パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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石の魔女

「た……倒すって言っても……」

 

 トゥーラが気後れした様子で、不安そうな表情のままチラリと木のうろから外に目をやる。

 バジリスクは相も変わらず舌をチロチロと出してこちらを探しているようだ。

 まあ、トゥーラが怯えるのもわからんでもない。

 E級の新人冒険者3人でバジリスク討伐、というのは通常であれば難易度が高いことは間違いない。

 通常であれば、な!

 トゥーラと違い、リガスは流石に私の行動に慣れた様子で、すぐさま落ち着きを取り戻す。

 

「全く……カミラさんと話してると飽きないな。それで?どう倒すつもりなの?」

 

「うむ!リガス、貴様の役割が重要だぞ?まず貴様にも分かるように言ってやるとだね……」

 

「……言っとくけどアレは使えないよ?」

 

 リガスは未だに怯えた様子のトゥーラをチラリと見ながら、小声で答える。

 アレ、とは狂化のことだろう。

 理性が無くなるとはいえ、マンイーターを単独で倒せるほどの強化だ。

 それが使えたらバジリスクにも……とは当然、私の考えにもあったのだが……

 そんな私の考えをリガスはキッパリと否定する。

 

「ん……なんだ、トゥーラがいるからか?アレは最悪気絶させるかバジリスクに石化させれば良いだろう」

 

「カミラさんって素で発想が酷い時あるよね……じゃなくて、単純に相性が悪いんだ。俺はアレになった時――まあ自分じゃ覚えてないけど、とにかく理性を失って獣の如く暴れ回るわけだろう?そんな状態で意識してバジリスクの邪眼を躱せるかな?」

 

「……厳しいかもしれないな」

 

 私達が今、こうしてバジリスクの邪眼を意識しながら立ち回れるのは、考えることのできる知性があるからこそだ。

 本能で動く獣が、その邪視をくぐり抜けてバジリスク自身を倒せるかとなると、難しいかもしれない。

 一か八か、石化される前にバジリスクの急所を突き、倒せる可能性……あるいは狂化によるステータスの上昇で石化そのものに耐性がつく可能性も無くはないだろうが、確証は得られない。

 もしもやるとしても最後の手段、ということになるだろう。

 

 まあ、無論?天才である私はその可能性も考慮していたわけだが?

 私はリガスに余裕をもってふふん、と笑ってみせると、もう一つのプランを提示する。

 

「ま、安心するがいいさ、リガス。元より私は貴様の狂化に頼ろうなどとは思っていない!重要なのは基本、つまりパーティの役割分担だ!」

 

「役割分担?」

 

「そうとも、つまりパーティの盾であるリガスが奴の注意を引き付け、私がリガスの状態異常とダメージを回復……そして――トゥーラ!」

 

「ふぇっ!?な……なんですか……えっ、私?」

 

「然り!貴様があのバジリスクにトドメを刺すのだ!」

 

 これはパーティで戦う際の基本戦術にして極意だ。

 実際、ジョー達とバジリスクに会敵した時も似たような方法で倒していた。

 あのパーティの場合は壁役のジョーにバジリスクのヘイトを集め、私が回復、カリカが攻撃、ロフトがその補助という具合だ。

 ま、アタッカーが武道家か魔術師かという違いがあるとはいえ、攻撃に秀でた職業であることに変わりはない。

 と、慌てた様子のトゥーラが必死に言葉を紡ぐ。

 

「わ、私がトドメって……ふへ……む、無理ですよぉ……無理です、絶対に無理です……」

 

「は、心配せずとも良いさ!バジリスクは状態異常や炎には滅法強いが、一方で氷属性の攻撃にはこの上なく弱い!」

 

 そう、なにせこの私はバジリスクの弱点を知っている!天才だから!

 武道家であるカリカはバジリスクを力技で撲殺していたが、本来であれば弱点を的確に突ける魔術師の方が、アタッカーとしての汎用性が高いのだ。

 

「なに、初級の氷魔術でも構うまい、もし失敗して石化させられそうになっても私が治して――」

 

「ふえ、あの……そそ……そうじゃなくてですね……えへ……ええっとぉ……」

 

 なにやらモジモジと、言いづらそうに顔を逸らすトゥーラ。

 なんだ、やけに渋るではないか。

 まさか石化されたいからバジリスクを倒したくないだとか、そんなふざけたことでも言うのではないか?

