Red gem of galar   作:Mira

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開会式。
運命は交錯する。


Opening Ceremony

Aqoursの面々ー一人を除くーが小遣いを出し合ってプレゼントされたキャンプセットをリーフィアとアオガラスと共に畳む。アオガラスが獲ってきたきのみを刻んで煮込んだカレーはルビィが今日まで食べたものよりも美味だった。母のカレーは香辛料の味しかせず、ダイヤのカレーはモモンの実とレードル3杯分のあまいミツを入れているため大変甘い。クラボの実は少し辛かったが、味は悪くないと自画自賛した。

空腹を満たしたルビィはリーフィアとアオガラスを追いかける。道中の野生ポケモンのバトルか、カレーで力をつけたのかは不明だがココガラは瞬く間にアオガラスに進化した。元気な2体を追いかける内に、エンジンシティのゲートに辿り着いた。サングラスで顔が見えないリーグスタッフが推薦状を出せと命じる。電車なら兎も角、ワイルドエリアを無事抜けたトレーナーは大体相応の実力があると見做されるためだ。無法者を炙り出すため、トレーナーである資格を提示する必要がある。ルビィはダンデからの推薦状を提出し、封筒に書かれたダンデの署名を見て目を丸くするものの、乱暴に推薦状を返して通れ、と顎でしゃくった。リーフィアは唸り声を上げるが、ルビィは制止した。いくらなんでも悪手すぎる。ルビィは無言でエンジンシティのゲートを潜った。

 

 

 

元々善子と曜の故郷なので何度か遊びに行ったことがある。蒸気機関により発展したこの町は善子も色々言いつつ気に入っているらしい。今でこそシュートシティに規模は奪われてしまったが、十分なガラルの巨大都市だ。

開会式会場であるエンジンシティスタジアムは、ガラル地方のスタジアムの中で最も古巣だ。故に開会式の会場として毎年利用されている。ルビィがスタジアムに繋がる昇降機に乗り込もうとした瞬間、昇降機とは真逆の方向に歩くダンデを見つけた。ルビィは顎が外れそうになったが、スクールアイドル活動で培った肺活量を活かした。

 

「ダンデさん!逆です!!逆!!」

 

だがダンデは気づかない。開会式前で賑やかとは言え、ルビィに振り向いている歩行者もいるのに。幸いリザードンがボールから出て昇降機を指差し、漸くダンデは道を間違えたことに気づいたようで、申し訳なさそうに笑っていた。唇を噛むルビィを見つめたリーフィアは昇降機のUPボタンを押し、ぷい、とダンデからそっぽを向いた。

 

巨大な歯車が回転すると、目の前にはスタジアム。開会式故かチャンピオンカップの関門である8つのスタジアムのエンブレムが飾られている。スタジアムに入ろうとしていたホップが振り返り、ルビィに大きく手を振った。ルビィも手を振りかえし、駆け寄った。

 

「開会式は全国に放映されて、家族だけじゃなくみんなが見るんだ......!」

 

ガラルのポケモンリーグは他の地方のリーグと比較してもエンターテイメント性が強い。チャレンジ中は毎回公式ウェブサイトで配信され、テレビでは特番が組まれてその様子が全国放映される。つまりルビィがジムチャレンジに挑む姿がガラルの人々の前に晒されるわけである。例えリタイアしてしまっても、それは変わらない。ルビィは胸元で手をきゅっと結んだ。

 

「そっか。ラブライブ以上の規模の人たちが。」

 

ラブライブもアマチュアとは言え、まざまざと結果を突きつけられる。あるグループの勝利はそれ以外のグループの敗北。歓声をあげて飛び跳ねるスクールアイドルの横で、顔を覆って泣くスクールアイドルたちを何度見てきたことか。拳を握ると、足元にリーフィアが擦り寄った。大丈夫、私が付いていると言わんばかりに。リーフィアを一撫ですると、ころころと笑った。

 

「行こうルビィ!世界が俺たちを知るんだ!」

 

