Cクラスな日々!   作:ふゆい

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第二十一問

「あ、おかえり代表。一回戦どうだった?」

「……鬼がすべてを蹂躙していったわ」

「鬼?」

「なんでもない。気にしないで野口君」

 

 波乱の一回戦を勝利で飾り、極度の精神的疲労を抱えながら教室へと帰還した小山を受付をしていた野口が出迎える。演劇の開始時間までは残り30分。形式としては複数回に分けて上映するのではなく、最初から場面に分けて通す感じで行っていく。つまり、初日に前半パートを二回に分けて演じ、二日目に後半パートを二回に分けて、合計四つのパートにチャプターを分けて演劇を進めていくという具合だ。一応途中から来たお客様用に、上映済みのパートは録画を別室で放映することになっている為、その辺りは抜かりはない。Bクラスの教室は結構な広さを誇る為、空間を二つに分けても支障がなかった。

 暗幕の裏を通って楽屋へと向かう。横尾と岡島による化粧はまったく崩れてはいないもの、一応はヒロインを演じる立場である為、服装の再確認だけでもしておいた方が良いと思った為だ。第一部では王子様の出番はないため、現在波多野は試験召喚大会の一回戦に出場している。王子様の白い衣装を纏った波多野が戦っている姿を想像するだけでニヤニヤが止まらない。……少し格好いいかもと思ったのは、ここだけでの秘密であるが。

 

「そんなにニヤついて、どうせまた波多野君のことでも考えていたんでしょう友香さん?」

「な、何言ってんのよすみれ。今の私はシンデレラ。継母や義姉達からのいびりをどう耐え抜くかしか頭にない可哀想な美少女……」

「そうですか。だったら私が土屋君に頼んで撮ってもらった王子様姿の波多野君写真はいりませんね」

「あら、こんなところに野口英世が一人」

「毎度ありがとうございます」

「くっ……自分の自制心の無さが憎いっ……!」

 

 満面の笑みで千円札を財布に入れる新野と、購入した写真を鞄のポケットに仕舞いながら悔し涙を流す小山。ちなみに今回の配役としては、新野はナレーションである。朗読全国ランカーの新野はまさに適役だと言えるだろう。ただ、台本を読むだけである彼女は現在暇しているらしく、こうしてムッツリーニ協会と手を組んで小遣い稼ぎを行っているようだ。被害者の小山としてはたまったものではないものの、貴重な王子様衣装波多野の写真を提示されてしまっては我慢できるはずがない。一瞬の躊躇いもなく千円札を取り出す姿はFクラス顔負けなのだけれど、小山本人はそのことに気が付いていない。新野も特段指摘するつもりはないようであるが。

 とても波多野には見せられない下衆下衆しい表情を浮かべる小山を苦笑交じりに見やる新野だったが、そんな彼女達に話しかけるドレス姿の金髪女性。

 

「まーたユーカがデレデレしてるネー」

「誰がデレデレしてるって?」

「おー、ベリーフィアー。ジョーダンだから気にしないで欲しいヨ」

 

 ヘラヘラした口調で煽ってくる金髪長身の少女だったが、小山の睨みに少々焦ったように両手をぶんぶん振っていた。胸元を強調する衣装で元来の日本人離れした巨乳がこれみよがしに目立っているが、ハーフである彼女と身体的特徴で勝負するつもりは毛頭ない。

 小山は溜息一つ、Cクラスの誰よりも衣装を着こなしている彼女に言葉を返す。

 

「あのねぇシェリル。そうやって私を弄ろうとしているけど、アンタも野口君とそれなりの仲なの知ってるんだからね?」

「何を言ってるネ。ワタシとイッシンはそもそモ、一年生の時からバーニングラーヴなスペシャルカップルだヨ!」

「でもそれ、シェリルさんの一方的な好意で、野口君からはしれっとあしらわれてますよね」

「あれはイッシンなりの照れ隠しネ。ワタシにはお見通しヨ!」

「じゃあ今入り口で受付している野口君に聞いてくるけど、大丈夫ね?」

「イヤァアアア! せめてッ、せめてこの心地よい関係性に甘えさせてテェエエエ! 辛い現実を突きつけるのはノーサンキューヨォオオオオ!」

 

 楽屋裏だということも忘れて頭を抱え絶叫する巨乳ハーフ。これだけの声量ならばおそらく野口のいる場所にも届いているだろうが、現在絶賛混乱中のシェリルがそんなことに気が付くはずもなく。正体不明の絶叫に客席の方からざわめきが聞こえ始めてきたため、多少暴力的にではあるがシェリルを無理矢理黙らせた。奇声騒ぎで客が減るのはできるだけ避けたい。

