Red gem of galar   作:Mira

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初めてのバトル。英雄との邂逅。


Strange Encounter.

ガラルに暖かな光と静寂が訪れるクリスマス休暇。隣町に住む幼馴染の勧めで、ルビィは彼の兄とその長年のライバルという青年のエキシビジョンマッチを共に眺めていた。エキシビジョンマッチは公式戦とは言えどジムリーダーたちの成績に反映するものではないが、ガラルのチャンピオンは10年間無敗記録を更新し続けている。今回の対戦相手はダンデのライバルと称され、尚且つお互いも認めているキバナだった。

 

『ダンデ!エキシビジョンマッチとは言えどお前の無敗記録、ここで止めてやる!!』

『どんなバトルでも負けないぞ!』

 

10年間無敗を貫くためにどれだけ努力し、どれだけ精神的に強くあらねばならないのだろうか。今から課せられるもう一つの運命に、ルビィは大きく深呼吸しながら膝を抱きしめた。

 

「ダンデさん、やっぱり強いね。」

「だろだろ!!いつかあそこまで上り詰めるんだ......!」

 

幼馴染のホップは兄をとても慕っており、そして兄と同じ景色が見たいといつも願っていた。ルビィも姉のことを尊敬しているが、到底姉のようにはなれないだろう。そんな自分は果たしてホップと共に茨の道を走れるのだろうか。白熱した試合を目にしながら、ルビィは昨日のミーティングを思い出すのだった。

 

 

ラブライブ夏季大会に向けたミーティングの最後に、ルビィはあることを告げた。それは今年自分がジムチャレンジの推薦を受けようと考えていることだった。勿論隣町に住む幼馴染も一緒に推薦を受けると伝えて。だがそれを真っ先に反対したのは自分の姉であった。

 

「私は断固反対ですわ。どうせあの男がしつこかったのでしょう。」

 

ダイヤはガラルの現チャンピオンの弟に嫌悪感を抱いていた。ダンデやホップとは隣町とは言え懇意にして貰っていたが、ほぼ面識のないダンデは兎も角としてルビィと仲の良いホップに対してはこの有様である。ダイヤが浦の星の初等部に入学した頃は今日ほど辛辣な態度ではなかったはずだが。

 

「ホップ君はルビィのことを待っててくれてたんだよ。ルビィの決心が固まってからでいい、って。」

「ちょっと待って!ルビィちゃんダンデさんと知り合いなの!?」

 

梨子の驚きの声にルビィは頷く。どうも梨子もそれなりにジムチャレンジは観戦しているし、余裕があれば現地観戦もしているようだ。

 

「うん、あまり会ったことはないんだけど...隣町に仲のいい子がいるんだけど、その子のお兄さん。」

 

世間って狭いのね、と呆けた顔をする梨子に対して他のメンバーも互いの顔を見合わせあっている。それもそのはず、現チャンピオンはガラルリーグ史上最年少にして、それまでバトル経験もなかったにも拘わらずチャンピオンに上り詰めたのだから。

 

「そ、そのダンデの弟を介してアプローチを受けてたってわけ?」

「善子ちゃん、語弊を招く言い方はやめるずら。」

 

善子は元々ポケモンに詳しいが故にスクールアイドル交流のための親善バトルでも好成績を残しているし、花丸に至っては兄がジムリーダーであるためジムチャレンジの事情には詳しい。だからこそダンデから推薦したいと前々から告げられていたという事実はビッグニュースだった。

 

「それって凄いことなの?」

「凄いよ!ダンデさんって、とっても強いのに今まで推薦したことなかったんだよ!?」

 

千歌はジムチャレンジに興味がないため、あまりピンと来ていなかったが曜がフォローする。しかもその相手が、スクールアイドル初の挑戦者になるかもしれないのだ。

 

