パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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悪魔

 頭上から響くトゥーラの甲高い声で目が覚める。

 っは~、なんだなんだ、朝っぱらからやかましい奴め。

 もう少し寝かせてくれていたって良いじゃないか、私は昨日は攻撃に回復にと三面六臂の大活躍を……

 昨夜のぼんやりした記憶を思い返しながら、ごろりと寝転ぶと、瞬間、私の眼前に槍の穂先が突き刺さった。

 まだ夢でも見ているのかと思った私だったが、テントの中に響く石を叩き、削るかのような音に、何か異常が起きたことを勘付き、慌てて飛び起きる。

 

「な、なんだなんだ!?どうしたトゥーラ!?」

 

「わ、わかりません……他の冒険者の人達が……!」

 

「はぁ!?おいおい何だい貴様ら!私達の成果を妬む気持ちはわかるが、他の冒険者を襲うのはご法度だとわかっ……あぁお!?」

 

 私が声を上げると、石と化したテントの隙間からねじ込まれた剣先が、私目掛けて突き出された。

 恐らくはトゥーラがやったのだろう、硬い石となり攻撃を防ぐテントだったが、元々がそこまで良い品ではない、ところどころ開いた穴や継ぎ目からいくつか穂先が突き出される。

 それを避けるようにテントの中央に密接している私達の背後から、もう既に起きていたらしいリガスの声が聞こえた。

 

「どうする?カミラさん!?」

 

「愚問だな、このままここで相手をするわけにもいかないだろうさ!トゥーラ!」

 

「は、はい!」

 

 私の言葉を聞いて、トゥーラがテントの入口付近の石化を解除する。

 それにリガスも頷くと、爪で頭を守るようにしてすぐさまテントの外へ飛び出した。

 予想通り、テントの外では冒険者が待ち受けていたが、リガスは構うことなく冒険者に体当たりをかまし、私達もその間に慌てて外に転び出る。

 チラリと見ると、確かに、数パーティ分の冒険者達が私達のテントを囲い込み、攻撃を加えていたようだ。

 ゆっくりとこちらを振り向く彼らから逃げるように、私達は慌てて広間の中央、噴水の影へと隠れる。

 

「はあ……ど、どうしたんでしょう……あの人達……」

 

「さてね、見たところ、何らの原因で正気を失っている……いや、操られているのか?状態異常の類ながら私がキュアを唱えれば治るかもしれんが、近づかないといけないしな……」

 

 と、私達が話す間にも、冒険者達はじりじりと迫ってくる。

 正気を失っている故だろうか、急いでこちらに詰めてこないのは救いだが、どのみち相手は大人数だ。このままではまた囲まれるのも時間の問題だろう。

 それに気付いたのか、リガスが少し焦ったように私に言う。

 

「どうする?カミラさん?俺がまた突っ込んで相手のヘイトを……」

 

「はっ、馬鹿を言うじゃないかリガス、今度の相手は人間だぞ?アンデッド達の時のように、ブレスをかけたところで何の効果もあるまいさ!それより……」

 

 ちらり、と私は隣で震えるトゥーラに目を向ける。

 

「今度の相手はメタルスケルトンとは違って……石化が効く!だろう!?トゥーラ!」

 

「……は、はい!やります!」

 

 私の言葉にトゥーラが頷くと、それを合図に私達は噴水の影から飛び出した。

 その姿を視認すると、冒険者達もそれぞれ私達に向かって襲い掛かるべく、歩みを進める。

 だが……ふふん、やはりな!歩調がバラバラだ!

 普通、冒険者が敵との距離を詰める時というのは、それぞれ適切な距離を取り、カバーできるように動く。

 が、今回の相手はそういう風には動けていない。

 斥候は先に、戦士は後ろから、ただ一直線に進んでくるだけだ。

 思わず笑みをこぼしながらも、私は隣のトゥーラに合図を送る。

 

「今だトゥーラ!」

 

「はい!ブレイク!」

 

 トゥーラが呪文を唱えると、敵の戦闘を走っていた斥候二名が何かに躓いたように、勢いよくすっ転ぶ。

 まず足だけを石化され、転んだ斥候が起き上がろうとしたところで――もう一度、今度は全身が石化した。

 これで困るのは相手の後衛――というより、斥候の後ろから詰めて来ていた連中だ。

 眼前ですっ転び、石化した斥候が邪魔をして、思わぬ形で動きを封じる。

 その間に私達はまた距離を取る。

 石像を乗り越えて連中が攻めてきたところで、次も同じことをするだけだ。

 通常の状態ならこいつらもこの程度の戦法に引っ掛かりはしないのだろうが……

 

