Cクラスな日々!   作:ふゆい

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第六問

 昼休み終了のチャイムが校舎内に響き渡ると、新校舎の一角が一際騒がしさを増した。Cクラス対Dクラスの模擬試験召喚戦争が開戦したのである。

 二つのクラスは位置的に向かい側にある為、戦闘区域自体は教室前の廊下のみだ。有意義かつ効果的な作戦よりも力押しで攻める方が定石と言える状況。そもそも互いの教室の位置取りが戦争向きではない。このような場所であれば、地力で勝るCクラスが有利と言えるだろう。

 Cクラス教室のドアを背中越しに守りつつ、波多野は開戦と同時に声を張り上げた。

 

「教室防衛班は俺と一緒に待機! 突撃班は黒崎、野口に続いて敵をぶっ潰せ! 遊撃班は新野を主体に戦闘に横槍を入れろ! 戦場をひっかきまわすんだ!」

『了解!』

 

 波多野の指示に応じて生徒達がそれぞれの行動に移っていく。狭い廊下に数十人規模の生徒達が密集しているので暑苦しいことこの上ないが、突撃班班長の黒崎は実に素晴らしい笑顔を浮かべながらDクラス防衛部隊へと突っ込んでいく。

 

「船越先生! Cクラス黒崎がDクラス笹島に勝負を挑みます!」

「分かりました。承認します」

「ちぃっ、Cクラスがなんだってんだ! 試験召喚(サモン)!」

試獣召喚(サモン)!」

 

 掛け声に呼応するように二人の足元に魔法陣が浮かび上がる。四則計算記号や数字が周囲に浮かび上がっているのは船越教師の担当科目が数学だからだろう。

 魔法陣が光を放ち、その中心からそれぞれの召喚獣が姿を現す。

 インド風の衣装にターバン、円月刀(シミター)を携えた黒崎の召喚獣。

 騎士鎧に両手剣を持った笹島の召喚獣。

 互いに異なった武装の召喚獣が顕現すると、二体の頭上に点数が浮かび上がる。

 

『Cクラス 黒崎トオル VS Dクラス 笹島圭吾

 数学   150点   VS      103点  』

 

 点数はやはり黒崎の方が上回っている。円月刀と両手剣がぶつかると、甲高い金属音が発生した。

 黒崎の召喚獣が力任せに刀を押し、敵に肉薄。笹島の召喚獣もなんとか押し返そうと力を込めるが、点数で劣る以上力押しでは勝ち目が見えない。

 徐々に押され、刃が顔面へと迫る。

 

「くそっ……! ここまでか!?」

「さっさと戦死にしてやるぜ! 行って来いよ補習室!」

 

 押し合いの末に剣を落とした笹島の召喚獣が慌てて脱出を試みるものの、その隙を逃す黒崎ではない。完全に体勢の崩れた召喚獣の上に馬乗りになると、一切の遠慮を見せることをせずに円月刀で首を刈り取った。

 

『Cクラス 黒崎トオル VS Dクラス 笹島圭吾

 数学   143点   VS      0点   』

 

 見事に笹島を打ち取った黒崎は続いて部隊長の塚本に戦闘を仕掛けている。その隣では遊撃班班長の新野が黒崎の援護をするべく召喚獣を召喚していた。

 巨大な筆ペンを抱えた新野の召喚獣が敵を貫き、その背後にいた傷ついた召喚獣に黒崎が止めを刺す。

 本人達に似たコンビネーションの良さだな、と感心する波多野。去年からお騒がせコンビとして活動してきた彼らの連携は完璧だ。二人で組んで戦えばおそらくBクラスにも引けを取ることはないだろう。少しだけ野口が羨ましそうに二人を見ているのは、親友である黒崎と一緒に戦う機会を奪われたからだろうか。しかしそんな彼も金髪ハーフ少女の木村シェリルと共に巧みな連携攻撃を披露していた。

 

「イッシン! 後ろから敵が来てるネ!」

「分かってるよ! シェリルさん援護お願い!」

「リョーカイ!」

『Cクラス 野口一心 & Cクラス 木村シェリル

 数学   115点  &      108点    』

 

 二人ともCクラスでは平均レベルの点数だが、両手槍を操るシェリルと投げナイフ主体の野口とのコンビは全距離に対して無類の強さを誇っている。今もシェリルが槍を振り払う隙を狙って飛び込んできた召喚獣が野口の放った投げナイフによって顔を貫かれ、戦死した。

 ――――これは、俺も負けてられないな!

