パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
「さて……食事も取ったし、装備も大丈夫、神へのお祈りも済ませて準備万端だ!」
「俺も準備できてるよ。トゥーラさんは?」
「あっ、わ、私も大丈夫です!へへ……」
二人はそう言うと、必要最低限の回復薬や食料などが入った背嚢を背負う。
今回の目的はあくまでメタルスケルトンの討伐のみなので、必要以上の食料や代えの装備などはキャンプに置いていく。
冒険者の間では、基本的にこういったキャンプに置かれた物を漁るのは御法度だ。
迷宮内で死んだであろう冒険者の遺品や、いつまで経っても戻ってこない冒険者の荷物ならばともかく、建てられたばかりのキャンプから物を漁る奴は滅多にいない。
ま、いたとしても、正直そこまで貴重な物は置いていかないのが普通なので、然程の問題があるわけでも無いのだが……
ましてや、広間には見たところ、まだ数組のパーティが残っている。
どうやらヌンのパーティも含め、連中は私達とは違い、腰を据えてじっくり迷宮の探索を行うつもりのようで、腰を降ろしてゆっくりと温かいスープをすすっているところもある。
これだけ人数がいる中で、他のパーティの荷物を漁る馬鹿もいないだろう。
良し、と、準備が整ったことを確認し、広間から通路へと進む私たちの背中から、くぐもった女性の声が響いた。
「やや、出発ですかな!?頑張ってください!ご武運を!」
「貴様らもな、女神ギアナの加護があらんことを!」
声をかけてきたのは鎧女のヌンだ。
返答を返すと、他の冒険者たちも口々に激励の言葉を述べながら手を振って送り出す。
ふふん、こうして一般凡夫達に送り出される、というのも悪くない!
ま、こうして他の冒険者を激励するのも、別に期待されてるとかではなく、単に冒険者としてのマナーや心構えのようなものなのだが。
「ふへぇ……こ、こうして送り出されると、頑張らなきゃって思いますね……」
「だね、迷宮一層までの間じゃこういう拠点も無かったし、みんなギルドで依頼受けてその日のうちに帰ってって感じだもん」
「私はそれはそれで後腐れが無くて好みだがな!ともあれ、気を引き締めて進むぞ!」
と、私は気が緩んだ様子の二人にピシャリと言ってのける。
頑張るのは良いが、応援されただけで頑張った気になられるのも困るのだ。
幸い、真面目な二人は私の激にすぐさま気持ちを切り替えると、入り組んだ迷宮の通路を警戒しながら、けれどもそれなりにスムーズなペースで進んでいく。
道中に出るゾンビやスケルトンは例によって私の敵ではなく、たまに現れる大蝙蝠や大トカゲもトゥーラの魔術で石化させ、邪魔な場合は私のモーニングスターとリガスの爪で砕いていく。
爪が有効な魔物が少ないとはいえ、最早単なる掘削機と化しているな、こいつの爪。
まあ、私が言うまでも無く、この状況に一番焦りを感じているのは本人だろうが、そこは流石と言うべきか、リガスは腐った様子などを見せること無く、落ち着いて最前に構え、警戒しながら迷宮を進む。
ま、この間まで盾を持って肉壁をこなしていたのだ。
最悪、攻撃が出来ずとも味方の盾になるだけで役に立つことを理解しているのだろう。
そんなことを考えながら、道中の魔物を蹴散らして進んでいると、私達は一つの部屋に行きついた。
「ここは……行き止まりかな?」
「あ……あれ?カミラちゃん、道間違えちゃったんです……?」
先程の広間とは違い、こじんまりとした一室には、古ぼけた本棚が壁際に置かれ、ボロボロの樽が転がるのみで、見た感じは単なる打ち捨てられた廃墟にしか見えない。
が――ふふふ、愚か~!
これだから目に見えるものでしか判断できない新米冒険者は!やれやれ!ここは私の天才たる知識を見せつけてやるか!
