パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
迷宮内の安全地帯になり得る回復の泉の近辺には、自然と人が集まる。
ましてや迷宮二階層からは日帰りで探索することが難しくなってくるため、自然と皆、そこにキャンプを張ることになるのだ。
そんなわけで今、この広間にはいくつかのパーティがテントを張り、飯を炊き、さながら戦の陣中のような有様を見せていた。
そんな人々を眺めながら、パンと干し肉を手にしたリガスが不思議そうな表情で問いかける。
「人が増えてきたね、迷宮二層ってこれくらいが普通なのかな?」
「二層までならまだ宝を持って安全に帰ることのできる距離だからね、通常の冒険者であれば、この第二層に現れる宝を地上で売るだけでもそれなりに生活できるだろうさ」
「ふへぇ……宝物塔の名は伊達じゃないんですねぇ……」
「ああ、迷宮はどこでもそうだが……この第二層にもどこからか宝が湧きだしてくることがある。しかも、他の階層よりもその頻度と数が多いのだ!故に宝物塔!」
迷宮では、それまで何も無かった道でも、不思議なことに宝箱が突然ポツンと現れることがある。
第二階層ではその宝箱の現れる頻度が多い……というより、単純に森の木々で入り組んでいる第一層よりもその宝が見つけやすい、という部分もあるだろう。
更に第三階層以降は危険度が増すし、帰路が長ければ長い程、貴重な品を沢山持って帰還することは困難になる。
よって、普通の冒険者であれば第二階層で宝を漁るのが鉄板なのだ。
ま、それでも当然危険はあるので、広場にキャンプを張ったまま戻ってこないパーティというのも存在するのだが……ま、私達はそうはなるまい!天才だしな!
と、改めて私は、広間の石造りの床の上に、二枚の紙を広げる。
一枚はギルドの依頼書。もう一枚は迷宮の地図だ。
地図の四隅をそのへんの石で固定すると、私は干し肉を噛むリガスとトゥーラに、言い聞かせるように話し始める。
「さて、改めて依頼の確認だ!今回の依頼は……メタルスケルトンの素材納品!」
「メタルスケルトンか……見つけること自体が難しい魔物だって聞いてるけど……」
「ふふん、その通り!だが、だからこそ良い!」
メタルスケルトン、迷宮第二層に出現するスケルトンの亜種であり、全身がさながら鋼の如く輝く突然変異でもある。
迷宮に満ちる魔力を殊更に多く吸収した魔物は、これに限らず、魔力の影響を受けて全身が金・銀・鋼や宝石の如く輝くようになることが多い。
そうして、そうなった希少な亜種達に共通して言えることは――倒せば高く売れて、更にレベル上げにも最適!ということだ!
迷宮では魔物を倒すことで、その魔物の持つ魔力を吸収し、自身の筋力・体力・器用さなどのステータスを高めることが出来る。
希少種は、その吸収できる魔力の効率が良いのだ。
潤沢な魔力を蓄えたそれは、確かに通常のスケルトンよりは強いのだが、迷宮各所に潜む主――いわゆるボスモンスター程に強いというわけでもない。
言ってしまえば雑魚同然!
「ふっふっふ、更に――私はそのメタルスケルトンの湧きやすい場所を知っているのだ!天才だからな!」
言いながら、私は地図に記された一箇所を指差す。
迷宮第二層はそれなりに人が多く入るのと、わかりやすい通路や広間の存在によってマッピングがしやすく、それなりに地図が普及しているのだ。
……最も、迷宮の組み換えなどの不確定要素もあるので、手放しに信用していいものでもないが、まあ、前にジョー達と行った時はちゃんとメタルスケルトンがいたし、大丈夫だろう。
「ともあれ、これこそ資金稼ぎとレベル上げを兼ねた一石二鳥の天才作戦!どうだい!?褒めてくれても良いんだよ!?」
「えっ……あ……はい!か、カミラちゃん、凄いです!」
「俺もちょっと不安はあるけど、良い計画だと思うよ、しっかり調べてくれてありがとう」
「ははははは!よせやい、よせやい!照れるじゃないか!ふふ、この私が天才だなんて!そんなわかりきったこと!」
っはー!それほどに褒められると照れる!照れるなー!
