史上最凶最悪の師匠とその弟子   作:RYUZEN

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第25話  潜入

 在籍数が800名を超えるマンモス校だけあって、荒涼高校の実物はパンフレットなどよりもずっと大きく見えた。

 よもや小卒すらしていない自分が、こんな形で高校の校門を――――それも生徒ではなく教師という立場で潜ることになるとは思いもよらなかった。

 ジュナザードの弟子に強引にされた時、未来が予想できないものだとは分かっていたが、クシャトリアは改めてそのことを思い知る。

 なにはともあれ先ずは職員室に行かなければならない。

 校内の見とりに関しては昨日のうちに全て記憶しているので、クシャトリアは迷いなく職員室へ足を運んだ。

 途中生徒達の奇異の目線が突き刺さるが、気にせずに職員室のドアを開けた。

 

「失礼します。臨時教師として本日この学校に赴任した内藤翼というものですが」

 

「内藤先生、待っていましたよ」

 

 職員室の教師の中から壮年の男性が近付いてくる。髪の毛が一本もないツルツルの頭は、窓から差し込む日の光を反射して輝いていた。

 

「私は日本史の教師で、これから君が授業を教えるクラスの一つの担任をしている安永福次郎です。分からない事があったらなんでも聞いて下さい」

 

「ご丁寧にありがとうございます。そちらの方は?」

 

 安永教諭にまるでリスみたいについてきた女性に視線を移す。

 

「彼女は私のクラスの副担任の――――」

 

「国語を教えてる小野杏子です。よろしく~」

 

「小野先生! 内藤先生は貴方の後輩になるのですから、先輩として模範になる振る舞いを!」

 

「ご、ごめんなさい~!」

 

「………………」

 

 安永教諭が絵にかいたような石頭教師なら、小野教諭は逆にのんびりとした――――こう言っては失礼だが、如何にも生徒に舐められそうなタイプの教師だった。

 担任と副担任だというのに真逆の二人だが、だからこそ組み合わせとしては上手く纏まっているのかもしれない。

 

(安永教諭は教師として長そうだ。武術はしていないが、人生を一つのことに継ぎこんできた特有の気配がある)

 

 なにも優れた勘の良さをもつのは武術家だけではない。武術家ではなく芸術家や企業家だろうと一流の人間は一流の眼識を持つ者だ。

 そしてクシャトリアも一影九拳と並ぶ実力を身に着けた一流の武術家。分野は違えど相手が一流か、それ以下なのかは分かる。

 

「どうかしましたか、内藤先生?」

 

「なんでもありません」

 

 こういう手合いに気を緩めていては最悪自分のことがばれる恐れもある。安永教諭に対しては達人級の眼力があると仮定した上で対応しよう。

 クシャトリアは正反対の二人の教諭を見比べながらそう決めた。

 

 

 

 幾ら潜入ミッションであっても、否、潜入ミッションだからこそ潜入先に怪しまれないよう、擬態している役割に成り切らなければならない。

 これまでマフィアの構成員、ファーストフード店の店員、さる企業の社員などに成りすました経験のあるクシャトリアだが教師になるのは初めての経験である。

 

「初めまして。産休をとられた間宮先生の代わりに世界史の教師として赴任した内藤翼です」

 

 安永教諭のクラス、つまりは梁山泊の弟子と無敵超人の孫娘。監視対象にして調査対象でもある二人の重要人物が所属する重要クラスだ。

 クシャトリアは嘘偽りで塗り固めた自己紹介をしながら、件の二人が自分を興味深そうに見る生徒の中にいることを確認する。

 

(風林寺美羽。あれから随分経つが見違えたな。前に見たときは豆粒みたいだったのに。眼鏡をかけているのは、目を酷使し過ぎて近眼にでもなったのか? ……いや、あの眼鏡は伊達だな)

 

 どうして伊達眼鏡なんてつけているのかは知らないが、風林寺美羽その人で間違いなら問題はない。

 白浜兼一についても他の生徒と同じように、突然の臨時教師にそれなりの興味があるようで関心をクシャトリアに向けている。だが、

 

(………………………………なんだ、あれ?)

 

 梁山泊の弟子になる程の者なのだから、才能に満ち溢れたダイヤモンドの原石なのだろうと思っていた。

 だというのに直に見た白浜兼一には才能の〝さ〟の字すら見受けられない。まだ動きそのものを見た訳でないから断言することはできないが、クシャトリアの目には白浜兼一がどこにでもいる凡才にしか映らなかった。

 

(白浜兼一については保留しよう。武術家なら戦っている所を見ないと判断がつかん)

 

 余り白浜兼一や風林寺美羽を気にしていては不審がられる。クシャトリアは二人から意識を外すと、生徒達全体を見渡す。

 特殊な境遇にいるのは白浜兼一と風林寺美羽の二人だけで、他の生徒は普通の者ばかりだった。

 

「では早速だが授業を。教科書の43ページを開いて」

 

『えぇー』

 

 サクサク授業を始めようとすると何故か一部の生徒から不満の声があがった。

 

「なにか?」

 

「先生。最初の授業なんだから、授業は休みにして質問タイムにしましょうよ」

 

「………………」

 

 そう言ってきた男子生徒の心を読む限り、純粋にクシャトリアに質問したい事があるというより勉強が嫌だから授業を質問タイムで潰そうとしているようだ。

 勉強が好きな生徒なんてそうはいない。勿論ゼロではないがその絶対数は少ない。大抵の生徒は勉強なんて好きではないものだ。高校生活の経験はないクシャトリアだが、学校生活の経験はあるのでそのくらいは分かる。