「ふふ、誰が黒幕だか知らないが……愚かであることは間違いないな!戦闘のせの字も知らないと見える!ははは!ひょっとして今までパーティを組んだことの無い孤独なぼっちかな!?」

 

「カミラさん、相手を煽るのは良いけど、警戒緩めないでね!」

 

「はっ!リガス、私を誰だと思っているんだい!?わかっているさ!この私がそうそう油断――」

 

 ぐらり。

 瞬間、世界が揺れて、思わず私はその場にへたり込む。

 ……何だ?何が起こった?混乱しながらも、私がまた立ち上がると、隣のトゥーラが不安気に口を開いた。

 

「か、カミラさん!?だ、大丈夫ですか!?」

 

「ん……あ、ああ、大丈夫だ。はは、どうやら体に疲れが――っつ!」

 

 ずきり、と、今度は刺すような痛みが私の頭の奥底に響いた。

 何だ、この痛みは?

 頭を抱える私に、今度はリガスの方が慌てて声を掛ける。

 

「カミラさん、どうしたの!?大丈夫!?」

 

「あ、ああ、大丈夫だ、大丈夫だとも、大丈夫だから――早く、私のこの身を、あの方に――」

 

 そうだ、私はその為にこの迷宮に……いや、待て、待て、あの方って誰だ!?くそ、私の頭に知らない何かが流れ込んでくる!

 知らない声が私の頭に響く。

 その甘美な声が響くと、何故だかそうしないといけない気がしてきてしまう。

 言うことを聞きたくなってきてしまう。

 私が私で考えられなくなってしまう。

 私は、何を――

 

「――――っ!キュア!」

 

 すんでのところで状態異常解除の神聖術を唱えると、瞬間、頭がパアッと晴れ渡る。

 危ない。あれは精神汚染の類の何か、闇の魔術の何かだ。

 心配そうにこちらを見るリガス達に手を振ると、私は眼前の空間に叫ぶ。

 

「はっ!馬鹿め!あの程度のもので――この天才神官カミラ様が操り人形にされるとでも思ったか!?誰だか知らんが、そこに控える奴は余程に間抜けな奴と見える!」

 

「間抜けとは……随分なことを言ってくれるじゃないか、お嬢さん」

 

 これだけ強力な精神汚染を遠距離から仕掛けてくるのは不可能だ。

 恐らく、術者は近くに潜んでこちらを見ている。

 そう判断し、挑発する私に答えた声はしかし――私の背後から聞こえてきた。

 思わず振り向いた私の眼前に立っていた男――見覚えがある、あの趣味の悪い武具店、ブラッディーストライクの店長だ。

 その店長は困惑する私の腰に手をやり、何ともなしに顔を近づける。

 

「っ、ブレイク!」

 

 瞬間、トゥーラの石化の呪文が広間に響くが、驚くことに、術が発動するよりも早く、店長は私を掴んだまま大きく跳んだ。

 

「なっ……こいつ……!」

 

「また会ったね、と言うべきかな?お嬢さん、私の名は悪魔ミキシン、覚えておいてくれたまえ」

 

 悪魔ミキシン、そう名乗った男は、私の体を力強く押さえつけたまま、リガス達から距離を取ると、私の顎をくいと上げ、じっと瞳を見つめてくる。

 

「いやはや、その装備をしてくれているんだ。あの冒険者の連中と同じく、アッサリ支配できるものだと思ったが――抵抗するとは、やるじゃあないか」 

 

「は、貴様の腕が三流なだけだろう……っ!」

 

 ミキシンが間近からじっと私を見つめながら、さらりと私の腰を撫でると、思わず私はびくりと体を跳ね上げる。

 さっきとは違う、直接的に、こいつの魔力が私の体――いや違う、この装備だ。

 身に着けた服から自分の魔力を送り込み、私の体がこいつの術に包まれ、支配されていくのがわかる。

 

「こいっ……貴様……この為に……店で……!」

 

「おや、自称天才神官様にしては気付くのが遅いんじゃないかな?君には――いや、その首飾りには、店で会った時から目を付けていたというのに」

 

 クソッ!油断した!

 あの操られている冒険者も、私も、こいつの店の装備を身に着けている!

 呪いとはいかないまでも、こいつは自分の魔力を装備の一部に織り込み、いつでも装着者を操れるようにしていたのだ!

 しかし、首飾り、首飾りだと?この呪いの?

 何故だ、この首飾りにどんな意味がある?

 何故こいつはそんな手を使って街に潜入していたんだ?

 何故、悪魔が、迷宮に?

 何故――――

 

 ――――そんな疑問に答えが出るよりも早く、ぷつりと音を立てて、私の意識は私の物では無くなった。

 

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