パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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火花

「坊主ども……見ない顔だな、見たところ駆け出し冒険者か……誰の紹介だ?」

 

 カウンターに肘をつけながら、ジロリとこちらを睨みつけ、ぶっきらぼうに話す店主。

 ヘムロック魔道具店、というのだから恐らくはこの店主がヘムロックなのだろう。

 なんとも剣呑とした雰囲気を醸し出す禿げかかった老人を前に、俺は気圧されないようになんとか踏ん張りながら、絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

「か、カミラさんっていう神官の女の子の紹介で来たんですけど……知ってます?」

 

「カミラ……は、覚えが無いな」

 

「あの、カミラさんは15歳くらいの女の子で……すごい自信満々で、よく自分を天才神官だ!って言ってます!そんな子なので、一度会ったことがあれば覚えてるんじゃないかと……」

 

「……天才神官?ふむ、そんな恥知らずなことを自称する神官は一人しか知らんが……女の子……?」

 

 それまで威圧するような態度でこちらを睨んでいた店主、ヘムロック翁は天才神官、という言葉にピクリと耳を動かすと、少し興味深そうに身を乗り出した。

 

「はい、女の子です!今日はちょっと店に入れないとか何とかで、外で待ってるんですけど……」

 

「ふむ……」

 

 言うと、ヘムロック翁はカウンターの脇の小窓を開き、身を乗り出して外を見やる。

 少しの間、外を眺めた後でまた窓を閉じると、じっと目を閉じながら、どこか呆れたような声で呟いた。

 

「…………まあ、構わんか……性癖は人それぞれだからな……」

 

「?」

 

「いや、何でも無い。それよりも……どら、魔道具を見繕ってやる。そちらのお嬢さんから来い」

 

「ふぇっ!?」

 

 と、ヘムロック翁は先程よりやや柔らかくなった態度で、俺の後ろで怯えるトゥーラさんを手招きする。

 トゥーラさんはその手招きに、ひとしきりオロオロと辺りを見渡したかと思うと、ゆっくりと俺の後ろから姿を現し、おずおずと口を開いた。

 

「ふへ……あ、あのぅ……わわ、私は付き添いで……買い物しに来たわけじゃ……」

 

「知らん。この店じゃ客に何を売るかは俺が決める」

 

 ヘムロック翁は怯えるトゥーラさんに、堂々とそう言い放つ。

 ちょっと理不尽な気もするが、こんな店を経営するような物好きな老人だ。

 良くも悪くも変わっているのだろう。

 カミラさんが人間性に難があるとか何とか言っていたのはこのせいか……いや、でもカミラさんが言えたことでもないな……

 などと考える俺を他所に、店主はカウンターの裏で何やら木箱をゴソゴソと漁り、中から透き通った一つの水晶の玉を取り出すと、丁寧にカウンターの上に置く。

 

「嬢ちゃん、これに魔力を流してみろ」

 

「ふへ……かか、噛みついたりしないですか……?」

 

「するわけねぇだろ、水晶だぞ」

 

 ヘムロック翁が呆れたように言い捨てると、トゥーラさんは無言でチラリとカウンターに置かれたぬいぐるみに目をやる。

 わかるよ。ぬいぐるみがあんなんだった以上この水晶にも安心できないよね。

 とはいえ、眼前でジッとこちらを睨みつけるヘムロック翁も怖いのだろう。

 トゥーラさんは意を決したように水晶に両手をかざし、魔力を流し込み始める。

 すると、水晶の中で突如としていくつもの火花が弾けだした。

 白――いや、灰色か?それ一色の火花が、勢いよく、小気味の良い音を立てて連続で弾け続ける。

 ヘムロック翁はそれを見ると、ほぉ、とわずかに感嘆したような声をあげた。

 

「驚いたな。嬢ちゃん、あんた――何か一つの魔術しか使えないだろう」

 

「ふぇっ!?そ、そうですけど……」

 

「普通はもうちょい色とりどりの火花が出るもんだ。これだけ単色のみってのは滅多にない。しかも魔力量は相当に多いと来た。随分ピーキーな魔術師だな」

 

 水晶の火花を見ただけでそれほどまでに分かるものか、ヘムロック翁はどこか愉快そうな様子で、つらつらと語り出した。

 先程までの憮然とした表情が嘘のようだ。

 よっぽどトゥーラさんの魔力に興味を惹かれたのだろう。

 どこか恥ずかしそうな様子で俯くトゥーラさんに、ヘムロック翁は尚も続ける。

 

「だが、魔力量が多いだけに……嬢ちゃん、あんた細かい魔力のコントロールは苦手だろう。違うかい?」

 

「へぇ……!?そそ……それも正解です……!」

 

「だろうな、ま、そこは杖が合ってないせいもある。杖にはおおまかに魔力を高め広範囲に拡散させる効果の杖と、魔力の消費を抑えて小回りが効くようにする杖がある。嬢ちゃんのは前者だ」

 

 そう語り出しながら、ヘムロック翁はカウンター脇の扉を開き、店内の片隅で乱雑に樽に突っ込まれていた杖を一本引き抜く。

 まるで白炭のように真っ白に光り輝く木で出来たその杖は、ごくごくシンプルに真っ直ぐ伸び、先端にのみ二匹の蛇が互いに天を睨むようにして絡み合う銀の装飾が施されている。