と、私は堂々と室内に入り、振り向くと、これでもかというほど自慢げな顔を浮かべ、リガス達に言う。
「ふふふ、間違っていないとも!さあ、見ろ!そして褒めろ私を!ここの本棚の裏の……この壁に……これだ!」
本棚の裏、わずかに盛り上がった壁のレンガを押すと、ガコン、と何かが動くような音がして、部屋の壁の一部が上に持ちあがる。
突如として現れたもう一つの出入り口の先に続くのは、塔の下の階へと通じる階段だ。
暗く、湿ったその階段の下を覗き込もうと目を凝らしても、暗闇が広がるばかりで、数メートル先がどうなっているのかすら分からない。
そんな階段を覗き込みながら、リガスが感心したかのように唸り、呟く。
「こんなところに隠し階段が……全然気付かなかった……」
「私もです……凄いですね、カミラさん!」
「だろ~~~~!?ふはははは!もっと褒めても構わんのだぞ!」
「うん、凄いよ!だってカミラさんも第二層に潜るのってはじめてだよね?こんなとこどうやって知ったの?」
「……それはまあ……ええい、いいだろう、そんなことは!さっさと行くぞ!」
こいつ、何とも答えづらいところを突いてくる。素直に私を褒め称えるだけで良いというのに!
元々は最初にジョー達と第二層に潜った時に、壁の仕掛けに気付いたロフトが見つけたものだからな、それを言うのは私の正体的にも評価的にも憚られるというものだ。
まあ、だが仲間の手柄も私の天才的リーダーシップがあってこそ……つまり、仲間の手柄も私の手柄のようなものだ!うん、自慢気に語って何の問題があろう!
と、いうことで、心の中でロフトに感謝をしつつ、この階層の細かな仕掛けは積極的に使わせてもらおう。
私はそう考えながらも呪文を唱えると、構えたメイスの先に、優しく光が灯った。
初級の神聖術である、ヒーリングトーチだ。
この光の周囲にいると、少しずつではあるが、体力が徐々に回復する。
ついでにアンデッドへの多少の攻撃力もある。焚いておけば不意打ち程度は防げるだろう。
私はそんなヒーリングトーチによって光を放つメイスを松明のようにして掲げると、暗闇へと通じる階段を下っていく。
足元に注意しながら、ゆっくりと歩みを進める私の背後から、トゥーラの怯えたような声が響いた。
「ふぇぇ……く、暗いですね……この階段ってどこに通じてるんです……?」
「ふふん、聞いて驚くがいい!なんと塔の中に隠し墓地のようなものがあってな、そこの通じているのだ!」
「墓地ってことは……今までのとこよりもアンデッドがもっと出るってこと?」
「無論さ、だが安心しろ!天才神官の私がついているのだからな!アンデッド程度、何匹いたとて物の数ではないね!」
私はそう言うと、怯えて私の肩を掴むトゥーラを無視して歩みを進める。
どうやら震えているようで、恐怖からか、僅かにあわわと呻く声も聞こえる。
この階段では後ろを振り向けないので顔は分からないが、ひょっとしたら怯えて涙目になっているかもしれない。
やれやれ、情けない魔女だ!