ホップがルビィの手を握り、興奮を隠さぬよう走っていく。ホップが自分の手を握るのは今に始まったことではないが、その力強さと熱さで心が落ち着いていく。

 

チャンピオンカップには毎年多くの挑戦者がエンジンシティスタジアムに集まる。その参加者人数にルビィとホップは目を丸くして周囲を見渡した。流石のホップも挑戦者の数に圧倒された。この中で戦わねばならないのかと、ルビィは足が竦んだ。しかしリーフィアの強い眼差しとココガラたちのエールを送るような震え、そしてホップが手を引いてくれたことがルビィを奮い立たせた。推薦状を手元に準備すると、受付を済ませたらしい少年が太々しく去っていった。何なんだよあいつ、とホップは顔を顰める。眉間に皺を寄せ、辺りを敵のように認識したかのように振舞う少年の様子は、プルエタウンの姉妹ユニットの片割れにどこか似ていた。

 

ダンデが挑戦者を推薦したことは今までなかったという。弟のホップは兎も角、ルビィに対してスタッフは推薦状とルビィの顔を何度も見返した。周囲の囁き声、笑い声。その真意は不明であるが、「舐められている」のはルビィさえもわかった。悲しいかな、気がついた時からそんな扱いだ。Aqoursとして活動するようになっても尚。故に、そのような機微には嫌でも敏感であった。リーフィアが少しだけ唸った気がした。

しかし開会式は明日に控えているため、スボミーインに1日過ごすことにした。

 

「おっ、ルビィちゃんにホップ!」

「ソニアお姉ちゃん?どうしてエンジンシティに?」

 

スボミーインのフロントのオブジェ前に佇んでいたソニアは自動ドアの開閉音に振り返った。妹分と幼馴染の弟を確認すると、笑顔で手を振った。

 

「おばあさまからの課題だよ。ほら。この銅像、ガラル地方を救った伝説の英雄だよ。」

 

左手に赤い宝珠を埋め込んだ盾を、右手に青い宝珠を埋め込んだ剣を掲げた青年の銅像を。かつて、ルビィたちさえ生まれていなかった頃、空に黒い渦―ブラックナイトが出現しポケモンたちが我を忘れて暴走したという。そのブラックナイトを一人の青年が鎮めた。ところが権力に目が眩んだ人々により青年は惨たらしく殺されてしまった。やがてその功績を称えられ聖人に列し、青年は名誉を返上した。花丸が日曜礼拝の一環で、子供たちに朗読していた絵本が確かそんな内容だったー道徳の授業でも題材にしていたことを失念してダイヤにこってり絞られたーとルビィは思い出す。―ところが近年、この話は時を経て変容したのではないかと議論されている。まだ預言者が磔にされる前、即ち人々が精霊たちに感謝していた頃、それらしいエピソードが残っているのだと。実話という説も浮上しているが、ならばブラックナイトがなぜ出現したか、この危機はどのように治めたのかは依然として不明なまま。

 

「つまり、あの本の内容はずっと前のものだってことか?」

「それじゃあ調べることがいっぱいあるね。ソニアお姉ちゃん大変でしょ?」

「まぁ、それが私のミッションだし?」

「そうだ!もし旅の最中に何か見つけたら連絡するね。」

「え、いいの?ルビィちゃん助かるー!」

 

ジムチャレンジはガラル本当を旅することに等しい。ひょっとしたら旅の最中に何かわかるかもしれない。何気ないルビィの助言は、ソニアがルビィの手を握って飛び跳ねる程度のものだった。

 

 

ソニアはタクシーを呼んでスボミーインを後にした。日が暮れないうちに帰宅してノートを作成するためだ。残された2人はチェックインをしようと受付に向かうと、パンクロック風のコスチュームの団体にレセプションを占領されていた。他の宿泊客は顔を顰めてはいるが、遠巻きにしてるだけで割って入る気はない。受付のスタッフは主張する。チェックインの手続きをしてくれと。集団は反論する、自分達の関係者が挑戦者だからそのまま滞在させろと。受付スタッフは冷や汗をかきながらも首を横に振ると、彼らは怒鳴り、ブブゼラを鳴らした。体中にペイントを入れた集団にルビィは恐れ戦きそうになったが、しかし他の宿泊客の様子を見たルビィは大きく息を吸い込んだ。

