Red gem of galar   作:Mira

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ピンクとクイズと、ほんの少しの胸騒ぎと。


Pinky game

ダイヤは茫然としていた。自分のたっての願いを叶える序に妹の力になりたかっただけなのに。

事の発端はルビィがゴーストジムに挑む前のこと。善子の引きの悪さとそれに気づかなかった自身に苛立っていたダイヤはラテラルタウンを足早に散歩していた。Aqoursの一員と己を噂する囁き声すら自分を苛立たせるほどに。

 

「お嬢ちゃん、かわいい顔が台無しだぜ。」

 

商人の男が見かねて声をかけた。

 

「あら、余程有用な商品でないと私は釣られませんわよ。」

 

ダイヤはAqoursであることを抜きにしても今も尚影響力のある領主の末裔だ。地方領主とは言え有名人であることは確かである。だからこそ自分に危機が降りかからんとしていれば毅然とした態度をとる。甘ったれな妹も己を見習ってほしいとさえ思う。

 

「プロテクターが手に入ったんだ。今なら3,000円だよ。」

 

ダイヤには長年のパートナーであるサイドンがいる。元は祖父のサイドンをブリーダーに預けて生まれた子だったらしい。ところがサイドンはサイドンのままだった。ドサイドンへの進化にはプロテクターが必要だから。ポケモンの進化に関わるアイテムはいくつか存在するが、ほとんどが手に入りづらい。だからこそプロテクターを手に入れたのは幸運だった。が、失念していた。ドサイドンに進化するにはプロテクターを持たせた上で「他のトレーナーとポケモンを交換し合う」必要があることを。鞠莉のポケモンたちは全員条件が合わないし、果南は既にカイリキーがいる。親戚たちは言わずもがな。サイドンは強い。しかしより活躍させるためにはドサイドンへの進化も悪くはない。それを思い返した地方予選の後、身支度を整えていたダイヤに声がかかった。

 

「お姉ちゃん、プロテクターが手に入ったって本当?」

「誰から聞きましたの?」

「商人のおじさん。」

 

ダイヤは歯軋りした。情報漏洩がひどすぎる、と。ルビィはそれに気づいたのかどうかわからないが、きらきらとした目でダイヤを見つめる。

 

「丁度良かった!ルビィのポケモンにね、交換をしないと進化しない子がいて。」

「そうだったんですの。では私のサイドンと交換しませんこと?ちゃんと返すんですのよ。」

 

わかってるよぉ、と頬を膨らませるルビィを尻目にサイドンにプロテクターを持たせてやる。大丈夫だよ、すぐ戻ってこれるよ。とルビィはボールに向かって声をかけていた。

 

結果としてサイドンは無事にドサイドンに進化した。これには素直に喜んだ。が、ルビィが交換条件に出したポケモンにダイヤは冷や汗をかいた。

 

「すごい!大きくなったねぇ。」

 

数にして1.8m、両手にコンクリートを携えたそのポケモンはローブシン。飛び跳ねるようにはしゃぐルビィを親のように微笑んで見守っているが、如何せん圧が強い。インテレオンはAqoursでローテーションで育てているのでともかく、思い浮かぶルビィのパートナーたちの中では異様に映った。そもそもゴーストジムまでかくとうタイプであるドテッコツが活躍する場はなく―エール団はまた別だが―、ダイヤも知らなかったのはある種当然なのだが。それを読み取られたのだろうか。ローブシンが視線だけを寄越し、ギロリと睨みつけていた。小さく悲鳴を上げた。

 

「ローブシン、どうしたの?」

 

ルビィの一声にローブシンは向き直り、ようやく安堵する。この主人は大丈夫か、と心配そうにドサイドンは見つめていた。

 

ガラルは決して大きな島ではない。だが少し移動すれば異なる景観を見せてくれる。ルビィや花丸の故郷を思わせる豊かな自然、千歌や果南、曜の住む学校のある大きな海と港町、善子の住む蒸気機関を模した都市等々。だがおとぎ話のような幻想的な空間があるとは聞いていたけれども、実際足を運べば夢のようだった。光る茸に触れながら駆け抜けていく。途中茸の後ろ側にベロバーが隠れていた。じいっと見つめていればそそくさに別の茸へと走り去っていったのでくすりと笑った。

森を抜けた先に次のジムチャレンジの会場、アラベスクタウンがある。幻想的な世界が広がり、ルビィは溜息を吐いた。かつて義賊が住んでいたという町は、宛ら妖精の住処のようであった。スタジアムはアラベスクタウンの奥地にある。ふと一次予選終了後に善子が話していたことを思い出す。アラベスクタウンのジムチャレンジはかなり特殊なものであると。