 

「ほれ、持ってみろ」

 

「わた……たっ……!?」

 

 ヘムロック翁がその杖を雑にトゥーラさんに放り投げると、なんとかトゥーラさんもそれを受け取る。

 すると――俺にはわからないが、明らかに何かが違ったらしい。

 トゥーラさんが驚いたように目を見開き、蛇の装飾を見つめると、杖の握り心地を確かめるかのように何度か手に力を入れ、グッと握る。

 

「これ……えっ……す、すごいですよ、リガスさん!な、なんでしょう……何もしてないのに杖が導いてくれる感じというか、魔力が循環する感じというか……」

 

「そういう杖だ。特殊な効果があるわけじゃあないが……出来は良い」

 

「はあ……凄い……これ、おいくらに……」

 

「銀貨40枚ってとこだな」

 

「よんじゅっ……」

 

 銀貨40枚。

 大体庶民の生活一月分の金額である。

 この間のバジリスク討伐でボーナスを貰えたとはいえ――その金も精々銀貨10枚程度だ。

 駆け出し冒険者の俺達にとっては正直なところ、大分高い。

 いくら良い杖とはいえ、俺達が持つにはまだ少しハードルが高いような気も……などと考える俺を他所に、トゥーラさんは即座に気持ちよく言い放つ。

 

「買います!」

 

「ほう、銀貨は?」

 

「えと、その、大丈夫です!溜めてた分と合わせてギリギリあった筈なので……後で取りに来るので、取り置きできますか……!?」

 

「いいぜ。まいどあり、嬢ちゃん」

 

 そう言ってトゥーラさんから杖を受け取ると、ヘムロック翁はカウンターに置かれた木の札にサラサラと取り置き品の文字を書き、カウンターの裏に杖を仕舞った。

 トゥーラさんだって駆け出し冒険者だ。銀貨40枚は相当な出費だろう。

 それを迷いなく支払えると言えるほどの品だとは……

 そう思っていると、顔に滲み出ていたのだろうか、ヘムロック翁が俺を指差し、釘を刺すように言う。

 

「言っておくが坊主、高くて良い品だから合うってわけじゃないぞ。この嬢ちゃんのクセと魔力に合う杖があの杖だった。それだけだ」

 

「……店主さんは、それを見分けられると?」

 

「それが仕事だからな。坊主もとっとと水晶に魔力を流せ」

 

「いや、俺は戦士というか剣士というか……別に魔術師じゃ……」

 

「魔術師じゃなくても魔力にはそいつの才能と潜在能力が秘められてる。魔力の込め方がわからんなら何となく手に力を込めて念じるだけでも良い」

 

 そう言われても……と、少し困るところだったが、隣で未だ興奮した様子で急かすトゥーラさんと、店主の眼力に気圧され、渋々ながら水晶に手をかざす。

 魔力を流す……といっても魔術なんか使ったことは無いので、言われた通りに、何となく手に力を込めて念じる。

 すると――驚くべきことに、ちゃんと火花が出た。

 出た、が……

 

「……赤黒い……火?」

 

 先程のトゥーラさんの火花とは違い、水晶の中には血のように濃く、赤黒い火がゆらゆらと静かに揺れていた。

 ヘムロック翁はこれまた驚いたように目を見開くと、じっとその火を眺める。

 やがて、もういい、と言う風に手を振ると、老人はようやく口を開いた。

 

「坊主、ちょっとその背負ってる剣と盾を構えてみろ」

 

「えっ、はい、こんな感じで……」

 

 いつも通り、俺が剣と盾を構え、魔物と対する時のように立つと、ヘムロック翁はそれをしげしげと観察しながら、何か考え込むかのように顎を撫でると、再度もういい、という風に手を振る。。

 

「なるほどな……坊主、お前に向いてるのは……アレだな、ここの……」

 

 俺が構えを解いたのを見ると、ヘムロック翁はまたも店内の雑多に武器が突っ込まれた樽へと向かい、ゴソゴソと様々な武器を取り出す。

 さっきはトゥーラさんの杖の銀貨40枚という値段に思わず驚いてしまったが、やっぱり自分の新しい武器を選んでもらえると思うと少し心が沸き立つものを感じる。

 ヘムロック翁は、俺に一体どんな武器を取り出してみせるのだろう。

 ……出来ればジョーさんみたいなカッコいい魔剣が良いな!

 ブラッディーストライクではカッコいい魔剣は沢山あったが、今一つしっくり来る魔剣が無かった。

 それさえあれば、俺はもうとっくに魔剣を買い求めていただろう。

 ああ、でも盾でも良いかもしれない。

 強力な大盾でもあれば確実にカミラさん達を守ることが出来るし、俺自体もダメージを受けて暴走しなくても済む。

 そんなことを考える俺に、ヘムロック翁はやはりぶっきらぼうに、一つの武器を取り出し、カウンターに戻る。

 

「坊主に一番合う武器は、こいつだ。」

 

 老人はそう言いながら、カウンターの上に、『爪』を置いた。

 

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