 ちなみに、シェリルの役は継母である。こんな四六時中ハイテンションなアッパー系外国人に務まるのか不安ではあるものの、脚本監督を務める黒崎お墨付きらしく、その演技力は皆の予想を遥かに超えている。さすがは腐っても演劇部といったところだろうか。

 Fクラスには負けるが、随分とキャラの濃いメンバーが集まったものだ、としみじみ思う。

 

「そう言う友香さんも大概ですけどね」

「何か言ったすみれ?」

「いえ別に。そういえば先程、第一部講演が終わったら一緒に学園祭を回ろうと波多野さんが言っていましたよ。伝えておいて、と言伝を頼まれていまして」

「ふ、ふーん。ま、まぁ? アイツにしては素晴らしい心がけじゃない? ひ、日頃の迷惑を考えると、そ、それくらいはやってもらわないとね?」

『キモい』

「ぬぁんですってぇ!?」

 

 見るからに絵に描いたようなツンデレムーブを行う小山に辟易したような顔を見せる二人。対する本人は激怒しているものの、茶番にしか思えないリアクションを見せられている二人の気持ちはいわんをや。

 

「はいはいそこの三人、もう講演始めるから各自位置に着けよー」

「う、分かったわよ」

「りょーかいネー!」

「は、はい! すみませんトオル君!」

「おう、頑張ろうぜすみれ」

 

 全体的な纏め役として場を仕切っていたらしい黒崎の声でそれぞれポジションにつく。その際にやや上擦った様子で返事をする新野だったが、彼女の様子に気が付いていないらしい黒崎は素直に笑顔を浮かべた。彼の表情に、新野が少し顔を赤らめているのを見逃す女子二人ではない。

 

「私達には色々言っているくせに、すみれも大概よねぇ」

「ムッツリ系女子ってやつネ」

「そ、そこの二人五月蝿いですよ!」

『いいものを見せてもらいました』

「もー!」

 

 怒った新野が顔を真っ赤に染めながら投げ始めたシャープペンシルを華麗に避けつつ、ニヤニヤが収まらない小山とシェリルは一目散に準備を始めた。

 

 

 

 

 

                ☆

 

 

 

 

 

 第一部講演は、上々の滑り出しと言えるだろう。

 客席は満員とはいかなかったが、それでも七割近くの入場を記録することができた。このペースで行けば、最終公演には満員御礼も夢ではない。

 ――――そう。ラストにはキスシーンが控えている、最終公演には。

 

「~~~っ!」

「急にクラスメイトがコスプレ衣装で柱に頭をガンガンぶつけているシーンに出くわした俺の正しい反応を教えてほしい」

「す、進! 一回戦はどうだったの!?」

「名前呼び名前呼び。勿論勝ったに決まってんだろ。俺と亮のコンビだぜ? そこらの生徒に負けるかっての」

 

 来たる羞恥プレイを想像してどうしようもなく混乱の渦中にあった小山だが、不意に聞こえた想い人の声に一瞬にして我に返る。試験召喚大会の会場からそのまま来たのか、白銀の王子様衣装を着込んだままだ。低身長ゆえのちんちくりんさは否めないものの、やっぱりカッコイイなとか乙女な思考に陥ってしまうのは惚れた弱みというやつだろう。この罪作りな騒動起爆剤め。

 ちなみに、小山は未だにみすぼらしい村娘染みた衣装だ。第一部は魔法使いがシンデレラの前に登場するところで切られてしまった為、メインの白いドレスを着させてもらえなかったのだ。第二部からは本編も盛り上がりに入るので、試験召喚大会にもドレスを着ての参加となるだろう。少し恥ずかしいが、この継ぎ接ぎだらけの衣装よりは百倍マシだ。

 

「……進の隣に立っても、見劣りしないし」

「何をボソボソ言っているか知らんけど、さっさと中に入ろうぜ。亮からゴマ団子の無料券貰ってんだ。Fクラスは中華喫茶だってさ。面白そうだよなー」

「Fクラスの設備で飲食店って心配しかないんだけど……」

「まぁそこは代表が坂本だし、最低限はちゃんとしてんだろ。文句言うのはクレーマーくらいじゃね」

「そうかなぁ」

「そうだって。とにかく、一緒に飲茶でも食べようぜお姫様」

 

 既に役を作っているのか、それとも学園祭の空気に充てられてキャラに入っているのか、普段なら恥ずかしがって絶対にやらないような発言で小山の手を取る波多野。通常なら羞恥心で走り去ってしまう小山ではあるけれど、無駄に王子様ぶっている波多野を前にすると、照れている自分が馬鹿らしく思えてきて逆に正気に戻っていた。嬉しいから指摘はしないけど。

 周囲から指摘されれば一発でバレるくらい顔を赤らめる小山だったが、鈍感一直線な波多野は彼女の変化に気が付くことはない。無駄にカッコイイ決め顔で小山の手を取ると、そのままFクラスのドアを潜っていく。

