てて呼び止めると、彼は走りながら答えてくれた。

 

「今年から、ダンブルドアが個人授業をしてくれることになったんだ。なにを習ったのかは、あとで教えるよ!」

 

 ハリーの背中は瞬く間に小さくなり、ドアの向こうに消えてしまった。

 

「ダンブルドアの個人授業?」

 

 セレネは再び指を口元に添えて考え込む。

 本格的な闇の魔術に対する防衛術を習うのか、それとも、ヴォルデモートの倒し方について学ぶのだろうか。

 これは、グリンデルバルドに報告した方がいいことかもしれない。

 

 セレネがそんなことを考えていた時だった。

 

 

 

 

 

「セレネ・ゴーント様」

 

 足元の方から声が聞こえる。

 セレネが目を落とすと、そこには皺くちゃなしもべ妖精が佇んでいた。腰に汚らしいタオルを巻いたしもべ妖精は、めらめらと燃えるような目でセレネを見上げていた。

 

 

 

 

 

 





 なんとか魔性菩薩を期間内に倒せた……と、思った矢先にイベント延長。
 おのれ、FGO。せっせと林檎を食べながら、、ひたすらクエスト消化に励んだのに……!! まあ、延長のおかげで、BBの宝具Maxできそうなんですけどね。

 次回は「ロケット、飛行、誕生日」の三点でお送りします。
 イギリス人の誕生日の数え方って分かりにくい……。


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