四宮あまねは咲かせたい 作:朕好こう
秀知院学園は偏差値77の超進学校である。
幼小中高大とエスカレーター式だが、学力が足りなければ容赦無く振り落とされるのが秀知院学園である。
そして、生徒は大抵が、医者や企業の後継者となりうる者たち。そんな彼らが無能であっていい筈がない!!
彼らは日々勉学に励み、矜持を持って試験に臨む。時には正々堂々と、時には
そう、試験は戦!そして、学園生活においては最も重要なモノである!!
ドキドキのお泊まり会から2週間が経ち、中等部生徒会室は少し雰囲気が変化していた。
「その、け、圭。これを頼めるかしら」
「…っ!分かりました、あまね…ちゃん」
圭とあまねの関係が付き合いたてのカップルのようになっているのである!
生徒会役員達は皆、2人のその雰囲気に当てられ、砂糖を袋ごと口に入れられたかのような甘さを感じていた。
「菅原先輩、あれなんスか?気持ち悪いんスけど」
久しぶりに生徒会室へやってきた、何処にいても目立つくらい明るい茶髪の1年生書記女子、
「久しぶりに仕事しようかなぁ、なんて思ってきたら最悪ッスよ。イッシーとゲームでもしてりゃ良かった」
斎は2人の甘ったるい雰囲気についていけず、辟易とする。それには他の生徒会役員も陰ながら同意する。生徒会室でイチャつくなら他所でやってくれ、と誰もが思っていた。
「そう言えば、皆って試験勉強してる?そろそろだよね、期末テスト」
その雰囲気を打開しようと萌葉が何気なく、期末テストについて口に出した瞬間に、雰囲気が一変する。
先程まで甘々だった圭とあまねは睨み合い、斎は虚ろな目になり、菅原はそんな雰囲気に苦笑する。
あまねはやれやれと言った感じで溜息を吐きながら、語る。
「試験勉強、ですか。私にそんなものは必要ないわ。普段から授業をきちんと聞いていれば、良い点数なんていくらでも取れるのですから」
嘘である!この女、お泊まり会が終わったあとはすぐさま試験勉強に取り掛かり、暇さえあれば延々と勉強しているのである!!
突然だが、四宮あまねは天才である。四宮かぐやと同等の英才教育を受け、四条眞紀にも個人的に何度か勉強を教わっている。そして、何より彼女の直感的な才覚によって、物事を理解するのは決して難しいことでは無い。
彼女は常に何事に於いてもトップクラスの能力を持ち、それを出し惜しみなく使う。社交性を重んじ、6割程度の実力しか出さない姉のかぐやとは違い、持てる全てを用いて全力で戦うことこそが彼女なりの誠意であり、人と関わる上でのスタンスである。
だが、そんな四宮あまねが苦戦する者がいる。天才である彼女が全力で引き離そうとしても、喰らい付いてくる少女が居た。
「…そうですかね。私は授業だけじゃ足りないと思います。あまねちゃんも油断していると足を掬われるかと」
その少女こそ、白銀圭である!
彼女は中等部に入学してから、四宮あまねとトップの座を争ってきた。現に中学1年生での最後の期末テストは、白銀圭が1位を獲得している。その時のあまねは悔しさのあまり、誰もいない所で叫んでいた。
白銀圭は白銀御行より、地頭が良く、効率的に勉学に励んできた。兄のように過度な試験勉強をせず、予習と復習だけはしっかり行う。そうやって、白銀圭は要領良く生きてきた。
だが、それでは四宮あまねに勝てない。圧倒的な才能に対しては、ただ人より優れているだけでは勝てないのである。故に彼女は試験勉強期間中は兄と同じく、殆ど一睡もせずに、四宮あまねとの差を埋めようとしていた!
「あら、圭。誰が足を掬われるですって?」
「あまねちゃんが私に足を掬われるって言ってるんです」
「2年に上がってから、私に一切勝ててないのに面白いこと言うわね。また叩き潰してあげるわ」
「…油断大敵って知ってる?それに今回は私も本気だし、負けない」
圭とあまね、両者の視線がぶつかり、火花が散る!だがこの時、あまねは圭への敵意や試験勉強以外のことを考えていた!
『私、もしかして、圭と見つめ合ってる!?これって好きあってるって事よね!?ふへへ…圭のキリッとした顔立ちも私に向ける視線もしゅき…もっと近くで見たいわ。というかさらっと私の名前を呼べるようになってるし、口調も砕けてる!…こういうのは夫婦喧嘩で良くある奴よね!?私が物心ついた時には既にお母様は居なかったから、夫婦間の喧嘩なんて知らないけど!!』
脳内お花畑と言うに相応しい思考である。顔は必死に睨んでいるように取り繕うも、心は完全に圭に対して夢中であった!
