Cクラスな日々!   作:ふゆい

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 ちょっと間隔空きましたが、最新話です。


第五問

 翌朝。

 今日はいつもより念入りに髪の毛のセットに時間をかけて学園に登校した小山は、我らが拠点であるCクラス教室がなにやら普段以上に騒がしいことに気が付いた。休憩時間にクラスメイト同士で喋っている光景自体は普段通りなのだが、今日は彼らの様子がどこか驚きと焦りに染まっているような気がする。

 がやがやと不自然な喧騒に包まれながら席に着くと、隣で新野とどこか真剣な表情で話していた波多野が身を翻して小山の方を向いた。

 

「よぉ、おはようさん」

「おはよ。で、なんで今日はこんなに騒がしいワケ?」

「ん? あぁ。それはだな……」

 

 小山の問いかけに、何やら勿体ぶるように腕を組みながらニヤニヤ笑う波多野。またいつもの傍迷惑な展開か、といい加減予測でき始めてきた彼の行動に辟易しながらも、今朝教室に来る前に売店で購入した缶ジュースを飲みながら彼の話に耳を傾ける。やれやれ、今日は何を言われるのか――――

 

「俺に彼女ができた件についてなんだけど――――」

 

 グシャァッ!! というけたたましい破砕音が教室中に響き渡ったかと思うと、彼が手を置いている机に何かの破片が勢い良く突き刺さった。一瞬反応が遅れた波多野が慌てた様子で小山の手元を見れば、何やら鉄の残骸と共にジュースっぽい液体が彼女の手を濡らしている。

 波多野の表情が目に見えて三割増しくらいに青褪めた。そんな彼にしては珍しい戦慄具合にイイ感じの笑顔を顔全体に張り付けながら、小山は実に笑えない覇気を全身に纏わりつかせて淡々と言い放つ。

 

「あら、ごめんね進。なんかよく聞こえなかったんだけど、気が付いたら缶を握り締めちゃった。私にとって忌々しく憎たらしい発言が聞こえた気がするんだけど……気のせいかなぁ?」

「や、そ、その前に、それってもしかしなくてもスチール缶……」

「気のせいかなぁ?」

「…………冗談です。全部冗談です。誠に申し訳ございませんでした」

「おほほほほ。やぁねぇ別に謝る事なんてないのにぃ」

 

 表情筋をピクリとも動かさずに言ってのける小山。彼女が不自然な高笑いを上げる度に哀れな子羊が肩を激しく震わせるのだが、現在怒りに燃える代表様にはそんな些細な変化をいちいち気にかけている余裕はなかった。……ツギハ、ホンキデ、ツブス。

 リアルな地獄巡りでもしてきたのかと言わんばかりに絶望の表情を浮かべる波多野はしばらくガクガクと震えていたが、新野による蘇生術(暗示)によって復活を遂げると、ようやくまともに口を開いた。

 

「き、昨日にさ、Fクラス対Dクラスの試験召喚戦争があっただろ?」

「あぁ。新学期早々Fクラスが下剋上目指して喧嘩売ったアレね」

 

 昨日波多野を救う為に更衣室へ向かって疾走していた際に行われていた戦争の事だろう。新学期初日から、学年最底辺クラスであるFクラスがDクラスに宣戦布告したことで始まった戦争。大抵は学期末に開催されるのが当たり前な戦争が初日から行われたことがあまりにも衝撃的な事件だったので、放課後になる頃には学園中にそのことが広まっていた。ということは、今日のこれもFクラスの無謀さについてか。

 

「それで? どうせ負けるくせに無謀にも格上相手に喧嘩売った馬鹿共の噂しているっていうワケ?」

「それがさぁ、なんとFクラスの勝利で終戦したらしいんだよ」

「どうせDクラスが勝ったんでし……え?」

 

 今、波多野はなんて言った?

