パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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天才神官様のパーティ追放

「てめぇをパーティから追放する!」

 

 空には夜の帳が降り、仕事帰りの男達や、荒くれもの達が思い思いに騒ぐ酒場の一角で、目の前に座る髭面の戦士、ジョーがそう言い放つ。

 さて、追放?追放だと?

 私は聞き間違いかと思い、眼前で怫然とした表情を見せるジョーに問いかけた。

 

「追放と言ったか?ジョー?おかしいな、私はしっかりパーティの為に働いている筈だが……理由を聞いても構わないかな?」

 

「胸に手を当てて考えてみろ」

 

 ジョーは私の問いかけに苦虫を噛み潰したような表情でギリギリと歯ぎしりを立てる。

 ふむ、胸に手を当てて考えて見ろと言われても……

 

「いや、わからないな。何故ならこの私――カシミール・カミンスキは天才的高位神官であり有能!かつ美貌にも優れた最強の神官なのだから!」

 

 そう、私ことカシミール・カミンスキは我らの信じる神、ギアナ神より加護を受けた超ハイスペック天才大神官、いやさ、超神官である!

 神官の持つ癒しの力『神聖力』による回復術どころか補助の術、強化・付与の術式、種類は少ないが光の攻撃術式、更には蘇生術までも扱え、肉体的な戦闘力も戦士程ではないにしろ優秀である。欠点たりうるものは無い。

 今日の探索でも無様にも敵に強打を受けたジョーの傷を癒してやったところだ。

 感謝されこそすれ、嫌われる道理はあるまい。

 だというのに……

 

「そんな私を追放するなど、気の狂いとしか思え……ああいや、だが君は精々サル程度の知能しか持たぬ腐れ脳ミソだったな。なるほど、私の有用性を理解できないほどに脳が退化していたとは予想外だったが……なるほどそれならば頷ける!ま、愚か極まりない判断だが生まれついての知性というものはどうしようもあるまい。愚者なりに強く生きてくれジョー!」

 

「そういうとこじゃぁぁぁ!おおし!ブッ殺したらぁ!!」

 

「ジョー!やめろ!やめろって!気持ちはわかるけど!!」

 

 気が狂ったのか、腰の剣を抜いて私に襲い掛かろうとするジョーをパーティの小柄な斥候、ロフトが羽交い絞めにして必死に止める。

 うむ、当然だな。超優秀な私が抜けて困るのはパーティの方なのだから。

 このロフトはジョーと比べてまだ冷静なようで安心した。流石は斥候だ。

 やはり戦士などをやっていると他の職業よりも圧倒的に知性が不足するのかもしれないな。

 とはいえ、だ。

 私には到底理解できない頭の悪い論理ながら、ジョーがこれほどまでに怒り狂うということは、確かに性格の不一致がパーティを揺るがす、ということもあるのだろう。

 やれやれ、と溜息を吐きながら、私はジョーに多少なりとも譲歩することとする。

 

「なるほど、ジョーの言い分も理解した。要は知性に余りにも差があると意識の共有が困難だと言うことだ。であれば、仕方あるまい、どうしてもと頼むなら貴様の知識レベルをこの私が鍛えてやることとしよう!はは、光栄に思ってもらっても構わんよ!」

 

「てめぇの性格の方の問題なんだよボケナスがぁ!!なんで上から目線なんだお前コラァ!!!」

 

「やれやれ。ジョーよ、知っているかい?満足な環境を得るには人を変えるよりもまず、自分を変えなければならないのだよ?」

 

「その言葉そっくりそのまま返すわクソッタレ!!!」

 

 私の語る正論に今日一番の怒声で返すジョー。

 呆れるな。私は正しいことを言っているというのに、この哀れな髭のサルには理解できないようだ。

 いや、ともすれば私が天才すぎるのが悪いのかもしれない。

 余人と比べて抜きんでている、というのも孤独なものだ。仕方ないな。

 などと考えていると、私の肩にぽん、と手が置かれる。

 振り向くと、そこにいたのは金髪の巻き毛に、大柄な体躯を持った女性。

 パーティの武道家であるカリカだ。

 

「もういい。カリカ、そいつ外に放り投げてこい」

 

 疲れたようにはぁ、と大きな溜息をついたジョーがそう言うと、カリカが無言でぐいっと力を込めて私の体を持ち上げる。

 相変わらずの馬鹿力だ。

 このカリカは無口な分、あまり人間性がわからないが、ジョーの言うことに素直に従うあたり、やはり精神構造がサルに近いのかもしれない。

 戦士と武道家、というところもあるし、肉体を酷使する職業は知性が下がるのだろう。

 カリカは私を担ぎ上げると、そのままグイグイと店内を進み、そっと私を店の外に降ろした。

 

「ううむ、愚かだな……ま、仮にもリーダーが決めたことであれば仕方あるまい。この天才神官カシミール様のいないパーティで精々頑張るがいいさ!」

 

「♪」

 

 私の言葉の意味が解っているのか、いないのか、カリカは満足気な笑みを浮かべながら、胸の前で両手をグッと握り込んだ。

 素直に頑張る、という意味なのか、私がいなくなったことが嬉しいのか、どうにも判別がつかない。

 無口な人間というのは付き合うのに気楽だが、何を考えているのか理解しづらいのが困ったところである。

 と、私が店を立ち去ろうとすると、カリカの裏からもう一つの小柄な影が姿を現した。

 

「ちょっ……待て待て、カシミール!ああもう!しゃあねえな、これ持ってけ!」

 

 そう言ってカリカの後ろからひょこっと現れたロフトが慌てて渡してきたのは、美しい首飾りだ。

 細い鎖に、いくつかの金の装飾が繋げられたそれには、金に囲まれるようにして中央に緑に妖しく光る宝石が下げられている。

 

「これ、今日の探索で見つけたやつで、まだ鑑定もしてないから効果もわかんないが……まあ慰謝料……っていうのも変だけどお前にやるよ。土産にでもしといてくれ」

 

「へぇ……ふふん、流石はロフトだ、やはりあの粗雑なサルとは違うな。このカシミール、有難く受け取っておいてやろう!」

 

「誰がサルだコラ!さっさと出てけボケカス!!」

 

 素直に感謝の言葉を述べる私に、酒場の窓から顔を出したジョーが尚も不満の言葉を浴びせる。

 サルというのは言い過ぎたか。道具を使える知性はあるようだし、ゴブリン程度が適切だったかもしれん。

 ともあれ、かくしてこの天才神官カシミールは、卑劣で無能なパーティリーダーから追放されることと相成ったのだった。

 

 

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