パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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血の雫

 時は少し巻き戻って――

 

 迷宮二層、いくつもの道に通じる城の大広間にて、ロフトさんが罠を解除して扉を開いた。

 さっき、あたしに届いた念話によると、師匠はカミラちゃん達と戦闘に入ったらしい。

 よって他のパーティメンバー……ロフトさんやリガス君たちを足止めするように指示されたわけだけど……

 人数の不利は否めない。

 ダキアを戦力に数えたとしても、二対四でどれだけ足止めできるか……

 

「何やってんだ、お前ら、とっととジョー達のとこ見つけるぞ」

 

 言うと、ロフトさんが先程仕掛けを解除した通路の前に立ち、大広間のあたしたちに声を掛ける。

 どうするべきか、考え込むあたしに気が付いたのか、ダキアはちらりとこちらに目をやると、ふふん、と笑い声を漏らしながら呟いた。

 

「んん……ふふふ、悪いんだけどロフト君、そっちは君達だけで行ってくれないかな?」

 

「は?どうして……」

 

「ふふ、冒険者の君達はともかく、僕の目的はあくまで迷宮の調査だ。そんな調査対象が目の前にあるというのに、はぐれたメンバーの救助なんてことしてられないさ」

 

 そう口にしながら、ダキアはうっとりとした様子で大広間に置かれた彫像を撫でる。

 ロフトさんは、そんなダキアの態度に呆れたように溜息を吐くものの、どこか諦めたように言葉を返す。

 

「そういうことなら、俺は良いけどさ……他の連中はどうする?」

 

「あ、俺も出来ればカミラさんを助けに行きたいです」

 

「わ、私も……」

 

 ロフトさんの問い掛けに、リガス君とトゥーラちゃんが返答するものの、その答えを嘲笑うかのように、横からダキアが口を挟む。

 

「ん……ふふ、それは困るね、僕は君達を護衛として雇い入れたんだ。その君達が僕から離れて、護衛対象を一人にするとなると……これはもう、任務失敗としてギルドに報告させてもらうしかないねぇ」

 

「うっ……!」

 

 いやらしい言い方で、護衛対象としての立場を強調すると、リガス君たちも言葉を詰まらせる。

 パーティメンバーの一人が行方知らずになってしまった、とはいえ、確かにここでダキアから離れるということは、任務中に護衛対象を放り出すことには変わりないのだ。

 元から別の目的で迷宮に潜ってきたロフトさん達はともかく、あたし達からの護衛任務を引き受けて迷宮に潜ったリガス君たちとしては、それでダキアが襲われようものなら紛れもない任務失敗である。

 そして任務の失敗は冒険者としての評判にも響く。出来れば避けたいところだろう。

 その辺りの雰囲気を察したのか、一部始終を眺めていたロフトさんは、やれやれといった感じで頭を掻きながら、また口を開く。

 

「わかった、そしたらリガス達はここで待っててくれていいさ、言って向こうにはジョーも一緒にいるんだし――俺達もまあ、カリカと二人ならなんとかなるだろ」

 

「!」

 

 言いながら、ロフトさんが傍らのカリカさんの肩をトン、と叩くと、カリカさんは任せろと言うかのように鼻息を鳴らし、頷く。

 リガス君たちも顔を見合わせると、一応は納得したのか、同じように頷き、返す。

 

「すいません、うちの自称天才神官をお願いします、ロフトさん」

 

「ああ、それじゃな」

 

 ロフトさんはそう答えると、手を振りながら、大広間から伸びる通路へと足を踏み入れていく。

 さて、そうなると――あたしは広間に残るダキアにちらりと視線をやると、互いに頷く。

 あたしの仕事も、ここからだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 城の大広間のような一室から、通路を通って先に進むと、いくつかの柱が立ち並ぶ回廊へと出た。

