Cクラスな日々!   作:ふゆい

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 清涼祭編突入です。


清涼祭編
第十七問


 あれだけ満開に咲き誇っていた桜の花も徐々に散り、夏の始まりを思わせる新緑が芽吹き始めるこの季節。生徒達がようやく新学期にも慣れ始める中、ここ文月学園もクラスの団結力が高まり、来たる『清涼祭』に向けての準備に取り掛かろうとしていた。

 それは我らがCクラスでも例外ではない。

 

「さてさて、そろそろ清涼祭での出し物を決めるぞお前達。より良く面白いものをやり遂げるには、やっぱり早い段階からの準備が必要不可欠だからな」

 

 教壇に立ち、早速会議を進める司会進行の波多野進。本来ならば副代表の彼ではなくクラス代表の小山が司会を務めるべきなのだろうが、ヒステリックな彼女が取り仕切るとマトモに話し合いが進まないというクラス全体の意見により今回は降板させられてしまったわけだ。彼が学園祭実行委員を兼業しているというのも一つの理由ではあるが、小山的にはどうにも納得がいかない話である。誰がヒステリックだ誰が。

 ノートパソコンが備え付けられた豪勢なデスクにうつ伏せになりながら一人頬を膨らませる小山。ここで余談ではあるが、先日行われたBクラス対CクラスFクラス連合軍の試験召喚戦争で連合軍側が勝利したことにより、Bクラスの教室設備はめでたくCクラスの設備と交換されていた。Fクラスとの兼ね合いをどうするかが懸念されていたのだけれども、彼らはBクラスの設備には興味が無いようで、快くCクラスに権利を渡してくれたのである。その代わりにBクラス自体を動員して何事かを行ったらしいが、そこは小山達の知るところではない。とりあえず、Bクラスの面々が非常に可哀想だったという事だけは記しておこう。

 

「まずは俺の意見を聞いてくれないか?」

 

 と、ここで提案の声と共に手が上がる。顎を机に乗せたまま視線だけをそちらにやると、挙手しているのは活発な雰囲気の少年、黒崎トオルだ。いつも先陣を切ってCクラスを引っ張っている彼であるが、今回はどんな意見を出してくれるのだろうか。少々期待を膨らませつつも耳を傾ける。

 

「で、黒崎は何がやりたいんだ?」

「ちょっとは珍しいものをやりたいなぁとも思ったんだが、ここは無難にメイド喫茶を提案してみようと思うんだ」

「メイド喫茶かぁ。じゃあその場合男子は全員厨房か?」

「いや、それはそれで勿体ないから、男子は燕尾服を着てメイド&紳士喫茶でもいいんじゃないかと。メイド喫茶と違って女性のニーズも増えるから、そこそこ稼ぎが見込めるんじゃないかな」

「なるほどな。筋は通っているから、候補に入れておくか」

 

 紳士&メイド喫茶、と黒板に記入する波多野。

 

「……ちょっと一人二役は面倒くさい気がするんだが」

「じゃあ代表が書記をやりなよ。司会は向いてなくても、それくらいならできるんじゃない?」

「野口君、貴方しれっと私を馬鹿にしているでしょ?」

「さぁてね」

 

 のらりくらりと小山の追及をかわす野口。相変わらずどこか掴みどころの無い性格をしている彼は、たまに小山の天敵となる。少々気を付けておこう、と心の中で危険度を上げる。

 彼の推薦を受け、黒板の前に立つと波多野からチョークを受け取る。

 

「そ、そんじゃ頼むぜ……こ、小山……」

「え、えぇ……」

 

 どこか気まずい雰囲気に包まれながらも隣に立つ二人。お互いにチラチラと視線を向けては、目が合う度に逸らすという過程を繰り返している。顔も若干赤くなっており、まるで中学生同士のカップルかと言わんばかりの小山達にクラスメイ全員から呆れの籠った溜息が漏れた。

 試験召喚戦争後に屋上で密会……もとい、話をしていた二人。その際に雰囲気に呑まれてではあるものの、抱き合った上にキス未遂までしてしまったのがどうにも気になっているようで、そこから今のように二人して気まずい空気を醸し出すようになっているのだ。最近はあまり二人きりでいるところは見ないうえに、会話すらロクにしていないように思える。嫌っているというよりはお互いを意識しすぎて委縮してしまっているという具合か。今更何を恥ずかしがっているのだろうかと思わないでもないが、そこは当人たちにも思うところはあるらしい。どうすることもできず、不器用な二人に溜息をつく面々。

