TSエルフさんの事象研究日誌   作:井戸ノイア

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ギリギリ一週間以内
やはり、会話は切りどころが分からず難しい
主人公以外の人物との書き分けが苦手なのです。




変人達の顔合わせ

 ちょっとスライムやらダンジョンやら弄っていたら、いつの間にやら研究所が本格稼働するとかで、一度全員集まろうという告知がされていた。

 いや、あまり行きたく無いのだが、この感じを見るに無視していてもケンキが迎えに来て強制連行などされるだろう。

 借りた魔道具がケンキの私物だったのもあって、流石に出なければならないか、という気分にさせられる。

 順調に外堀を埋められているようだ。

 

 まあそれでも、良いか。

 人は流される生き物だ。自身の行動に絶対的な確信を持ってマイノリティへと邁進出来るものなど、そうはいない。

 エルフという人ならざる者でも、根底にあるものは同じだ。

 きっと、こういうのは、一人では生きて行くことが出来ず、社会性を身に付けたからこそ起こった必然の思考なのだ。

 責任を負うつもりはあまり無いが、どうせ長く退屈なエルフの一生を過ごしたくないと、出てきた身。数百年単位で人の中に身を置くつもりならば、ある程度の身分も必要になるだろう。

 そう考えれば、一つの機関に属するという選択肢もそう悪いものではない。

 それにここはかなり自由だ。

 自分のやりたいことをやっていれば、ある程度生活が出来るならば、どこかしらで妥協も必要だろう。

 

 そうやって、自分を騙し、ついでに確認したはずなのに、普通に集合を忘れ、朝からケンキの顔を拝むこととなった。

 短く切り揃えた黒髪と、若い相貌なのに片眼鏡をはめ、優しく微笑んでいる様は言われなければ貴族というよりも執事のようである。

 実際のところは、片眼鏡は何かしらの魔道具だろうし、何なら服装はどこにでもありそうな服装の上に白衣を羽織るという台無しなものだし、顔以外は実に研究者らしい出で立ちだ。

 

 笑うという行為は本来相手を威嚇するような、怒りの表情ということをよくよく認識しつつも、丁寧語は崩さないケンキに付いて、かなり遅れて研究所へとやってきた。

 中には他に三人が談笑していた。

 ……おそらくお酒を片手に。

 

 その光景を見て、がっくりと肩を落としているケンキを見るに予定されていた行動では無いらしい。

 そして、顔を真っ赤にした男がこちらへと近づいてくる。

 整えられた跡が辛うじて残る茶髪で、高身長の男だ。見た目はキッチリとしていそうなのに、雰囲気は非常におちゃらけた感じだ。

 

「おーおーようやく来たか! あんまりにも遅いもんで持ってきたワインを先に開けちまったぜ」

「……はぁ。ヤーンは何故ワインなど持ってきたのですか? 今日は顔合わせと施設の案内をすると言ったはずですが……」

「そりゃ、歓迎会をするなら酒だろうよ! そっちのエルフさんに、こっちの娘っ子は初めましてだろう? なら酒を酌み交わすのが仲良くなる第一歩ってもんよ! という訳で俺はヤーン! 連絡板のYは俺の事だ!」

 

 いや、流し見しただけだが、キャラが全然違わないか?

 何だかもっとこう、生真面目で堅実なイメージがあったのだが。

 私の表情を察したのか、ケンキが注釈を入れる。

 

「ヤーンは普段は見た目通りに寡黙で、生真面目なやつなのですが……お酒が入るとあんな感じに砕けて饒舌になってしまうのです……。まあ、おそらくお酒の力を借りて話そうとでもしたのでしょうが……待ち人が来る前に飲ませるなんて彼女しかいませんよね……」

 

 と、ケンキと私の視線を感じた女性がニコリと手を振る。

 水色の派手な髪色がとてもファンタジーという感じだ。

 一体どういう遺伝子を引き継いだらあんな鮮やかな水色の髪になるのだろうか。

 それでいて、身体に青系統の色素が生まれているようにも見えず、肌は白く透き通っている。

 彼女の祖先に青色の髪が有利になる環境があったとして、それは一体どういった状態なのだろうか。

 もしかしたら、海の中に住んでいたとかはあるかもしれない。人魚のいる世界なのだ。

 黒よりも青系統の色の方が生存確率が高く、そういった髪色を持った者の子孫になるのかもしれない。

 ダンジョンとか、魔物とかこの異世界にしか無いものを調べるのも良いが、ああいったファンタジー特有の現象についても調べてみたい。

 でも悲しいかな、私には髪が黒い理由が分からない。

 つまりは、彼女の髪を調べるためには、まずは人が何故黒から茶系統の髪色を持っているかを知る必要があるのだ。

 そういえば、金髪はどういった括りになるのだろうか。

 自分の髪で調べるのも良いかもしれない。

 