 

「分かった。だが授業の時間もあるので質問は5つまでだ」

 

 クシャトリアは嘆息しつつも許可を出す。

 教師としての役割を与えられたからには、その役割を果たさなければならない。それにこれは良い機会だ。質問によっては白浜兼一か風林寺美羽に自分に対しての興味を覚えさせることができる。

 調査するには調査対象とある程度距離が近い方がやり易い。

 

「どこの学校の出身ですか?」

 

「K大学の文学部だ」

 

 有名校の名前に感嘆の声が漏れるが、勿論これは真っ赤なウソである。

 そもそもクシャトリアは大卒どころか小学校すら卒業していない。日本でのクシャトリアの経歴は幼稚園卒園から小学校入学まででストップしている。

 K大学文学部卒なんていうのは闇が潜入用にでっちあげた偽物の経歴に過ぎない。

 

「あのぉ。私、皆から影が薄いって言われるんですけど、どうすれば影が濃くなるでしょうか?」

 

「日差しの強い所にいけばいいだろう」

 

「好きな女性のタイプは?」

 

「美人って言葉が似合う女性です」

 

 正しくはこれに巨乳でスタイルが良く尻が軽いから気軽に付き合える女性、とつくが潜入している手前過激な発言は自重する。

 教育の場でこんな発言をすれば下手したら初日にして懲戒免職だ。

 

「好きな漫画家は?」

 

「松○名俊」

 

「貴方は神を信じますか?」

 

「はい」

 

 全て潜入のために作り上げた設定をさも自分のことのように語る。

 ただ神を信じているのは本当だ。なにせクシャトリアの師匠は拳魔邪神ジュナザード。ティダードにおける正真正銘の〝神〟である。

 天国のようなものがあってそこに神様とやらが住んでいるのかは知らないが、生きた人間が神に至ることができることは知っている。

 最後にバンソーコーをはった少年、白浜兼一が手を挙げているのを見て心の中で笑った。

 

「はい、白浜くん」

 

「しゅ、趣味はなんですか?」

 

 ここで武術といえば白浜兼一と風林寺美羽の両方から関心をひくことができるだろう。

 しかし達人であることを隠して潜入しているのに、自分から武術家であることを明かすことはできない。

 だからこそ情報部の調べた白浜兼一の関心をひけるような趣味を語ることにした。

 

「趣味は読書です。大学館シリーズなどよく読んでいました」

 

 白浜兼一の目が驚いたように見開かれる。クシャトリアは一先ず思惑が成功したことを確信した。

 

 

 

 初仕事を終えてたクシャトリアは、闇の用意したセーフハウスであるマンションへ戻る。

 そして『内藤』という表札のかかっている部屋へ入った。

 綺麗に整頓されている本棚、安く買ったソファ、最新式の冷蔵庫、人形や絵なんていう規則性のない品々で飾られた内装。本棚の奥には年頃の男性が好みそうなDVDがさり気無く混ざり、友人に囲まれた写真が何枚か飾られている。

 

「…………」

 

 自室と隣室を隔てる壁の前に立つと、目印のカレンダーの左横に手を置く。すると指紋認証が作動し、天井の一部が開いた。クシャトリアは一っ跳びで開いた天井から真上の部屋に飛ぶ。

 最初の部屋がどこをどう見ても普通の一般人の部屋だったのに対して、真上の部屋は最新機器が導入された如何にもなセーフハウスといった雰囲気を醸し出していた。

 クシャトリアにとって内藤翼という表札のあった部屋はそこにあった内装も含めて内藤翼を演じる為の偽物の部屋に過ぎない。本物のセーフハウスは内藤翼の部屋の真上にあるこの部屋なのである。

 

「さて」

 

 本物の自室に戻ったクシャトリアは黒く染めていた髪を洗い流し、肌を白く見せていた闇が開発した特殊なファンデーションも落とし、カラーコンタクトを外す。

 たったそれだけのことで黒髪黒目肌色の肌をした極普通の青年は、白髪赤目褐色肌の異人へと変貌した。

 

「日本に用意させた俺の屋敷と比べれば犬小屋だが、一影からの依頼だ。暫くはここで我慢しなければ」

 

 テーブルに置かれたザクロを掴むと喰らいつくと、果物の血肉が口内に染み渡る。

 ザクロの味は人肉の味と言うが、さて。これまでクシャトリアの食べた肉のどれとも違った味がした。

 




アレクサンドル「本日より美術を教える事になったアレクサンドル・ガイダルだ。宜しく」

武田「留年二年目にして担任が一影九拳になるのは予想外じゃな~い」

兼一「不安が一杯だ……」

アレクサンドル「今日は風景画などをしよう。生徒諸君、絵具を出したまえ」

宇喜田「でよぉ。実はこの前うちで飼っている猫が――――」

アレクサンドル「人の授業中に私語してんじゃねぇええええええええええ!!」ドガッ

宇喜田「ぼひゃぁらぁ!?」

武田「宇喜田ァァァァアアアアアア!!」

ボリス「師匠(ウチーチェリ)! まだ授業開始五分前です!」

アレクサンドル「おっといけない。私の時計が進んでいたようだ。除菌ティッシュをくれ、ボリス」

美羽「きゅーきゅーしゃ! きゅーきゅーしゃですわー!」

武田「うおおおおおおおお!! 死ぬなぁあ! 宇喜田ぁぁああああ!!」

宇喜田「」チーン
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