史上最凶最悪の師匠とその弟子   作:RYUZEN

51 / 142
第51話  試合開始

 DオブD、大会当日。栄えある――――かどうかは分からないが――――第一線は昨日の前夜祭で飛び入り参加した新白連合チームと某国の特殊部隊チーム。

 闇の一影九拳が取り仕切る大会に乱入してきた意気込みは天晴れなれど、所詮は日本の学生の集まり。殺しのプロである特殊部隊チームに勝てるはずがない。会場を血で暖めるための生け贄、ただの殺戮劇――――という観客の予想は完全に外れ、蓋を開けてみれば新白連合の快勝といっていい結果に終わった。

 J隊員は武田に一発場外KOされ、三人の下っ端隊員もあっさりトールに薙ぎ倒され、リーダー格のK隊長はフレイヤに破れ、新白連合の損害は下っ端の水沼少年のみ。

 

「ははははははは。単なる生け贄としか思っていなかったが、これは大番狂わせじゃのう! 素養溢れた素晴らしい子供たちじゃ」

 

 新白連合の快勝という結果に驚きながらも、嬉しそうにフォルトナは言った。

 クシャトリアはフォルトナに誉められた新白連合の少年達に同情する。フォルトナはジュナザードとも似た性質のある男だ。その男が手放しに素養を誉めることは必ずしも良いことになるとは限らない。寧ろ悪いことになる確率の方が高いといえるだろう。

 ましてや彼等は梁山泊の史上最強の弟子と知り合いといえど後ろ盾もなにもない身。闇というバックアップがついているYOMIとは立場が違うのだ。

 

「まぁ、このくらいは当然でしょう。彼等なら」

 

 とはいえ闇のクシャトリアが彼等に肩入れするわけにもいかない。

 周囲の観客が驚く中、クシャトリアは平然とコメントする。

 

「そういえば君は一影の命で史上最強の弟子の調査をしていたんだったっけねぇ。ということは」

 

「新白連合についても一通りは」

 

 幹部級がダイヤの原石ばかりといえど、未だ新白連合は街の不良を大きく逸脱する規模には到っていない。ましてやその構成員は才能はさておき、出自にそう突飛なものはない。

 クシャトリアの調査力をもってすれば、新白連合の幹部達の個人情報を入手するのは難しいことではなかった。

 

「さっきJ隊員を倒したボクサー、彼は裏ボクシング界の破壊神、ジェームズ志馬の弟子。そしてあのフレイヤと名乗った杖術使いは、梁山泊の豪傑にも勝るとも劣らないとされる伝説の杖術使い久賀舘弾祁の孫娘。

 闇にもそれなりに名の通った達人の弟子が二人もいるんです。その他の子にしてもダイヤの原石といっていい才能が集まっている。特殊部隊チームに快勝することくらい驚くには値しません」

 

 ディエゴのように大会全てを取り仕切っているわけではないが、クシャトリアも主催者側の一人。新白連合のみならず個々のチームの情報も掴んでいる。

 特殊部隊チームと言えば聞こえは良いが、実力的には今大会に集ったチームでは下位。元は日本の不良集団に過ぎずとも、拳聖直々に見繕った才能たちに及ぶべくもない。

 

「成る程のう。DオブDに乱入する度胸に見合うだけの実力はあるということじゃな」

 

「はい」

 

「ふむふむ。じゃあそれも踏まえてトーナメント表を修正しないと♪」

 

 ディエゴが愉快そうにペンを片手にトーナメント表を書き換えていく。

 この大会、実はまだトーナメント表が発表されていない。参加者の実力を把握し、その上で最も面白くなるトーナメント表を作るというディエゴ・カーロの意向のためだ。

 どうやら新白連合の実力の高さは彼にとっても少し予想の上だったらしい。

 

「あんまり変な風にはしないで下さいよ」

 

「失敬な。変な風なんかにはしない。面白い風にはするがねぇ」

 

「お手柔らかに」

 

 なんにせよ第一回戦は無事に終了。新白連合はイレギュラーだったが、彼等は所詮弟子クラスの集まりであり、DオブDの1チームに過ぎない。大会を引っ掻き回す程度はできても、大会を転覆させることは不可能だろう。

 一時はどうなることかと危惧したが、この分なら大会は滞りなく進行できそうだ。クシャトリアはほっと一息つき、

 

『続きまして第二試合はキックボクシングハリケーンズ、カイエン大杉選手対……謎の青年、我流X!』

 

「ほっほっ。お手柔らかに頼むわい」

 

「!!???」

 

 申し訳程度に縁日で売っているようなヒーローの仮面をつけているが、立派に蓄えた髭は隠しようもない。我流Xなどとふざけた名前を名乗っているが、どこからどう見ても無敵超人・風林寺隼人その人だった。

 クシャトリアの耳に隣のディエゴの大爆笑が届く。一影九拳でも最もフリーダムで問題を起こすディエゴ・カーロが仕切る大会。故にクシャトリアもなにが起こっても平静さを保つ覚悟はしていた。

 だがこれは流石のクシャトリアも目が点になった。

 

「…………ディエゴ殿、この大会はいつから年齢制限を撤廃したので?」

 