 ここまで、およそ10秒ほどの思考である。

 

「髪、切ろうかな……」

「何故、彼女を紹介しようとしたら、そんなところへ思考が飛躍しているのですか……? ここには変人しかいないのでしょうか」

「大丈夫よ、ケンキ。貴方も十分変人の枠に入るわ。つまりここには、私を除いて変人しかいないのよ」

「聞き捨てならないですね! こんなにも可愛い僕が変人とは! ここには僕以外変人しかいないようです!」

「そうだそうだ! 俺と酒を酌み交わせ! 素直になって話そうじゃないか!」

 

 ここには自分は変人では無いと思い込んでいる変人しかいないようだ。

 あれ? そうすると私も自分は普通だと思い込んでいる変人になってしまう……? いや、そんなはず無いだろう。

 私は一般常識を持っている普通のエルフだ。

 つまり、こうした客観的な視点を持つことが出来ているということは、私だけは変人では無く普通なのだ。

 

 と、そんな他愛もない思考を続けていると、このままじゃ終わらないとでも思ったのか、水色髪の女性が声を上げた。

 

「私は、ユビキタス・ライリーよ。と言っても、そこのエルフさん以外とは既に顔見知りではあるのよ。ちなみに、分かると思うけれど連絡板のUは私ね。で、こっちが人数合わせに来てくれたトラッシュ君よ」

「初めまして! 服装自由と聞いて来た僕が、トラッシュです! 研究に興味はあまり無いけれど、可愛い服装してても許されると聞いて来ました!」

「ちなみにこんな成りしているけれど、男の子だから気を付けてね」

 

 そう紹介された彼? は純白のワンピースに身を包み、自信満々の笑みを浮かべている。

 桜色の髪をポニーテールにしている彼を見て、一目で性別が分かる人はいないだろう。

 

「あー、男の娘ね。遅れたけれど私はエルフのレリーフ。好きなように呼んでくれて構わないよ」

「おっ、おっお! レリーフちゃんは僕のこと分かってくれているようなイントネーションを感じましたよ! 是非是非、今度どこかでお茶でもしながら可愛いについて語りましょうよ! 酷いんですよ! 僕はこんなにも可愛いのに、どこに行っても男なら男らしい格好をして働けって。働く服装くらい自由にして欲しいものです!」

「ところで、ユビキタスさんは何故、ヤーンにお酒を飲ませたのでしょうか? 返答次第では、怒りますよ?」

「よく分からないトラッシュ君と、寡黙過ぎるヤーンの二人を相手に空気が持たなかったのよ。こっちの方が楽しいし、まだ楽でしょう? 緩衝材にケンキがいないと、流石にあの空気は無理よ」

「ケンキもそう怒らなくても良いじゃねぇか。ほら、お前も酒を飲めば怒りなんて忘れて、楽しくなれるぞ? そっちの二人ももっと飲んだらどうだ?」

「そもそもですよ? 男だからと言って可愛い服装が駄目だなんて誰が決めたんですか! しかも、それが似合っていないならともかく、僕は最高に可愛いでしょう! 可愛いは正義! だから僕がルール! だから、あそこのお店のウェイトレス衣装だって僕に着させれば良かったんですよ! 何が男はこっちの服装ですか!」

「あの……誰かトラッシュ君を止めて貰えないだろうか。この子、止まらないのだが」

「ほれ」

 

 ヤーンさんから、グラスを渡された。

 あれ、私この世界で生まれてから一度も飲んだことが無い……?

 いいや、どうとでもなれ!

 

 皆が思い思いに話す酒宴は止まらない。

 それが良い思い出になるかはともかく、突発的に始まってしまった酒宴は確かに顔合わせの意味だけは果たしたようだ。

 顔も名前も知らない仲から、酒を酌み交わす仲へ。

 予定していたことは何も終わらなかったが、むしろ酒に溺れた者達によっていくつかの魔道具は壊れてしまったが、親睦だけは深まったようだ。

 

 

 翌朝、目を覚ました皆が皆、深く反省したというのは、

 変人であろうと、善人の集まりであることの証左なのかもしれない。







名前よりも先にイニシャルが決まる彼ら

レリーフ ← LeRife ← ReLife

ヤーン ← yearn

ユビキタス・ライリー ← Ubiquitous Library

トラッシュ ← トランスセクシュアル

から派生した。

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