四宮あまねは咲かせたい 作:朕好こう
最初に断っておくが、今回は白銀御行、四宮かぐやの物語では無い!!
高等部より徒歩5分の中等部で繰り広げられる恋(?)の物語である!!!
私立秀知院学園!!かつて貴族や士族を教育する機関として創立された由緒正しき名門校である!
貴族制が廃止された今でなお、富豪名家に生まれ、将来、国を背負うであろう人材が多く就学している。
そんな彼らを率いて纏め上げるものが、凡愚である筈が無い!
「皆さん!御覧になって!!」
1人の女子生徒が、廊下を悠々と歩く2人を見て声を上げる。
「生徒会のお2人よ!!」
男女問わず、黄色い声援が湧き上がる。それに対し、肩で切り揃えられた黒い髪をたなびかせて、天使のような微笑みで手を振り返す少女こそ、この秀知院学園中等部生徒会会長の
鉄道、銀行、自動車果てはサブカルチャーまで、ゆうに千を超える子会社を抱える四大財閥のひとつ『四宮グループ』の宗家であり、総帥、四宮
姉は高等部の副会長、四宮かぐやであり、会長に選ばれた彼女もそれと同等の才能を持つ。
容姿、芸術、武術、学問に於いて、同年代に四宮あまねに敵無しと言わせるほどの天才。それこそが、四宮あまねである。
そして、そんな彼女を支えるのが副会長の
秀知院学園に於いては卑下されやすい混院*1だが、彼女は違う。その頭脳明晰さと品行方正さを四宮あまねに買われ、周囲にはあまねが認めた少女として畏怖されている。そして、高等部の兄の白銀
では、ここで天使の微笑みで、律儀に生徒達ひとりひとりに声を掛ける生徒の模範となる四宮あまねの脳内を少しだけ覗いてみよう。
『…めっちゃ、圭が可愛い。キッスしたい。どうして、圭ってこんなに可愛いのかしら。目付きが少しキツイところとか最高よね。ふへへ…あれで睨まれたらご飯3合とか余裕だわ。あーでも圭を無理矢理剥いで、「嫌っ!やめ…!?」とか言われたい。S*2でもM*3でも可能とか、圭は無限の可能性を秘めているわね。天才だわ』
やっぱり止めよう。こんな脳内お花畑を覗いても、誰も得をしない。誰が模範的生徒なのだろうか。
そう、四宮あまねはドがつく変態なのである!!きっかけは白銀圭との出会い。そしてその時に、四宮家の教育で抑圧されていた性欲が爆発してしまったことから彼女はこんな変態と化したのだ!
姉も姉なら、妹も妹で、血の繋がりからは逃れられないのか目付きの悪い人を好きになる傾向があった。そして性癖となっているのも姉譲りだ。
「圭さん、明日、家に来ないかしら?」
生徒会室に入るなり、お泊まり会のお誘い!そしてそれと共に白銀圭の貞操の危機!!
『既成事実というのは非常に有効な手段ね。それに圭を精神的にも肉体的にも落とすならそういう行為は有りだわ。…私も随分、最低な考えをするわね。まさかキッスで子作りなんて…ふへへ』
最低なのはお前の知能指数だ。
彼女は性知識と性欲が釣り合っておらず、キッスで子供を懐妊すると思い込んでいる。ラプンツェルを食べれば子供が出来るし、コウノトリが子供を運んでくるケースもあると信じている。ちなみにサンタは信じていない。
「明日と明後日は萌葉の家でお泊まり、です」
申し訳なさそうに圭は断る。あまねはショックで口を開けたまま、数秒停止する。そして数秒後には冷静さを取り戻し、笑顔で返す。
「そ、う…ふぅん……萌葉さんの家にお泊まり…ふぅん」
嘘である!!全然、冷静では無かった!!寝込みそうなくらいなショックを受け、精神状態が危うい状況まで追い込まれていた!!