「成程、それなら統廃合の決め手にもなりそうね。」

「それにルビィちゃんもやる気だよ?ダイヤはどうしてそんなに嫌なの?」

「そうよ、Aqoursとジムチャレンジの相乗効果で入学希望者数が増えるかもしれないのに!」

 

ルビィの活躍によって入学希望者数が増えたら願ったり叶ったりだ。浦の星があるバウタウンでは、観光に対するガイドラインが役所から交付されるほど第三次産業の収益は上がっている。だが入学したい、と思わせるあと一歩を探していた鞠莉はにやりと笑った。おまけに現チャンピオンからの推薦だ、益々箔がつくだろう。しかし、それでもダイヤは動かなかった。

 

「いいですか、ジムチャレンジを突破するには半年以内に8つの街を回らなくてはならないのですよ?しかも道中は決して安全ではありませんわ。ルビィはバトルもしたことがないのに......。」

「......ダンデはジムチャレンジが初バトルだったのよ?」

 

そんなものは理由にならない、と善子が暗に示すとダイヤがオーロンゲのような形相を浮かべた。善子は小さく悲鳴を上げる。

 

「手持ちポケモンだっていないのですよ!?そんなルビィにどうしてあの男は......!」

「いるよ。」

 

イーブイ、とルビィは声をかける。すると机の下から元気な鳴き声と共に、ひょこりと癖毛のイーブイが顔を覗かせた。千歌がかわいい!と叫ぶとイーブイに一斉に注目が集まる。イーブイ自身はきゃっきゃと笑い声をあげた。

 

「尻尾が少し小さいから雌なのね、珍しいわ。」

「......お姉ちゃん、この子が産まれた時からルビィは一緒にいた。この子と一緒に、ルビィは強くなる。」

「......お母様は、何と。」

「ルビィがやりたいなら、応援するだけだって。」

「......もし危ない目に遭ったら、家の総力を上げて辞退連絡をします。」

「そんなことにはならないよ。でも、ありがとうお姉ちゃん。」

 

イーブイの大きな瞳がダイヤをじいっと見つめる。ダイヤは大きく目を見開いた。胸元にあったはずのかわらずのいしが、なくなっていたのだから。

 

エキシビジョンマッチは激戦だったとは言え、勝利を納めたのはダンデだった。長年のパートナーであるリザードンとハイタッチをする一方で、対戦相手の青年は笑顔ではあったものの、その前に両手で頭を抱え込んでいたことをルビィは見逃さなかった。

 

「この人、悔しそう。」

 

キバナは8番目のジムリーダーでありダンデが認めるライバルだ。今もなお黒星を付けられないでいる。もちろん8番目ということは最後のジムであり、尚且つ『他地方であればチャンピオンになれる実力』と称されているのだ。ダンデが規格外なだけで、キバナもまた実力者であるのは確かなのに。

 

「アニキがいっつも言うんだ。観客はどちらかの勝利と敗北、両方を望む残酷な人々なんだって。」

「うん、スクールアイドル始めてルビィも感じた。」

 

好成績を上げればそのままラブライブ一次予選を免除されるスクールアイドルのイベントに参加した結果、あまりにも残酷な結果を目の当たりにしたからこそ言える。確かにバウタウンでは持て囃されていた。しかしそれは人々の好意に甘えていたに過ぎなかった。ガラル全体、全地方までスケールを広げたら見向きもされないことは最早珍しくない。スクールアイドルの数が黎明期の10倍にも膨れ上がった今日ではあり得る現象だったとは言え、その現実は迎えに来たソニアの胸元でルビィが大泣きするほどだったし、千歌も海岸で悔し泣きしていた。

 

「でも、アニキはこうも言ってた!その中で掴む勝利は、何物にも耐えがたいって......!!」

 

しかし一次予選では上位4組に食い込み、最終予選まで駒を進めたのだ。そのときの嬉しさは確かに覚えている。ダンデも10年間玉座死守を望まれた一方、敗北を強く願われたのかもしれない。成程説得力がある。

 