 

「さぁてFクラス。文月学園随一のイケメン美少女コンビがお通りだ――――」

「これが俺流のバックドロップで締める交渉術だ覚えとけ!」

「べぶるちっ!?」

「世紀末か何か?」

 

 教室に入るや否や、クラス代表坂本雄二によってプロレス技を決められる男子生徒を見せられる小山達。傍から見れば停学案件以外の何物でもないが、常識人枠の木下や島田が苦笑いしているのを見ると、どうやらいちゃもんか何かをつけられていたらしい。喧嘩慣れしている坂本に完璧なフィニッシュを決められ、上級生らしき二人は捨て台詞を残しながら逃げ去って行く。

 だが、どうやらFクラスは汚い段ボール箱や卓袱台をそのまま設備として使っていたらしく、利用客の何人かが衛生面を指摘して出て行こうとしていた。仕方ないと言えば仕方ないけれど、高校の文化祭相手に少々手厳しくはないだろうか……。

 そんな中、冷静なツッコミを見せていた波多野が王子様衣装を翻すと、今までキョトンと様子を見守っていた吉井に声をかける。

 

「いやいや遅れてすまんな吉井! Cクラスの綺麗な机の用意が遅れたわ! 今からすぐに届けるから、しばし時間をくれ!」

「え? どうしたの波多野君、そんな話今まで一度も――」

「いやぁようやく来てくれて助かったぜ波多野! あまりに遅いからお客様に迷惑をかけてしまった!」

「すまねぇな坂本! お客様、ご安心を! 俺達の準備が遅れたにもかかわらず、学園に迷惑をかけまいと最低限の設備でこいつらは頑張っていたんです。どうか責めないでやっていただきたい! すべての責任は俺にありますから!」

 

 何を考えているのか、劣悪な設備で営業を行っていたFクラスを庇い、あろうことか全責任を自身で負い始めた波多野。そんな約束はまったくしていないにも関わらず、黒崎に電話をして机の手配まで始めている。咄嗟にFクラスを庇い始めた彼の思惑が理解できず、小山は一人ポカンと立ち尽くすしかない。

 道化を買って出た波多野は小山に振り向くと、彼女にしか聞こえない程の声でボソボソと呟く。

 

「勝手にすまねぇな小山。だけど、ここで恩を売っておくのは悪い話じゃねぇだろう?」

「いや、それはいいんだけど、アンタ今の状況ちゃんと理解してんの?」

「まったく。だけど、亮たちが困ってんなら手助けするのが友達ってもんだろ? 得とか損とかは別にして、Fクラスがちゃんと営業してくれた方が面白いしな」

「はぁ……相変わらず身勝手にも程があるわね……」

「それが俺だからな。だけど、小山も満更でもねぇだろ」

「確かに、瑞希や美波が助かるならそれに越したことはないけどね」

 

 波多野の勝手な行動を一応形としては諫めるが、小山自身もFクラスを助けたい気持ちはある。何せ、友人の姫路や島田が所属しているのだ。彼女達が被害を被ることはできるだけ避けたい。

 お客さん達も坂本の主張と、明らかに優等生っぽい波多野の演技に充てられたのか、先程までのネガティブなリアクションは引っ込んでいた。大至急で机を届けに来た黒崎や野口を笑顔で出迎え、それぞれが満足そうに飲茶を楽しんでいる。

 

「……ふぅ、ま、こんなもんかね」

「すまんな波多野。真面目に助かった」

「困った時はお互い様だって。それよりも、今回の飯代くらいはご馳走してほしいなぁ?」

「任せろ。クラス代表として、清涼祭中はお前と小山の飯代は須川と明久にツケておく」

「乗った」

『理不尽にも程がねぇか!?』

 

 キッチンとウェイターから若干二名ほどの悲鳴が聞こえるも、彼らの主張を聞き入れる者はいない。Fクラスは実益主義なのだ。

 

「あぁいうところを見ると、波多野君ってカッコイイですよね」

「友香には勿体ないわ」

「……何が言いたいのよ瑞希、美波」

「べぇつにぃ。友香ももう少し優しくなってもいいんじゃないかなって思うだけだから」

「悪かったわね素直じゃなくて」

「友香ちゃんがモタモタしていると、私が事前に友香ちゃんの想いを伝えちゃいますよ?」

「余計なお世話だっつーの!」

 

 ニヤニヤと野次馬よろしくいらぬことを言ってくるFクラス女子生徒二人に反論しつつ、何気に気が利くところを見せた波多野に愛しげな視線を向ける。

 普段からあぁしておけば王子様っぽいのになぁ、とは小山だけが抱いた感想だった。

 

 

 

 

 

 




 ちんちくりん王子
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