 

ジムミッション―バトル中に出題されるクイズに答えること。正誤でステータスにバフ、もしくはデバフがかかる。尚、本ミッションはアラベスクタウンジムリーダーのオーディションも兼ねている。

 

ステージ裏のようなミッションフィールドに案内された先にはポプラがいた。本来ならスタッフが説明するのだが、ポプラ直々にミッション案内をしてくれた。何でも高齢のため後継者を探しているそうだ。何故挑戦者から選出するかは不明であるが。

 

「まあ簡単さね。勝負をしつつ、皆が出すクイズに答えるだけ。」

 

バトルに集中しているのにクイズに回答しろ、なんて無茶ではないか。なんて考えをぐっと飲みこみ、ルビィは気の抜けた声しか返せなかった。意地悪という評判がぬぐえないポプラであったが、ルビィはあまりそうは思えなかった。少し変わっているのは事実だろうが。

 

クイズの内容は、確かに捻られていた......どころのものではなかった。フェアリータイプの弱点はよしとしよう、どちらの答えを選んでも正解だったから。だが1人前に戦ったジムトレーナーの名前だとか、朝食に食べているものなんてわかるはずがない。ルビィは己の記憶力と、リーフィアを除いて最も付き合いの長いアーマーガアに感謝した。何より一番怖かったのは演出家のごとく自分のバトルを見つめているポプラだったのは、墓場まで持っていきたい話であった。

 

結果、ジムミッションはクリア、基一時中断した。中々気の抜けないルビィは丸テーブルに腕を付いて大きく息を吐いた。ふと、机の上には書類が置かれていた。それは10年前の、即ちダンデが挑戦者としてジムチャレンジに参加した時のオーディション結果であった。そこにはダンデのバトルセンスと正答数、その他パーソナリティの評価が綴られていた。ポプラの人の見る目に冷や汗をかきつつも、ダンデの下に綴られていた名前を見て仰天した。正答数は3、優秀だが諦めやすい、マグノリアの孫は大変だね、という同情―

 

「ソニアお姉ちゃん......。」

 

バトルフィールドのセンターには、ポプラが一人佇んでいた。70年ほどジムリーダーを務めていただけの貫禄はルビィの肌をひりつかせる。

 

「来たようだねお嬢ちゃん。今更だけど、あたしがジムリーダーのポプラさね。」

「ルビィです。貴女と戦えることを心待ちにしていました。」

 

言うじゃないかい、とポプラの口は弧を描いた。ホップの悩む姿に心を痛めていたルビィの背中をポプラは押したのだ。70年以上ジムリーダーを任された器はどれだけ広いのだろうか。しかしどういう意図があれ、ジムリーダーにはバトルで報わねばならない。

 

「クイズにしっかり答えたアンタのリアクション、たっぷりと見させてもらうよ。」

「......どうぞ、存分に。」

 

「さぁ、あたしの自慢の子だよ。」

 

先鋒はマタドガス、対するルビィはアーマーガア。だがアラベスクタウンのジムチャレンジは折り返し地点だ。ふう、とルビィは息を吐く。

 

「第一問。あたしの渾名、知ってるかい?」

「......魔術師です。」

 

正答のベルが鳴る。まずは一問、とルビィは胸に手を当てた。

 

「だがあたしの自慢の子は甘くないよ。」

 

マタドガスの口から白い蒸気が放たれる。ところがアーマーガアはそれを諸ともせずマタドガスに頭突きを喰らわせた。ポプラはほう、と息を吐く。確かにアーマーガアははがねタイプのためフェアリーには有利だ。ところがそれにルビィは胡坐をかいていない。現にマタドガスはあの頭突きで伸びてしまった。

 

「見どころのある子だね。だが、次のこいつはどうだい?」

 

次鋒はクチート。クチートの威嚇によってアーマーガアの火力が削られる。ステータスは安定しているが、アーマーガアはステータスが平均である一方決定打に欠けるポケモンだ。ルビィは考えた末ブースターと交代させた。あどけないが大変冷静だと、ポプラは興味深そうに微笑んだ。

 

「第二問。あたしの好きな色、知っているかい?」

「......紫色です!」

 

ルビィは見逃さなかった。ユニフォームのアクセントに使われている紫色に。他人に求めるものと本人の好みは違う、それを見抜いていたことにポプラは感心した。

 

「いいね、あんたいいよ!」

 