「試験勉強スか…何にもやってないッスね」
「少しくらいは試験前に復習しておいた方がいいと思うぞ。公立中学校と違って、うちは留年、下手すれば退学の可能性もあるんだし、分からないことがあれば俺らも力になるよ」
虚空を見つめながら斎が呟くと、菅原が窘める。
秀知院学園において、赤点は平均の半分以下と厳しい。その上、赤点を取った場合の補習など救済措置は一切取られない。科目ごとに2回の赤点で欠点、必修科目は落とせば当然、留年。
斎も笑っていられる場合では無いのである。
「じゃあ、少しは勉強しますか。留年とか嫌ッスからね」
嘘である!この女、菅原の忠告など全く聞いていない!頭の中は既にゲームをすることだけ考えており、今日の帰りにコンビニでポテトチップスとコーラを買って深夜までゲームをするという贅沢な時間の使い方をしようとしている!
そして赤点は当然かのように取り、帰ってきたテストを見て悔しがることも無く、「赤点取っちゃったッスね〜!」と、独りで笑う。そんなアホが御室戸斎である!!
「まぁ、俺も概ね会長に賛成ですけどね。普段から努力してれば、一夜漬けなんて必要ない。試験期間中だけ勉強しても、身につかないですよ」
本当である!この男、学習意欲が非常に高く、常日頃から勉学に励んでいる為、成績は上位であり、優等生として教師からの人望が厚い。生徒会唯一の良心である。他の生徒会メンバーも彼を見習って欲しい。
「そうなんだ…私はどうしようかなぁ」
「私、試験前はリラックスした状態で受けることにしているの。萌葉ちゃんもやってみてはどうかしら。4日間くらい頭を空っぽにしてみると、試験の時には脳が整理されて頭が働くのよ」
「…それには賛成ですね。萌葉、勉強は一夜漬けだけは避けた方がいいと思うの。一夜漬けって結局、脳に全然入っていないらしいし、私も試験直前はゆっくり寝てる」
突然、圭とあまねは一致団結し、萌葉を陥れ始める。
藤原萌葉は元々、優秀である。そもそも藤原家は性格にさえ、目を瞑れば、優秀であり優等生と称しても過言では無い。故にこの生徒会室において、最も警戒すべきは真面目だが自分たちに勝てるほどでは無い菅原創より、ダークホースになり得る藤原萌葉である!
「へぇ〜2人がそこまで言うなら試してみようかな」
傍から見れば、主人公2人が悪役のようである。
学校の試験程度に全力掛けすぎだろ…と思われるかもしれない。
だが、考えて欲しい。勉学に励むのは学生の本分であり、当然のことだ。そしてそれ以上に、彼らには将来がある。この学園の大部分は、医者、政治家、社長など様々な上に立つ者達の集まりだ。そのような人を率いる者が無能であることは許されない。
誰もが1位の座を狙う。自分の優秀さを数値化し、他の生徒に示す為に。他者を蹴落としてでも、自分の未来を掴む為に。
天才、秀才が知略、謀略を尽くして競い合う…それこそが期末テストなのである。
「…」
誰より早く教室に着いた四宮あまねはノートに向き合い、黙々と問題を解き続ける。
その手は微かに震え、目の隈が薄らと見える。
「…勝たなきゃ」
眠気なんて、とうに無い。試験への緊張と不安、そして謎の苦痛のみが彼女を支配している。
四宮あまねは天才である。
四宮家として生まれた以上、1位を望まれる。
四宮あまねという優秀な人間が期待されないわけが無い。
だが、四宮あまねにとって、それらは重い。中学生が背負うには重過ぎるプレッシャーだ。
四宮あまねは天才であるように振舞っている。努力することは当たり前であり、ひとつのミスも許されない。
四宮あまねが1位以外を取ることは認められない。四宮家の令嬢である以上、四宮家が有象無象に負けてはならない。
四宮あまねは優秀な人間でいなければならない。どれだけ期待が掛けられても、涼しい顔でそれらを背負わなければいけない。
何より1位で居なければ、白銀圭と付き合うことなんて出来ない。
四宮家である自分から告白が出来ない以上、自分だけを見て、好きになって貰うには自分の優秀さをアピールするしかない。
「…勝つ。絶対に勝つ」
歯を食いしばって、最後の最後まで復習する。
白銀圭を振り向かせる為に、四宮あまねは誰にも負けられない。
「当然の結果ね」
順位表の先頭には、四宮あまねが書かれており、続いて白銀圭と書かれている。
あまねは結果を見ながら笑う。圭はあまねの隣に立って、順位表を見上げている。
「今回は負けてしまいましたか」
「今回も、よ」
「…次は勝ちますよ、あまね…ちゃん」
「えぇ、楽しみにしてます。では私はこれで」
圭にお辞儀し、笑みを浮かべたまま、あまねは人気のない校舎裏へ行く。
そして、誰もいないことを確認すると息を吸って叫ぶ。
「やったァァァァァ!!」
この女、超がつくほど喜んでいた!ひとしきり叫ぶと、スカートに土が付くのも気にせずにへたり込む。
「…怖かった」
重圧から解放された安心感で少しだけ涙を流す。涙を拭い、息を吐く。
四宮あまねは白銀圭のことが好きである。友愛では無く、恋愛相手として。
そんな彼女に振り向いてもらうには、相手の得意な分野で上回るしかない。
だから、四宮あまねは負けられない。