パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。 作:節山
「護衛依頼?」
「うん、お願いできる?」
人でにぎわう冒険者ギルドのロビー、そこで私の眼前に立ち、頭を下げるのはつい先日出会った少女、カンナだ。
先日、酒場で絡まれているカンナをこの私が助けてやったところ、恩に着たのか何度か私に声を掛けてきて、すっかり意気投合する仲となった。
毎回ちゃんと私の話に付き合ってくれる偉い娘だ、ふふん、見所があると言って良いだろう!
して、そのカンナが今回、私に頼み込んで来た内容こそが護衛――即ち、迷宮へ潜る一般人への付き添いである。
一般人……冒険者登録をしていない人間が迷宮へ潜る、というのは基本的に褒められたものではない。
ただ行くだけでは、そもそも迷宮の入口で見張る騎士達に呼び止められるのがオチだろう。
が、何事にも例外が存在する。
例えば、国や大店の商店からの調査依頼や採取依頼などで、専門知識を持つ学者などが必要な場合だ。
その場合は冒険者の護衛を雇うことで、一般人の学者であっても迷宮内部へと潜ることが出来る。
尤も、迷宮では基本的に自己責任なので、それで何かが起きても文句は言わないこと、報酬が良いことなどが条件ではあるが。
そんな依頼を投げかけてきたカンナに、私はふむ、と一つ息を吐いて応える。
「カンナは学者とかそういうのだったのか?」
「や~……あたしもその学者の護衛ではあるんだけど……ほら、あたしって迷宮に関してはよく知らないからさ」
「道案内が必要ってことだね」
少し気まずそうな表情で頭を掻くカンナに、リガスが横合いから相槌を打つ。
なるほど、カンナは護衛として来はしたものの、ひょっとしたら迷宮に潜るとは知らされていなかったのかもしれない。
いや、知ってたとしても冒険者のシステムに関しては知らなかった、とかかな?
だとしても、若干の違和感があるような気はする。
「道案内なら私達じゃなくても良い気もするが……それにカンナ自身が護衛としてついているなら、案内役でなくとも地図を買うだけで二層くらいまでは調査できるだろう」
「えっ、やっ、それは……そうかもだけども……」
私の問いかけにカンナが答えに詰まったようにううん、と唸り声を上げる。
や、私とて知り合いの頼みを断るのは少し申し訳ないような気もするのだよ?
だが、小遣い稼ぎのような依頼をこなしてばかりでは、いつまで経っても迷宮の深部に挑むことは出来なくなってしまう!
依頼をこなして金を稼ぐこともそれなりに大切ではあるが、私としてはそれ以上にレベルを上げつつ迷宮の奥まで潜れるようになることが一番重要なことなのだ!
と、私がカンナに断りを入れつつ、他の冒険者を紹介してやろうとでも思っていると、不意に背後から低くくっくっと笑う男の声が響いた。
「フフフ、僕の護衛にそんなに意地悪をしないでくれたまえ、天才神官様」
「貴様は?」
「フフ、僕の名はダキア、何を隠そう、この僕が迷宮の調査を命じられた学者だよ。以後、お見知りおきを」
言うと、ダキアと名乗った男は懐から取り出した羊皮紙を広げ、私の眼前に広げる。
そこにはしっかりと、有名商会からの紹介である旨が書かれていた。
となれば、本当に学者であることは確かなのだろう。
じっと羊皮紙を見つめる私に、ダキアは恭しい態度で語り掛ける。
「今回、君達に護衛を頼みたいと思ったのは、何を隠そう僕の方なんだ。フフ、聞けばカミラさん、君はD級の冒険者でありながらバジリスクや悪魔までも討伐したらしいじゃないか」
「ん?うん、ま、まあ、当然だな!ふふん、私だからな!」
「ンフフフ!その働き、まさしく天才神官!やはり僕としても護衛としてつけるならばそれぐらい優秀・有能な天才でなくてはならないと思ったわけさ!間違ってるかな?」
「いやいや、当然だろう!ふふん!十把一絡げの低能冒険者などを護衛に雇っては何をされるか分かるまい!」
「そう、その通り!冒険者など基本的に荒くれ者のゴロツキばかりだからねぇ、その点、カミラさんは見目麗しく、かつ理知的で高貴なお方だ!」
やたらに私を持ち上げるダキアに、私も正直悪い気はしない。
こうして面と向かって私の有能さを褒められる、というのは実のところ、そうあるものではないからな!
自画自賛も悪くはないが、やはり賞賛というものは他人から向けられてこそじゃないだろうか!私はそう思う!
むしろ今まで会った連中が私を過小評価しすぎていたのでは!?
そう思わせる程に流暢に私を持ち上げると、ダキアは仰々しく頭を下げ、丁寧な口振りで言う。
「そんな非凡にして秀麗なカミラさんだからこそ、迷宮の案内を頼むに相応しい、僕はそのように思うのだけれど……」
言いながら、ダキアはちらりとカンナに視線を向けると、カンナもハッとしたような表情を見せ、慌てたように口を開く。
「そ、そう!そうなんだよね~!あたしもカミラちゃんなら安心して頼めるかなって思って……だってほら、天才だし!」
「フッ……やれやれだな、カンナ、確かに私は天才だが……そんな天才がそう簡単に依頼を引き受けると……?」
「う……で、でもカミラちゃ――」
些か取ってつけたように私を褒めるカンナに、私は腕を組み、背中を向けて応える。
冒険者の本分はあくまで迷宮探索、あくまで未知への探求だ。
正直、この依頼は受けなくても私にとっては全く問題が無い。
が……
「っは~!仕方ないなあ!全く!これだけ頼まれては嫌とは言えまい!」
まあ、知り合いの頼みだしなあ!
