史上最凶最悪の師匠とその弟子   作:RYUZEN

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第31話  うねり

 途上国から来た男から財産を買い取り、その技を吸収したクシャトリアは別室でじっと巨大モニターを見ていた。

 巨大なモニターに映し出されているのはクシャトリアが必死で集めに集めた拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードが〝本気〟の実力を垣間見せた戦闘場面。

 合計して三時間にも満たない映像を集めるのにクシャトリアは十四回死にかけている。この映像はクシャトリアにとって師匠を殺すための大切な武器であり、同時に億の大金に勝る価値をもつ財産でもあった。

 

「………………」

 

 言葉を発することもなくクシャトリアはじっと画面を見ながら、魂の髄にまで刻まれた動きを再確認する。

 弟子ではなく一人の武術家としても、ジュナザードの動きは感嘆するものばかりだった。足運び一つ、突き一つがどれもが文句のつけようもなく完全。

 刀にせよ拳銃にせよ純粋な機能美を追及した兵器というのは独特の美しさを宿すものだ。しかしジュナザードの武は美しいすら通り越して神々しくすらある。

 

〝拳魔邪神〟

 

 大仰なその異名が、ジュナザードにとっては決して大仰ではないことは弟子のクシャトリアだからこそ良く分かる。

 画面を見つめながら何度も師匠との戦いをシミュレートしているが、クシャトリアが師匠に勝てたことは一度もない。

 クシャトリアの脳味噌で行うイメージの戦いでも、クシャトリアは師に3238敗していた。うち勝利と引き分けは一つもない。

 

「ふっ。目指す頂きはまだまだ遠いな」

 

 映像を見終えると、クシャトリアは一息ついた。

 潜入ミッション中のため普段は闇が与えたセーフハウスで過ごしていたクシャトリアだが、今日は学校が休みなのでこうして日本に用意した屋敷に戻ってきている。

 久しぶりの自宅ということで久々に大画面で師匠の動きをじっくりと見ることや、新たに一つの流派を吸収することもできた。

 中々に有意義な休日だったといえる。

 

「邪帝様」

 

「ん?」

 

 クシャトリアの隣りに立っていた浅黒い肌の男が話しかけてくる。

 彼はアケビ、闇に所属する達人の一人だ。特A級には至らないが、達人の中でも中位あたりに位置する実力者であり、以前仕事でクシャトリアが命を助けて以来、紆余曲折あってクシャトリアの側近となった。

 

「貴方が拳魔邪神様を超えるため常に他流派の秘伝の吸収に余念がないのは知っておりますが、本当にジュナザード殿を倒すのに役立つのでしょうか?」

 

「まぁ確かに俺の師は特A級というある種の位階すら超えた所におられる御仁だからな」

 

「いえ、そういうことではなく。今日、己の秘伝を売り払いに来たあの男。明らかに達人未満、妙手にやっと手が届いた程度の実力です」

 

「そうだな」

 

 ジュナザードや美雲の鋭い目に晒され続けたクシャトリアは高度な閉心術を体得していると同時に、相手を視る眼力も鍛え上げている。

 そのクシャトリアの目から見ても今日来た男はやっと弟子クラスの殻を破った程度の武術家でしかなかった。はっきりいってクシャトリアなら一切相手の体に触れずに倒すこともできるだろう。

 

「邪帝様。仮にも九拳に肩を並べる実力者でもあられる貴方が、学ぶべきところなどあるのでしょうか?

 

「それは早計というものだ。アケビ、一つ簡単な質問をするが……達人の弟子は確実に達人になるのかな?」

 

「いいえ。どれほど優れた才能の持ち主で優れた指導者に恵まれたとしても、無限に等しい努力がなければ達人級には届きません」

 

 クシャトリアやアケビも達人級と呼ばれる頂に立つ者だが、もしも二人が才能にかまけて努力を怠っていれば今頃はまだ妙手の殻を破れないまま、弟子でも達人でもない危うい所をうろうろしていたかもしれない。

 神童と呼ばれる才能の持ち主でもなれるかどうか分からない場所。それがマスタークラスなのだ。

 

「その通り。達人の弟子から必ず達人が生まれることはない。だったら嘗て特A級が起こした流派だったとしても、後継者に恵まれずに特A級が生涯かけて手に入れた奥義と秘伝が現代では妙手そこそこ程度の武術家に受け継がれているという事例は決して少なくはないんじゃないか?」

 

「――――あ!」

 

「俺が求めているのは妙手そこそこの武術家が辿り着いた秘伝なんかじゃない。彼等の師匠が生涯をかけて到達した秘伝だよ」

 

 達人級であればその埒外の強さを活かして、金を稼ぐ方法なんてそれこそ幾らでもある。

 短絡的な強盗という手段であってもマスタークラスとそうでない者とでは成功率に雲泥の差があるし、マフィアの用心棒ですれば一定の額で大金を手に入れることもできるだろう。非合法手段が厭ならば政治家のボディーガードというのもありだ。

 しかし妙手や弟子クラスの武術家はそうはいかない。達人ほど金を稼ぐ手段はなく、場所によっては貧困に苦しんでいる者も数多い。

 

「達人級から秘伝を盗むのは並大抵のことじゃない。達人級ほどになれば己の武術に対しての矜持も人一倍な上に、それほどお金に困っている人もいないからなぁ」

 

 勿論お金である程度融通してくれる人もいるにはいる。

 実際クシャトリアは一影九拳の一人である馬槍月から本当の秘中の秘は兎も角、絶招を幾つか教わった。

 ちなみに馬槍月から絶招を教わった代金は三億円分のお酒である。教わった絶招の原理よりも、三億円分の酒が一週間で馬槍月の胃に消えた時は仰天したものだ。

 