『あの胸に栄養が行き過ぎた女に邪魔された…あんな脳内サイコパスな女に圭が取られた…死にたい……もしかして、私のことが嫌いなんじゃ…あり得るわ。最初、生徒会に誘うときにあんな誘い方をしたんだもの。若気の至りとは言え、ひどい誘い方だった。お泊まり会楽しみにしていたんだけれど……死ねばやり直しとか効かないかしら』
なんで四宮家はどいつもこいつもこんな奴らなのだろうか。
圭が、急に黙り込んだあまねを心配そうに見ていると、ショートツインテールの元気な少女が生徒会室に入ってくる。彼女こそ、あまねにとっての諸悪の根源であり、名は
誰か、藤原家を止めてくれ。これが政治家でいいのか?いや、良いはずがない(反語)。
「こんにちは、あまねちゃん、圭ちゃん」
「…
「ぶちょ…なんて?」
「なんでもありません。仕事をしますよ」
息を吐いて、気持ちを切り替える。席に座ると仕事を始めるが、中等部生徒会の仕事は高等部生徒会の仕事に比べれば児戯に等しい。それを優秀な人材がこなすのだから、直ぐに仕事など無くなってしまう。
「暇、ですね。そう言えば、明日、圭ちゃんが家に来るんですよね」
「…さっき圭さんから伺いました」
「そうなんですか」
それっきり萌葉から話しかけてくることが無い。優秀なあまねの頭脳はフル回転し始める。
『何故、自慢のように圭とのお泊まりを強調したのかしら。考えれるのは…私からお泊まり会に入れて欲しいと言わせるため?でもなぜそんなことを?まさか、私に心から屈服しろという意味!?成程、相手の家に行きたいと頼み込むとなれば、それは結納も同然。つまり私が心身ともに圭に尽くせるかを試しているのね』
違う。既に圭から誘われていると思っているから誘っていないだけである。というか何故、結婚まで論理が飛躍するのだろうか。
あまねの優秀(笑)な頭脳は更に深度を増していく。
『だけど、その手には乗りません。圭の方から告らせるのです。私の方から告るなんて非理性的なことするわけないでしょう。別にお泊まり会なんて誘われなくとも悲しくも悔しくもありませんから』
嘘である。この女、お泊まり会に誘われなかった寂しさで今にも泣きそうである。本当は友達や好きな人と一緒に夜遅くまで喋ることに憧れ、昨夜、一睡もしていない。誘うときも心臓が破裂しそうなほど高鳴っていたし、萌葉にも集合時間を一時間くらいずらした上で誘うつもりだった。だが、萌葉には先を越された挙句、誘ってもらえていないというのは彼女にとって
四宮家として、あまねとしてのプライドが高いために、自分から入れてとお願いするのは絶対NGだ。
「あの、あまね、さん」
おずおずと圭が話しかけてくる。あまねは笑顔を取り繕って、首をかしげる。
「なんでしょう、圭さん」
「明日のお泊まり会、あまねさんも来ませんか?」
「え、圭ちゃん誘って無かったの?」
「ううん、誘ったんだけどあまねさん考え事してたみたいで…」
そう!あまねが迷走している間、圭は何度か誘っていたのだ。だが、あまねはネガティブなことばかり考えすぎて全く聞いてなかった。つまり今までの思考は無意味である!冷静に考えて、誘わないわけがないのだが、今まで友達が皆無であったあまねにはそれがわからない。
あまねは誘われたという衝撃が大きすぎて、フリーズする。
「あまねちゃんも来るよね?」
「楽しみです、あまねさんも交えてのお泊まり会」
圭と萌葉が笑顔で話す。それを見て、あまねの顔が綻ぶ。今までの自分には、いなかった大切な人達との交流だ。勿論答えは一つしかない。
「ええ、楽しみね」
四宮かぐやと四宮あまねは非常に仲が悪いことで有名である。その理由は同族嫌悪とも嫡子問題であるとも噂されている。どちらもプライドが高く優秀であるが故に仲は冷えている、ように見えることからそういわれがちだ。実際、表では顔も合わせず言葉も交わさない。
だが、2人きり。正確には従者も含む時は…
