史上最凶最悪の師匠とその弟子   作:RYUZEN

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第32話  新たな発見

 切欠は本当に突然のことだった。いやもしかしたらそれはクシャトリアが緒方の頼みを聞きいれた時から、或いは一影から任務を命じられた日から決まっていたのかもしれない。

 運命。形に見えないそれを信じない者は多いが、ある程度の領域に立つ者であれば一度や二度は偶然とは思えない奇妙な巡り合わせを体験したことがある。

 例えばそれは守りたいと思える異性との邂逅であったり、例えば厳しくも愛のある師たちとの出会いであったり。はたまた愛など皆無の極悪を凝縮したような邪神との邂逅であったり運命の形は様々だ。

 ただ一つだけ断言できるのは偶然のような必然はよくあるということである。

 白浜兼一が闇ヶ谷に連れていかれ、そこで静の気を歩むことを無意識に決めてから数日後。

 

「やぁ。こうして直接会うのは三か月と二十四日ぶりだね」

 

 電話で予告した通り〝拳聖〟緒方一神斎は闇ヶ谷で自分の殺めた者に対する供養に一段落つけて、梁山泊の弟子と緒方の弟子の作り上げた武闘派組織が抗争を続ける都会へと出てきた。

 そして都会へと戻った緒方がやってきたのはクシャトリアのセーフハウスだった。

 クシャトリアの潜入ミッションは闇にとって不倶戴天の宿敵である『梁山泊』が関わっているため、闇の中でもトップシークレットに近い扱いがされている。

 これを知っているのはミッションを命じた一影を始めほんの一部の者しかいない。

 だが緒方は一番の新入りとはいえ無手組最高幹部一影九拳に名を連ねる達人。クシャトリアのセーフハウスを知るのはそう難しいことではない。

 

「……会いに来るなら、事前に連絡してくれないかな」

 

 近代的マンションに白いフードを羽織り、隆々たる筋肉を惜しげもなく晒している男がいる光景はかなりシュールだ。

 このマンションそのものが闇が用意したセーフハウスで、住人の三分の二が闇の人員でなければ一騒ぎあってもおかしくはなかった。

 

「おっとすまない。実は此処に来る時に携帯電話が壊れてしまってね。やっぱり時速三百キロの風圧に晒され続けたのが悪かったのかな」

 

「相変わらず無茶するな」

 

 緒方の籠っていた闇ヶ谷は平均的な人間が通常の交通機関で行こうとすれば、どれだけ急いでも一日以上はかかるような辺鄙な場所だ。

 だがそこは人間を超越した達人。強靭な脚力という頼もしいものを駆使すれば格段に時間を短縮することができる。

 闇ヶ谷から都会に戻る際、緒方も自分の脚力を駆使してきたのだろう。

 

「念のために確認するが、誰かにつけられたりはしてないだろうな?」

 

「そんな初歩的なミスをするようじゃ、私は一影九拳をクビになってしまうよ。闇を去ってまた流浪の達人の一人に戻るのも、それはそれで面白そうだが」

 

「冗談に聞こえないぞ」

 

「ふっ。半分本気だからね。だが今は闇を離れる気はないよ。闇は武術を高めるにこれ以上はない場所であるし、闇にいた方が死合いが身近にもある。なによりこれから楽しいお祭りが始まるのに寸前でどこかへ行くほど私は酔狂じゃないんでね」

 

「〝宣戦布告〟でもしにきたのか?」

 

「ご名答。白浜兼一くんもそれなりの実力にはなったんだ。良いタイミングだろう。私はあの白浜くんも未来の武術界のためにも是非欲しい逸材なんだがねぇ」

 

「確かに彼は面白い男だが、そうか……緒方一神斎にそこまで言わせるか。ま、気持ちは分かるがね」

 

 白浜兼一には才能がない。才能が凡庸な凡才なのではなく、才能が欠片もない凡人だ。無才と言い換えても良い。

 だがそうでありながら白浜兼一はここ最近でクシャトリアが高評価をつけたトール、ハーミット、ジークフリートといった才能ある逸材たちを倒している。

 師匠の弟子育成能力が優れていると言えばそこまでだが、それだけにしてはここまでの戦果は異常だ。

 これで白浜兼一が才能溢れた天才なら、凄い才能というシンプルな理由で済むのだが、彼は才能のない凡人ときている。

 達人であるクシャトリアをもってしても良く分からない不思議で興味深い人物。それがあの白浜兼一なのだ。

 