 

「他の挑戦者さんたちの迷惑です!どいてください!」

 

ルビィは叫ばんばかりに彼らを律そうとした。その内の1人が振り向く。

 

「我々の邪魔をするんですか!?」

 

見た目に反し丁寧な口調であったが、ルビィに明らかに喧嘩を売っている。ルビィは身を竦めたがそれは一瞬、アオガラスのいるボールを構えた。

 

「いい加減にしろよ!皆困ってるだろ!?」

 

ホップが掌に拳を打ち付けるように、ボールを掌でばしりと叩く。目配せをしたルビィと視線が合うと、二人は小さく頷いて振りかぶった。

 

―結果はルビィたちの白星。ざわつくレセプションは、華やかな声に静まり返った。

 

「あんたたち、何しとーの?」

 

彼らはその声に肩を震わせた。ツーブロックをツインテールにし、モルペコを連れた少女が小さく溜息をついていた。凛々しくも愛らしいその姿に、ルビィは叫びそうになった。

 

「他の挑戦者に喧嘩売るなって言ったよね。......ごめん、こいつら、エール団はあたしの応援団なんだけど、みんな浮かれとーのかな......。」

 

エール団は少女の応援団だと言う。だが応援に熱が入っているのか定かではないが、挑戦者を見つけては迷惑行為を働くため彼女が方々に頭を下げているのだと。少女はエール団を窘め、手を振り払って「さっさと帰れ」と促せばエール団は素直に従った。少女は大きくため息をつくと、ルビィとホップに向き合い頭を下げた。

 

「でも、早速ファンがいるなんて凄いぞ。」

 

挑戦者としてファンがいるなんて光栄だ、とホップが感嘆すると少女はクスリと笑った。応援されるのは決して悪い気分ではないのだが、やはり他の挑戦者に喧嘩を売るような真似をされるのは不本意なのだろう。確かにスクールアイドルのファンでもそういった手合いはおり、ルビィもファンー実際は地元にいたダイヤの後援会の一員ーから泥の入ったサンドイッチを贈られたことがある。幸い臭いを嗅いで顔を顰めたイーブイにはたき落とされて事なきを得たが、自分にも厄介な手合いが湧いた事実に肝が冷えた覚えがある。

 

「何かあった?」

「...ううん、なんでも。」

 

少女はルビィの顔を覗き込んだ。目を大きく見開いたのは一瞬だけ。少女は漸く、彼女が母校の救済に奔走するスクールアイドルの一員と認識したのだ。

 

開会式にはAqours全員で駆けつける、というグループチャットに顔を綻ばせ、ルビィは髪の毛を梳かす。開会式まであと数時間。不安と緊張、興奮が心を支配する。アオガラスはルビィが用意したフーズを摘み、リーフィアは窓際で日光浴をしていた。何故かその姿が、父のエーフィに似ていた。

 

「......え?」

 

窓際に佇むリーフィアがルビィを見つめている。いや、あれはリーフィアではない。リーフィアの体色はクリーム色だ。若草色ではない。額に石もない。あれは父のエーフィだ。あり得ない。何故ならエーフィは10年前ー

 

インターホンが鳴り、我に帰る。窓際にはリーフィアがいた。風に靡く若葉を思わせる耳と尻尾がある。リーフィアは汗まみれのルビィに小首を傾げた。ルビィは心臓の鼓動を押さえるように胸を押さえ、ドアへ向かった。スコープの向こうに見知った藍色の髪を確認して、扉を開けた。

 

「ルビィ大丈夫か?連絡しても出ないし、髪もそのままだし...。」

「ちょっとぼーっとしてたの。帽子で隠して、控室で整えるから。」

 

