パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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再び沼地

「――目を逸らせ!」

 

 私が言うが早いか、木のうろを覗き込んだ真っ赤な瞳が妖しい輝きを放つ。

 邪視だ!くそっ、やっぱり見つかったか!

 木のうろで直視は避けられたかと思ったが――うわ、まずい!

 

 邪眼の光が失せ、辺りを見回すと、隣のリガスは木の内側にへばりつき、何とか難を逃れたようだが、対面のトゥーラは一瞬で全身が石化していた。

 ええい!もう!なんて間抜けな奴!

 氷の魔術も使えないらしいし、根本的に魔術に向いていないのではないか!?くそっ!愚物!

 とはいえ、そんな愚物を使いこなさねばならないのも事実!やれやれだ、天才は辛いな!

 と、トゥーラに駆け寄ろうとする私だったが――そこで違和感に気付いた。

 

 足が動かない。

 

 まさか、と思いながら目を下に向けると、ああ、最悪だ!

 私の腰から下が石化している!

 目を合わせることこそ免れたものの、奴の視線の中には入っていたのだろう。

 このまま放置していたら瞬く間に上半身まで石化の毒が回ってしまう。

 早くキュアで異常を解除しなければ――と、私が神聖術を唱えようとした瞬間、バキンと大きな音が響いた。

 見ると、バジリスクは私達が身を潜む木を破壊せんと噛みついてきている。

 

「くそっ…!このままでは――うわっ!」

 

 またバキン、と音を立て、木の内側にバジリスクの牙が食い込んだ。

 このままではキュアも出来ないし、最悪、木を砕かれた時の衝撃で石化した下半身が砕けかねない!

 くそっ、最悪だ!誰だ、バジリスクと戦おうなどと言い出した馬鹿は!

 さしもの私も慌てる中、傍らのリガスが不意に声を張り上げた。

 

「くっ……仕方ないか……カミラさん!後は任せた!」

 

「リガス!?貴様……」

 

 言うと、リガスは腰の剣を引き抜き、木に噛みつくバジリスクの舌に斬りかかる。

 ぼとり、と音を立ててバジリスクの舌が木の中に転がると、さしものバジリスクも痛みに暴れ、噛みついていた大木から牙を離す。

 と、リガスはその隙を突いて木から飛び出すと、剣と盾をガンガンと打ち鳴らしながら声高らかに叫ぶ。

 

「こっちだ!バジリスク!ついてこい!」

 

 言いながらリガスがどこかで向かって走り出すと、怒り狂ったバジリスクもまた、リガスを追ってその巨体を移動させる。

 なるほど、自ら囮になって身を捧げてくれるとは、流石はリガスだ!戦士としての役割が何なのかをきちんと理解していると見える!えらいぞ!

 凡夫なりにやるではないか、と、リガスを見直しながら、私は自身の下半身へキュアをかけて治療する。

 と、続いて眼前のトゥーラに駆け寄って再度キュアをかけると、咳き込みながらも、トゥーラが無事に復活する。

 

「けほっ……ふへ……わ、私……石化してました……!?」

 

「ああ、良かったじゃあないか、気持ちよかったか?」

 

「え、う~ん……一瞬で固まっちゃったので……ちょっと勿体ないことをしちゃっ……ではなく、バジリスクは……」

 

「リガスを追っていった。道は奴が踏み倒していった木を辿ればわかるが……」

 

 私はトゥーラが石化している間に何があったか、手短に説明する。

 リガスはまあ……しばらくは大丈夫だろう。盾も持ってるし、最悪の場合でも狂化がある。

 とはいえ、早めに助けに行かないとマズいが……

 

「問題は、私が今の2発のキュアで殆どの神聖力を使い果たしてしまったことだ」

 

「そ……そんなに……?」

 

「そんなにだとも!ただでさえ、今日はもう何度か神聖術を使っているのだ!せめて中級の攻撃神聖術一発を撃てる程度の力が無ければ……うむむ……!」

 

 石化の術しか使えない魔術師と、回復術しか使えない状態の私、そして盾役のリガスでは火力が足りない。

 やはりリガスに狂化してもらうしか……

 

「ぐぬぬ……せめて回復の泉が残っていればまだ……」

 

「回復の泉……私が寄ったあの泉の水があれ……ば…………あっ!」

 

 と、トゥーラは何かを思い出したような様子で、パンと手を叩くと、腰にぶら下げていたポーチをガサゴソと漁りだした。

 

「あの……カミラちゃん……こ、これ……えへ……」

 

「それは……ふふ、ははは!でかした!トゥーラ!行くぞ、バジリスクを倒しに!」

 

「はい!」

 

 言うと、私達は急いでバジリスクの通った跡を辿って駆け出すのだった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 バジリスクの眼が赤く輝き、俺は必死にそれを直視しないように盾を構える。

 とはいえ、幾度かの邪眼の輝きを受けているうちに、盾を構えた左手は徐々に石化が進んでいっていた。

 まだ両脚が石化されていないのは幸いだけど、果たしてどれだけ持つか……

 と、じりじりとバジリスクの間合いを避けるように後退していると、ぼちゃん、と音を立てて、右足が水中へと突っ込んだ。

 

「く……!」

 

 挑発しながら逃げているうちに、また例の沼地まで戻ってきてしまったらしい。

 流石に沼地に入ってしまっては逃げ切ることは難しいだろう。

 俺もこのあたりで年貢の納め時なのかもしれない。

 せめてカミラさん達が無事に逃げ切れていればいいが――いや、それは無いか。

 

「リガース!!」

 

 と、森の方からカミラさんと、トゥーラさんがこちらへ駆けるのが見えた。

 ほら見ろ、やっぱりだ。

 態勢を整えたなら、カミラさんはバジリスクを倒そうと向かってくるに決まっている!

 仕方ないなと呆れながらも、どこか心強い感覚を味わっていると、カミラさんが叫んだ。

 

「リガス!何も聞かずに沼の方に全力で逃げこめ!いいな!」

 

「沼に!?」

 

 不意に聞こえた言葉に、思わず驚いて背後に広がる沼地をチラリと見る。

 沼地はそれなりに水かさもある。

 入り込めばすぐさま、俺の胸ぐらいまでは水に沈むだろう。

 加えて、足元には重く、粘土質な泥が溜まっている。

 そんな沼地に逃げ込むなど自殺行為だ……が!

 

「わかったカミラさん!お前もこっちに来いバジリスク!」

 

 言うと、俺はカミラさん達に注意が行かないように、とうに石と化した盾を剣の柄でガンガンと打ち鳴らし、バジリスクを挑発する。

 背後のカミラさん達に、少し苛立つ素振りを見せていたバジリスクも、この音に反応してこちらに向き直ると、俺はそれを確認して、派手な水音を立てながら沼に飛び込む。

 カミラさんがああ言うんだ。きっと何か作戦がある筈だ。俺が彼女を信じなくてどうするんだ!

 ばしゃばしゃと飛沫を上げ、半ば泳ぐようにして急いで沼地を進んでいく。

 チラリとバジリスクを見ると、心なしかニヤリと口を歪めながら、水に飛び込み、猛烈なスピードで体をくねらせこちらに迫る。

 あっという間に俺の眼前まで迫ったバジリスクは、水中からゆっくりと鎌首をもたげ、眼前の俺を捕食せんと大口を開け、ぎらりと鋭い牙を覗かせた。

 

 ……本当に大丈夫だよね!?カミラさん!?

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