 ちょっと信じられないことを言われた気がして思考が一瞬止まった。小山の中の常識が軽く揺らぐレベルの発言をされた気がするのだが、まさか。

 背中に感じる冷や汗の気持ち悪さに顔を顰めながらも、恐る恐る尋ねる。

 

「ごめん波多野。もう一回言ってみてくれない?」

「ん? だからさ、FクラスがDクラスに勝ったらしいんだよ」

「……マジで?」

「マジ」

「…………」

 

 言葉も出なかった。

 「すげぇよなぁ」とか言いながら目を輝かせているクラスメイト一名を前にして、あまりにも予想外の事態に驚きを隠せない小山。おそらく今自分はポカンと情けなく大口を開けて呆けたような表情をしているのだろう。

 ここ文月学園に置いて、学力振り分けというものは想像以上に重要な意味を持っている。

 教室の設備や学習進度、その他諸々が学力によって左右されてしまうため、学園全体の風潮として学力カースト制が完成してしまっているからだ。学園内での評判、人気はほとんど成績によって決まり、教師の対応も学力次第。終いには成績によって周囲からの扱いが変わってしまう始末だ。それほどまでに、学力の差というものは文月学園生徒にとって大きい。

 そして先程会話に出てきたFクラスは、六つあるクラスの中で最下位に属する。学業最低ランクの生徒が集まった落ちこぼれクラス。設備は腐った畳に卓袱台という貧相なもの。勉強に対してのやる気なんてほとんどない、お騒がせ集団。文月学園に置いてはもちろんあまりよく思われてはいない。……だが、そんな彼らが下位クラスとはいえ格上のDクラス相手に勝利を掴んだ。その事実は学力カーストの中で生きる生徒達を衝撃の渦に叩き落したことだろう。現に小山は予想以上の衝撃を受けている。

 

「Fクラスの代表と言えば、あの坂本雄二だったっけ?」

「そうですね。かつては【神童】と呼ばれ名を馳せた天才。中学生になってからは勉強から離れて喧嘩に明け暮れていたらしく、ここ近辺では【悪鬼羅刹】という二つ名で知られていたようです」

「悪鬼羅刹か……くぅ~! そういうの滅茶苦茶かっこいいな! 俺も付けてほしいや二つ名!」

「【騒動起爆剤(トラブルメイカー)】なんてどうでしょう?」

「それかっこいい!」

 

 かっこよくねぇよ。

 そんなツッコミさえ言葉に出せない程に、今の小山は驚きを隠せないでいた。何故なら、今まで自分達とは関係ないと思っていたはずの試験召喚戦争が、今回の件によって嫌が応にでも近しいものとなってしまったからだ。

 今回敗北したDクラスはCクラスの一つ下に位置する。上位クラスと下位クラスの境目である以上それなりの学力差はあるのだが、平均してみるとそこまで大きな差は開いていない。Dクラス上位とCクラス下位の点数はほとんど変わらないと思っていいだろう。ランク自体はどちらも普通。その日の調子次第では戦力が入れ替わってもおかしくない程度の差だ。Cクラスは、そこまで優秀なクラスではない。

 FクラスがDクラスを下した以上、次はCクラスに攻め入ってくる可能性は大いに考えられる。何を考えているか皆目見当のつかない坂本雄二の策略を予想することは小山には出来ないが、警戒しておくに越したことはないだろう。万が一放っておいて隙を突かれでもしたら、無いとは思うが敗北してしまうかもしれない。

 一通り考えをまとめて波多野にそのことを話すと、彼はとびっきりの笑顔で賛同してくれた。

 

「そうだな! 来たる戦争に向けて英気を養っておかないと!」

「な、なんか楽しそうね、波多野。そんなに戦争が待ち遠しいワケ?」

「そりゃあもう! なんたってこの学園の醍醐味といって良い行事なわけだし!」

 

 少々危機感が足りないように思うが、まぁ彼の言うこともあながち間違いではない。試験召喚獣制度は文月学園が独自に取り入れた新しい教育スタイルだ。全世界から注目を浴びる召喚獣に対して憧れを抱いている生徒達も決して少なくはない。ゲームの世界でしか有り得なかった召喚獣というオカルト的存在を自分の手によって強化し、操作できるという快感は文月学年生とならではの利点である。