「え? してないよ、そんなの。だって本人が我流X、年は二十歳って言ってるし」

 

「あからさまに嘘じゃないですか。どうするんですか、あんな怪物を大会に入れて。異物を排除するならあんな核兵器みたいな怪物を使わないでも、俺がサクッと始末しておきますが?」

 

「はははははははははははははは! まだまだ全然分かっていないな。これはこのディエゴ・カーロの大会。折角のイレギュラーを暗殺だとか失格だとか、そんな面白味のないやり方で退場するなど論外。

 ルール違反者を大会から弾くにしてもエンターテイメントにやらねば」

 

 そう言うクシャトリアとディエゴの視線は我流Xではなく、キックボクシングチームの一人であるスキンヘッドの優男に向けられていた。

 ともすればチームの中でも最も影が薄く弱そうに見えるその男。しかし他の者の目は誤魔化せても一影九拳の目は誤魔化せない。

 あの男は年齢は五十代のキックの魔獣と呼ばれる達人だ。大方DオブDの優勝賞金である1000万ドルに目が眩んで紛れ込んだのだろう。

 だが今回ばかりは相手が悪かった。

 

「違う!! 百万倍じゃ!!」

 

 会場では件のキックの魔獣が我流Xに一撃――――いや、デコピン一発で吹き飛ばされたところだった。クシャトリアたちのいる主催者席にホームランされた魔獣を、立ち上がったディエゴがあっさりとキャッチする。

 

「ほれ見ろ! やはり達人級であったではないか、マスクマン!」

 

「フフ。失礼失礼。お陰で良いものが見れましたよ♪」

 

 調子よさ気に言いつつもディエゴ・カーロの声には他にはない敬意のようなものが含まれていた。

 エンターテイナーと言いつつもやはりディエゴ・カーロもまた武術を極めた達人。武術家として無敵超人にはそれなりの敬意をもっているのだろう。

 或いはエンターテイメント以上に、無敵超人の戦いを観戦し学ぶために、こんなことを仕組んだのかもしれない。

 

「それでどうするんですか、ディエゴ殿。キックの魔獣は排除しましたが、我流Xはこのままにしておくんですか?」

 

「フフフ。私が用が済んだからといってあんな面白要素の塊を失格させると思うかね?」

 

「いや、まったく。まぁホドホドに頼みますよ」

 

 我流Xには最初は度肝が抜かれたが、この大会には彼の弟子であるレイチェル・スタンレイもいる。

 少なくとも我流Xを好き放題に暴れさせ続けるなんてことはしないだろうし、我流Xこと風林寺隼人にしてもそんな大人気ない真似はするまい。

 

「そうそうクシャトリア。言い忘れていたが次は君の弟子の出番だぞ」

 

「おや、もうですか」

 

 我流Xの試合からインターバルである五分が経過する。そして、

 

『第三試合。カポエイラチーム対……えーと、朝宮夫婦チームです!』

 

 会場の隅で車椅子にのった少年が、ゴスロリファッションの少女をどつき倒した。

 

 

 

 

 ジェノサイダー松本がふざけたチーム名を言い放った瞬間、オーディーンこと朝宮龍斗がやったことは、隣で「夫婦だなんて……きゃっ!」などと照れている小頃音リミに拳骨することだった。

 

「痛っ! 龍斗様、朝宮家じゃなくて小頃音家の方が良かったとですか? 婿養子がいいなら早く言ってくれれ――――ぼぎゃっ!?」

 

「君は空気を読んだほうがいい」

 

「うぅ。二度もぶった……親父にもぶたれたことないのに……」

 

 リミをスルーして龍斗は司会のジェノサイダー松本にチーム名変更の旨を伝える。リミはブーブーと文句を言ったが、龍斗が少し本気で睨むと大人しくなった。

 そしてジェノサイダー松本は改めて宣言する。

 

『えー、では改めまして。第三試合、カポエイラチーム対チーム・ラグナレクを始めます』

 

 どんなチーム名にするか迷った挙句、嘗て自分が率いたラグナレクを流用することにした。

 新白連合との戦いに敗れ壊滅した組織ではあるが、これまでチーフを務めていた龍斗にはそれなりに思い入れがあるし、なによりこの大会はお忍びのような形で参加しているので、拳聖や緒方流の名前を出すことは避けたかった。

 龍斗は車椅子をリミに押されながらリングに上がる。

 車椅子にのっているからだろう。会場のあちこちから自分のことを侮るような囁きが聞こえてきた。一方で、

 

「龍斗! どうしてここに!?」

 

 以前戦った幼馴染の声はよく会場に通ってきた。

 久し振りに幼馴染の顔を見た事に頬を緩めつつも、龍斗は敢えて返事をせずに前を向く。白浜兼一、彼と話す機会は他にある。

 

『試合開始!』

 

 だから手早く目の前の敵を片付けるとしよう。

 

 

 




 投稿が一日遅れて申し訳ありません。確認しましたところ、昨日の予約投稿日が一日ずれてました。読者の皆様にこの場を借りて謝罪致します。なので……お願いでございます。命だけは、命だけ はお助けくだされ~~

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。