TSエルフさんの事象研究日誌   作:井戸ノイア

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 そういう内容が含まれています。


ゴブリンの生殖について

 あれは、今からあー……何年前だったか。

 まあ細かいことはいいか。

 

 あれは、私が研究しようと思い立ってすぐの頃だった。

 

 当然のように、エルフの里には金銭は存在しない。

 物々交換が主流で、それさえも物欲があまり無いエルフにとってはただの挨拶や娯楽のようなものだろう。

 つまるところ、人間社会に出てきた私にはお金が無かった。

 エルフの里から持ってきたものを適当に売って、最低限の宿は確保したものの、食事は諦めざるを得ない。

 エルフの謎の機能に感謝したのは、この時が初めてだったかもしれない。

 

 で、研究をしようと言っても何の実績も無いエルフの小娘が出資を募ったところで、何も集まらないだろう。

 大規模な実験、検証は難しく、多少の心得はあるとはいえ、あまりに凶悪な魔物を研究出来るほどの強さも無い。

 要するに、研究対象に出来るものがあまり無かったのだ。

 それでいて、その研究でもって多少の稼ぎは生み出し、次の研究へと繋げなければならない。

 

 そこで私が目を付けたのは『ゴブリン』だった。

 ゴブリンは醜悪な見た目の深緑色の肌をした小人のような魔物である。

 大した強さは持ち合わせていないが、集団で行動し、時に人間への被害が出る魔物である。

 

 奴らが人間を襲う目的は生殖行動。

 種が違うというのに、ゴブリンはあらゆる他種族の雌を孕ませることが出来るのだ。

 これは不思議なことだ。

 

 種が違えば、DNAが違う。

 本来ならば受精率など、キメラが出来るような低い確率になるだろう。

 しかし、ゴブリンの受精率は100%と言われるほどに高い。

 被害に遭い、孕んでいなかった女性は未だに一人も見つかっていない。

 

 これが、人間相手のみに起こるのであれば、進化の過程でヒトへの寄生をする方向になったという解釈も可能かもしれない。

 だが、奴らは本当に雌ならば、何でも良いのだ。

 狼にだって、別種の魔物にだって、平気で受精させる。

 そして、生まれてくるのはハーフなどでは無く、純正のゴブリンだけである。

 

 さらに言えば、ゴブリンには雌が存在しない。

 ゴブリンから派生したと考えられているオーガや、グレムリンには雌が存在するというのに、だ。

 果たしてそんな生物が存在するのだろうか。

 種の保全を完全に他種族へ依存させる進化なんてあり得るのだろうか。

 

 私は、違うと考えている。

 それは生物の全うな進化では無い。

 故に、一つの仮説を立てた。

 それを証明するために、私はゴブリンを探しに出掛けた。

 

 研究者であれば、こういった場合は冒険者ギルドなんかに依頼をして、護衛を雇うなりすることによって、安全を確保のうえ、出掛けるべきだろう。

 私も出来るなら、そうしたいが、何しろ先立つものが無いのだ。

 まあ、ゴブリン程度なら問題は無いだろう。

 そう楽観して出掛け、実際に何の問題も無かった。

 

 数百匹規模の巣を見つけ、広範囲魔法により、殲滅。

 ゴブリンは常に獲物を見つけるために、何匹かは外へ出ているために巣の前で待ち伏せして、二匹ほど生け捕りにした。

 このまま街に戻ると、魔物を連れてきたとして犯罪になりかねないので、魔法で簡易な土の豆腐ハウスを作成し、そこで実験をする。

 理論は分からないけど、魔法万歳! いつかこれも解明したい。

 

 

 さて、実験になるが、正直なところ非常に気が進まない。

 比較的簡単に、かつお金のかからず、ある程度の自信を持って仮説を立てていなければ、絶対にやりたくない。

 私は、前世が男であったとしても今生は女なのだ。いや、男であったとしても触りたくはないか……。

 持参した手袋を二重にして、ゴブリンの汚い一物へ触れる。

 いや、採取したくない……

 でも、しなければ……

 

 葛藤の末、なんとか手を一回前後に動かしたら、白いナニカが勢いよく飛び出した。

 うわ、早すぎる。

 何の準備もしていなかったがために、手にも少しかかってしまった。

 最悪だ。

 

 とりあえず、早いということを意識して、先に道具を用意。

 一度やってしまえば、多少は慣れたのか、二度目は上手く採取が出来た。

 で、嫌悪感がひどいので、その二匹は用済みとして処分。

 残ったのは丸いガラス球の内部にこびりついた、白いドロドロ。それが二つ。

 そのうち一つのガラス球を人肌程度に温めながら、私は今回の仮説を思い浮かべた。

 

 

 私が、ゴブリンの生殖行動に立てた仮説は、ゴブリンは雌雄同体もしくは単為生殖を行っているのではないかということだ。

 意味合い的には単為生殖に近いか。

 簡潔に述べるならば、母体はただの入れ物のような役割でしか無く、ゴブリンが生まれる過程には他種族は関与しておらず、ゴブリン単独で増えているのではないかということだ。

 

 私も詳しくはないのだが、前世でそんなような生物もいると見た気がする。

 もし、これが正しいのならば、人肌程度に温めたガラス球は、子宮の役割を果たし、ゴブリンが自身の遺伝子のみで増えているならば、この中で新たな命が誕生するだろう。

 片方だけ温めているのは、対照実験のためである。

 温めた方のみに生命が発生した場合、ガラス球が誕生に関わっている訳では無いという証明になる。

 

 ゴブリンが生まれるまでは凡そ、三日程度と言われている。

 食べる必要も、一週間程度なら寝る必要も無いエルフの身体はつくづく実験に向いているなと思った。

 

 さて、実験の顛末になるが、これがとても上手くいった。

 温め続けたガラス球のドロドロは一日目には静かに形を変えていき、徐々に色が変わり、三日目にはゴブリンをそのまま小さくしたような姿になり、そして、そのまま餓死した。

 一方、温めなかったガラス球は、二日程経過したところで形を変え始め、完全体になる前に変化を止め、不完全なゴブリンが出来上がった。手足も呼吸器も作られなかったのか、小さく痙攣してすぐにそのゴブリンは死んだ。

 

 私はその結果に満足し、文章に改め、冒険者ギルドへと提出したのである。

 冒険者ギルドは情報の買い取りも行っている。

 それは新種の魔物の情報であったり、毒物、薬草などの目撃情報。魔物の習性などと多岐に渡る。

 言ってて何だが、煎じて飲むだけで傷が急激に治る薬草って、不思議の塊だ。いづれ研究しようと思う。

 

 で、しばらく情報の精査などをされたのだが、結論から言えば金にはならなかった。

 要するに、これが分かったからと言って冒険者の生存率に何の影響があるのかと。

 

 確かに、仮説ばかりが先に立って、何に役に立つかまで考えていなかった。

 結果が出れば金になるなどと考えていた私の思慮が足りなかった……。

 私の一度目の論文は大成功でありながら、大失敗に終わったのであった。

 

 

 が、次には繋げることが出来た。

 ギルドから研究機関を紹介され、そこで論文が認められたのだ。

 残念ながら、論文自体に金銭的価値が付かなかったものの、人脈を得られたと考えれば、前向きになれる。

 

 そして、研究機関より可能であれば調査して欲しいという依頼まで任された。

 長年、疑問に思われながらも解明されてこなかった事。

 少額ながら、資金も渡され、成果に応じて金銭が得られる。

 

 次の研究は……




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