パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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煙の中から

「ジョー!冒険に行くわよ!」

 

 かつて、俺がまだ小さい子供だった頃、山と森に閉ざされ鬱屈とした田舎の村で、毎日そう言って遊びに誘う少女がいた。

 少女は俺よりもほんの少し年上で、だからだろうか、俺に対してやけに偉そうで、自信満々で、何かと俺を守ろうとした。

 冒険と称して山の中に入った挙句、怪我をした俺を抱えると、やれやれといった表情で腰に付けた袋から包帯を取り出すのだ。

 

「情けないなあジョーは、私がついてないと何にも出来ないんだから!」

 

 俺はそう言われるたびに、お前が連れ出したんだろうがクソったれと思いつつも、言われるがまま抱き着かれるのが正直そんなに嫌いじゃなかった。

 今にして思えば、あいつは閉ざされた田舎の村から脱出する為に冒険を求めていたのだろう。

 年頃の幼馴染とピンチを乗り越え、弱者を守り、夢へと駆ける、そんな物語の冒険者にこそ憧れていたのかもしれない。

 そんな少女はある日の夜、俺に問いかけた。

 

「ねえジョー、ジョーは私が冒険に行ったらさ、一緒について来てくれる?」

 

 いつもの山への冒険ごっこかと思った俺は、今から付き合うと親父にしこたま怒られるなとか考えて、『今日は行かない』と答えた。

 結果として、それが良かったのか悪かったのか、あいつは俺の言葉を聞いた後、ほんの少し寂しそうな表情で笑いながら一言。

 

「そっか」

 

 そう呟いて、夜闇の中をどこかへと去っていった。

 

 結論から言えば、俺が少女を見たのはそれが最後だった。

 きっと冒険に行ったのだろう、そう考えた俺も後で故郷を出て様々なところを訪ねたものの、それでも結局あいつの痕跡は見つけられなかった。

 冒険の途中で盗賊にでも殺されたのか、迷宮で魔物に食われたか、それとも挫折してどこかで平和に暮らしてるのか。

 正直どれもありそうな気がするし、俺が心配することでもないのかもしれない。

 ただ一つ言えるのは――

 

 あんな後味の悪いことは二度とゴメンだってことだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 雷電に焼かれ、地面からもうもうと煙の立ちあがる中、ゆらりと一つの人影が立ちあがる。

 

「……驚いたな、まだ生きていたか」

 

「ったりめぇだろ……こちとら天下のジョー様だぞ……」

 

 体を黒く焦がし、ふらつきながらも、男は剣を構えてこちらを睨みつける。

 常人であればとうに倒れ伏しているだろう。恐るべき精神力だ。

 敵ながらその姿勢は称賛に価する。

 

「となれば、一方的に空中から痛めつけるのは流石に無礼と言うものか」

 

 そう呟き、私は煙立つ地面に足を着く。

 

「せめてもの情けだ、最期は視線を合わせ、迎え撃ってやろう」

 

「この期に及んで……上から目線でモノ言ってんじゃねえぞ!」

 

 吠えながら、ジョーは手にした魔剣を振りかざし、私に襲い掛かる。

 だが――明らかに動きが鈍い。

 思えば、群がる冬虫夏草から脱出するのだけでも相当に体力を消費した筈だ。

 その上であの雷撃を食らって動けるだけでも卓越したタフネスと言えるだろう。

 

「立派なものだな」

 

 そう返しながら、私はジョーの剣戟を苦も無く躱すと、そのまま指を鳴らし――ジョーの体に雷撃の衝撃が突き刺さる。

 

「あがっ……!」

 

 ジョーの体が衝撃で吹き飛び、ごろりと転がると、流石に限界だったのか、切れ切れとした息を吐きながら、そのまま倒れ伏している。

 いや、立ち上がろうとはしているようだが、最早ここまで来ると体に力が入らないのだろう。

 無様な姿だ。戦士としてこれ以上こんな姿を晒すのも苦しかろう。

 私はまた、地を這うジョーに指先を向け、呪文を唱える。

 

「雷槍」

 

 言うが早いか、ジョーの頭上から雷撃が降り注ぐ。

 轟音とともに黒々とした煙が巻き上がり、空気が振動した。

 強く優秀な良い戦士だったが、敵であれば跡形も無く消し去るのも致し方無し。

 後はゆっくりカミラの持つ鍵を――

 

「ッ!?」

 

 鍵を奪うべく、ジョーの居た場所から目を逸らした瞬間、ぼこりと鈍い音が響き、私の鎧の一部が砕かれた。

 鎧が破壊された衝撃は体にも伝わり、思わず呻きながら後ろに飛び退く。

 ジョーは始末した筈だ。仮に生きていたとしても動けるはずがない。どこかに野生の魔物がいたのか?

 咄嗟にそう思い至り、警戒態勢を取る私に、もうもうと立つ煙の中から――美しく透き通り、どこか自信に満ちた少女の声が耳朶に響く。

 

「ワーッハッハ!情けないなジョー!あれだけ大見得を切っておいて惨敗とか!は~!雑っ魚!私がいなきゃ死んでたんじゃないか~!?」

 

「そこはお互い様だろうがクソボケがよ!お前よくあんだけピンチ助けてもらっといてそれ言えるな!?」

 

 この声は――馬鹿な、早すぎる。

 麻痺を解除するにしてももう少し時間がかかる筈だ、ましてや、あれだけいくら神官と言えど、あれだけ負傷したジョーをすぐさまこれだけ治療できる筈が無い。

 神官による治療行為、神聖術は確かに傷ついた人々の肉体を癒すが、それには傷口を適度に、素早く癒す技術・観察力などが求められる。

 才気に溢れ努力を重ねる熟練の神官であればともかく、彼女のような年若く、生意気で、傲慢な駆け出し神官が瞬時にこんな回復量を――――いや。

 

「そうか、忘れていた。貴様は……天才神官と名乗っていたな」

 

「その通りさ」

 

 雷撃による煙が晴れると、眼前にはそれまでの傷が嘘のように健康的な肉体を見せつけるジョーと、もう一人。

 どこか人を挑発するような目付きで、口元ににやりと不敵な笑みを浮かべながら、そこに少女――カミラが堂々と立っていた。

 

「さあ、第二ラウンドだ、ザッパローグ!天才神官カミラ様の力!存分に心に刻んで咽び泣くと良い!」

 

 そう叫ぶと、眼前の少女はずずいと一歩踏み出し、手にしたモーニングスターを私に向けて構えるのだった。

 

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