パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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キラープラント

 アドニスの迷宮第一層

 

 『この穴はこのまま深淵まで続くのではないか』

 

 そんな錯覚を覚える程に、黒く深く、ぽっかりと大きな口を開けた岩の洞穴。

 そこがダンジョン――アドニスの迷宮への入口だ。

 洞穴の岩を直接削って作られた階段をしばらく下っていくと、入口から見えた暗い洞穴の中だとは到底信じられないような光溢れた空間が現れる。

 辺りにはこれまた迷宮内部とは思えないような巨大な木々が空間を埋め尽くし、苔に覆われた地面や岩盤はうっすらと光を放っている。

 私にとっては何度も見た光景だ。

 こんなもので今更驚くものでもないのだが――

 

「あ、カミラさん、気を付けてね、そのあたり滑りやすいんだ」

 

「はっ、知っているとも!私を誰だと思っているのかね?」

 

「誰って……さっき冒険者登録済ませたばかりの新人冒険者じゃないか」

 

「ぐむっ……!」

 

 『カミラ・カリスキ』

 私が新たに冒険者登録をする際に使った偽名だ。

 何しろ、変化の首飾りのせいで麗しい少女の体になってしまった。いや自分からなったのだが。

 この状況で受付に私がカシミール・カミンスキだと名乗っても信用してもらえまい。

 よしんばされたとしても、同名で活動してジョーや他の連中に私が化けているとバレてしまっては困る。

 ということで不本意ながら、新人冒険者のカミラ・カリスキとして新たに冒険者登録を行った。というわけだ。

 そのせいで私を迷宮初心者の貧弱な少女だとでも勘違いしたのだろう。

 サイズの合う装備をと思い、防具店に寄った際にあったものが初級の神官服のみだったのも良くなかったのかもしれない。

 武器こそ前から愛用していた神聖モーニングスターで事足りるだろうが、防具はまた新しく仕立ててもらう必要があるな。

 いずれにせよ、そのせいでこちらを迷宮初心者と勘違いして何かと先輩であることを誇張してくるこの男が不愉快で仕方ない、この男が――

 そこまで考えて、ふと気付いた。

 

「そういえば……貴様の名前は何というんだ?聞いていなかったな?」

 

「あっ、言われてみればそうだね。俺の名前はリガス。戦士リガスだ」

 

「リガスか、覚えた。冒険者になってからどれくらいだ?」

 

「一か月くらいかな、ランクはまだ最下層のE級なんだけど……早いところD級に上がりたくてさ、今回の依頼を受けたかったんだ」

 

「なるほどな、それでか」

 

 リガスが受けようとしていた依頼はキラープラントという植物系の魔物から採れる根の採取だ。

 この依頼自体は冒険者の最下級であるE級でも受けられる。

 とはいえ、他のランクであればともかく、E級の依頼としては難易度が高い部類だ。

 キラープラントは球根からいくつもの蔓が伸びたかのような魔物であり、蔓を伸ばして相手を拘束、捕食してくるのだが、蔓の殺傷能力自体は低く、獲物を自身の消化器官へ取り込んでから消化するまでも半日近くかかる。

 そのため、普通であれば誰かが捕食されかけるか、あるいは完全に捕食されたとしても、その隙を縫って攻撃をしかけたりして倒すことが出来るのだ。

 

 しかしそれはあくまで『パーティを組んでいた場合』である。

 

 一人で挑むとなると、キラープラントが密かに伸ばす蔓に捕まった時点で勝負は決してしまう。

 キラープラントの蔓は隠密性に優れており、罠のように地上に垂らし、そこで近くを通った獲物には素早く反応する。

 そして捕らえた敵を拘束する力は相当に強いのだ。

 力ずくで内側から触手を打ち破るのは困難だろう。

 とはいえ、その蔓も一度に何人もの人間を拘束するほど多く生えているわけでは無いので、その辺りもパーティさえ組んでいれば解決するのだが。

 

 ともあれ、そんなキラープラントの討伐はある意味でEランクからDランクへ上る為の登竜門、近道のようなものとなっていた。

 この魔物を倒せる実力がある、ということはパーティを組み、互いにある程度のチームワークを活かせる実力者である、という証明なのだ。

 かくいう私も前のパーティにいた時はジョーを突っ込ませて痺れている様子を楽しく眺めた後、カリカにプラントを思いっきり殴らせたものである。

 私の溢れる知性が発揮された輝かしい思い出と言えるだろう。

 

「キラープラントの討伐であれば私も経験がある。大船に乗ったつもりで任せておきたまえ!」

 

「本当かな……」

 

 自信満々に語る私に、リガスがじろりと不安げな表情でこちらを見つめる。

 やれやれ、全く失礼な奴だ。ま、相手の実力を見抜くにも経験というものが必要だからな。仕方あるまい。

 