「緒方みたいに目ぼしい達人に死合いを挑んで、その中で秘伝を奪い取るなんて手法をとるほど俺は極悪でもないし。こうやって貧乏武術家の足元を見て、秘伝を買い叩いているわけだよ。

 外れもあるが今日みたいにそこそこ面白い秘伝を見つけることもできるし、中には特A級相手にも有効な奥義を持っているような大当たりもある」

 

「そこまで深いお考えだと知らず御見それ致しました」

 

「別に褒められることでもない。やっていることは美術品を買い漁るのと特に変わらんわいのう……って師匠の口調がうつった」

 

 アケビと話しながら桃に舌鼓をうつ。無論いつも通り皿に切り分けるなんて面倒臭い手順はカットである。

 果肉を歯で咀嚼すると溢れ出る血液のように果汁が口内を満たした。脳内シミュレートで渇いた喉を癒すのにはやはり果物が一番だ。

 クシャトリアがフルーツを食べていると、テーブルに置かれたケータイが着信音を鳴らす。

 楽しみに水を差された気分だが、潜入ミッション用の内藤翼のものではなく、仕事用のシルクァッド・サヤップ・クシャトリアのケータイにかかってきたのだ。無視はできまい。

 

「もしもし……」

 

『やぁクシャトリア。私だよ私』

 

「ワタシワタシ詐欺なら切るが」

 

『ははははは、下手な冗談だ。君ほどの達人が声で人を判別できないはずがないだろう』

 

 朗らかに笑いながら拳聖――――緒方一神斎が言った。

 

「一影九拳の御一人が一介の闇人にどんな御用事で?」

 

『うん、それなんだが。君の調査対象の白浜兼一くん、昨日学校を休んだんじゃないかい?』

 

「……どうしてそれを?」

 

 緒方の言う通り白浜兼一は昨日学校を休んだ。だがクシャトリアはそのことを誰かに喋ったりしてはいない。

 闇ヶ谷でに籠もっている緒方が、クシャトリアの監視対象が休んだことを知っているのは明らかに奇妙だった。

 

『実はね。彼、私のところに来たんだよ』

 

「来たって闇ヶ谷に? ……成程。白浜兼一くんの休みの理由は山籠もりか」

 

 聞くところによれば闇ヶ谷はあの無敵超人も愛用する修行場所だという。

 過去も現代も山籠もりは武術家にとってポピュラーな修行の一つ。だとすれば闇ヶ谷に籠もっている緒方と出会ってしまうのはそれほどおかしいことではない。 

 

『単なる山籠もりじゃあないがねぇ。俺のことを自分の弟子の修行に利用しやがった。相変わらず食えない爺さんだよ』

 

 嫌いと明言する無敵超人のことを話しているせいか、緒方の口調が荒々しいものに変わる。

 だがそこに風林寺隼人への嫌悪はあっても、白浜兼一に対する嫌悪はなかった。

 

「具体的にどういう風に利用したんだ?」

 

『どうも彼、私の弟子の龍斗にやられたせいで精神的に危うい状況だったんだがね』

 

「だった?」

 

『今はもう元に……いや元以上に落ち着いた状態に戻ったよ。危ういラインを超えて安定ラインに到達したというべきかな』

 

 白浜兼一は緊湊には至っていない武術家で制空圏も把握していないように見えたが、どうやら緊湊に至ったようだ。

 無敵超人・風林寺隼人のことだ。これから白浜兼一に制空圏、或いはその極みである流水制空圏を伝授している頃かもしれない。

 

『動のタイプを極めた末に修羅道に落ち殺人拳の使い手である私に会わせることで、自分の弟子に動のタイプと修羅道を歩んだ先を見させる。あの爺の考えはそんなとこだろう。

 白浜兼一くんは得難い人材だから私の弟子にならないか勧めたんだがね。断られてしまったよ。今では立派に静のタイプを選び人道を歩む活人拳の武術家さ』

 

「……………我が師も無茶無謀しかしない人だったが、風林寺隼人もそれに勝るとも劣らない」

 

 だが決して弟子をとらないと有名な風林寺隼人が修行をつけるとは、この分だと白浜兼一は梁山泊の弟子という事実が揺らぐことはなさそうだ。

 

『それでクシャトリア。白浜くんに触発されて私もそろそろ都会に出向こうと思うんだ』

 

「一影九拳の一人が動く、か」

 

 YOMIに所属する弟子達も緊湊に到達していることであるし、そろそろ本格的に闇が動き始めるかもしれない。

 というより緒方はその気で都会に出向こうとしているのだろう。

 これはそれなりの覚悟はしておいた方が良さそうだ。

 

 




美雲「保険の授業の時間じゃ。教科書の33ページを開け」

宇喜田(やべぇ……。なんて破壊的な胸だ。こりゃアフリカ象……いや! マンモス級のボインだ!)ドキドキ

夏「鼻の下伸びまくってんぞ」

宇喜田(席が教壇の前でこれほど嬉しいと思った事はない)

夏「聞いちゃいねえな」

美雲「おっといけないのう。胸元がはだけてしもうた」

宇喜田「ブホォォォォォ」ピュー

武田「宇喜田ァァァァアアアアアア!」

宇喜田「我が人生に一片の悔い……なし」ガクッ

武田「うぉぉぉおおおおお!! 宇喜田ァァアアアアア! 鼻血で出血多量死なんて洒落にならないぞぉぉおおお!」

美羽「きゅーきゅーしゃ! きゅーきゅーしゃですわ!」

兼一「師父……」コソコソ

剣星「分かってるね。例の瞬間はしっかりおいちゃんがカメラで激写しておいたね。三千円であげちゃうね」ヒソヒソ

兼一「貴方は日本一素晴らしい中国人です」

宇喜田「」チーン

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