東條希生誕祭2020   作:『シュウヤ』

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第1話

「ほな、お先失礼します〜」

「あ、東條さん。もし良かったらこれからご飯でもどう? ご馳走するわよ? おめでたい日だもの」

「あー……ごめんなさい、先約が」

「あら残念。でも仕方ないか、金髪の美人さんによろしくね。──でも一言だけ。おめでとう!」

「ありがとうございます」

 巫女服から着替え、ウチは神社をあとにする。すっかり冬の気配も消え去り、梅雨入り直前のふんわりした空気に包まれるこの季節が、実は好きだったりする。……最近は、暑すぎて気が滅入る事も多いが。

 夏至の近い長い陽も、すでに建物の影に身を潜めてしまっている。

「…………」

 残り少なくなっていた備蓄を補充しようかと考えたが、『今日は寄り道も買い物もせず、一目散に帰ってくるように』と同居人に釘を刺されていた事を思い出す。従わなければ、どんなペナルティが待っているか分からない。

「一週間掃除当番……ゴミ出し……洗濯物担当……どれも嫌やなぁ」

 買い物も今日必須という訳ではない。ウチは大人しく自宅へと足を向けた。

 

 

「──ただいま〜」

 玄関の電気を点けると、綺麗に揃えられたヒール。やはり、もう帰ってきているようだ。

 つい最近管理職に昇進し、仕事も責任も増えたはずなのに。こうして早い時間に帰ってこられるのは稀なはすだ。

「ウチは高校からなーんも変わらず、巫女見習いなのになぁ」

 と、危うく卑屈になりかけてとどまる。『今を全力で駆け抜ける』というのは、あの頃も今も変わらないのだ。

 それに今日は自分にとっても特別な日。あまりマイナスな事を考えていては、鋭い同居人に勘繰られてしまう。

 ウチはかぶりを振って、リビングへのドアに手をかける。

「ただいまー。言われた通り真っ直ぐ帰ってきたで、絵里ち──」

 

 

 ──パパパァンッ!

 

 

 耳を突き抜ける破裂音。何が起きたのか、理解するのにしばらくかかった。

 頭上から垂れる色とりどりのテープ、鼻を刺す火薬の匂い、そして、同じ体勢の八人の人影。

『ハッピーバースデー!』

 一斉に唱和された声で、ようやく我に返った。

「み、みんな⁉︎ どうしてここに……⁉︎」

「希ちゃんのお誕生日だから!」

 両腕を広げて答えたのは穂乃果ちゃん。何度か穂むらには顔を出しているが、ハツラツとした笑顔はずっと変わっていない。

「穂乃果はいっつもヒマしてるから大丈夫だけど、ことりちゃんとか真姫ちゃんは大変だったんだって〜」

「ヒマしてるのはあなたが不真面目だからでしょう。おじさまの味を超える和菓子を作らなければならないのに、負担を増やしてどうするんですか!」

「お説教する海未ちゃんには、もう和菓子作ってあげないもーんだ!」

「なっ……そういう姑息な手段に出るのは卑怯ですよ!」

「ま、まあまあ。二人共その辺で、ね? 今日は希ちゃんのお祝いで集まったんだから」

 穂乃果ちゃんも海未ちゃんもことりちゃんも、なんも変わらんなぁ。……変わらなすぎやん?

「希、おめでと。今日の為にわざわざ非番取ってきたんだから、感謝しなさいよね?」

「真姫ちゃん、お休みの日はいっつも凛かかよちんの家来てるもんね〜」

「て、適当な事言うんじゃないわよ!」

「でも本当だよ? 三人でやるミニ演奏会、いつも楽しみなんだぁ」

「花陽まで……」

 この三人も、相変わらず仲良しやんなぁ。大人になった今でも、微笑ましくてずっと見てられるわ〜。

「──あ、にこっち。来月出す新曲のCD、サイン付きでくれへん?」

「……私に対する第一声がそれかい。てゆーか、そういうのは自分で何とかするんじゃなかったの?」

「それはそれ、これはこれ」

「…………。まあいいけど」

「わーいありがとにこっち。お礼にワシワシしてあげる」

「やめんか! こっちも少なからず育ってるのよ!」

「──こーら、やめなさい」

 にこっちににじり寄っていると、肩に優しく手が置かれた。

「……サプライズの計画したのは、絵里ち?」

「発案だけね。穂乃果に相談して、そこからは全部お任せ。まさか全員集まれるなんて、私も思ってなかったわ」

 迷惑だった? と訊かれる。

「んふふ、ぜーんぜん」

 絵里ちもずるい。

「久しぶりにみんなに会えて、何だか昔に戻ったみたい。ありがとね、絵里ち」

「私は何もしてないわよ。お礼なら、予定を合わせてくれたみんなに、ね?」

 絵里ちは、苦労を表に出さない人。優しい人。ウチはよく知っている。

「うん、せやね」

「──そういえば、まだ言ってなかったわね。希、お誕生日おめでとう。これからもよろしくね、私の大切な人」

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