ルビィはボールを2つ用意すると、アオガラスとリーフィアに向ける。2体はそれぞれ機嫌良く鳴くと、ボールに収まった。クローゼットに引っ掛けたキャスケットの中に、髪を緩くまとめて収める。お待たせ、と声をかけられたホップはにんまりと笑った。

 

「ホテルを出たら競争だ!エンジンシティスタジアムまで!!」

 

俺のチャンピオンとしての伝説が始まる!と息巻いたホップの後をルビィは追いかける。運動は得意な方ではないが、ホップを追いかけるルビィの表情は晴れやかだった。

 

受付で挑戦者No.を申請する。ジムリーダーやダンデと同じ番号はNGだ。0から1へ、1からその先へ―Aqoursの号令を基にした挑戦者No.がスタッフによって入力されていく。スタッフの手には挑戦者No.と名前が印字されたユニフォームがあった。それを抱えて女子更衣室へと入り、荷物をロッカーに放り込む。制服は所属を表すというが、やはりユニフォームに袖を通すと不安が自分を包み込んだ。しかし腰元には、横には仲間がいる。胸元で拳を握った後、ルビィは小さなアクセサリーボックスからヘアゴムを取り出してツーサイドアップを作るのだった。

 

 

スタジアムには大勢の観客が犇めいていた。その中にはAqoursもいるのだろう。突如、大きな拍手が響き渡る。ダンデが登場したのかと思って顔を上げると、そこには喪服を着用した母がいた。恭しく方々に挨拶し、Aqoursのいる座席に向かってカーティシーをした。一体どういうつもりなのだろう。自分を嗤いにきたのかとルビィは膝の上で拳を握った。

リーグ委員長が登場したのは母がやって来て間もなくのことだった。軽い挨拶と開会宣言。8人のジムリーダーに勝った挑戦者のみがチャンピオンカップに駒を進めることができる。単純そうであるが、ミーティングでダイヤが指摘していたようにその道のりは大変厳しい。挑戦者たちが談笑する中、変わらずルビィは太ももの上で手を握り締めた。―モニター内では8人、正確には7人のジムリーダーたちが紹介されていた。中には顔見知りもいたが、そんなものはジムチャレンジに関係ない。センターラインに7人が並んだあと、挑戦者紹介の時間になった。他の挑戦者はルビィを素通りしてグラウンド通用口に向かう。ふと鳴き声がする。

 

「どうして......!?」

 

ルビィが悲鳴を上げると、深緑色のエーフィは通用口へと走り去った。ルビィは立ち上がり、エーフィを追いかける。スタジアムの照明は強く、エーフィの姿は光に消えていく。この道は対して長くないのに、永遠のように感じた。鮮やかな青いフィールドがルビィの目の前に飛び込む。芝生が軽やかにルビィの歩を鳴らす。嗚呼、その真ん中にはエーフィがいた。銀色の髪に空色の瞳を携えた、中性的な男と共に。

 

 

 

 

 

「ルビィ、一体どうしたんだ?」

 

開会式後、エンジンシティのレセプションでホップは力なく座るルビィの顔を覗き込んだ。まばらに登場した挑戦者の中にルビィはいなかった。気難しそうなあの銀髪の少年や、既にファンクラブが出来上がっている少女はいたのに。瞬間、ルビィが血相を変えて走り込んできた。その表情は驚愕と困惑に満ち満ちていた。横並びのジムリーダーを見上げて、目を見開いた。何かを叫ぼうとしたルビィをホップは抱え込み、口を押えた。過呼吸気味になっていたルビィは解散の合図までには落ち着いたが、それでも更衣室までホップは面倒を見続けた。

 

「全く恥をかきましたわ!お母様に頼んで病院を手配しますわ。」

「ダイヤ、そこまで言うことではありませんよ。」

 

ダイヤは仁王立ちし、ルビィに叱責する。余計縮こまるルビィの間に立ったのは姉妹の母だった。風貌はダイヤに瓜二つのようだが、髪の毛は肩につく程度の長さ。柔和な笑みを湛えているが、ルビィは完全に俯き、ホップはルビィの前に移動した。

