パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
「明るい……」
アドニスの街に入って最初に抱いた印象はそれだった。
あたし達が街に辿り着いた時には既に日が暮れ、夜の帳が降りていたが、それでも尚明るい。
大通りに立ち並ぶ家々や商店からは、窓の隙間から灯が漏れ出し、魔石か何かを利用しているのだろう、所々に立った街灯も街を明るく照らしている。
「ンン、フフ、人間は我らと違い闇夜を恐れるものだからねえ、カンナちゃんの繊細なお肌には辛いかな?」
「は?別に大丈夫だけど?太陽の光でもあるまいし、ちょっと眩しいだけだよ」
「ハハハ、それは残念」
隣を歩くダキアはそう言ってニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる。
何が残念なんだ。
あたしが不快感を露にしていると、先導する師匠が少しこちらを振り向いた。
「カンナ、今回の任務はそのダキアの護衛も兼ねている。嫌なのは分かるが多少は受け入れろ」
「……はぁい」
今回の任務はミキシンとかいう悪魔が発見したという鍵の調査と奪取。
奪取だけならあたし達だけで十分だと思うけど、調査に関してはそうもいかない。
というか、鍵だけじゃなく迷宮自体の調査もしておきたいらしく、そのへんもダキアの仕事らしい。
あまりにも不本意だけど、それの護衛や力仕事が魔王様から与えられた仕事だ。
仕事なら仕方ない、あたしも師匠みたくクールに仕事をこなせるようにならないと。
そう考えて気合を入れていると、再び師匠があたしに向けて声をかける。
「カンナ、お前は酒場かどこかで迷宮に関しての情報を仕入れてきてくれ。街の様子を見るに丁度冒険者達が探索から帰還してきている頃だ」
「あっ、はい!師匠は?」
「私は例のミキシンなる悪魔と接触する。話によれば牢に囚われている筈だ」
「了解です」
道々で情報を集めたところ、例のミキシンという悪魔はまだこの街にいるらしかった。
悪魔が絡むかどうかはともかく、迷宮での揉め事というのは結構よくあるので、街にはそれらのゴロツキや犯罪者を収監する用の牢と、治安維持のための騎士団がいるらしい。
警備を掻い潜って牢へ潜入するのも相当に危険だろうけど……まあ師匠なら大丈夫だろう。
と、師匠の話を聞いたダキアが少し考え込むようなポーズを取ったかと思うと、またニヤリと笑みを浮かべながらこちらに向き直る。
「ンン……フフ、では僕もカンナちゃんと一緒に酒場に行くと」
「貴様は私と一緒に牢だ」
「ンンン~!いやいや、インドア派の僕には牢への侵入なんて危険すぎるよ、そうじゃないかな?」
「馬鹿を言うな、むしろ得意だろう……それに貴様からは目を離せん」
「フフ、嫌われたものだねぇ」
師匠の言葉に、やれやれといったポーズを取り、溜息を吐きながらも、ダキアは素直に従うようだ。
ちゃんと師匠について大通りの向こう側へと消えていった。
道中もそうだったが、散々煽るような言動をする割には、意外とちゃんと指示に従ってはくれている。
それだけに結局何がしたいのかイマイチわからずに腹が立つのだが……まあ、あいつの言動を理解しようとしても仕方ないか。
あたしも諦めたように溜息を吐くと、冒険者で賑わう酒場へと足を踏み入れた。
酒場は何人もの冒険者や、仕事帰りの男達でごった返していた。
あたしはキョロキョロと辺りを見回すと、とりあえず適当な椅子に腰を降ろす。
さて、ここで情報収集……といっても、どうしたら良いんだろう。
いつもは師匠と一緒に街の警備とかがメインの仕事だったので、一人でこういうことをするのは実はあんまり慣れていない。
とりあえず冒険者に話しかければいいんだよね……?
と、あたしはとりあえず近場で酒を飲む冒険者らしき男達に声をかける。
「あの、ちょっといい?」
「ああん?なんだい嬢ちゃん!注いでくれんのかい!?」
「おお、酌婦か!気が利くねえ!おら!こっち座んな!」
「あえっ、いや、そ、そういうんじゃなくて、話をちょっと……」
「おいおい馬鹿が!テメェらみてぇな汗臭いおっさんじゃ嫌だってよ!嬢ちゃんこっち来な!」
「ああ!?誰がだッラァ!」
ちょっと声を掛けただけなのに、瞬く間に男達が下卑た笑い声で騒ぎ出したかと思うと、流れるように仲間内での罵り合いに移行し始めた。
えっ、何、人間っていつもこうなの?怖……
慌てて別の席へ移動しようとするあたしの前に、今度はまた別の男が声を掛ける。
「おお、嬢ちゃん、女の子一人でこんなとこでどうしたぁ?」
「客でも探してんのかぁ!?ははは!俺達で良いんなら相手してやんぜ!」
「えっ、いや、そういうわけじゃ……!」
「遠慮すんなよ!こちとら迷宮帰りの冒険者様だぞ!」
酒に酔った男達はあたしに絡むと、無遠慮に腕を掴み、腰に手を回す。
最悪だ。ダキアもクソだけど人間はそれ以上にゴミすぎる!
師匠には怒られるかもしれないけど、ここでこいつら殺しちゃっても――
しかし、そこまで考えたあたしが行動に移すよりも早く、男達の顔に突然ばしゃりと水が掛けられる。
「わっぶ!冷たっ……んだこら!」
「ふふん、やれやれだね!冒険者ともあろう者がいたいけな少女に乱暴を働くとは――いかにも下衆!無様!愚物というところ!」
男達の野太い笑い声が響く店内にあって、一際高く、愛らしい声がその場に流れる。
声の主はプラチナブロンドの髪に、金色の瞳を自信満々に輝かせる少女。
恐らくは神官なのであろう、法衣を纏った少女は、手にしたモーニングスターを突き出しながら、男達に告げる。
「ふふん、愚物には難しいかもしれないが――志の高い冒険者であれば、常日頃からそれ相応の態度と姿を見せるべきだ!そうじゃないか?私はそうしている!天才だからね!」
「なっ……にが天才だ!このメスガキが――」
「ブレイク!」
瞬間、拳を突き上げた荒くれの体が石へと変わる。
態勢を崩してゴロンと転がった男を見て、連れの男は青ざめた顔で石と化した仲間を抱える。
あの神官の少女が何かしたのか、そう考えたあたしだったが、すぐさま少女の後ろから駆け寄ってきた魔女と戦士の姿に、それが勘違いだと分かる。
「はぁ……か、カミラさん!もう、無茶しないでよ!」
「はっ、どこが無茶だリガス!こいつらの顔を私は知らん!ということは迷宮の低層ループして冒険者気分の木っ端共だ!そんな奴らにこの天才神官、カミラ様が負けるとでも!?」
「ふへぇ……カミラちゃん、今日は同じようなこと言って第二層のファントムに眠らされてたじゃないですか……」
「あれは不意を突かれただけだ!私のせいじゃないね!それより……」
カミラ、そう呼ばれた神官の少女は、隣で呆れたように言う魔女の言葉に反論すると、くるりとこちらに向き直る。
「災難だったね、お嬢さん!私の名はカミラ!天才神官だ!何か困ったことがあれば何でも聞いてくれ!」
自ら天才神官を名乗る少女は、満面の笑みでそう言うと、その柔らかな手をあたしに向けて差し出すのだった。