 仲間達の健闘ぶりに対抗心を刺激された波多野は副隊長の遠山平太に防衛を任せると、突撃班が開けた道を突っ切ってDクラスの教室へと侵入する。

 

「Cクラスが副代表、波多野進参上だぜ! 大将の首を大人しく寄越せよな!」

「させませんよ! 清水美春、世界史で波多野進に勝負を挑みます!」

『試獣召喚!』

 

 教室に飛び込むや否や口上を垂れる波多野。平賀との勝負を申し込もうとする者の、そうは問屋が卸さない。親衛隊であろうツインドリルな髪型をした女子生徒清水美春に間に入られ、勝負を仕掛けられる。勝負科目は世界史。最初から教室内に世界史の田中先生を保有していることから考えると、親衛隊には文系を得意とする生徒が多いのだろう。目の前の清水もどこか得意げな表情で波多野に対峙している。

 召喚獣の頭上に点数が表示された。

 

『Dクラス 清水美春 世界史 203点』

「ふふん。どうですこの点数は。いくら格上のCクラスとはいっても、ここまでの点数を取ったことなんてないんじゃないですか?」

 

 自慢げに胸を張り、勝ち誇った笑みで波多野を見下す清水。確かに高い点数だ。Dクラスに所属しておいて200点オーバーというのは、優秀といっても過言ではないだろう。彼女が得意になるのも頷ける。Cクラスにおいてもなかなかお目にはかかれない点数だ。

 教室内のDクラス生徒達が清水に同調するように声を上げる。絶対的孤立無援。しかし、波多野は恐怖するどころかむしろ楽しそうに口の端を吊り上げて一人妖しく笑っていた。

 

「な、なんですかその笑いは。勝ち目が見えなくておかしくなったんですか?」

「あぁ? いやいや、そんなことねぇよ。そりゃ確かに凄い点数だけど……」

 

 怪訝そうに様子を窺う清水にニヤリと微笑むと、波多野は自信満々に高らかに声を張り上げる。

 

「そんな程度じゃ、俺には到底敵わないよ」

『Cクラス 波多野進 世界史 394点』

『なぁっ!?』

 

 表示された点数を目にし、Dクラス生徒達から焦りと恐怖のざわめきが広がる。清水はあからさまに驚いたように仰け反り、目を白黒させていた。

 魔法陣を蹴破るようにして現れる波多野の召喚獣。

 両肩にスパイクの付いた甲冑に、額には白いバンダナ。両手には何も持っていないものの、背中には召喚獣の全身程はあろうかというくらいに巨大な盾。

 近接武器が大半を占める召喚獣の中でも珍しい、防具をメイン武装とした召喚獣だ。

 大盾を武器とする波多野の召喚獣を見て清水は明らかに小馬鹿にした表情を浮かべると、気に喰わないと言わんばかりに鼻を鳴らした。

 

「ふん。そんな守る事しか能のない召喚獣に何ができるというんですか!」

「そんなのやってみなきゃわからないだろ?」

「だったら……そのデカブツでなんとかしてみなさい!」

 

 両手剣を腰だめに構えた清水の召喚獣が床を蹴って一気に肉薄。200点越えしているだけあり、その速度は並大抵の召喚獣とは比べ物にならない。まさに一瞬ともいえる時間の中でゼロ距離まで接近すると、剣を横薙ぎに払う。

 だが、波多野の召喚獣は400点に迫る高得点。即座に背中から盾を外すと、高速ともいえる清水の攻撃に合わせるようにして剣を防いだ。

 ガインッ! と乾いた音が響く。

 

「なかなかやります……ね!」

「そっちこそ……な!」

 

 防がれた剣を引き戻し、清水は身体の回転を利用して逆方向から振るう。小回りが利く剣ならではの攻撃パターンに大盾では反応しきれない。咄嗟に身体を捻ると、甲冑の腹辺りを剣が弾く。さすがに二倍近い点数を持つ波多野を一回で倒すのは不可能だったらしく、波多野は点数を少し失った程度で済んでいた。

 鎧に弾かれて剣のコントロールが利かなくなった清水の召喚獣。隙を狙っていた波多野は盾を持ちなおすと、彼女の側頭部に向かって思いっきり振るう。

 バランスを失った清水の召喚獣はふわりと宙を舞い、床を転がるようにして吹っ飛ばされた。

 

『Cクラス 波多野進 VS Dクラス 清水美春

 世界史  326点  VS      103点 』

 

 普通ならここで一旦手を止めるのだろう。しかし、波多野は絶対に躊躇しない。

 床に倒れる清水の召喚獣に一瞬で近づくと、背中越しに馬乗りになって盾を振り下ろす。後頭部に向かって、何度も何度も鉄の塊を振り回し続ける。

 既に目がイッちゃってる感が否めないが、誰も彼を止める者はいない。どこの修羅だお前はとツッコミが入りそうなものだが、彼を止められる幼馴染二人は別クラスであるし、ストッパーの小山は教室で待機中だ。今の彼に枷は無く、自由奔放に心のままに戦闘を楽しむことができる。

