そこはどこかの路地裏だった。それはどこかの繁華街だった。そこはどこかの家だった。
その全てで。人が殺されていた。撃ち殺されていた。
それを成したのは一人の少年。とある個性を持った少年。
個性は『瞬間移動』。行きたいと念じればどこにだってノータイムで行けてしまう個性。
彼はそれを使って銃を手にいれた。そして適当な場所にいた適当な人間を殺し回った。誰も自分に気付かなかった 。殺された人間も自分に最期まで気付かなかった。
―あハ、
―あハハハ
―あはははひゃひゃひゃ、ひゃーひゃっひゃっひゃ!
楽しかった。愉しかった。たのしかった。
全てが愉快でたまらなくなった。
―この日、ある一人のヴィランが産声を上げた。そのヴィランは後に、全ての人間の恐怖の象徴になった 。
―たとえどこに逃げようと、どんなに強固なものに守られていようと。
―彼からは逃げられない。彼はいつの間にかそこにいて、弾丸を浴びせる。
―彼の名は『移動 刹那』
―ヴィラン名『死神』
―逃れられない死を振り撒く者
「せっちゃんせっちゃん」
「んー?なに?」
せっちゃんと呼ばれた小柄な少年は、読んでいた本から顔を上げ、自らをせっちゃんと呼んだ猫のようなつり目で人懐っこい笑顔を浮かべた少女に返事を返す。
「いえ、そろそろまた行きたいなー、って」
「ああ、そうだねえ、そうしよっか。じゃあ今日はどこの誰にする?」
「誰でもいいです!って言いたいんですけど…今日はリクエストが」
「ん?珍しいね、トガちゃんがリクエストって。基本誰でもよかったじゃん、いや僕もだけどさ」
少女の名は渡我 被身子。せっちゃん―刹那のガールフレンドであり、ヴィラン仲間の少女である。
「いやほら、今雄英で体育祭やってるじゃないですか。そこで司会?解説?実況?やってる二人のヒーローいるんですよ、あ、一年のですよ?イレイザーヘッドとプレゼントマイクって言うんですけど」
「ふーん?あれ?なんで一年?どーせなら注目度が高い三年の方がいいんじゃ?」
「なんかヴィランの襲撃を退けたから注目度が上がったらしいですよ?よくないですか?」
「なんで生徒じゃなくてヒーローなの?」
「ほら、なんかそっちよりもヒーロー殺した方がすごい感じしません?」
「する。いいね、そうしよう」
「わーい、やった!それじゃ私がマイクでイレイザーはせっちゃんで!」
そう言って無邪気に喜ぶトガに苦笑して、銃を用意する。リボルバー式の拳銃で、6発全て込められているのを確認する。
「ハイハイ、それじゃ捕まって」
「はーい!」
『Hay!スッゲー戦いだったなあ、イレイザー!』
『だからこれ俺要らないだろ…』
雄英体育祭では、第三種目が始まっていた。先ほどまでは爆豪と麗日による戦闘が行われていた。つつがなく進んでいる―といってもステージの補修等で発生する空き時間。それは起こった。
―パアン!
乾いた銃声の直後に、ごとッ、という音。驚いて振り向いたマイクの喉元に、ナイフが突き立てられる。トガは突き立てたナイフをグリッ、とねじってから引き抜いた。一瞬で命を奪われたマイクは力なくドサリと倒れる。脳漿と血液をぶちまけたイレイザーと、首にナイフを刺されて倒れたマイクの姿は全国に放映された。唐突に起こった凶事に、誰もが反応できずにいた。
―あは、あハハハハハハ!
―アヒャヒャヒャヒャヒャ!
そんなものを意に介さず、二人は嗤う。そしてあっさりと、瞬間移動で姿を消した。
―世界が死神を知った日である。
無制限の瞬間移動ってチートだよね。