パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
人狼、ライカンスロープ、狐憑き、ベルセルク、狂戦士、そして悪魔憑き。
呼び名は様々ながら、伝承に語られる理性を失った獣が如き人間。
彼らは私達悪魔の呪いや魔術、あるいは単にその血を引いたか……とにかく、悪魔と関わることによって体を弄られた哀れな玩具だ。
通常は魔物として処理されたり、自らの境遇に絶望して森の奥深くに閉じこもったりするものだが――
「まさか、こんなところで楽しい玩具が見られるとはね……折角だ、もう少し見物していこう」
私、悪魔ミキシンはそう独り言ちると、広間の端で唸り、咆哮を上げる狂戦士を眺める。
どこの悪魔が作り出した玩具かは知らないが、中々面白いことをするものだ。
私が広場に広がるであろう凄惨な光景に心を躍らせていると、予想通り、というべきか、狂戦士が私の操る冒険者達に襲い掛かる。
「ウオオオオオッ!」
咆哮と同時に、狂戦士は手にした爪で冒険者の鎧を紙のように切り裂き、腹部に思い切り蹴りを食らわせて吹き飛ばす。
反撃すべく、多人数で囲い込み、武器を突き出す冒険者だったが――なんと、狂戦士はその場に高く飛び上がり、突き出された刃を躱した。
そして飛び上がった勢いそのまま、爪を思い切り冒険者の鎧に突き立て破壊すると、冒険者はその衝撃で勢い良くゴロゴロと転がり、倒れ伏す。
この私が手ずから作成した鎧をアッサリと打ち砕くとは……なるほど、思ったよりも強い戦士だったらしい。
「ならば……これはどうかな?」
私がパチンと指を鳴らすと、冒険者の一人が手にした大盾を構え、立ち塞がる。
これは流石に爪では破壊できないのではないかな?
そんな私の予測に私に答えるかのように、狂戦士はぐるると唸り、警戒するように後退る。
ふむ、やはり流石にこの大盾には歯が立たないらしい。
予想通りとはいえ、これはこれで残念だ。もう少し楽しめると思っていたのだが……
私はもう一度、指をパチンと鳴らすと、大盾を構えた冒険者を勢いよく突進させる。
このまま大盾に押し潰されて終わるか……そう考えていたのも束の間、なんと狂戦士は目前に迫る大盾を掴み、力技で冒険者の突進を止めたじゃないか!
そして、そのまま唸り声を上げると、大盾ごと冒険者をひっくり返し……転がった冒険者の胴体に、やはり爪を食い込ませる。
「ははは、なんだなんだ、やるじゃあないか!だがまだ冒険者は残っているぞ!」
もう一度、二度、指を鳴らすと、残った冒険者達が一斉に手に持つ魔剣・魔槍の魔力を解放する。
狂戦士は風の魔力の込められた突きを躱すが、突きと同時に発生する風の刃は避けられず、右腕から血を噴き出させる。
そこに続けざまに、氷の魔力の込められた斬撃が繰り出されるが、これも躱す。
しかし、外れた斬撃からも発生した魔力は床を瞬く間に凍てつかせ、狂戦士の足を取る。
そこに突き出されるのが私の自信作、ヌンの持つ炎の槍だ。
この炎の槍によって、哀れな狂戦士は腹部を貫かれ全身を焼け焦げ――
「オオオオオオオオオオッ!!」
――槍に貫かれるかに思えた人狼だったが、突き出された槍を咄嗟に防いだようだ。
自身の装備する爪と、突き出された槍が甲高い金属音を立てながらぶつかり合う。
だが当然、この槍からも他の武器のように魔力による炎が生み出されている。
刃は防いだとはいえ、槍の刃先から溢れる炎に身を焼かれる狂戦士だったが……
「ウオオッ!!」
また一つ、咆哮を轟かせると、狂戦士は目にも止まらない速さで冒険者達の間を駆け抜け――それと同時に、冒険者達の武具が砕け、一斉に倒れ伏していく。
なるほど、魔槍の炎で凍り付いた足元を溶かしたらしい。
狙ってやったのか、偶然か、いずれにせよ中々やるじゃないか、と、感心する私に、獣と化した狂戦士の爪が迫る。
が……残念だったね、狂戦士君。
「――プロテクション」
私の抱える少女、カミラの放った術によって中空に光の壁が現れ、狂戦士の攻撃が阻まれる。
「ウウ……!」
「はは、どうだね、狂戦士君!かつての仲間と戦い、攻撃を防がれる気分は!冒険者をほぼ全て倒した手管には驚いたが……残念ながらここまでだ!」
そう、ここまで、面白い見世物ではあったが、これ以上付き合う必要はない。
私の目的はあくまで今抱えるこの神官少女……いや、彼女の身に着ける首飾りに他ならない。
これさえ手に入れば、冒険者共がいくら噛み殺されようが関係ないのだ。
「悪いが、撤退させてもらうよ。もう二度と会うことはないだろうが――」
「――――ブレイク」
撤退すべく脚に力を込める私だったが、ふと違和感に気付く。
脚が……動かない……!?
