Red gem of galar   作:Mira

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3番目のジムチャレンジ。
彼女はやれる。たとえどんな手を使っても。

※ガラル地方の伝説について大幅に捏造を入れ込んでいます。またBWの設定を借りています。


Can do

「ルビィちゃん、次のジムチャレンジにはこの子を活躍させてほしいの。」

 

千歌から託されたポケモンはジメレオン。ルビィが推薦状を貰ったその日に、ダンデからAqoursにと託されたメッソンが進化した個体だった。一緒に強くなろう、と個々のトレーニングも兼ねてローテーションで面倒を見ていた。千歌は大張り切りでメッソンを連れて行きイワークに返り討ちにされかけ、同伴していた曜がピッピ人形を投げて事なきを得たと聞いてルビィは苦笑いした。寧ろジメレオンの進化に貢献したのは善子と花丸だった。2人も育成の苦労を語り、見張り塔跡地付近でゴーストポケモンに囲われた際は一目散に逃げたのだとか。

 

「よし...ジメレオン、よく頑張ったね。」

 

その日はダイマックスの巣穴にイーブイが大量発生していた。ジメレオンのトレーニングとルビィのパーティ構成を再考するため巣穴に籠っていた。図鑑でステータスの傾向を確認し、進化先を定めたルビィはジメレオンの顎を撫でた。名は体を表すとはよく言ったものだが、口角を緩く上げて頬を赤く染めるジメレオンはまんざらでもなさそうだ。千歌曰く、浦の星にメッソンがやってきたときは大泣きしたそうだが、今やそんな素振りは見せない。成程、ルビィの知らぬ間に協力して育て上げたのだろう。そしてそれだけ応援されていることに、胸に仄かな温かさと重さを感じた。

交流のために、新しく捕まえたイーブイたちとジメレオンを加えてキャンプを張る。今日のカレーはどうしようか。少し余っていたフライ盛り合わせを使ってみようか。見るからに脂っこいが、これだけ動いたので罰は当たらないだろう。

 

「......あれ?」

 

カレーの鍋をドッコラーと用意していたルビィの視線の端に、光が映った。間違いない。あれは―。

 

 

 

梨子によれば、3番目のジムチャレンジ会場であるエンジンシティジムリーダーであるカブは夕方以降不在らしい。カブは8人のジムリーダーの中でもベテラン格であるにも関わらず、今日も修行を欠かさないそうだ。これは成績不良により一時期マイナーリーグに所属していたことに所以するらしい。流石はジムチャレンジの最初の関門と言われるだけあるが、梨子はどうしてカブのことをよく知っているのだろう。尋ねたところでどもりながらはぐらかされた。

 

ルビィは大きく溜息を吐いた。それはそれは幸運が全て逃げてしまうほど。何故なら目の前にはビートがいた。憎まれ口は相変わらず。何が「レベルの低いバトルはポケモンによくない」だ。只でさえ坑道の中は酷く気分が悪くなるというのに。ルビィはボールベルトに手を伸ばした後、ワイルドエリアで手塩にかけて育てたイーブイ―基ブラッキーに指示を出した。

 

相性が断トツでよかったのか、将又フェアリーやむし技を放たれなかったのが幸運なのか。ブラッキーは鼻を鳴らしてテブリムを見下ろした。ビートは歯軋りした後、吐き捨てるかのようにルビィを罵倒―否、評価した。

 

「評価を改めましょう。弱い、ではなくちょっと弱い。でしたね。」

「格上げしてくれるんですね。」

「だから!!......どうせ貴女のような人が勝ち上がるなんて思ってませんよ。」

 

ルビィが鼻で嗤われる番だった。寧ろ罵倒しているつもりが褒めているなんて認めたくないのだろう。ビートは小さく呟いた。願い星を集めないと、と。

 

「何か、悲しそうだね。」

 

ブラッキーは何も答えなかった。

 

 

「凄いなぁ。ヒバニー、ラビフットに進化しちゃった!」

「ルビィこそ、ブラッキーいつの間に連れてきたんだ?」

 

坑道でラビフットと歩くホップを見かけたルビィは、駆け寄って肩を叩いた。ヒバニーの進化に手を叩いて喜ぶルビィに対し、ホップはしゃがみ込んでブラッキーを見つめていた。ブラッキーはルビィへの忠心は高い―ポケモンとトレーナー間の信頼度が進化の鍵であるため―が、他のトレーナーに対しては警戒心が強いのかホップを睨んだ。ホップは苦笑いしながら立ち上がると、目を見開いて人差し指を立て、ルビィに「静かに」と耳打ちした。