と、私が上機嫌になりながらパンを口にしていると、不意に背後から誰かに声をかけられた。
「そこの神官ちゃん、元気そうだな、もう石化は大丈夫なのか?」
「ん?なんだ、誰……ああ、なんだロフトか」
振り向くと、そこにいたのはジョーとパーティを組む小柄な斥候――ロフトだった。
私がなんだ、と、溜息を突くのに対し、リガスが慌てたように頭を下げる。
「ロフトさん!先日のバジリスクの時は、ありがとうございました!今日はジョーさんは?」
「今日は俺だけだよ。あの件でまだ迷宮が荒れてるみたいでさ、斥候だけでちょこちょこ調査して来いってことさ」
「はっ、なんだなんだ!?ジョーの奴は怖気づいたか!?っは~!やれやれだなぁ!斥候一人だけ行かせるとかなぁ!」
「……こないだは石化してたから気付かなかったけど、この子、こんなにうるさかったんだな」
「すいません、うちの神官が」
言いながら、リガスが頭を下げる。
おいおい、確かに相手はジョーよりは頭が良いとはいえ、たかが斥候だぞ。大袈裟じゃないかリガス。
と、いうか……そうか、私はロフトのことを知っているが、ロフトは私をバジリスクの石化から治したのが初対面……と思っているのか。
……万が一にでも、私の正体がバレたら厄介だな……ジョーはアホだから大丈夫だったかもしれないが、ロフトはそれよりもちょっと頭が良い。
ましてや、この首飾りを私にくれたのはロフトだ。
見られたら一発でバレる……とは言わないまでも、答えに辿り着くことはあるかもしれない。
私は慌てて外套で胸元を隠しながら、ごほん、と咳払いをして、なるべく平然とした態度でロフトに問いかける。
「それで……迷宮が荒れてる、とか言ってたが、具体的にはどういうことだい?」
「あ~……嘘か本当かまだ分かんないからアレなんだけど……噂だと最近、この階層に悪魔が出るらしくってさ」
「悪魔……ですか?」
悪魔――いわゆる魔族と呼ばれるものの一種であり、魔物とはまた別の存在だ。
システム的に迷宮で生み出され、自我も持たずに人を襲う魔物とは違い、魔族は迷宮の外で産まれ、それぞれの種族ごとに独自の文化と文明を築いている。
鬼と呼ばれる魔族はひたすらに強者との戦いを好むし、吸血鬼と呼ばれる種は、人の街に紛れ込むことすらある。ダークエルフは自身の森に引きこもり、余程のことが無ければ外には出ない。
その中にあって、悪魔と呼ばれる種族は、殊更に人間への反感が強いものとされている。
ずる賢く、凶悪な悪魔という種は、過去にはとある人間の王国の宰相にまで成り上がり、誰にも気付かれないうちに国を衰退させ、滅ぼしたという。
「――そんな悪魔が本当に迷宮にいるとしたら、それはそれで問題だ。っていうことで、調査するように頼まれたんだよ。俺一人だけなのは、斥候一人の方がこの手の仕事はさっさと終わるから」
「はっ、ジョーは相変わらずお人よしだな!そんな依頼をこなす間に迷宮深部まで潜れるだろうに!」
「本当にな……頼まれたら断れないんだよ、あいつ。それが良いところでもあるんだけど……とにかく、他のパーティにも注意喚起はしておくけど、お前達も気をつけろよ?悪魔の仕業かどうかはともかく、二階層から戻ってこないパーティは既にいくつも出てるんだ」
「ははは、誰に言っているのだロフト!私は天才神官、カミラ様だぞ!ふふん!悪魔だろうが何だろうが、楽勝だとも!」
「……天才神官様、ねぇ?」
と、ロフトは少し怪訝そうな表情を浮かべたものの、特にそれ以上、何も言わずに去っていった。
なんだ?天才が天才と名乗るのが不満なのだろうか?
ふふ、まあ、ロフトは凡人だからな、私の天才ぶりが羨ましいのかもしれない。
やれやれ、妬まれる側というのも大変だな!
「ともあれ――今の私達に大切なのは、悪魔なんかよりもメタルスケルトンだ!飯を食べたら出発するぞ!」
「だ……大丈夫ですかね……?」
「ふふん、大丈夫さ!私が低俗なスケルトン如きに遅れなど取るわけが無いだろう!」
と、そこはかとなく怯えた様子のトゥーラを激励しながら、私はパンをちぎって口に運ぶのだった。