Red gem of galar   作:Mira

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旅立ち、油断。
不穏な気配。


In the silence

開会式は年明けである1月2日。いつもなら前日にダイヤの誕生日を細やかに祝った翌日にスクールに通うのだが、例年通りなら開会式に到底間に合わない。何故なら開会式の会場はスタジアムの中でも老舗と言っていいエンジンシティスタジアムなのだ。ブラッシータウンからは鉄道を使わねばならず、しかもここ数日ウールーが線路を陣取っておりワイルドエリア駅で降車して抜けなくてはならないことが発覚した。しかもこのワイルドエリアが広く、天気もコロコロと変わるため余裕を持たなければ間に合わないし、最悪命の危険もある。それを知ったダイヤが速攻でリーグに辞退の連絡をしかけたほどだ。しかしルビィが再び頭を下げたことと、クリスマス休暇を家族と、そしてAqoursと共にダイヤの誕生日を祝うことで渋々と了承してもらえた。そしてその日はルビィの出立祝いも兼ねていた。不慣れながらもルビィが抹茶のティラミスを鞠莉と善子と作ったり、方やダイヤもルビィの好物であるスイートポテトを振舞ってくれた。ダイヤはようやく成人を迎え、飲酒させてみようかと鞠莉が提案したものの、善子と花丸はまだ15歳だったため果南が止めた。3人でお酒を飲みましょう、とダイヤが窘めればようやく鞠莉も大人しくなった。

 

 

「ルビィちゃん、お祝いってほどじゃないけどおばあちゃんからルビィちゃんにって。」

 

ダンデはリーグ開催が近くなったためシュートシティへ出発してしまったが、ホップとソニアもダイヤの誕生日を祝ってくれた。ルビィの作るお菓子は2人には好評だった。

 

「ほら、ホップとバトルした後頭上から何か降ってきたでしょ?あれはねがいぼしって言って、ポケモンがダイマックスするエネルギーが込められているの。原因はまだわかっていなくて、おばあちゃんと研究してるんだけど......。」

 

ダンデに推薦状をもらった後、空から降ってきた黒い塊。それをマグノリア博士が回収し、パワースポットでポケモンをダイマックスできるリストバンドを作ってくれた、とのことだった。実際ホップも右手首に同じものを付けていた。

 

「いつかルビィとダイマックスバトルする日が来るんだな!」

 

声を弾ませるホップに、心強い仲間ができたとルビィは安堵した。どくり、と鳴った心臓に目を背けたまま。

 

 

広大なワイルドエリアをリーフィアが駆け、道端で捕まえたココガラが彼女を追いかける。青空と雨雲のグラデーションに冷や汗をかいたルビィは2匹を追いかけた。

 

「待って!雨が降るよ!!」

 

リーフィアは明るい性分だが、まさかボールから勝手に出てくるとはルビィも予想外だった。ほぼ放し飼い状態だったためボールの外に慣れているせいもあるのだろう。おまけにココガラも似たような性分と来た。2匹ばかりを気にして足元を見ていなかったルビィは巣穴に躓き、そのまま巣穴へ真っ逆さまに落ちてしまった。ルビィの悲鳴にリーフィアが立ち止まり、つられてココガラも動きが止まる。2匹が振り返ると、静寂の巣穴から赤紫色の光が放たれた。

 

「痛た...。」

 

軋む身体を持ち上げるようにルビィは起き上がった。空は赤黒く、赤い閃光が迸る。辺りは岩山ばかりで、緑や川もない。ルビィは身を竦ませながらも、辺りを見回した。リーフィアとココガラを追いかけていたら石に躓いた気がするが、確かソニアからワイルドエリアのことは粗方聞いた気がする。ワイルドエリアはねがいぼしが潤沢な場所で、巣穴に潜り込むときは注意しろと。ルビィからさぁっと血の気が引く。ボールベルトをぺたぺたと触るも、2匹ともボールから放り出してしまっている。ルビィは頭を抱えた。瞬間、ルビィを吹き飛ばすような咆哮が響く。そこに現れたのはサイドンだった。ダイヤの自慢のパートナーとは勿論別個体だが、一度ダイヤの機嫌を損ねて追いかけまわされたこともあり、小さな悲鳴を上げる。どうしよう、と呟くも打つ手がない。瞬間、ここにあるはずのない木の葉がふわりと舞い、サイドンを襲った。