 そんな絶賛少女漫画状態の二人司会の下、会議を続ける。

 続いて手を上げたのは、金髪ショートパーマに碧眼の美少女兼問題児、木村シェリルだ。カタコト日本語と騒々しさに定評のある彼女は、腰に手を当てると大声で自らの意見を述べた。

 

「ワタシがやりたいのハ、ストリップ喫茶ネ!」

『日本の法律嘗めてんのかこの脳味噌蛆虫野郎!』

「全員で一斉に悪口言うのは倫理的にオーケーなのカ!?」

 

 何やら滅茶苦茶な意見を押し通そうとしたシェリルは女子一堂により簀巻きにされたうえで掃除道具箱の中に詰め込まれていた。若干ストリップ喫茶に興味を示していたのはCクラスの男子精鋭であるが、そもそも代表の性格からして女子の方が権力が強いクラスである。真っ当な理由があるならばさておき、ただ性欲と性的好奇心のためだけに意見を通すのは普通に無理だった。

 その後もいくつか意見が出るが、シェリルの提案が影響しているのかマトモなものが出てこない。

 

「本当に大丈夫かこのクラスは……」

 

 机に両肘をついて頭を抱える苦労人の肩を同情で一度ポンと叩いておく。……ちょっと恥ずかしかったのですぐに手は放したが。

 

「……それじゃあ、そろそろ私の方から意見を言わせていただいてもよろしいでしょうか?」

「すみれ? そういえばアンタまだ一言も話してなかったわね」

「タイミングを窺っていたもので。結構いい案も浮かんだので、まぁ期待してくださいな」

「へぇ……まぁ、アンタに任せておけば失敗もないか」

 

 普段は黒崎と共にゴシップネタを求めて学園中を縦横無尽に駆け回っている新野だが、内面のみを見てみるとなかなかにマトモな常識人だ。ある意味ではCクラス最大の良心と言っても過言ではないだろう。以前三馬鹿トリオの喧嘩を仲裁していた時のように、彼女はある意味でストッパー的役割を果たしているとも言える。たまぁに暴走するときはあるものの、確率的には常識人枠に入る事の方が格段に多い。

 そんな彼女が提案する出し物はいったいどのようなものなのか。クラス中に期待が高まる中、皆の視線を一身に受けた新野は相変わらずの通りの良い滑らかな声で高らかに言い放った。

 

「私が提案する出し物、それは……演劇です!」

『……演劇?』

「はい! それも恋愛劇。男性と女性の甘く切ない恋模様を描いたラブストーリーです!」

「……あぁ、そういうことか」

「え? ど、どういうこと?」

 

 何やら拳を握って熱弁を始めた新野。彼女の提案に黒崎を初めとしたCクラスの面々が分かったような表情で神妙に何度も頷いていたが、小山と波多野は意味が分からずに首を傾げている。皆が何故新野の提案に何かを悟ったような顔をしているのか。完全に置いてけぼりを食らってしまい、あからさまに戸惑う二人。

 

『演劇かぁ。お金稼ぐ出店ばっかり考えていたけれど、そう考えるとそれもいいよなぁ』

『しかもラブストーリーだろ? ウチのクラスにはこれ以上ないくらい適材適所なコンビがいるもんな!』

『これをいい機会にして、あの不器用かつ初心なお二人さんを劇的ビフォーアフターできればいいんだけどねぇ』

「ちょっ、なんなんだよお前達! なんでそんなに団結してんだよ!」

「そうよ! まだマトモに説明すらされていないのに、その納得っぷりは何なのよ!」

「そんなだから代表達は【熟し忘れた林檎】とかいう渾名をつけられるんだよ!」

『意味が分からない!』

 

 もはやアウェーどころの騒ぎではない。ここまで置いて行かれると逆に悲しくなってくるので、そろそろ教えてくれないかと新野の言葉を急がせる。

 

「すみれ! ちゃんと説明してちょうだい!」

「ふ、いいでしょう。今回の配役、そして演劇を提案した主旨を説明すれば、友香さん達にも私の狙いがお分かりいただけると思います」

「主旨、だと……?」

「はい。それでは発表いたします……」

 

 勿体ぶるように台詞を溜め、空気を作り上げる新野。よく分からない緊張感に支配された教室で、思わず生唾を呑み込む小山。

 そして、満を持して新野の口が開かれる。

 