 それに、波多野は誰よりも騒動を好むいわばトラブルメイカー。そんな彼にとってクラス同士で教室の設備をかけて争う試験召喚戦争は願ったりの行事なのだろう。昨日はAクラスに攻め入ってやろうかとか考えていたくらいだし。迷惑なんでやめてほしいとは思うが。

 しかしまぁ、この学校にいる以上試験召喚戦争は絶対に避けては通れない難所だ。クラスを預かる代表として、対策及び作戦を考えておかなければならない。

 ちらと波多野に視線をやる。こういう時に頼れるのは、結局のところ波多野進だ。理系が駄目だったとかでCクラスに振り分けられてはいるものの、文系科目の成績と頭の回転の速さはAクラスにも劣らない彼である。こういった場面における作戦を考えるのも何気に得意だったりするのだ。……まぁ、何故か将棋は弱いのだが。

 いつの間にか近くに来ていた黒崎や野口と件の戦争について雑談していた波多野は小山に視線に気づくと、いつも通りの悪戯っぽい笑顔で小山に笑いかける。

 

「大丈夫。作戦立案及びトラブル関係は俺の専売特許だ。神童だかなんだか知らないが、Cクラスの力を思い知らせてやるよ」

「波多野……」

「ま、タイタニック号に乗ったつもりで楽にしな」

「最終的には沈むじゃないの、それ」

 

 ……大丈夫、よね?

 何故か独自のアレンジを加えた諺を平然と言ってくる波多野に対して、ちょっとだけ不安を覚えた小山であった。

 

 

 

 

 

                ☆

 

 

 

 

 

「我々Dクラスは、Cクラスに対して模擬試召戦争を申し込む!」

 

 二時間目が終わった休憩時間。

 いつも通りに駄弁りながら授業の準備に取り掛かっていたCクラスの雰囲気を一変させたのは、Dクラス代表である平賀源二の一声だった。

 突然の出来事にクラスメイト達がざわめき始める。かくいう小山も驚きを隠せないでいた。しかし代表という立場である以上、彼への応対をせねばなるまい。

 緊張で引き攣る表情を必死に隠しながらも、教室後方のドアで居心地が悪そうにしている平賀の元へ向かう。

 

「えぇっと、一応確認なんだけど、模擬試験召喚戦争を申し込むって言ったのよね?」

「そうだ。我々Dクラスは、Cクラスに対して模擬試召戦争を申し込む」

「……DクラスはFクラスに戦争で負けたから、宣戦布告はできないはずだけど」

 

 小山が疑問に思っていたことを尋ねると、周囲から同意の声が上がる。

 文月学園試験召喚戦争規則において決められている事項の中に、「試験召喚戦争で敗北したクラスは三か月間宣戦布告ができない」というものがある。これは負けたクラスが即座にリベンジをしかけて戦争が泥沼化するのを防ぐためのルールだ。この規則に従えば、昨日Fクラスに敗北したDクラスがCクラスに宣戦布告してくることはおかしいと言える。

 だが、平賀は首を振った。

 

「その点については問題ない。昨日の戦争は和平交渉によって引き分けということになっているからな」

「和平交渉って、そんな終結があるワケ……?」

「それに俺達が申し込んでいるのはあくまでも『模擬』試験召喚戦争だ。設備を賭けるわけでもない、いわば練習試合。そこまで警戒することもないと思うけどね」

「それはそうだけど……」

「いや、警戒はしておくに越したことはないと思うぞ?」

「波多野?」

 

 不意に背後から聞こえた声に振り向くと、小柄の生徒が何やら思案顔で小山の方へと歩いてきていた。言わずもがな、波多野進である。

 波多野は小山の隣に立つと、平賀の方を向いて言葉を続けた。

 

「和平交渉だろうがなんだろうが、DクラスはFクラスに負けている。このことは事実だ。格下クラスが上位クラスに対して設備交換を求めていないということは、何か条件を提示されたと考えるのが普通だろう?」