 彼の猛攻撃に、教室内に嫌な雰囲気が広がり始めた。

 全員からドン引きされている中、波多野は一人狂ったように笑い声を上げながら清水の召喚獣を舐っていく。

 

「ふははははは! やったれ! やったるでこの野郎! Cクラスを舐めんじゃねぇぞゴルァ!」

「ひ、ひぃぃいい!? わ、私の召喚獣が見るも無残な肉塊に変わっていきます!」

「いーち、にーい、さーん、トドメぇええええええええ!!」

「いやぁあああああああああ!?」

 

 実に素晴らしい笑顔で親指を地に向けると、召喚獣が盾を振り下ろして清水の召喚獣の頭を捻り潰した。

 召喚獣は血を出さないからいいものの、頭が弾けている映像はあまり教育によろしくない感を全力で醸している。あまりのグロさに教室の隅ではDクラスの女子生徒がエチケット袋の中にテレビ的なキラキラを吐き出していた。他人の気分まで害する戦闘狂っぷりに敵仲間問わず戦慄が走る。

 

『うわ……やべぇなアレ』

『清水さんがあられもない……いや、お茶の間にはお見せできない姿に……』

『僕、明日清水さんの席に菊の花を飾るよ』

「な、なんで私本人が死んじゃったみたいな雰囲気が流れているんですか!? 私じゃなくて召喚獣! 死んじゃったのは召喚獣!」

「騒いでいるところ悪いが、清水。貴様には行くところがあるだろう?」

「げっ!? 西村先生……!」

「さて清水。……戦死者は補習ぅううううううううう!!」

「いやぁあああああ!!」

 

 涙交じりに引きずられていく戦友にDクラス生徒達は揃って合掌した。召喚獣を今世紀最大的残酷な殺され方をしたうえに鬼の補習に連行されるとか不幸以外の何物でもないのだが、それが文月学園試験召喚戦争というものである。他所に比べると少々奇行の目立つ生徒達が集まった学園であるため、同情こそすれ彼女を助けようとする者は誰一人としていなかった。

 変な沈黙が教室を支配する中、一人明るく笑い続けていた波多野は「ふぅ」と息を吐くと、

 

「それじゃあお前達、一斉にかかってこいや。そっちのが面白いし」

『こ、この野郎! 舐めてんじゃねぇぞ!』

『総攻撃じゃ! かかれぇえええええ!!』

『うぉおおおおおおおおお!!』

 

 波多野の目に見えた挑発に乗せられて親衛隊が一斉に波多野の召喚獣へと飛びかかっていく。

 最初は余裕を見せていた波多野だが、やはり十人を超える敵を相手に点数を消費した状態では苦戦してしまっている。なんとか盾で攻撃を受け流してはいるものの、徐々に点数が減少していた。

 しかし、波多野の表情は未だに明るい。

 

『なに笑ってんだ気持ち悪いな!』

「いやいや、実に予想通りに動いてくれて、面白いなって思ってさ」

『やられているくせに何言ってんのよ!』

「確かにボッコボコにされているさ。でもな……これが俺の作戦なんだわ」

 

 ニィ、と八重歯を見せると同時に波多野の召喚獣が戦死し、姿を消す。

 だが、その時には既にすべてが遅かった。

 波多野に気を取られ彼に総攻撃を仕掛けた親衛隊。全員が波多野との戦闘にかかりっきりになっていたため、現在平賀の防衛任務に就いている者はゼロだ。平たく言うなら、大将を孤立させている状態。

 そんな裸の王様状態のクラス代表を一人取り残していると、こんなことが起こる。

 

「黒崎トオル、Dクラス代表の平賀に勝負を挑むぜ」

 

 不意に黒崎の声が上がり、召喚獣が現れる。

 が、それだけでは終わらない。

 

「野口一心、同じく勝負を挑みます」

「木村シェリル、勝負ネ!」

「新野すみれ、よろしくお願いします」

 

 野口、シェリル、新野が続いて名乗りを上げる。Cクラスの主戦力とも言っていい四人が平賀を囲むようにして包囲網を築いていた。無論、彼に逃げ場はない。

 平賀は焦ったように口をパクパクさせると、西村に腕を掴まれている波多野に慌てて視線を飛ばす。

 計画通り、と波多野はどこから見ても気持ちよさそうに快活に笑った。

 

「周りが見えていないぜ、代表様よ」

「くっそぉおおおおおお!!」

『Cクラス 黒崎トオル & 野口一心

 世界史  103点   & 105点 』

『Cクラス 新野すみれ & 木村シェリル

 世界史  104点   & 115点   』

『Dクラス 平賀源二

 世界史  112点 』

 

 平賀の悔しさが滲んだ絶叫が教室内に木霊すると同時に、四つの武器が彼の召喚獣を貫いた。

 

 

 

 

 

 

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