「まず配役!」

『おぉっ!』

「物語の主人公であり王子様、それはやはり何と言ってもこの人しかいない! Cクラス副代表にして騒動起爆剤、波多野進ダァーッ!」

『いぇぇえええええええい!!』

「何故実況風! 何故絶叫する! そしてそのテンションは何なのよ!」

「やはりこういうのはノリが大切かと」

「うるさいわよ!」

「俺が王子かぁ……照れるなぁ」

「アンタはちょっとは抵抗しろっ」

 

 どこから取り出したのかマイクを片手にプロレス実況者も真っ青な叫び声で配役を発表し始める新野にツッコミが止まらない。クラスメイトのテンションも正直理解ができないが、それ以上に傍らで何故か若干照れくさそうに王子役を受け入れている波多野にも理解が追い付かない。天然なのかわざとなのかは分からないが、少しくらいはツッコミに回ってくれないかと切に願う。

 

「そして次ィ! 皆が憧れるお姫様! それでもやっぱりこの人でしょう! 素直になれないツンデレ娘! 現在絶賛恋愛中! Cクラス代表にして安定感抜群のツッコミ係! 小山友香ぁああああ!!」

『Fooooooooooooo!!』

「黙れ! そして誰がツンデレ娘だ! 素直になれないとか余計なお世話よ! そんでもってツッコミなのはアンタらが見境なくボケ倒すからでしょーがっ!」

『あぁ、ツッコミが落ち着くなぁ』

「ぶっ飛ばすわよ!?」

「ほらほら、そんな荒れていると相手役の進君との折り合いがつかないよ?」

「何が相手役……って、は? 相手?」

「そうさ。なんたって恋愛劇なんだから、王子様とお姫様は恋愛するんだよ? それに、やっぱりラストはキスシーンで終わらせたいよね」

「きききき……きぃ――――ッ!?」

「え、いや……おい野口、マジかよそれ……」

「本気と書いてマジと読む。大真面目さ」

 

 予想外の展開に最早頭の回転が追い付かず、半ばショートしかけている小山。困惑はしているものの多少は落ち着いている波多野が代わりに聞き直すが、余計な補足を入れた野口はいたって真面目な表情を浮かべている。周囲の微笑ましい視線の中で、呆れと諦めが混ざったような溜息をつく波多野。

 そんな状況下に置いて、小山はもはや限界寸前だった。

 

(きききキスなんていやいや確かにこの前は未遂とはいえちょっとは触れるようなキスはしたけれど今回は劇のラストだからしっかりしないとでもでもさすがに公衆の面前で本格的なのはやらせないだろうけどでもこのメンバーなら余計なことに全力を入れてちゃんとしたキスまで持ち込むような気もしないでも――――!)

「お、おい小山? 大丈夫か?」

「ひ、ひぅ!? う、うきゃぁあああああああ!!」

「こ、小山ぁあああああ!?」

 

 顔を真っ赤にして今にも爆発するのではないかというほどに目をぐるぐると回す。あまりにも大丈夫ではない小山の様子に心配した波多野が肩を叩いて呼びかけるが、彼に触れられたことが引き金となり羞恥心がオーバーヒートを起こしたらしく、目にも止まらぬ速さで教室から飛び出していった。予想外の展開に言葉を失う波多野。

 

「女性陣追いかけて! まだ遠くまでは行っていないはずよ!」

「男性陣は波多野君のケアを! 王子様には強いメンタルを持ってもらわないといけないんだからね!」

 

 しかしながらクラスメイト達は小山の行動も予想の範囲内だったのか、惚れ惚れするほどの手際の良さで対応を始めていた。そんなことができるならもっと小山が混乱しないような言い方をすればよかっただろうに、とは言ってはいけない。

 

「まぁ頑張れよ波多野。お前ならいけるって」

「お前らなぁ……小山の気持ちも考えてやれよ……」

「今更何言ってんだよ。そもそもお前達が変に気まずい感じ出してるからこういうことになったんじゃないか」

「それはそうだが……」

「余計な事をされたくなかったら、さっさと自分の気持ちに正直になれよなー」

「…………」

 

 黒崎の言葉に思うところがあるのか、やや落ち込んだように目を伏せる波多野。そんな彼を横目に、再びやれやれと肩を竦める黒崎。

 Cクラスの出し物は無事に演劇に決定したが、一波乱は免れないようである。

 

 

 

 

 

 

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