「ふふん、ま、私の実力は見れば分かるだろう!貴様がこの天才神官の私の実力に泣いてひれ伏す時が楽しみだよ!」

 

「はは、まあ期待してるよ」

 

「む……貴様あまり信用していないな?やれやれだ」

 

「いやいや、そんなことないって、キラープラントが出たら頼むよ!」

 

 そう言ってにこやかに笑いながらリガスは私の頭をポンポンと撫でる。

 全くの少女扱いだ。気に食わないな。まあ変化をしたのは私なのだが……

 とはいえ、ある意味でチヤホヤされていることは間違いあるまいし、今のところ会話の内容も良好だ。

 前の姿で嫌われるよりは良しとしよう。

 と……あれは……

 

「リガス、止まれ」

 

「カミラさん?どうし――」

 

「キラープラントだ」

 

 眼前の地面に、木の葉や雑草に紛れるようにしてキラープラントの蔓が投げ出されていた。

 私のように注意深く見ないと気付かないだろう。

 この蔓の先にキラープラント本体がいる筈だ。

 そう思い視線を辺りに巡らすと……見つけた、私達から見て左側の茂みの中だ。

 

「さて、どうする?リガス、まずどちらかが囮となるのが定石だが――」

 

「俺が行くよ、戦士は壁役だ。身を張ってこその職業だからね」

 

「……ほう、いいのかな?私が奴にトドメを刺せなければ終わりだぞ?」

 

「天才神官、なんだろ?キラープラントの本体自体はそこまで防御力があるわけじゃない。そのメイスで思いっきり叩けば倒せるはずだ」

 

 見上げた精神だ。

 私から言い出す前に率先して囮に名乗り出るとは……ジョーならば囮を命じた時点でキレ散らかしていたところなのにな。

 見どころのある若者、といったところか、ふふん、気に入った。

 

「良いだろう、この天才神官カミラ様の大神聖術をしかと目に焼き付けるのだな!」

 

「ああ、頼りにしてるよ……っと!」

 

 言うと、リガスは腰の剣を抜き、キラープラント目掛けて突っ込んでいく。

 それを察知したのだろう。キラープラントもすぐさま辺りに這わせていた蔓をリガスに向けて放ち、足を掴む。

 

「くっ……!」

 

 拘束して吊り上げられたリガスが、それでも剣を振り回し、いくつかの蔓を切断すると、それに対応するかのようにキラープラントの蔓が右腕を絡めとる。

 やがて他の蔓もリガスの左腕、胴、首、と各部をギリリと締め付け、本体の球根がぶるりと震えたかと思うと、獲物を捕食するべく球根の中心からぐちょりと音を立てて、筒のような捕食器官を露出させた。

 しかし――

 

「今だカミラさん!」

 

 球根が捕食体勢に映った瞬間、私は茂みから飛び出し、キラープラントの本体へ向けて駆ける。

 全く、上手いこと行くものだ!

 E級の雑魚冒険者がここまで立派に仕事をこなしてくれるとはな!

 思わず笑みをこぼしながら、私は体内に巡る神の与えし神聖なる力を練る。

 

「ふははは!褒美に見せてやろうリガス!これこそが天才――上位神官たる私の放つ神聖術!」

 

 体中を駆け回る神聖力を手に持つモーニングスターに込め、祈りと共に天に掲げる。

 

「主よ!我が敵をその鉄槌で以て打ち砕き給え!神聖鉄槌!ホーリーハンマー!!」

 

 目も眩むような光の奔流が上空から降り注ぎ、キラープラントへ鉄槌となって降り注ぐ。

 光が消え去った次の瞬間――そこに残っていたのは黒く焼け焦げた灰のみだった。

 

「カミラさん……すっごい……」

 

「ふふふ、見たか!これぞ私!天才神官カミラの実力というものだ!見直したかね!?」

 

「うん……すごい……!正直ちょっと疑ってたけどゴメン!すごいよカミラさん!神聖術でこんなことできる人は初めて見た!」

 

「ははははは!当然のことを言われても困るなぁ~!ホーリーハンマー如き中級の術でこれだけ褒められてはなあ!ははは!」

 

 気持ちいい!

 ふふ、やはり面と向かって自分より遥かに劣っている人間から褒められるのは最高だ!

 私が天才であり敬われるべき人間なのだということが改めて理解できる!

 もっと言っても良いんだぞ、リガス!

 と、ちらりとリガスを見ると、興奮冷めやらぬ様子のリガスが更に続けて口を開いた。

 

「それで……依頼のキラープラントの根は?」

 

「……あっ?」

 

 リガスの言葉にハッ、と気付き、キラープラントのいた場所を見ると、そこには煤けた灰しか残っていなかったのだった。

 

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