見ると、いつの間にかすぐ近くに狂戦士のもう一人の仲間――あの石化の術しか使えない未熟な魔女が私の背後から接近してきていた。
「ばっ……この……人間如きが!」
「硬いブレイク!」
思わず激高しながら、私は上半身だけを捻り、魔女を焼き殺すべく炎の魔術を放つ。
が、しかし、それが当たるよりも早く、魔女は自身の体を石化させ防いだ。
ええい、くそ、なんだ、あの魔術は!?そもそも、石化していたくせに、どうやってタイミング良くそれを解いてこちらに!?石化している最中も意識があったとでもいうのか!?何だ!?
思わず私が顔を歪ませ、舌打ちしたその一瞬、激しい衝撃が私の体を揺らし、吹き飛ばす。
あの狂戦士だ!くそ!
石化した足では着地することも出来ず、私はそのまま広間の床を転げる羽目になった。
しかし……爪で突かれた衝撃はかなりのものだったが、幸いにも私の装備はギリギリ破壊されていない。
当然か、この私の装備はあの冒険者共の鎧よりも更に高価で貴重な闇の素材で作った一流の装備だ。簡単に破壊されては困る。
それに、脚の石化も徐々に解けかけてきている。
ついさっきまでは膝まで石化していたが、今はもう足の指先から脛の部分までといったところだ。
術者である魔女が石化した故か、あるいはこの装備のお陰か……いずれにせよあの魔女でも、私の足を短時間石化させるのが精一杯だったらしい。
石化が治ったらすぐさまあの狂戦士を、あの獣をブチ殺してくれる!
そう決意を固めながら、残った人形……カミラを動かすべく目をやると、気付く。
「おや……おやおや……くく……ははは!なんだ!やはり獣だな!無様なものじゃあないか!ははははは!」
私の視線の先、怒り狂う狂戦士は今――私のことなど気にもしない様子で、興奮したように激しく呼吸を繰り返しながら、カミラに覆い被さっていた。
やはり獣、女の臭いに本能が耐えられなかったといったところか?
それで自らの仲間を汚し、犯し、殺しにかかるか……!はは、見世物として最高だ!
正直なところ、私としては首飾りが無事でさえあれば、カミラという少女自身はどうなっても構わない。
私の足の石化が治るまで、精々あの飢えた獣の餌になってもらうとしよう。
パチン、と指を鳴らし、私は人形と化したカミラに指示を出す。
「動くなよ、人形、そのまま食われて時間を稼げ」
「――はい、ご主人様」
虚ろな表情で呟き、力無く体を横たえるカミラに、狂戦士は我慢の限界だとでも言うように襲い掛かる。
鼻息荒い口元から涎を垂らし、鋭く生えた牙で少女の腹に噛みつく。
ぶちぶちと音を立てて何かが裂ける音を立てながら、少女の体が激しく揺れる。
その間にも私の石化はどんどん解けていく。
もう少しだ、もう少しで――にやりと笑みを浮かべながら、狂戦士の少年が仲間の少女に噛みつき、服を裂く様子を愉悦をもって眺めながら、私は少しずつ立ち上がる。
ふふふ、あの少年も災難なことだ。
最善手と信じて獣と化したのだろうが、その結果としてパーティメンバーを自ら汚し、手にかけるのだ。
くく、はは、素晴らしいね!そうだ、首飾りを回収したら、もう一人の魔女の方は石化したまま手足を砕き、狂戦士の少年はそのまま生かしておくとしよう。
生きてはいるが、石化を解いた瞬間に手足を失い死ぬ魔女と、無惨にも腸をぶちまけて死ぬ少女神官。
それを認識した時のあの少年の絶望、それを想像するだけで心が躍るじゃないか!
