パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
突如として現れた店長――悪魔ミキシンと名乗った男は、俺の目の前でカミラさんの細い腰を指でなぞる。
何らかの術を食らってしまったのだろう、カミラさんはぐったりと力無く、ミキシンに体を預けてしまっている。
「フフフ……これが……なるほど、確かに……素晴らしい……!」
言いながら、ミキシンはカミラさんの胸元に手をやり、首飾りを弄ると、それを見て俺の心に何とも言えない不快感が湧き上がる。
あいつに、あんな奴に、カミラさんを渡してはいけない。
俺があんな店を紹介しなければ……思い返せば、あそこの店自体が外壁に奇妙な装飾が施されていた。
きっと、客を引き込むためだったり、人の正常な思考を奪う類の魔術や呪いもかけていたのだろう。
俺は、それに気付けなかった、素直に装備がスゴいと浮かれてしまった。
これは俺の責任だ。
後悔と怒りに唇を噛みながら、俺はミキシンに怒鳴り、踏み込むべく足に力を入れる。
「カミラさんから手を放せ、悪魔!」
「おっと、失礼、君達もいたんだったね……ま、だが私が用があるのはこの子だけだ」
俺の言葉に対し、つまらなさそうな視線をチラリと向けると、ミキシンはパチンと指を鳴らす。
と、先程まで俺達に襲い掛かってきていた冒険者達が一斉に駆け出し、素早い動きでミキシンとの間に立ちはだかる。
「さ、その哀れな少年達を磨り潰してくれ、我が人形達」
もう一度ミキシンがパチンと指を鳴らすと、冒険者達が勢いよく俺達に飛びかかる。
「――ブレイク!」
と、襲い来る冒険者達に向けて、咄嗟に隣のトゥーラさんが呪文を放った。
先程と同じように、最前列の冒険者の何名かが石となり、それが後方から迫る冒険者の進撃を防ぐ。
ミキシンはそれを見ると、おや、と、ほんの少し興味深そうな表情を浮かべて顎を撫でる。
「なるほど、なるほど、そういえば君は石化の魔術を使うんだったね……ふふふ、それでは……折角だ、お嬢さん……カミラちゃんに頼むとしようか?」
ミキシンがまたパチンと指を鳴らすと、抱えていたカミラさんの体がびくりと跳ね、ゆっくりと立ち上がった。
が――やはり、他の冒険者同様、目は光を失い、虚ろな表情を浮かべている。
「あいつ……!」
思わず唸る俺を挑発するかのように、ミキシンは微笑みながらカミラさんの肩に手をやり、言う。
「ふっふ……さあ、カミラちゃん、神官なんだろう?あの人形達の石化を治せるかな?」
「――はい、ミキシン、様、キュア」
途切れ途切れに、ミキシンに従うような言葉を口にすると、カミラさんは冒険者達に駆け寄り、状態異常回復の術……キュアを唱える。
と、石化していた冒険者達がみるみるうちに回復し、再びがしゃりと武器を構える。
後ろからそれを眺めていたミキシンは、治療を終えたカミラさんを再び抱き寄せると、俺達を嘲笑うかのように笑みを漏らした。
「ふふ……はははは!どうだい?君達の味方のせいで更なるピンチになってしまったぞう?次はどうする?冒険者達を斬るか?また石化させてみるか?どちらにせよこの子が治してしまうだろうがねぇ!」
「っ……リガスさん……!」
「ミキシン……こいつ!」
「はははははは!良いよぉ?十分に考えてくれ!どのみち逃げ場など無いのだから!」
思わず後退る俺とトゥーラさんに、ミキシンが面白くてたまらないといった様子で笑い出す。
既に石化から解かれた冒険者達も、じりじりと前進を続け、ゆっくり、だが着実に俺達を広間の壁際へと追い詰める。
その後方で、ミキシンは見世物でも眺めるかのように、ニヤニヤとこちらを見ていた。
調子に乗って……あいつだけは許せない……なんとしてもここで倒すべき邪悪だ!
だが、どうする?トゥーラさんの石化の術はこうなってしまってはもう意味が薄い。
ミキシンを直接石化させようにも、距離が遠い。
あいつは傲慢な態度を取っている一方、こちらに迂闊に近付く素振りは見せない。
あくまで安全圏から、冒険者達を使って俺達を磨り潰すつもりなんだ。
くそ……こんな時でもカミラさんなら、絶対に良い手を思いついてくれる筈なのに……!
不甲斐ない自分に怒りを覚えながらも、俺はなんとか案を絞り出そうと頭を働かせる。
「いっそ回復しに出てきたカミラさんを石化させれば……出来るかな、トゥーラさん?」
「……難しいです、距離もあるし……ましてや、彼らの装備……結構優秀みたいで……ゾンビ達のように一気に何人も石化させるのは流石に無理です……」
トゥーラさんがそう言う方向を見ると、なるほど、分厚い鎧に身を包んだ戦士……確かヌンさんという名だ。
そのヌンさんと、もう一人の戦士が盾を構えてミキシンの前に陣取っている。
さっきカミラさんが石化の治療をしに出てきた際、周りを囲んでいたのもこの二人だ。
恐らくは状態異常に耐性のある装備なのだろう。
俺達が見ているのに気付いたのか、再びミキシンが笑みを浮かべながら言う。
「ははは、私の店の装備は値段は張るが、モノは良いよ?なにせ悪魔が丹精込めて作った品……それに私の手駒となる者にこそ与える装備だからねえ!」
「く……!」
「そおれ、壁際だ!もう逃げ場は無いよ!?」
どん、と、じりじりと下がる俺の背中が迷宮の冷たい壁へとぶつかった。
通路へ逃げようにも扉の前には既に冒険者が構えており、退路を塞がれている。
どうするか、と、考える俺達に、満足がいったのだろうか、ミキシンは一際大きく、ふうと溜息を吐くと、先程までの愉快な笑顔はどこへやら、冷たい視線を俺達に突き刺し、告げる。
「やれ」
一斉に、冒険者達が距離を詰める。
トゥーラさんの石化の魔術もあるが……如何せん、相手の人数が多い。
一人を石化させる間に他の冒険者に詰められ、やられてしまうだろう。
なら、やるべきことは一つしかない。
「トゥーラさん!自分に石化を!」
「えっ……で、でも……!」
「いいから早く!俺に任せて!」
俺の言葉に驚いて目を見開くトゥーラさんに、有無を言わさず俺も叫ぶ。
すると、迷った素振りを見せながらも、トゥーラさんは静かに頷いて答える。
「……わかりました!硬いブレイク!」
瞬間、トゥーラさんの体ががちりと黒く頑丈な石へと変わり、冒険者の振りかぶった剣が金属音を立てて弾かれる。
これでトゥーラさんは少なくとも大丈夫だ。
ここにいる冒険者達には突破できないだろうし……俺に巻き込まれることもない。
トゥーラさんに襲い掛かった者とは別に、押し寄せてきた冒険者の剣が、俺の腹部を、肩を貫いた。
痛みで倒れそうになりながらも、攻撃を受けた個所から血が熱くなるのを感じる。
今回の件は俺のせいだ、俺があの店を紹介したから。
俺が背後から迫ったミキシンに気付かなかったから。
俺がカミラさんみたいに上手く作戦を立てられないから。
だからせめて……俺が責任を取らないといけない。
自分の肉体が変化し、筋肉が盛り上がっていくのを感じる最中、驚いたように叫ぶミキシンの声だけが、俺の耳に残った。
「――――は、なんだい、少年!君も、こっち側じゃあないか!」