 

「リーフィア!」

 

くるりと一回転してルビィの足元に降り立つ。ココガラも巣穴から飛んできてルビィの周りを飛び回った。恐らく心配してくれているのだろう。申し訳なさはサイドンの咆哮と共に盛り上がった大地に掻き消される。このサイドンは明らかにルビィを狙っている。最初に入ってきた異物と見做されたのか。リーフィアとココガラが割って入る。このままではこの2匹も無事では済まない。何より自らの不注意が理由だと言うのに!

 

「やめて!!!!」

 

 

気が付けばルビィは巣穴の横で、雨ざらしの状態で倒れていた。リーフィアとココガラが自分を覗き込んでいる。ココガラは呆れたように溜息を吐き、リーフィアは自慢の尻尾でぺしぺしとルビィの頬を叩いた。

 

「ごめんてば。」

 

あれは夢だったのだろうか。だが膝の痛みが続いているからきっと現実だ。だがサイドンに攻撃されてから巣穴から放り出されるまで全く記憶にない。ルビィは片手で額を押さえて考え込むが、リーフィアとココガラにスカートの裾を引っ張られて我に返った。

 

「そうだね。移動しようか。」

 

少し移動すればきっと快晴だろう。そこまで移動してキャンプを張って、小腹を満たそう。ルビィは2匹をボールに戻し、ワイルドエリアを駆けていく。

 

 

2匹は伝える術を持たない。ルビィの口から赤い光線が放たれたことを。

 

 

 

時は少し遡り、クリスマス休暇の前にリーグミーティングがあった。本来ならシーズン外のこの時期だが、年末前にジムチャレンジ挑戦者が一通り決まるため、そのリストがジムリーダーたちに配布された。挑戦者の顔写真や氏名、住所、家柄まで事細かに掲載されているリストは万が一のことを考えて処分しやすいよう紙媒体での配布である。相変わらず大都市のエンジンシティやシュートシティ出身の挑戦者が多いな、と独り言ちながら、ページを捲っていく。はたと目に留まったのは女性、正確には少女のチャレンジャーだった。ブラッシータウンの出身だそうだが、推薦者欄にはよく知った名前が記載されていた。

 

「推薦者、ダンデ?」

 

何でこんなガキを、と不思議に思った。来年のジムチャレンジにはダンデは2名推薦したそうだが、もう片方は弟だからわからなくもない。しかし彼女はダンデの故郷の隣町の住人であることを差っ引いても、怯えを隠しきれていない表情に小首をかしげた。他のジムトレーナーたち曰くブラッシータウンの領主の次女らしいが、バウタウンにある女学校のスクールアイドルの一員だそうだ。

 

「......何だそれ。」

 

しかもよく見たら中等教育下に置かれていて余計驚いた。ダンデの弟と同い年かまたは年下だと思い込んでいたのだ。彼はSNSを頻繁に更新したり、ファッションに明るくおまけに美丈夫であるため勘違いされやすいが、本来己に厳しく価値観もしっかり持っているため流行に関してはとんと疎い。おまけに芸能関係に関しては本人の興味の対象外であることも相まって聞かれても困るほどだ。

 

「......でもお姉さんや同期の子たちはよくバトル配信してるのに、ルビィちゃんあまりこういうのに参加しないんですよね。」

 

それなら猶更不思議だ。バトル経験も豊富で恐らく後継ぎであろう姉を推薦するのはまだわかるから。だがどうもいら立ちが募る。否、その表現では済まないほどの何かが沸き上がった。

 

―師匠!

 

担架に乗って運ばれる先代ドラゴンジムリーダー。幼き自分を抑えるジムトレーナーたち。目を伏せる兄弟子。新聞に掲載された、ナックル城を破壊した犯人。

 

 

推薦者ダンデのページにメモを書いた付箋を貼り、キバナはリストを机に放った。

 

"Going to kill you."




2022.12.17.大幅に修正
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