視線の先にはエール団と、し小柄な壮年男性が対峙していた。ガラル地方の男性としては小柄な彼は、堂々と胸を張っていた。

 

「いいトレーニングになりました。ありがとう。しかし...トロッゴンは仕事中だったんだ。邪魔するのはどうかと思うよ。」

 

トロッゴンは土木作業員たちと共に坑道で採掘に従事している。鉱山に足を運べばよく見かける光景だ。エール団は「自分たちは応援していただけ」と反論するも、口を噤んでしまった。男は背を向けていたが、恐らく表情を見て反論することをやめたのだろう。そして何故彼がエール団を咎めたのか予想がついた。大声で叫んだのだ。そして彼とバトルして負けたのだと。エール団は気まずそうな表情ですごすごと去っていった。見計らったホップは感激のあまり駆け寄った。

 

「あの、カブさんですか?」

「君たちは...ホップとルビィだね。ダンデの推薦した。」

「覚えててくれたんだ!かっこよかったんだぞ!!」

 

カブは目を見開いた後、ややぎこちないながらも柔らかい表情で対応した。

 

「鍛錬中ですか?もうすぐ日が暮れてしまいます。」

「そうだけど、挑戦者であっても最高の試合をしたいんだ。ギリギリまで追い込みたくてね。」

 

梨子の言う通り、カブは明朝から挑戦者を迎えるために鍛錬に励んでいたのだ。例えチャンピオンカップ参加者を篩にかける「試験」であっても、最良の試合をするために。カブの目線の先には仄暗い池があった。そこにはカラクナシやドジョッチが穏やかに泳いでいる。いずれもほのおタイプの弱点だ。ほのおタイプに対して弱点をつけるポケモンが多く生息するこの鉱山はカブにとっては絶好の修行場所なのだろう。だがそれは暗に、3番目のジムであっても容易に通させないという意味を孕んでいた。梨子は言っていた。カブはジムチャレンジの最初の大きな篩だと。

 

「さぁ、夜も遅い。エンジンシティに着いたらホテルでゆっくり休むんだよ。僕はトロッゴンを送り届けるから、この辺で。」

 

明日は燃えるよ!と少しぎこちなく笑って走り去っていった。

 

「燃えてきたな!ルビィ!ホテルまで競争だ!」

「暗いから走らないの!!」

 

ホップを咎めるルビィの声は明るく、いつの間にか走り出していた。小さく溜息を吐いたブラッキーの輪帯は、月光のように仄かに輝いていた。

 

 

挑戦者がレセプションにごった返しており、順番が来るまでルビィは英雄像の前で呆けていた。

この英雄はブラックナイトを解決する際、ガラル地方の人々に己の思想を信じてもらうことを条件にしたという。それを知ったハルモニアの王に幾度もの拷問を受け、最期は斬首されたと。ガラル地方では聖人として祭り上げられ、地方の旗のモデルになったり硬貨に刻まれていたのもそういえばこの英雄だった。思想の授業が嫌いなルビィはいい加減に聞いていて、花丸の助けがなければ試験も危うかったが、ソニアの研究に付き合うならば真面目に聞いていればよかったと後悔した。

だがどうも、知れば知るほどルビィはこの英雄が苦手になった。多様性が叫ばれるガラル地方だが、寧ろかつては多くの神々が世界中の人々と共存し、加護を与え、時には祟ったとされている。多様性が叫ばれる割には何故このような伝説を人々は信じているのだろうと。自分の思想を信じることを条件に脅威を解決するなんて最早脅迫ではないか。そんなことを口にすれば自分の立場はなくなってしまうのはよくわかっていた。実際ダイヤからは試験の成績の悪さ以上に怒鳴られてしまったからだ。

 

「ルビィ選手?」

 

幼さの残る声に振り向くと、そこにはマリィがいた。開会式の前夜以来の再会だ。

 

「えっと、貴女は。」

「マリィだよ。遅くまで頑張っとーねー。」

「マリィちゃんこそ、お疲れ様。」

 