 そんな疑念が頭を過ぎる私だったが、トゥーラはやがて、意を決したように唾をゴクリと呑み込み、語り出す。

 

「実は私……石化の魔術しか使えないんです……」

 

「……は?」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 ――――私、トゥーラ・トラコリが最初に魔術を使えるようになったのは、6歳の頃だ。

 

 魔術師である父に教えてもらい、自身の魔力を引き出せるようになったその日。

 父の言うとおり、自然に、自分の体に流れる魔力を庭で思い切り放出してみると――私の眼前に咲いていた花が一瞬で石に変化し、ぼろぼろと崩れたのだ。

 

 小さかった私は、それはもう、とても喜んだ。

 私の魔術だ。父のような立派な魔術師になるのだと励んで、魔術の学校に通って勉強した。

 けれども、いくら勉強しても、いくら頑張っても、私に使えたのは石化の魔術だけだった。

 炎も出せなければ氷も出せず、空を飛ぶなんて夢のまた夢。

 とどのつまり、私は能無しの落ちこぼれだったのだ。

 

 学校のみんなからも笑われ、教師にも見放された私は、逃げるように唯一使える石化の魔術にのめり込んでいった。

 

 石化は良い。

 石化した生物は何も言わない。私に何かをしたりしない。

 私を見下すことも無ければ失望することも無い。

 

 ――けれども、何も言わない石に癒されることはあっても、それで心の穴が埋まることは無い。

 私が何も出来ない能無しであることには変わりない。

 目の前の少女、カミラちゃんというらしい。この子もきっとそう思っている。

 天才神官……そう自身で名乗る程の自信家であり、才能のある少女なのだ。

 そんな少女は、私の告白を聞くと、唸り声を上げながら顔を俯かせる。

 

 やっぱりだ。困っている。きっと私のことを見下している。

 バジリスクを倒すなんて言っていたけど、流石に私がこんなんじゃ無理に決まっている。

 ひょっとしたらこのまま、私は見捨てられて、囮として一人でバジリスクに石化させられて、ボリボリと噛まれて砕かれながら呑まれるのかもしれない。

 ……それはそれで良いかもしれない。

 どうせ生きてたって良いことは無いんだし、だったら最後に十分石化の気持ちよさを味わって死ぬのもアリだ。

 流石の私も石化させられながら砕かれたことはまだ無い。

 どういう感じなんだろう。意識あるまま石化させてくれないかな。ああ、完全に石化される前に半身砕かれたらどうなるんだろう。死ぬのかな。

 なんて、すっかりこれからのことを考えて心を躍らせ……いや、不安になる私に、眼前のカミラちゃんは俯いていた顔を上げて口を開いた。

 

「なるほど、わかった。では……私がアタッカーになるしかないな!」

 

「ふぇっ……!?」

 

「ええ!?」

 

 堂々と言い放つ少女の姿に、傍らのリガスと名乗った戦士も驚いた様子で声を掛ける。

 

「いや、アタッカーって……カミラさん神官じゃ……」

 

「天才神官、だ!リガスも私の攻撃神聖術の威力は知っているだろう!今日はもうプロテクションとキュアを一回ずつ使ってしまったが……それでも今ならホーリーハンマーの一発くらいは使える筈だ!ポイズントードを倒してレベルも上がっている筈だからな!」

 

「ふぇ……いや……待っ、なんで……」

 

 あまりにも堂々とした佇まいに、私は思わず問いかける。

 どうして――

 

「どうして……私のせいだって言わないの……?」

 

 私が基礎的な氷の魔術でも使えたら済む話だったのに、私が使えないからいけないのに、なんでこの子は。

 そう思う私の前で、カミラちゃんはやれやれ、という風に首を振ると、正面から私の目を見据えて答える。

 

「私が天才だからだ!」

 

「……へ?」

 

「いいかね?天才というものは決して止まらない!歩き続ける者!努力し続ける者だ!凡人でも出来る努力という行為、これを天才が行えずにどうする!」

 

 困惑する私を前に、カミラちゃんは得意気な様子で尚も語り続ける。

 

「天才が、他者が凡愚であることを理由に努力を辞めるか?立ち止まるか?否!そういう状況を乗り越えられるからこその天才というものだろう!まして――私から見たら貴様も他の連中も全員等しく凡愚だ!さしたる問題はあるまいさ!」

 

 熱を込めて語り続けるカミラちゃんを、リガスさんが微かに笑みを漏らしながら、優しく……どこか尊敬しているかのような視線で見つめている。

 ああ、そうか、この子は……

 

「石化の術しか使えない、は!大いに結構!ならばそれを生かして敵を倒してみせてこその天才、というやつだ!」

 

「ふぇ……カミラちゃん……」

 

「石化しか使えないなら使えないで、やってもらうことはある。貴様には――」

 

 と、カミラちゃんが言葉を紡ごうとしたその瞬間、ぽかりと空いていた木のうろに突如として影が差す。

 

 まさか、と思いながら恐る恐る目をやると――真っ赤な邪眼が、じっと私達を覗いていた。

 

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