「それでわざわざ人の潜入中のセーフハウスまで調べ上げて、そんな電話でも話せることを言いに来たんじゃないんだろう。本題は?」

 

 白浜兼一について語っていた研究者めいた好奇心溢れた顔が、武術を極めた豪傑の笑みに変わる。

 

「頼みやお願い、というよりは提案かな」

 

「提案?」

 

「クシャトリア。君、弟子とってみる気はないかい?」

 

 緒方の口から飛び出した予想外の提案に、クシャトリアは瞳を大きく見開かせた。

 

 

 

「それで。それがその弟子か?」

 

 緒方に連れられ渋々とやって来た所にいたのは、武術家らしからぬゴシックロリータなファッションに身を包んだ、武術家というよりはテレビの向こう側でアイドルでもしていそうな容姿の少女だった。

 というより彼女とは初対面ではない。いつだったか緒方の頼みを引き受けた時に奇妙な巡り合わせで一つ秘伝を授けた小頃音リミだ。

 

「どーも、お久しぶりでーす。ティターン幹部改め〝新〟リーダーのアタランテー、小頃音リミです。クシャさんに教えられたことを頑張ってたお蔭で、クロノスの時代オワタさせてきましたお!」

 

「………………よりにもよって、これが?」

 

「ははははは。ちょっと残念なところはあるけど、素直な良い子じゃないか。才能にも満ち溢れてやる気も十分! 弟子として十分だと思うがね」

 

 小頃音リミ、彼女の才能を最初に見出したのはクシャトリア自身だ。緒方に言われずともリミの才能については知っている。

 クシャトリアの見立てではあの風林寺美羽や、YOMIのリーダーの叶翔には一歩劣るが数万人に一人の逸材といえるだろう。

 

「ほら、アタランテー。君からもお願いして」

 

「はい! ご指導ご鞭撻のほどお願いします」

 

 緒方に唆されるままクシャトリアに頭を下げるリミ。

 だが頭を下げられたところで「分かりました。弟子にしよう」とは言えない。

 

「悪いが、他を当たってくれ」

 

「えぇー! どうしてですかぁ!? 前にリミに凄い走り方を教えてくれたじゃないですか!」

 

「秘伝を一つ授けるのと正式な弟子にするのは訳が違う。弟子なんて生まれてこのかたとったことなんてない上に、そもそも君は緒方の人材育成プログラムのリーダーなんだ。私みたいな弟子育成素人に弟子入りするより、そこにいる緒方――――拳聖に弟子入りする方が…………」

 

「?」

 

「いや、なんでもない」

 

 ティターンのリーダーならば拳聖の弟子になる方が良い、と言いかけてクシャトリアは止める。

 自分の弟子を実験体にして武術の発展と進歩の礎に利用するような緒方に弟子入りすることを、リミにとって一番良い選択肢だなどとは言えない。

 ジュナザードよりマシかもしれないが無間地獄が焦熱地獄に変わっても地獄であると言う事が変わるわけではないのだ。

 

「兎に角。緒方も緒方だ。なんで自分の弟子を選ぶためのプログラムで見つけた逸材を他人の弟子にしようとする? なにか裏でもあるのか疑われても仕方ないぞ」

 

「クシャトリア、君は少し勘違いをしているようだ。ティターンやラグナレクは人材育成プログラムであって私の弟子育成プログラムじゃあない。

 勿論、私がリミを弟子にするのもそれはそれでアリだろう。だが私もリミ以外にも三人ほど私のYOMIとして迎え入れる人物に心当たりがあるんでね。得難い人材を私一人で独占するよりも、君という弟子育成能力が未知数な者に渡した方が武術はより発展すると思うんでね」

 

「……話は分かった。だがやはり弟子入りは断らせて貰う。俺は弟子育成にかまけている時間はない。俺には他人を高めるよりも先ず自分を高め、そして殺さなければならない奴がいる」

 

 クシャトリアもシラットという武術を極めた達人だ。武術家として自分の業を次の世代に繋ぐためにもいつかは弟子をとる日はくるだろう。

 だがそれはジュナザードを殺し、クシャトリアが真に自由を獲得してからだ。

 

「師は弟子を育て、弟子は師を育てる……」

 

 踵を返そうとした時に緒方の声が背中にかかり、クシャトリアはピタッと足を止めた。

 