「そんなアニキが俺たちを認めてくれたんだ!絶対伝説を刻んでやるぞ!!」

「うん!頑張ろうね!!」

 

はた、と気づく。そういえばあの完璧超人なチャンピオンだが、一つだけ欠点があったのだ。

 

「ダンデさん、ちゃんとハロンタウンまで来れるのかな......。」

「......ちょっと心配になってきたぞ。」

 

ダンデは方向音痴だ。馴染みの場所ですら道に迷う。リザードンに乗っていればその限りではないが、言い換えれば長年のパートナーがいなければ目的地に辿り着けないのだ。二人は顔を見合わせた。

 

「迎えに行こうか!」

「ああ!リザードンだけじゃちょっと心配だもんな!」

 

 

ブラッシータウン駅前は酷く混雑していた。駅の利用者が大勢いるわけではない、リーグ開会前にチャンピオンが故郷に帰ってきたのだから。あまり身長の高くないルビィとホップが首を伸ばしても、ダンデの姿は確認できない。しかし隙間から橙色の竜が見え、2人は人ごみの隙間を縫ってダンデに駆け寄った。

 

「やあお前たち!待っていたぞ!」

 

ダンデは住民たちとは違う穏やかで、しかし太陽のような笑みを浮かべてホップとルビィの頭をそれぞれ撫でた。張り切らんばかりに飛び跳ねるイーブイを久しぶりだな!と抱きかかえたりもした。

 

「アニキ!不安だからルビィと迎えに来たぞ!」

「ありがとう!いやぁ、リザードンがいなければ目の前の建物にも辿り着けないからな俺は!」

 

誤魔化すように高らかに笑うダンデにルビィは苦笑いした。ホップでさえ呆れ顔、イーブイに至ってはジト目である。

 

「そんなことより!ポケモンとルビィへのプレゼントは?」

「ああ、今日の本題だな。まずは家に帰ろう!」

 

当然実家にすら満足に帰れないなんてことは御免だ。ホップが先頭でダンデの手を引き、ルビィが最後尾についてハロンタウンへと向かった。リザードンがルビィに申し訳なさそうな顔をしていたのは内緒である。

 

「みんな、出てこい!」

 

3つのモンスターボールがダンデから解き放たれると、3匹のポケモンたちがダンデとホップの実家の庭で楽しそうに遊んでいた。ちょっとしたアクシデントでメッソンが泣き始めたり、途中でヒバニーが蹴飛ばした小石をイーブイが尻尾で叩き落としたことですっかりメッソンの涙も引っ込んだ。ルビィの頬が自然と緩む。この3匹の内1体が、ホップのパートナーになるのだと言う。

 

「......ウールーに続く、お前の大切な仲間になる子だ。しっかり考えて選ぶんだぞ!」

 

可愛らしく、しかしとても頼りになる相棒なのだから。しばらく頭を悩ませていたホップだが、ヒバニーに拳を差し出した。

 

「...決めた!お前にするぞ、ヒバニー!!」

 

声をかけられたヒバニーは嬉しそうに拳を差し出した。ダンデは残りのサルノリとメッソンに一言かけた後、ルビィに向き合った。鞄の中から小箱を取り出し、ルビィに差し向けた。

 

「この箱の中身は、きっと君の相棒の力になってくれる。好きなものを選ぶんだ。」

 

小箱の中には赤、青、黄色、緑、水色の石が並んでいた。覗き込んだホップも思わず綺麗、と息を呑んだ。しばらく小箱の中を眺めていたルビィだが、導かれるように緑色の石を手に取った。自分の瞳の色と同じ色の石はリーフの石。くさタイプの力を秘めた進化の石だった。

 

「イーブイは遺伝子の揺らぎが大きく、周りの環境の影響を受けやすい。だが、それは様々な進化の可能性を秘めているとも言えるんだ。進化の石による進化以外にもあるとは聞いているが...それをいつどのように使うかは、君たち次第だ。」

