そんなこんなで、試験召喚大会の一回戦である。
「うぅ、あの二人いつか絶対シメてやる……」
「どうしたんですか友香さん。両親を殺され復讐を誓った人みたいな顔してますけど」
「あながち間違ってはいないわ」
「?」
継ぎ接ぎだらけの服に身を包みながらも涙目でぶつぶつと呪詛を呟き続ける小山。隣に立つ佐藤が心配そうに顔色を窺ってくるが、小山が纏う負のオーラが鎮まる様子はない。結果オーライだとか何だとか、そういうことは一切合財抜きにして、あのメイク二人に天誅を喰らわせることを心の中で決意した。少なくとも埋めてやる。この屈辱は決して忘れない。
対戦相手を見ると、BクラスとDクラスのコンビ、それも上級生であるようだ。まだ受験勉強が本格化していないこの時期に目一杯思い出を残しておこうという心持だろうか。男女コンビで、様子を見る限りはカップルであるようだ。
『拓夢! この大会で優勝したら、アタシは貴方に一生の愛を誓うわ!』
『勿論さ瑠璃! ボク達の愛を以てすれば、障害になり得る生徒なんて一人たりともいやしない!』
『拓夢!』
『瑠璃!』
「…………」
もうすでに帰りたい。
上級生とはいえ、さすがにツッコミの一つも入れたくなるが、こちらはこちらで勝たねばならない事情がある。この試験召喚大会で優勝して、あの鈍感騒動起爆剤に目にモノ見せてやると誓ったのだ。彼の為にも、そして自分を焚き付けてくれた相棒の佐藤の為にも、こんな序盤で負けるわけにはいかない。
しかしながら相手の片割れはBクラス。それも操作能力では格段に分があるであろう上級生だ。いくらCクラス代表の小山と言えども、苦戦以上の戦いを強いられる可能性は捨てきれない。
向こうもそれを分かっているのか、見るからに勝ち誇った表情で小山達を煽り始める。
『見なよ瑠璃! あちらは下級生、しかもCクラスだ! 相棒はAクラスのようだけど、見るからに地味で強そうには見えない! これは勝ったも同然だね!』
『そうね拓夢! あっちのCクラスは相手にならないし、Aクラスの方も地味で陰気で図書館の隅が似合いそうな引っ込み思案臭がプンップンするわ! あんな目立つのが嫌いそうな地味女に、アタシ達のラブラブパゥワーが負けるはずないもの!』
「…………へぇ。地味、ですか」
「あー……」
聞いているだけで頭が痛くなるような言葉の連続にもはや呆れ以外の感情が浮かばないが、隣で顔を俯かせたまま静かに呟く相方の様子に胃が痛み始める。どうしてあぁいう人種は他人の地雷をマッハの勢いで踏み抜くのだろうか。この学校は煽り力、という点においては学年主席レベルの猛者が大量に集まっている気がする。まったく自慢にもならないけど。
隣に立っているだけなのに、ぶわっと嫌な汗が吹き出し始める。ここに須川と波多野がいたら一目散に会場から逃げ出しているか、対戦を止めてでも佐藤を落ち着かせていただろう。それほどまでに、彼女にとっての禁句なのである。
ゆらり、とわずかに顔を上げた佐藤が相手方へ声をかける。
「私は……私はそんなに、地味ですか……?」
『わざわざ確認作業をするとはちょっと頭のオツムが弱いようだね地味娘! その髪型に眼鏡、そして規則正しく着用した制服! これを地味と言わずに誰を地味と言うんだい!?』
『彼氏なんて一生できなさそうな、そんな真面目雰囲気だわよ!』
「…………へぇ」
(ひぃいいいいいいい!)