私はそんなトゥーラを宥めるように、落ち着いて言う。
「落ち着けトゥーラ、その墓地は魔力が集まるところのようだから、より強い魔物が出やすい!つまりメタルスケルトンも他のところよりも全然出やすいのだ!討伐してすぐ帰れるさ!」
「そそ……それって、他の魔物も強いのが出やすいってことじゃないですか……?」
「……そうとも言うが、まあ、なに、出たところで精々が骸骨剣士とかデュラハンとかだ!私に任せてドンと……」
と、言いながらも進んでいると、階段が終わり、下の階層の通路へと辿り着いたようだ。
上の階層よりも少し広々とした通路の壁と天井はアーチ状に曲線を描き、暗く光の差さないことも相まって、さながら地下の下水道を思わせる。
そんな通路に辿り着いた私が、トゥーラ達を先導しようと振り返るよりも早く――音も無く、ヒーリングトーチで照らされた大きな影が踊り出た。
「え」
私が呆気に取られている間にも、その影は勢いよく、手にした大剣を振りかぶり――そのまま私の頭目掛け振り下ろす。
が、激しく風を切りながら振り下ろされた大剣は、私の頭をかち割るより先に、白く輝く鋼に当たり、キンと甲高い音を立てて止まる。
私と影――大剣を持ち、鎧を着こんだスケルトン、いわゆる骸骨剣士との間に潜り込んだのはリガスだ。
爪の甲で大剣の一撃を防いだリガスは、そのまま骸骨剣士の剣を弾くと、爪の連撃を繰り出し、骸骨剣士もそれを防ぐべく剣を振り回すと、剣と爪がぶつかり合う甲高い金属音が何度か響いた後、骸骨剣士は素早く背後に飛び退き、暗闇の中に身を隠す。
リガスは尚もその暗闇を睨みながら、背後で腰を抜かす私に声を掛けた。
「カミラさん、大丈夫!?」
「あ、ああ、当ったり前だろう!わ、私を誰だと思ってる!」
正直死ぬかと思った。
急に出てくるのは反則じゃないか!?
なんだ!?この魔物には王道というものが分からないのか!?
くそっ!この私がこんなに無様な姿を晒すとは!
こんな姿を見せ続けてなるものかと、慌てて私が立ちあがると、またも暗闇から骸骨剣士が飛び出し、今度はリガスに襲い掛かる。
すんでのところで骸骨剣士の剣戟を躱したリガスだが、反撃の爪を伸ばす前に骸骨剣士はまた大きく飛び退き、闇に消える。
リガスが手強いと踏んでヒット&アウェイに切り替えたか。魔物のくせに知恵の回る奴。
このままの攻撃を食らい続けていたら、そのうちリガスが致命の一撃を受けてもおかしくはないが――と、再び骸骨剣士が飛び出し、今度はリガスに大剣での連撃を繰り出す。
防戦一方のリガスに向け更に大剣の一撃を繰り出そうとした骸骨剣士だったが――
「――ブレイク!」
私の傍らでトゥーラが呪文を唱えると、骸骨剣士が勢いよく振り下ろした剣がリガスの爪とぶつかり、粉みじんに砕け散った。
見ると、骸骨剣士の持つ大剣がいつの間にか石へと変わり、ぼろぼろと砕け始めている。
どこか困惑したかのような様子で自らの持つ剣の、残った持ち手を見る骸骨剣士だったが、不利を悟ったか、性懲りも無く後ろに飛び退く。
が……馬鹿め!骸骨剣士が後ろに飛び退いたタイミングで、今度は私が術を唱える。
「ブレス!」
瞬間、まばゆい光が通路を照らし、光に照らされた骸骨剣士はその場で苦しむかのようによろめく。
当然、その隙をうちのアタッカーが逃すはずもない。
リガスはよろめく骸骨剣士の体に素早く両手の爪を突き出し、肋骨の隙間に刃を差し込むと、そのまま捩じるようにして、骸骨剣士の骨を両断した。
要となる背骨を断ち切られた骸骨剣士は、最早立ち上がることも出来ず、しばらくは頭蓋骨だけがカタカタと音を立てて動いていたが――やがて、魂が抜け落ちたかのように静かになった。
ようやく落ち着いた私達は、無言でヒーリングトーチの元に集まると、互いに顔を向かい合わせて頷く。
「――――な?どうにかなっただろう?」
「正気ですかカミラさん」
そう冷たく言い放つトゥーラの言葉が突き刺さった。
いや、大丈夫、次は油断しないから!だって私は天才だぞ!な!大丈夫だ!大丈夫だって!