初対面時はトラブルがあったため、ようやくマリィの顔を確認できたが、美人だとルビィは思った。身長はルビィと大きく変わらないが、いつかルビィを追い越すだろう。ツーブロックを二つに結わいた髪型と長い睫毛に囲まれた翡翠色の瞳のギャップに見惚れてしまう。

 

「チェックインまで時間かかるでしょ?ちょいと腕試しせん?」

 

マリィの足元にいたモルペコはバッジフレームを両手で抱えてルビィに見せつけた。2つのバッジが嵌め込まれたそれが蛍光灯の光を反射した。

 

「いいよ。喜んで。」

 

ルビィがバトルの申し出を引き受けた途端、ホテルの扉からエール団がわらわらと沸いてきた。ルビィは小さく叫び声を上げたが、マリィが鼻で嗤った。

 

「ビビッてんの?」

「まさか!」

 

 

エール団は項垂れ、マリィはやるじゃん、とそっぽを向いた。ルビィは奮闘したニンフィアを撫でてやった。第一鉱山の出口に捨てられていたイーブイの進化個体だ。ニンフィアは気持ちよさそうに顔を摺り寄せ、触覚がうねった。

 

「明日に備えて寝ようか。おやすみ。」

「今日はありがとう。おやすみなさい。」

 

マリィは拳を突き出し、ルビィも拳を突き出した。互いの拳がこつんと当たる。モルペコがマリィの足元でうらら、と笑った。

 

 

メッセージの受信を知らせるアラートでルビィは目を覚ました。

ビートに因縁をつけられ、ホップと健闘を讃え合い、マリィと力試しをする。昨日は充足していた。お蔭で目ざめが良い。メッセージの送り主であるホップは既にエンジンシティスタジアムに向かってしまったらしい。いつも行動が早いから見習いたいなぁ、とルビィは眠い目を擦った。これから挑むジムチャレンジは関門、きっと弱点に何らかの対策を立てているのだろう。今日の切り札であるインテレオンが強い眼差しでルビィを見つめる。だが彼だけで突き進むのはよくない。きっとカブに早々に潰されるのは目に見えている。ブラッキーはどうだろう?だが昨日ビートと戦ってしまったのでなるべく参加させたくない。

鈴の鳴るような声が聞こえる。また窓際に色違いエーフィが現れた。ルビィはその幻影に大きく目を見開くが、同時に脳裏に懐かしい思い出が過る。幼い頃、近所の子供たちの悪戯でポケモンたちに追いかけまわされたとき。エーフィがそのポケモンたちを追い返したのだ。その追い返し方は―

 

「エーフィ、お願いがあるの。」

 

ポケモン用のベッドの上で日光浴をしていたエーフィがむくりと起き上がる。ルビィは2枚のわざマシンを取り出し、エーフィは頷いた。

窓際にいた色違いエーフィは、どこにもいなかった。

 

 

ミッションフィールドは草むらを模したものになっており、3か所の草むらにジムトレーナーが点在していた。草むらにはポケモンが潜んでおり、捕獲、もしくは倒すことがミッションとなる。捕獲すると2点、倒すと1点獲得でき、総合点が5点以上になるとミッションクリアとなる。但し、チャンスは3回。3回の捕獲チャンスで5点を獲得できないとミッション失敗。即ちやり直しだ。また、ジムミッション中はジムトレーナーが付き添うことになっているため、挑戦者単独では挑めない。

 

だがルビィは草むらの前で立ち止まってしまった。観客席でそれを見ていた一部の観客がブーイングを飛ばす。ダイヤさえ席を立ちかけた。

 

「気が早いわ、ダイヤさん。」

「これ以上見る価値はありません。一体何を考えているのですか。」

 

普段自己主張が控えめな梨子がダイヤの腰に抱き着く形で妨害する。実際立ち止まってしまったルビィに不安を覚えたのはダイヤだけではない。善子や曜は膝の上で手を握って見守り、果南はモニターを凝視し、千歌は右往左往し、鞠莉は口を押えていた。だが一人だけ、モニターをじいっと見つめていた。

遂にルビィが草むらに足を踏み入れる。目の前にいるのはロコンだ。ジムトレーナーとルビィがボールを放る。間もなく、会場はどよめきに満ちた。

 

「インテレオン、タンドンにみずのはどう!」

 

インテレオンが右手を差し出すと、水流と共に衝撃波が放たれる。水の振動をまともに喰らったタンドンはリタイアし、ロコンはルビィの投げたボールの中に無事収められた。2度目も同じ手法でヒトモシを捕獲し、3度目は残念ながらヤクデを倒してしまった。それでも合格点は合格点、ミッションクリアと相成った。