と、思わず、甘美な想像にうっとりする私の前で、獣の唸り声に混じり、不意に高く澄んだ少女の声が響いた。
「ヒール」
少女の声に続くように、ピタリと狂戦士の動きが止まると、そのまま元の少年の姿に戻り、力無く少女にもたれかかる。
「……う……カミラさん、ごめん、俺……」
「は、何を謝る、お前がちゃんと理性を持っててくれたから、私が助かったんじゃないか」
「うん……爪……買っといて……よかっ……」
言いながら、狂戦士はそのまま目を閉じ、ばたりとその場に倒れ伏した。
代わりに、少女――先程まで私の操り人形となり、虚ろな目をしていたカミラが、黄金色に煌めく目をこちらに向けながら、堂々とした態度で立ち上がる。
無惨にも、先程まで着ていた服は食い破られ、外套一枚を羽織るのみの状態だが――それでも、その立ち姿はえも言えぬ神聖さを醸し出していた。
――やられた。
あの狂戦士は恐らくだが……装備か、アイテムか、ともあれ、何らかの効果で、僅かでも理性を保っていたのだ。
それでいて尚、理性を失ったふりをして、牙であの少女の服を裂いた!
あの少女が操られていたのは私の店で売っていた、私の魔力の込められた装備をしていたからこそだ。
それが破壊され、裂かれ、一糸纏わぬ状態になった今、最早操ることは出来ない。
だが、しかし……私は最早石化も完全に解けた足に力を込め、悠々と立ち上がる。
「まさか、最初から服を剥ぐことの方が目的だったとはね……いやあ、驚いたよ、だけど……はは、愚かだねえ」
私は再び、笑みを浮かべながら、眼前に立つ、哀れで愚かな少女に言い放つ。
「洗脳が解けたところで、君程度がこの私に……悪魔に勝てるとでも思っているのかな?」
そう、冷静に考えれば不利なのは少女の方だ。
装備も失い、仲間も失っている。
それでなくても私は悪魔、強大な魔力と肉体を持つ魔族だ。
人間の、少女一人ぐらい今更復活したところで何が出来るわけでもあるまい。
そんな私の嘲笑を無視するかのように、少女はゆったりとした動作で床に落ちたモーニングスターを拾うべく、腰を落とす。
はは!馬鹿め!やはり雑魚だ!隙を見せるとは!
私は少女の視線が外れた隙を突いて、猛烈な勢いで地を蹴り、襲い掛かる。
――瞬間、鈍く重い音が私の頭の中に響き渡り、激しい衝撃と共に、私の体が宙を舞う。
「がっ……!?」
何が起こった!?
理解する間もなく、また床に転げた私だったが、今度は速やかに着地し、体勢を整え、少女を見ると、少女は淡々と、落ち着いた調子で言葉を紡ぐ。
「愚かなのは貴様の方だ、悪魔、この私を誰だと思っている?」
「がは……誰?誰だって?たかが人間の、たかが神官だろう!それが偉そうに……」
「はっ!違うね、私は――そうだ!私は天才神官!カミラ様だ!」
落ち着いた調子から一転、激しく、自身に溢れた口調でそう叫ぶと、カミラは堂々と、どこか挑発的な視線で私を睨み、モーニングスターを構えた。
「やろうか、悪魔!天才神官の力、とくと思い知らせてやろう!」