「かぐや姉さん。明日、圭とお泊まりするの。白銀会長の妹と一緒に寝るのよ」
「だからどうしたのかしら?」
「圭が私のモノになったら、必然的に会長は私の
「…その口を閉じなさい、あまね」
「あら、姉さんは別に会長のことなんてどうも思わないって言ってたじゃない」
普通に仲が悪かった。
四宮邸宅の廊下で、2人は火花を散らしあう。
そもそも色々似通っている2人は、四宮家の中でも、かぐや派とあまね派で分かれ争っている。
あらゆる才能がほぼ同じである2人は幼い頃から争うように教育されていた。今でこそかぐやは経験で上回っているが、あまねの方が直感的な才覚を持ち、既に武芸ではかぐやを抜いているものもある。
しかも、あまねはかぐやとは別の母から産まれた。立場の強くないあまねの母は追放され、あまねだけが政略結婚の道具として残された。そしてかぐやの母のせいで、あまねの母は追放されたというあまね派の嘘を信じ、かぐやのことを残虐非道な女だと思っていた。
かぐやはかぐやで、相手がそんな態度なので仲良くなろうとも言えず、顔を合わせればこのように喧嘩になる。
「あまね様ぁ…姉妹で喧嘩するのは良くないと思いますよぉ。もっと仲良くしましょうよぉ」
眠そうな顔で、あまねの背後につく長身の金髪ボブの女性が、ゆったりとした甘ったるい声で喋る。
「黙りなさい、
「…喋るというより、貴女が一方的な自慢をしているだけでしょう?」
「…っ」
「はぁ、私も暇じゃありません。自慢話なら
かぐやは溜息を吐くと、自室に戻ってしまう。背後にいたかぐやの従者は、あまねに軽く会釈するとかぐやの後を追う。あまねはそんなかぐやの後姿を睨みつけて、ぷるぷる震えながら自室に戻る。そしてそのままベッドにダイブすると、じたばたする。
あまねの従者である
「あー、もぉ。折角整えたのにぃ…というか、あまね様、もっと素直に、仲良くなりたいって言った方がいいですよぉ?」
「違うもん!!別に仲良くなりたいわけじゃないもん!!」
「はいはい。全く、昔からそうなんですからぁ…さっきも本当は、一緒にお泊まりしたいって言いたかったんですよねぇ?」
「そんなこと無いもん…」
あまねは暴れ疲れたのか、ベッドの上で大文字になりながら肩で息をする。
実を言えば、あまねがかぐやを嫌いだったのは半年前までだ。圭と会ってからあまねの価値観は変わり、かぐやの方も御行と出会ってから大分丸くなった。お互いに相手の心境の変化に気付いているが、今までの確執は簡単に拭うことが出来ない。その為、皮肉や侮蔑交じりのような会話でしか近況報告出来ないのである。
羽衣は、かぐやの従者である早坂愛とは仲が良く情報を共有しているので、主人同士のめんどくさい確執には辟易しているし、二人の白銀家へのラブコールも聞き飽きている。早く白銀家とくっつけよ、と愚痴りあう日々だ。羽衣は暴れて乱れたあまねの髪を整えながら話す。
「いい加減、仲直りしましょうよぉ」
「…無理よ。私と姉さんは仲良くなれない」
「まぁた本家からの命令ですか?暇ですね、彼らも」
「四宮に生まれた以上、庶民と同じ幸福は享受できない。私たちは経済的にも才覚的にも、他者より恵まれている。なら家族同士で争いあうなんて大した不幸じゃないわ」
本当はかぐやときちんと話してみたい。一緒にご飯を食べたり、買い物に出掛けてみたい。姉妹らしいことをしてみたいのだ。
けれど、自分に流れる血がそれを許さない。幼いころから刷り込まれたかぐや憎しの心が邪魔する。
「もう今日は寝るわ」
「はい。おやすみなさいませ、あまね様。明日の夜、楽しみですねぇ」
「た、楽しみなんかじゃないわ」
そんなことを言いながらも、昂る気持ちを落ち着けようと目をつぶる。
だけど、明日のお泊まり会のことを思い浮かべるとそわそわして眠れない。その姿はまるで遠足を楽しみにする子供のようだ。それもそのはず、初めてのお泊まりなのだから。
だからこそ、彼女は心の底から明日が来るのを楽しみにしている。