困っている知人を見捨てるというのも冒険者的にちょっと、というか!?
まして、ここまで私に媚びへつらう哀れな凡俗共を助けるのも天才の役目というか?
私はやれやれ、全く仕方ないな、という態度を見せながらも、カンナの依頼を受けることにすると、ダキアが目を輝かせて口を開く。
「フフフ!流石はカミラさん!話が分かる!これは天才神官!」
「さすカミ!」
「ハハハ!良いとも、もっと言ってくれたまえ!ハッハッハッハ!」
かくして、一連の流れを眺めつつ、諦めたように溜息を吐くリガス達を尻目に、私達の護衛任務が始まったのだった。
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「馬鹿で良かった」
「馬鹿で良かったですねえ」
「ンッフフフフ、いやあ、本当に天才神官様は愚かだ」
小声でそう言いながら、あたしと師匠、ついでにダキアは街中を先導するカミラちゃんについて歩く。
最初こそ護衛依頼を渋っていたカミラちゃんだったが、少し褒めると一気に機嫌を良くして依頼を引き受けてくれたのだ。
正直こんなにアッサリ行くとは思わなかった。
しかし……
「ちょっと回りくどい気もしますね、師匠、今ここでカミラちゃん殺すんじゃ駄目なんですか?」
「街中では騎士団や一般人の視線もある。奇襲出来たとしても、逃げられる可能性もあれば、集まった騎士団に捕まる可能性もある」
「フフ、それに鍵があっても迷宮に入れなければ本末転倒だ。迷宮の中で殺して鍵を奪い取った方が良いだろうね」
「なるほど」
確かに、迷宮で栄えるこの街は、治安維持にもそれなりに力を入れているようだし、人間の国としても相当に重要な拠点でもあるようだ。
そこに魔族が現れて冒険者を襲ったとなれば騎士団も警戒するに違いない。
というより、ミキシンのせいで既に警戒は高まっている筈だ。
騒ぎを起こして騎士団が駆けつけてきた場合、流石に師匠とあたしだけでは厳しいかもしれない。
カミラちゃんを襲って鍵を奪うとしても、迷宮のそれなりに奥、少なくとも他の冒険者達がいないようなところではないといけないか。
「おおい!貴様ら、何をしている!遅いぞ!この天才眉目秀麗完璧神官!カミラ様が案内をしてやっているんだ!ちゃんとついてくるといい!ふふん!」
などと考えるあたしを他所に、ターゲットであるカミラちゃんがふふん、と、得意気な笑みを浮かべて前方で手を大きく振っているのが見える。
自分が狙われているなどとは微塵も思っていないのだろう。
ちょっぴり申し訳ないような気もするけど、あたしも魔王様に仕える魔族の一人だ。
手心を加えるつもりは毛頭ない。
あたし達はカミラちゃんについて、迷宮の入口を降り、第一層の森を抜けると、第二層へ降る階段を降りていく。
この第二層までは割と他の冒険者も多いらしい、が、幸いにして入り組んでいる迷路でもある。
ここで仕掛けるのもアリかもしれない。
と、観察を続けながら足を進めていくと、通路を抜け、回復の泉の湧き出す大広間へと辿り着く。
冒険者達はここでキャンプを張るのが普通らしいが、魔族のあたしにとって、この回復の泉から漏れ出す神聖な気配はちょっぴり嫌な感じだ。
「と……ひとまず、ここに調査拠点を設置するのが良いだろう!カンナ達も良いかな!」
「ん、OK」
「……異論は無い」
あたし達が答えると、カミラちゃん達はテキパキと大広間にキャンプを設置しはじめる。
見ると、拠点なだけにここもまだ他の冒険者がたむろしているようだった。
やっぱり、ここで仕掛けるのはまだ少し早すぎるだろう。
そう見て、あたし達もカミラちゃん達と同じように、キャンプを設置していると、広間の冒険者の一人が何かに気付いたようにこちらに駆け寄ってきた。
「よぉ、見ねえ顔だな、新人冒険者か?」
「フフ、いえいえ、僕の名前はダキア、学者ですよ。今回はきちんと依頼を出した上で優秀な護衛も雇っておりますので、ご安心を」
「ああ、そういう奴か、なら良いけどよ……調査するにも二層はそれなりに危険だからな、気を付けろよ」
言うと、その冒険者……むさ苦しく、黒々とした髭を生やした粗野な印象の男は、少し忠告めいたことをダキアに助言する。
見た目に反して割と世話焼き、というか慎重なタイプの男なのだろうか。
腰に差した大剣も、心なしか流麗な印象を与えるものだ。
と、先にキャンプの設置を終えたのだろう、カミラちゃんがこちらに駆け寄り、声を掛ける。
「ふふん、カンナ!私達の方はもうキャンプ設置が終わったぞ!どうだ、頼れる護衛だろう!もっと褒めても良いんだぞ!」
「あ~、凄い!凄いね!カミラちゃん!さすカミ!」
「ははははは!護衛として当然だとも!有能な護衛として、な!」
どやぁっ!と、自信満々な笑みを浮かべて胸を張るカミラちゃんだったが、一方、先程こちらに来ていた髭の冒険者は困ったように頭を抱えて口を開く。
「…………お前らが雇った優秀な護衛って、これか?」
「ンフ?そうですが、何か?」
男の声に、カミラちゃんの方も気付いたようだ。
男の顔を確認すると、ゲッ、と眉間に皺を寄せながら、男を見つめる。
「……悪いことは言わねえから、このクソメスガキ連れてくくらいなら――さっさと街に戻った方が良いぜ?」
「なんだとジョー!」
と、髭面の冒険者ジョーと、自称天才神官のカミラちゃんは、あたしの目の前で互いに睨み合いを始めたのだった。