 

「え...どういうこと?」

「ミッションのクリア条件は『すべての草むらに入って5点以上獲得すること』。それだけずら。」

 

疑問符を大量に浮かべる千歌に対し、花丸は冷静だった。このミッションは少なくともポケモンを2体捕獲すればよい。つまり倒していい、即ち失敗が許されるのは1回のみだ。

 

「それとジムトレーナーは『付き添う』とまでは説明があったけど、『捕獲に協力する』とまでは言ってないずら。」

「そうね。他の挑戦者の動画も見てたけど、あの人たちは妨害要員よ。」

 

ルビィが立ち止まったのもそういうことだと花丸は付け足した。ジムトレーナーの役割を具体的に説明されていなかったためだ。先手を取って倒してしまうか、将又挑戦者の手数を減らしてリタイアに導かせる可能性だってある。それを見抜けずリタイアになってしまった挑戦者もいれば、隙を狙って5点を獲得した挑戦者もいる。梨子が確認した限りホップを含めた通過者は後者だ。ルビィのようにジムトレーナーに先手を打つ挑戦者は今日まで現れていない。観客の批判は免れないかもしれないが、戦略としては理に適っている。

 

「ずら丸はわかるけど......詳しいのねリリー。」

「そ、そうかしら。」

 

カブの出場するバトルは公式戦だろうが何だろうが観ているなんて、梨子は言えなかった。

 

興奮しているのかボールを揺らすインテレオンを宥めながら、ルビィは息を吐いた。あまり褒められないミッションクリアだったかもしれない。だがそれが何だと言うのだ。この先のバトルも見苦しいものかもしれない。だがルビィはその方向性を曲げるつもりはなかった。

ふと右隣に人の気配がする。カブだ。光の向こう側―バトルフィールドを見据えて集中している。その姿はなんと眩しいのか。カブが走り出すと同時に、ルビィも歩き出した。その先に佇んでいた銀髪の青年は、ゲートを出た瞬間霧のように消えていった。

 

「よくぞここまで来た。改めて僕がジムリーダーのカブだ。」

「ルビィです。よろしくお願いします。」

「どのトレーナー、どのポケモンも勝つために鍛錬を積む。」

「でも、それは相手も同じ。」

 

よく知っているね、とカブは頷く。

ラブライブは遊びじゃない!と激高したスクールアイドルがいた。努力したところで1つの席に座れるとは限らない。否、その前に用意された席にすら座れないことだってある。スクールアイドルでも同じこと。自分たちは頑張ったのに、と嘆くのは簡単だ。努力は無駄だと、勝者に唾を吐くことも容易。だがその一瞬のために血反吐を吐き、気の遠くなるような努力をする。その条件はどの挑戦者も同じことだ。

 

「キュウコン!出番だ!!」

「エーフィ、おいで!」

 

白金の毛並みの九尾のポケモンと、二又の尻尾を持つポケモンが睨み合う。カブはほう、と息を吐いた。ほのおタイプの弱点を最初から繰り出してくると思っていたが、そうではない。寧ろ削られることを見越してエーフィを先手に出したのだろう。カブの胸の内の炎が燻り始める。数々の挑戦者を見てきたが、これは面白い戦いになるだろうと。

 

「キュウコン、おにび!」

 

まずは賭けに出る。やけどでスリップダメージを与えてステータスにデバフをかける。エーフィは特殊アタッカーだが効果がないとは言えない。青白い火の玉がキュウコンの周りを囲み、エーフィに襲い掛かった。はずだった。おにびは文字通りエーフィに跳ね返され、キュウコンの身体に吸収された。

 

「成程、マジックミラーか!」

「ご明察!エーフィ、ひかりのかべ!」

 

エーフィの特性はマジックミラー。状態異常やデバフを齎す補助技を跳ね返す特性だ。幸運なことに、キュウコンがほのおタイプ故に吸収されただけで済んだ。エーフィの前に透明な壁が張られる。特殊技の効果を抑制する壁だ。

 

「挑戦者でここまでとは凄いね!キュウコン、ほのおのうず!」

「エーフィ落ち着いて!リフレクター!」

 

エーフィを炎が囲う。行動するたびにスリップダメージを与え、交代もできない。ルビィは己とエーフィに檄を飛ばすように叫び、再び透明な壁が張られた。物理技を抑制するための壁を。