「……ノーコメントだ」

「それに、Fクラスの代表はあの坂本だぜ? アイツが関わっている以上、何か裏があると考えずにはいられない。変に油断して背中を刺されちゃたまったもんじゃないしな」

 

 波多野の正論に、平賀は返す言葉も思いつかないのか渋い表情を浮かべて黙り込む。久しぶりに見る真面目な波多野に小山はどこか安心したような気持ちを覚えた。やはり彼は頼りになる。普段があんな態度なので多少心配ではあったが、締めるところはしっかり締めてくれる。これならば戦争時の参謀を任せても問題ないだろう。

 周囲を見渡し、偶然目が合った新野と頷き合う。小山達からの信頼度が急上昇する中、波多野は真面目な表情を崩さないで平賀の名を呼ぶと、

 

「でもまぁ、練習試合くらいなら面白そうだしやってもいいかな」

「……は?」

「ほ、本当か!?」

「あぁ。それに、下位クラスからの宣戦布告は拒否できないっていう決まりだし――――」

「なに勝手に承諾してんのよアンタはぁああああああああああああああああああ!!」

「ん? なんだ小山そんなに山姥みたいな顔して四の字固めからのジャーマンスープレックスげふぅ!」

「死ね! アンタなんか地獄三周した上に輪廻転生の輪から外れて死ね!」

「お、落ち着け代表! それは既に死んでるし、その前に下手すりゃ戦争前に参謀が殉職するぞ!」

「知るか!」

「それは最高責任者としてどうなんだ!」

 

 結局は面白い方に事を進めてしまった馬鹿一名の命を刈り取った小山を黒崎が必死に押さえつけるが、怒りに燃える代表様が攻撃の手を緩める様子はない。後頭部から床に落下した波多野は現在絶賛臨死体験中である。このままではさすがにヤバいとついには野口と新野が加勢したことでようやく修羅を止めることに成功。Cクラスに平和が訪れた。

 若干一名意識が戻らないながらも、三人の決死の説得によって多少は落ち着いた小山は荒くなった息をなんとか押さえつつ平賀との会話を再開する。

 

「しょ、承諾しちゃったからもう仕方がないけど……日時はどうするの? すぐにやる?」

「一応今日の昼休み後からお願いしたい。こっちも昨日消費した点数を回復しておきたいからな。まぁ本番前の軽い練習試合くらいの意気込みでやってくれると嬉しい」

「そうはいかないわ。やるからには絶対に勝つ。それに、仮に油断して格下のDクラスなんかに負けたとなっちゃ、いい笑いものだからね」

「っ……へぇ、言ってくれるじゃないか」

「生憎と、口の悪さと喧嘩っ早さには定評があるのよね」

 

 互いに牽制しあう代表二人。小山は昔から喧嘩っ早く、平賀は平賀で正義感の強い少年なので、こういう事態に陥ってしまうのはもやは必然とも言えた。何気に彼女のストッパー役を背負っている波多野が気絶している以上、今の彼女を止める者はいない。

 バチバチと火花を散らしながら教室を出ていく平賀。彼の姿が見えなくなったところで、小山はくるっと仲間達の方に向き直ると拳を握った。怒り心頭の瞳に浮かぶのは、成敗の二文字。

 拳を突き上げ、全力で叫ぶ。

 

「皆、模擬とはいっても戦争よ! 遠慮手加減油断は一切禁止。格下だろうが全力で駆逐して、絶対に勝つわ!」

『おぉ!』

「ウチに挑んできたことを後悔するくらい完膚無きまで叩きのめす! 私についてきて! いい!?」

『任せとけぇええええええええええええ!!』

 

 小山の声に約五十人の戦友達が呼応し、鬨の声が教室中に響き渡る。すべてはクラスの勝利の為に。絶対勝利を掴むべく、Cクラスは手を取り合って全力を振り絞る。

 皆が拳を突き上げて戦意を高めている隅っこで気絶していた波多野を蹴り起こすと、小山は新野と黒崎、そして野口を招集して作戦会議を始めるのだった。

 

 

 

 

 

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