だがポプラも本気で答える。どのポケモンたちも相当に鍛えているであろうから。クチートのいかくに先制されても、ルビィもブースターもどこ吹く風だった。ブースターは足の遅さと脆さで忌避されがちであるが、元の火力は決して侮れない。故に威嚇だけで牽制することは難しかった。ブースターは炎を身にまとい、クチートにそのまま突進した。

 

「やるねえ。」

「この機を活かさないわけにはいかないから!」

 

ぎらついた翡翠の瞳に、今日まで最もバトルセンスが高いと認めた少年を思い出す。ポプラもまた密かに高揚した。

 

「だが次はどうだい?」

 

副将はトゲキッス。対するルビィはアーマーガアと交代させた。成程、この子は見た目に反して甘くない。トゲキッスは風の刃をアーマーガアに見舞う。同じひこうタイプのアーマーガアはそれを受け止め、頭突きを喰らわせた。甘くはないいい子ちゃん、ポプラはゆっくり頷いた。

 

「......眠気覚ましの紅茶、ようやく効いてきたようだよ。」

 

大将はマホイップ。だがその小さな見た目に、ルビィは畏怖した。マホイップもまたポプラと長い人生を歩んできたはずだ。小さな体から放たれる何かに気圧される。血が冷たくなるのを感じたルビィに再び温度を取り戻させたのは、ルビィに視線を寄越すアーマーガアだった。―嗚呼、怖がってばかりじゃいけない。この子たちは、ルビィを信じているんだ!

 

「いい目をしているね...腹を括ったかい?ちょいと楽しませてもらうよ。」

「畏れも一緒に!楽しむ!!」

 

2体はボールに吸い込まれていく。ポプラの後ろに現れたのは巨大なケーキにちょこんと座るマホイップ。ルビィの後ろではアーマーガアが吠え、客席を薙ぎ払んばかりに羽ばたいた。

 

「あたしの自慢の相棒さ。実にピンクだろう?」

「ええ、とても...でもアーマーガアだって負けてない!!」

 

何て眩しい。少し前に彼女とその仲間たちのパフォーマンスを見たが、それとは違った眩しさだ。勿論アーマーガアも。

 

「でもね、あんたらに足りないピンク、あたしらがプレゼントしてやるよ!」

「それならこれが!ルビィたちからの贈り物です!!」

 

マホイップを鋼の剣山が突き刺す。しかし大将として鍛えられただけはあるだろう、マホイップはそれを耐えきった。

 

「中々重くていい一撃じゃないか。でもこいつはどうだい?」

 

アーマーガアの頭上から放たれる星々。アーマーガア自体は元気に空を舞っていたが、マホイップは体力を取り戻してしまった。ポプラの口元が弧を描く。

 

「さて、最後の一撃の前に最終問題!!この問題でその子の一撃が通るかどうか決まると思いな!」

 

ぎらぎらとした目を隠さず、ルビィは身構える。ところがその目は驚愕に見開かれた。

 

「あたしの年齢、知っているかい?」

「......年齢!?」

「あたしは優しいからね、二択にしてあげるよ。1, 16歳。2, 88歳。」

 

どう考えても88歳だろう、とルビィは飲み込む。今日のルビィとそう変わらない年でジムリーダーに就任して70年以上経過しているのに。だが相手は女性だ。正直に答えられて気を損ねるかもしれない。だが16歳と答えたところで世辞を言うなと不機嫌になってしまうのではないか―ああ、もう。どうにでもなれ。

 

「16歳!!!!!」

 

やけくそになったルビィはハチャメチャな答えを叫んだ。ポプラは鋭くルビィを見つめる。ルビィの呼吸が浅くなった。

 

「いい答えだよ!!」

 

アーマーガアは更に吠える。この機を逃すな!とやけっぱちになったルビィは叫んだ。2度目の剣山に、流石のマホイップも耐えきれなかった。

 

「...おめでとう。これで最後のチャレンジは突破だよ。それとオーディションだけどね、残念ながら不合格さ。」

 

趣味みたいなものだから気にするな、とポプラはバッジフレームにピンク色の文様のバッジを嵌め込んだ。ありがとうございました、と満足そうに答えるルビィにポプラは今度こそ満足そうに満ち足りたように笑った。

 

「...それじゃああたしはこれでお暇するよ。」

 

年寄りが蔑ろにされる世界もよくないが、年寄りがでしゃばる世界もよくない。そう呟きながら退場するポプラを、ルビィは静かに見つめていた。視界の端に、見知った銀色の髪の毛が揺らめいた。

 

 

6番目のスタジアムはキルクスタウンにあるという。これもナックルシティを経由せねばならない。タクシーを呼べるか考えていたところ、聞いたばかりの声に呼び止められた。

 