 

「キュウコン、でんこうせっか!」

「エーフィ、サイケこうせん!」

 

エーフィに先制される前に先制技で返り討ちにし、盤上を整えたエーフィは攻撃に転じた。2枚の壁のお蔭かエーフィに与えるダメージは少なく、キュウコンはふらついて倒れてしまった。

 

「今度は簡単にいかせないよ!ウインディ!」

 

次鋒はウインディ。ステータスバランスの良さと豊富な技構成はキュウコンと似ているが、ウインディはより攻撃的な戦法がとれる。

 

「ウインディ、こうそくいどう!」

「エーフィ、サイケこうせん!」

 

まずは素早さをあげて先制をとれるようにする。いくら壁を張っていても、エーフィの物理体勢の弱さを踏まえれば駒を進めるには容易だ。しかし、

 

「エーフィ、バトンタッチ!」

 

炎の渦から白い光が漏れる。バトンタッチは交代技だ。しかもステータスのバフ・デバフや壁は維持されるだけでなく、ほのおのうずやうずしおの中でも交代できる強みがある。カブの背筋に冷たいものが駆けあがった。

 

「ウインディ、かみつく!」

「インテレオン、ねらいうち!」

 

ウインディが渦の中にいるポケモン―インテレオンに突撃する。渦の中からまっすぐに水流が伸び、ウインディに直撃した。水流の勢いは徐々に増し、遂には観客席の壁に激突。ウインディは伸びてしまった。

 

「カブよ...頭を燃やせ。動かせ!」

 

カブに勝利できる挑戦者は見込みがあるとされている。カブ自身は己を圧倒してくるようなトレーナーの誕生に歓喜した。ならばこちらも全力で応えるのが流儀というものだ。

 

「燃え盛れ!!キョダイマックスだ!」

 

カブの瞳に小さな炎が灯り、手元のボールがダイマックスバンドから注入されたエネルギーで徐々に大きくなる。ボールから放たれたのはマルヤクデ。しかしただダイマックスしただけではない。本来のマルヤクデは百足のような姿をしている。だが彼は龍に近い姿だ。それはまるで、ホウエン地方に伝わる自然の化身。

 

「インテレオン!ダイマックス!このフィールドを海に変えて!」

 

インテレオンがボールへと吸い込まれていく。ルビィから放たれたインテレオンは両手を広げ、まるで主役のように高らかに鳴いた。

 

「僕らは上を目指す!炎が燃え上がるように!キョダイヒャッカ!」

「インテレオン!ダイストリーム!」

 

炎と水流がぶつかる。熱い水蒸気がスタジアムを満たす。しかし間もなくスタジアムに雨が降りマルヤクデはキョダイマックスを解除すると共に地に伏せた。インテレオン、即ちルビィの勝利が高らかに告げられる。水蒸気の向こう側に、カブはとある青年の影を見た。

 

「君の才能が、僕の長年の経験を上回ったね。」

「そんな、まだルビィは未熟です。」

「有望な挑戦者だね。僕もまだまだ学び続ける必要があるようだ。」

 

バッジフレームに炎の意匠を象ったバッジが嵌め込まれた。フレームを見つめるカブの目は、どこか凪いでいた。

 

 

「緊張したぞ、ルビィ!」

 

観客席からルビィを見守っていたホップはルビィの肩に腕を回した。男性を苦手とする傾向のルビィにスキンシップを働くホップにAqoursの面々はギョッとした。花丸が「マルも家族以外の男の人に触られたくないずら」と呟くまでは。

 

「ホップ君はどうやってミッションクリアしたの?」

「ポケモンが弱ってるタイミングを見越してボールを投げたんだ。でもジムトレーナーを牽制した方がやりやすかったなぁ......。」

「え!凄い!ルビィならできないよ。」

 

互いの適性の違いと、それを踏まえた戦略を讃え合う。ルビィはもう己の力を客観視できるようになったのかもしれない。俯瞰して己を見据えるのは易いことではない。

 

「ダンデ打倒も夢じゃないわね。」

「鞠莉さん!いい加減なこと言わないでくださいまし!」

「そうだ!ルビィは強いんだ!!」

 

確かにこの後のジムチャレンジは生半可な強さでは突破できない。ダイヤの懸念に唇を噛み締めたルビィを見やったホップは大声で反論した。果南もダイヤの肩に優しく手を置く。