「私はなにも武術の発展のためだけに弟子をとらないかって提案しているわけじゃない。クシャトリア。君、伸び悩んでいるだろう」

 

「…………」

 

 図星だった。厳しい修行の果てにこうして一影九拳と肩を並べるだけの強さにはなることが出来た。

 だがしかし師匠たるジュナザードが立つ場所は特A級よりも更に上にある地点。武術という概念における頂上に君臨する者がジュナザードなのだ。

 クシャトリアも多くの秘伝を収集することで自分の武術を高めようと四苦八苦しているが、どうしてもジュナザードのいる場所に到達する足がかりが得られないでいる。

 

「弟子をとり自分の業を教える中で、ただ一人で修行するだけじゃ得られないものを得ることができるかもしれない。どうだい?」

 

「……新しい発見、か」

 

 人に教えるには教わる側の三倍の労力が必要、人に教えることで自分の知識や技も練磨される。これは武術のみならず勉強やスポーツでも言われていることだ。

 ジュナザードから独立し一人で黙々と技を高め続けてきたが、弟子をとることで新たな発見を得られるのならば弟子をとる価値はあるのかもしれない。

 

「本人の意志はどうなんだ?」

 

「ん? 確かにそれは重要なことだったね。リミ、君は私と彼。どっちを師に仰ぎたい?」

 

「うーん。リミはクシャさんの走り方をマスターしたらクロノス倒せたし、クシャさんの弟子になりたいんですけど……。あ、だけど拳聖様の弟子になれば龍斗様と兄妹弟子なんだ。龍斗様の妹……えへへへ。龍斗お兄様なんて良い響きぃ」

 

 リミは龍斗様、などと呟きながら一人の世界に旅立ってしまっていた。

 龍斗様とはもしかしなくてもオーディンこと朝宮龍斗のことだろう。どうもリミは朝宮龍斗にお熱のようだ。

 

「決めたお! 迷ったけど初志貫徹でクシャさんの弟子になります!」

 

「……ちなみに理由は?」

 

「だって兄妹だと結婚できないじゃないですか!」

 

 ツッコミ所は山ほどあったが、取り敢えずクシャトリアはリミに強烈なデコピンを喰らわす事にする。

 達人のデコピンを喰らったリミは「うにゃ!」と悲鳴を上げながら吹っ飛んでいった。




ディエゴ「やぁ皆! 笑う鋼拳ディエゴ・カーロの日本史の授業の始まりだよ」

レイチェル「待ってましたマエストロ!」ドンドンパフパフ

兼一「うわ~。一番不安な人がきちゃったよ。っていうかなんで日本史」

ディエゴ「ちなみに授業風景は某動画サイトにより、全世界に生放送中だ! 首相も見てるから張り切って学んでくれたまえ!」

宇喜田「マジかよ!?」

ディエゴ「仕事をただこなすのは仕事人。だが私はエンターテイナー。学校の退屈な授業すらエンターテイメントにするのだよ!」

レイチェル「さっすがマエストロ! 他の九拳にはできないことを平然とやってのける!」

イーサン「ソコニシビレル、アコガレルゥ」

ディエゴ「第一問! 本能寺の変の首謀者の名前は?」

レイチェル「Oh……これは難しい問題デース。豊臣……秀吉? 平賀源内? 明智小五郎?」

ディエゴ「さぁどうするカストル。ヒントが欲しいかね」

レイチェル「う~ん……ハッ! 閃いた! 答えは明智光秀! 明智光秀でファイナルアンサー!」

ディエゴ「ふふふふふっ。明智光秀か。気になる答えは……」

レイチェル「ゴ、ゴクリ」

ディエゴ「大正解~!!」

レイチェル「やった! 偶然にも正解しちゃったわ!」

夏「……なんだこの茶番」

ディエゴ「第二問。では本能寺の変で殺された光秀の主君といえばだ~れだ~。宇喜田!」

宇喜田「織田信長じゃねえのか」

ディエゴ「馬ッ鹿野郎ォォォォオオオオオオ!」

宇喜田「びょほらぁ!?」

武田「宇喜田ァァァアアアアアアアア!!」

ディエゴ「あっさり問題に答えるなァーーーッ! もっとエンターテイメントにやれぇ!」

武田「うぉぉおおおおおお! 宇喜田ァァアアアア! 死ぬなぁああああああ!!」

美羽「きゅーきゅーしゃ! きゅーきゅーしゃですわ!」

宇喜田「」チーン

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