今すぐここから走って逃げ去りたい。一般公開される三回戦じゃなくて良かったと心底思う。まさかAクラスの優等生が、こんな見るからにダークなオーラを醸しているとか文月学園の沽券に関わる。霧島や久保がいればフォローの一つも入ったのだろうが……いや、佐藤以外のAクラスメンバーを見る限り、ちょっと安心できない小山がいた。どうなっているんだこの学校は。
キリキリと悲鳴を上げ始めた胃袋を抑える為にこっそり胃薬を服用しつつ、召喚の準備を整える。Cクラスだけでも手一杯だというのに、どうしてストレスの元が次々と出現していくのだろうか。二年生に進級してから胃薬の量が格段に増えた気がして涙が止まらない小山友香十六歳だ。
審判を行っている古典担当の向井先生が合図とばかりに右手を上げる。長々とくっちゃべっている相手とは反対に、こちらは、というよりも佐藤がやけに準備万端だ。せめて安らかに眠れ、と小山は痛むお腹を押さえつつ馬鹿ップルへの黙祷を捧げる。
『さて、それでは早速一回戦を始めましょうか。双方、召喚をお願いします』
『サクッと勝ってデートの続きといこうか、瑠璃! 試獣召喚!』
『肝試しで拓夢のハートをキャッチマックスよ! 試獣召喚!』
「……試獣召喚」
「さ、試獣召喚」
温度差が滅茶苦茶エゲツナイ中、片やマイペースに、片やギスギスした雰囲気で召喚獣を呼び出していく。カップル二人は予め調整でもしていたのか、ハートマークのペアルックTシャツに、お揃いのレイピアを装備していた。可もなく不可もなくといった様子だが、油断はできそうにない。
『Bクラス 斎藤拓夢 & Dクラス 有明瑠璃
古典 167点 & 98点 』
『フフッ、どうだいマイハニー。これがボクの実力さ!』
『キャー! カッコイイダーリーン!』
観客がいないのを良い事に、これ見よがしにいちゃつき始める上級生達。若干のイラつきを見せる小山ではあったが、数分後に訪れる結末を思うと同時に哀れなものを見るような表情を浮かべるしかなかった。
小山の点数はそこまで高くはない。そもそもそんなに古典は得意でもないし、所詮はCクラス代表。つまりは学年平均レベルだ。相手に有利を取れるほど高得点を取っているわけでは決してない。
……だが、相方の佐藤はどうだろう。
確かに外見的には地味で引っ込み思案に見えるかもしれないが、彼女はこれでもAクラス四天王と呼ばれる程の実力者だ。久保と霧島にはさすがに及ばないが、木下優子と共に学年でもトップクラスの成績を誇る優等生。しかも、彼女の得意科目は文系。文学少女な見た目から分かるように、こと国語系統の教科に関しては、彼女は他の追随を許さない。
――――たとえそれが、学年主席であったとしても。
ディスプレイに表示される小山と佐藤の点数。
『Cクラス 小山友香 & Aクラス 佐藤美穂
古典 103点 & 556点 』
『『ごっ、500点オーバー!?』』
驚愕に染まる馬鹿ップルの二人。無理もない。400点を超えれば優等生の証である腕輪が貰えるような世界で、それを遥かに凌駕する化物じみた点数を引っ提げて登場したのだから。
というか、佐藤の事を地味だなんだと揶揄していたが、学業成績がすべてを決める試験召喚戦争において、何をトチ狂った暴言を吐いていたのかと心底疑問に思う。地味で勉強ができる生徒が輝く制度、それが試験召喚制度だというのに。そもそも成績でクラス分けされている時点で地味だ派手だは議論の対象にならないことに気が付くべきだろう。
ネイティブアメリカン風の衣装に鎖鎌を持った召喚獣を一歩進ませながら、佐藤はハイライトの消えた瞳で相手を見据える。
「地味だ地味だと人の気も知らないで散々っぱら言ってくださいましたね先輩方……」
『ひ、ひぃっ!』
「私だって……私だって好きでこんな大人しい雰囲気でいるんじゃありませんよ……? 化粧の勉強もして、ファッションも学んで……それでも、こういう文学少女スタイルしか似合わない私の気持ちが……私の心が貴方達に分かるんですか……!?」
『こ、来ないで! 来ないでぇええええ!!』
「許しません、逃しません、返しません。貴女方の命運は、今ここですべて私が断ち切るのですから……!」
「……こえぇ」
ゆらり、と幽鬼のごとく挙動を見せる佐藤に滅茶苦茶ビビッている二人。そんな彼女達を他所に、一人完全に雰囲気に置いていかれた小山は大仰に溜息をつく。完全にブチギレた佐藤を見るのはこれで3回目だ。1回目は入学当初に波多野からセクハラを受けた時。2回目は須川が他の女子生徒に色目を使った時。その2回と同じくらいの地雷を踏んだ彼らにはもはや合掌を捧げるくらいしか小山にはできることがない。せめて安らかに眠れ。
巫女服に三叉槍というなんともマニアックな装備をしたためた小山の召喚獣が飛び込む隙がないくらいに威圧感を垂れ流す佐藤と召喚獣。鎖鎌をブンブンと振り回すその姿はまさに悪鬼。今この瞬間においてはかの悪鬼羅刹坂本雄二も恐れを為すこと間違いなしだ。というか、ここまで佐藤を怒らせた自分自身を責めてほしい。
「天誅ゥ――――ッ!」
『『いやぁああああああ!!』』
上級生達の悲鳴空しく、腕輪能力【雷電】を使用した佐藤の鎖鎌一閃により、わずか数分にして小山の1回戦は終了と相成ったのであった。
お久しぶりです、ふゆいです。
更新が二年近く空いてしまい申し訳ございません。言い訳は致しません。
ただ、これから遅れても更新だけは続けていこうと思うので、目に付いた際には読んでいただけると幸いです。