「ナックルシティに用事があるんだけどね、あんたもついてくるかい?」

「え、いいんですか?」

「まぁ、ついでさね。」

 

ポプラとタクシーに乗り込み、ナックルシティを目指す。ポプラは世間の評判よりも面倒見がよい人であった。単にジムチャレンジが特異なだけで。とりあえずピンク、が魅力的、という意味合いのものであるのは何となくわかった。タクシーから降車したところ、見覚えのある後ろ姿があった。

 

「ビート君?」

「......僕の姿を態々見に来るなんて、随分余裕ですね?」

「偶然なんだけどなあ。」

 

ビートの悪態はどこか慣れてしまった。寧ろいっそ微笑ましくて、胸に刺さるものがある。何より目元にできた隈が証拠だ。おそらくローズに挑戦者として復帰させてほしいと頼みに来たのだろうか。それを指摘したところで怒られるだろうが。

 

「おや、あの子...如何にもピンクだね!」

 

突然の大声にへ?と間抜けな声が漏れた。ルビィの傍にいたリーフィアも同時にポプラを凝視した。真っすぐでひねくれている、と評したポプラは形容し難い形相で杖を放り投げピートに掴みかかった。ルビィもリーフィアも目が点になった。

 

「ピンク!ピンク!!ピンク!!!おめでとう!」

 

これにはビートもいきなり何をするんだと仰天していた。このときばかりはルビィも大きく頷いた。リーフィアも頷いた。

 

「オリーヴにいいように使われて必死に願い星を集めてたのに、見捨てられて困ってるんだろ?」

 

付いてくれば何とかしてやる、とポプラは付け足した。必死に願い星を集めている挑戦者として有名になっていることにビートはどう思うのだろう。あまりいい目を向けられていなかったのではないか。しかし当のビートも負けん気が強いのか、貴女を認めさせてやると着いていってしまった。一件落着?と、ルビィはリーフィアと顔を見合わせるのだった。

 

「おっ、ルビィちゃん。ジムチャレンジ順調?」

「うん、お蔭様で。」

 

5つのバッジを嵌め込んだフレームを掲げると、ソニアはおめでとう!と抱き寄せて頭を撫でてくれた。一方リーフィアはワンパチと戯れていた。

 

「あれからラテラルタウンの遺跡を調べていたんだけど、剣と盾がどんなポケモンかわからないんだよね......。」

「どこにいるんだろう......。」

 

ルビィの頭に過る、まどろみの森にいた赤い狼。ルビィをじっと見つめて、霧の中に溶けていった「彼」はどこに行ったのだろう。だが、それと剣と盾に何の関係が?

とにかくソニアは再び宝物庫を見学して調査を進めるそうだ。ルビィもまた、道中何かわかれば連絡すると伝えた瞬間、空から轟音が鳴り響いた。2人は、いや、その場にいた全員が空を見上げた。

 

「何の音!?」

「今、スタジアムが揺れて......!」

 

スタジアムの地下にはマクロコスモスのエネルギープラントが眠っているはずだ。もしそこで異変があったら一大事だ。ソニアのポケットからアラームが鳴る。パワースポットを探知するセンサーが搭載されたスマホロトムだ。

 

「パワースポット......ダイマックスできるってこと?」

 

ソニアとルビィは顔を見合わせた。

 

「驚かせてしまったな。ローズ委員長がまた何かテストをしているらしくて......。」

 

スタジアムから駆けてきたダンデがソニアの元にやってくる。ソニアは悲鳴を上げた。

 

「そのせいでナックルシティでポケモンがダイマックスしちゃうかもしれないじゃない!」

「そうなのか?委員長に伝えないと......。」

 

現在のナックルシティスタジアム周辺が、一時的にとは言えパワースポットと化していることを知っているのはソニアしかいない。そもそも、ダンデ自身がテストの内容を知らないのかもしれない。だが、ダイマックスという現象自体が現状不明瞭なのだ。如何なる影響があるかもわからないし、現に街全体に影響が及んだのだ。ルビィの背中に冷たさが走る。

 

「ダンデ君は迷うでしょ?私も一緒に伝える!」

「あの......。」

 

自分も、とルビィは前に出る。だがダンデはそれを制した。

 

「俺は楽しみにしているんだ、君と戦えることを。」

「そうそう!あたしたち大人に全部任せて、ルビィちゃんはキルクスタウンに行っておいで!」

 

先に走って行ってしまったダンデを待って!と追いかけるようにソニアは走る。嫌な胸騒ぎがする―ルビィは手を伸ばした。

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