 

いつもならルビィにべったりなイーブイがダンデを真剣に見つめる。その時、イーブイは跳びあがってルビィの手元にあったリーフの石に触れた。ルビィが小さく悲鳴を上げた途端、イーブイは光に包まれた。あまりの眩しさにホップも目を瞑る。

 

「...あれ?」

 

イーブイが目の前にいない。代わりに葉を模した尻尾や耳を持つ姿に変わっていた。

「おめでとう、ルビィ。イーブイは今、くさタイプの力を秘めたリーフィアに進化した。きっと君の旅の心強い相棒になる。」

 

ルビィはリーフィア、と繰り返しながら小首を傾げた。どうも色合いが父のエーフィと違うからだ。リーフィアは嬉しそうに、しかし誇らしげににこにこと笑ってルビィの胸元に飛び込んだ。ルビィはリーフィアを抱きかかえ、頑張ろうねと囁いた。リーフィアもそれに応えるように鳴いた。

 

「すっごいもん見ちゃったぞ!!俺たちも頑張ろうな、ヒバニー!」

 

初めてポケモンの進化を目の当たりにしたのだ。ホップは少し興奮気味だったし、ヒバニーも目を輝かせていた。

 

「さて、せっかく冒険に出るんだ。2人でバトルをしてみたらどうだ?」

 

ジムチャレンジに挑むということは、バトルは避けられない道だ。ダンデもルビィの事情は知っていたとは言え、ジムチャレンジに挑むということはバトルをすることを了承したということだ。当然ルビィも気丈な返事を返した。

 

「頑張ります!」

「ルビィ、勝負だ!ここから、俺の伝説の1ページが刻まれる!」

 

 

勝負はルビィに白星だった。ホップはウールーもパートナーだったが、リーフィアが堅実に対応してくれたお蔭でタイプ相性的に不利なヒバニーも倒してしまった。

 

「ホップ君2体いるし、相性不利だし焦ったよぉ......。」

「何言ってんだよ!お前とリーフィア強すぎだぞ!」

「2人とも素晴らしいバトルだった!思わずリザードンと一緒に参加してしまいそうになった...!」

 

ダンデはその座に胡坐をかかない。ビギナー同士のバトルでも学ぶべきものは学び、素質を見出す。だが本当にリザードンと一緒に割って入られると困るとホップが告げると、また誤魔化すように笑った。

 

「と言うかアニキ!推薦状は?」

「まぁ待て。まずは2人とも、ポケモンにもっと詳しくなるんだ。ルビィ、ブラッシータウンのポケモン研究所のことはわかるな?」

「はい!ルビィの家のすぐ近くだから。」

「そこに知り合いの博士見習いがいる!ポケモン図鑑をもらってくると良い。」

 

2人ともポケモンのことに対しては初心者だ。知識を制する者はバトルをも制す。ダンデが言いたいことはそういうことであろう。一緒に行こうと一声かけようとしたルビィだったが、ホップがあるウールーを見つめていた。

 

「あいつ、まどろみの森に入っていこうとしてないか?」

 

まどろみの森は霧が深いため、本来子供たちが入っていいような場所ではない。ブラッシータウンに住んでいるルビィにさえその言いつけは伝えられていた。普段は門が閉められているが、それをウールーがたいあたりしてこじ開けようとしていた、ということである。

 

「流石に放っておけないぞ......。」

 

まどろみの森に走って行ってしまったホップをルビィは追いかけた。ルビィはホップより年上だが、当然まどろみの森にすら入ったことがなかった。初めはともかく、だんだん霧が深くなりルビィも怖気づく。しかし、一気に霧が深くなった頃、ルビィの前に誰かが現れた。正確には人ではない。青い髪を携えた狼のような......。

 

「...貴方は誰?」

 

その狼のようなそれはルビィをじっと見つめた後、霧の中に溶けていった。




2022.12.17.大幅に修正
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