 

「ルビィ。貴女の雄姿、しかと見届けました。」

「光栄です。お母様。」

 

その言葉にどんな負の感情を湛えているのか、ルビィは最早把握できない。ホップも静かに奥歯を噛み締めた。Aqoursは全員で顔を見合わせ、家族と距離をとった。得体の知れない雰囲気に気圧された。

 

「お2人ですね、チャンピオンに推薦されたのは!」

「まぁこれは代表取締役!久方ぶりの逢瀬でございますね。」

「これはこれは寿美礼様。ご息女がチャンピオンに推薦された挑戦者なんて、さぞ誉でしょう。」

 

開会式で司会を務めていた委員長がダンデを伴って現れた。鞠莉はローズを見た瞬間、礼をした。あの鞠莉が頭を下げる程の立場であることに全員が身震いする。ローズが軽く手を上げると、鞠莉はようやく頭を上げた。にもかかわらず姉妹の母はローズを恐れる様子はない。善子はぽかんと口を開けた。はた、とローズはルビィの右腕につけられたダイマックスバンドに視線を向け、その目を細めた。

 

「君たちは願い星に導かれたのですね。」

「ええ、まさかこれが願い星の加護を真っ先に受けるなんて。」

「いやいや、今年のジムチャレンジは特に面白くなりそうですよ。」

 

ルビィとホップのダイマックスバンドはマグノリア博士の手製だ。だが本来挑戦者やジムリーダー―1人を除く―に提供されるダイマックスバンドは主要スポンサーであるマクロコスモス製のものを使用するらしい。ルビィはエーフィと「彼」に気取られてしっかり見ていなかったが、挑戦者たちの右腕にはダイマックスバンドは装着されていなかった。

ローズが寿美礼との会話に花を咲かせている最中、ホップはルビィに耳打ちする。

 

「ルビィ、本当に何があったんだ?」

「......ただ、おかしな夢を見ていただけなの。」

 

10年前、ガラル地方を守って命を散らした父とそのパートナーがいたなんて、誰が信じてくれると言うのだろうか。

 

 

 

「一体何だったのよ、あの子。」

 

シニヨンを解き髪の毛をポニーテールに整えながら、ルリナは吐き捨てた。突然顔面蒼白の小さな挑戦者が走り込み、別の挑戦者に抱え込まれた姿は異様に滑稽に映った。気がおかしくなった挑戦者など前代未聞だ。

 

「本当ね。カブのところまで辿り着くかもわからないねぇ。」

 

メロンはコートを小脇に抱え、足早に控室を出た。1人は独り立ちしているものの、四児の母であるメロンは目まぐるしく忙しい。本人はそれを楽しんでもいるのだが、その分人を見る目はジムリーダーたちの中でも厳しかった。

 

「そんな、わかりませんよ。強さってのは見た目だけじゃあわからん。」

「あたしはヤローに賛同するよ。......よくない夢を見てたんだろうよ。」

 

ヤローはスマホで家族にメッセージを送りながら苦笑する。ヤローと彼女は元々妹を通じて面識があった。贔屓目に思われるのは承知の上で、第一印象だけで決めてはならないと釘をさす。ポプラはゆっくりと頷き、誰にも聞こえない音量で何かを呟いた。嘲笑にも似た雰囲気にオニオンは縮こまる。死の世界に誘われかけた彼は怪奇現象に巻き込まれやすいが、その類だろうか。それにしたって、オニオンは何も感知できなかったが。

 

「カブさん、今日はずっとだんまりじゃねえか。」

「うん、そうだった?そういう君だって険しい顔だけど。」

 

ロッカーの前で俯くカブにキバナは肩を軽く叩く。カブはぎこちなく笑い、キバナの目は笑っていなかった。片方は友の忘れ形見を目にしてしまった驚愕から、片方は師匠を喪った元凶の娘への怨嗟から。

 

その様子を、男とエーフィはうっそりと見つめていた。




2022.12.18.大幅に修正
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