 

「ダイヤ、もうルビィちゃんはバッジを3つ手に入れたんだよ。それは評価しよう?」

「ええ......おめでとう、ルビィ。」

「ありがとう、お姉ちゃん。」

 

 

この先のジムチャレンジはまずナックルシティを経由する必要がある。ナックルシティ付近のワイルドエリアのポケモンたちも相当に強いこともあり、挑戦者ではないトレーナーは相応の職業に就いていない限りワイルドエリアを回れないのだ。ちょうどラブライブ予備予選までまだ時間はあるので、先にエンジンシティを抜けることにした。スタジアムを出て昇降機を降りる。ところが街をある程度通過したところで別の声に呼び止められた。

 

「カブさん?どうされたんですか?」

「ジムバッジを3つ集められずジムチャレンジをリタイアする挑戦者も多くてね。僕に勝った挑戦者は皆見送ることにしているんだ。」

 

確かにあのミッションと、おにびやかみつくでこちらを抑制するカブの戦法は生半可なトレーナーを篩い落とすものだ。正にジムチャレンジの登竜門。おまけにもう2つの足音に周囲が騒めきだす。

 

「間に合ったあ、タクシー様様だよ。......ルビィちゃん、ホップ!カブさんに勝ったのね!」

「本当に少ないんだよ。カブさんからバッジを貰える挑戦者。」

 

だから応援の意味も込めてヤローとルリナも加わって見送るのだとヤローは付け加えた。カブは深呼吸し、よく通る声でルビィとホップに声援を送った。

 

「行け行け!ホップ!!やれやれ!ルビィ!!」

 

カブの声援の熱さとヤローとルリナの誠意にルビィは涙ぐんだ。これまでの努力が認められ、そして何よりポケモンたちの力が相応のものであると証明されたように思えたのだ。だがルビィは込み上げる気持ちをぐっと堪え、こっそりホップと拳をぶつけ合った。

 

「これから先に待つジムリーダーたちは強者だ。だが君たちなら勝ちぬける!ポケモンと自分を信じるんだ!!」

「俺たちガンガン勝ち進めます!」

「ありがとうございます!!」

 

 

走る若い背中を3人は見届ける。カブは目を細めた。あの表情は「彼」にそっくりだった。否、顔立ちだけなら瓜二つだ。

 

「流石に、覚えてないか......。」

 

宝石のように煌めく銀色の髪、あどけない容姿、そしてその姿に見合わぬ眼光。だがその光は10年前に焼失してしまった。マイナーリーグに陥落した自分は、彼を見送ることすらできなかった。知らされなかったとはいえ、今はもう彼らが眠る場所さえわからない。

 

「あの、お時間よろしいでしょうか。」

 

突然声をかけられたカブははっと顔をあげた。グレーのセーラー服着た3人の少女がいた。ルリナは叫ぶように浦の星の子!?と指摘した。浦の星と言えばルビィの所属校だが、バウタウンにある別のスクールと統合することがわかっている。あくまでも予定だが、それを解消すべくスクールアイドルが結成され活動中だ。他の生徒たちも、統廃合阻止のために地道な努力を続けている。

 

「Aqoursが統廃合阻止のために努力してますが、私たちにもできることはあります!」

「もしよければ統廃合阻止の署名をお願いしたくて......!」

「もちろん!おねーさん協力しちゃう!」

 

レイジングウェイブとしてもモデルとしてでもない、浦の星の卒業生のルリナがペンを握った。ルリナさんがいれば100人力ですね!という声にルリナはこれでもかと顔を綻ばせた。

 

「じゃあ僕も。妹が通ってるんです。」

 

ヤローもペンを取る。本人自ら口に出すことは少ないが、ヤローには妹と弟がいる。妹はよくヤローと同伴しており、彼女こそがAqoursの一員だと聞く。世間の狭さに驚愕しかけたカブであったが、あんなに有望な挑戦者が在籍しているのだ。彼女の悲願を願うのも、悪くはないだろう。

 

「......せめて、彼女の居場所だけは。」

 

ヤローから渡されたペンを、カブは受け取った。あのとき貸せなかった力を、せめて彼の忘れ形見に。




プライベートが忙しく、ハーメルンでの投稿が遅れております。
閲覧していただき、ありがとうございます。

2022.12.18大幅に修正
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