 柱に囲まれた石造りの床からは、辺りに広々とした――けれども、やたらに陰鬱な、湿った苔に覆われた地面が広がっている。

 かつては泉か何かだったのだろう、毒々しい小さな沼地の先には、これまたかつては荘厳であったのだろう、ボロボロの城壁が聳え立っている。

 広いが、庭というほどの解放感は無い。

 あくまで渡り廊下から見える城の憩いの風景、という程度の場所だったのかもしれない。

 そんな風景を眺めながら、俺は傍らを歩くカリカを見上げる。

 こいつ、武道家だからか何なのか、やけに身長がデカいので毎回こうして見上げないといけない。

 男としてはちょっと悔しいが、それはそれとして、俺は冷静に声を掛ける。

 

「カリカ、どうだ?ジョーはこっちの方だと思うか?」

 

「~?…………!」

 

 カリカは俺の問いに、う~ん、と何かを考え込むような態度を見せると、やがて、自信に満ちた表情で頷く。

 こいつ喋らない……というか、喋れないだけで表情自体はやたらと豊かだ。

 ついでに言えば勘が鋭い。

 俺やジョーが何だかんだで冷静に、確実に動くタイプだとしたら、カリカは本能的な勘でパッと動くタイプだ。

 かといってやたら勝手なことをするわけでもないので、カシミールともまた違うタイプだが。

 そんなカリカが何となく、と指で示した方向に着いて行くと、不意にぼこん、と土が盛り上がり、黒々と光る甲羅が地中から姿を現した。

 背中からキノコを生やした昆虫型の魔物――冬虫夏草だ。

 おおよそ三体の冬虫夏草が俺達を囲むように現れ、牙をカチカチと鳴らして威嚇する。

 こいつらは本来、魔術師の炎で焼き尽くすのが定石だが、あいにく、俺達のパーティに魔術師はいない。

 さて、どうするか、自分からは動きたくないな……と、構えて動かない俺達に、業を煮やしたのか、冬虫夏草の一匹が唸り声を上げながら飛び込む。

 と――瞬間、飛びかかった冬虫夏草の甲羅が砕け、弾け飛び、吹き飛んだ体が石柱にぶつかって倒れ込む。

 

 カリカだ。

 冬虫夏草が胞子を振り撒くよりも、牙を伸ばすよりも早く、拳を甲羅に叩き込み、吹き飛ばした。

 仲間が吹き飛んだことで警戒したのか、僅かに後退る冬虫夏草の頭に、カリカは続けざまに踵を落として力で砕く。

 最後に一体、残った冬虫夏草が、慌てて牙を突き出すと、カリカはその牙を両手で掴み取った。

 掴んだ手に力を入れると、カリカは冬虫夏草の牙をそのまま外へと開き――メリメリという音を立てて、冬虫夏草の頭が真っ二つに裂けた。

 裂けた冬虫夏草の頭を投げ捨てると、カリカはこちらに顔を向け、どうだ!と言わんばかりの笑みを浮かべる。

 こいつ本当に怖い。

 喋らないせいもあるけど、とにかくパワーで全部解決しようとするし、実際それが出来るから怖い。

 こういう時に備えて俺は一応、油壷とか火種とかも持ち歩いてはいるんだけど、カリカがいるとそういう準備があまり役しない。

 いや、節約できるし楽だから良いんだけど。

 うん、いや、良いんだ、うん、よし、俺は気を取り直して、カリカに声を掛ける。

 

「よし、カリカ、それじゃ先に進――ん?」

 

 声を掛け、回廊の先に進もうとした俺の目の前に、何か不可思議な物が浮いているのが見えた。

 

 ――――赤い。

 

 それは赤い球体だった。

 腕から宙に漏れた血の雫。それをそのまま空中に固定したかのような、血のように赤い球体。

 手に平にすっぽり収まる程度のサイズであろうソレは、朽ち果て、色の褪せた回廊にあって異質な存在感を放っていた。

 何かがおかしい。

 眼前のそれを警戒して、俺の体が後ろに下がった瞬間――

 

「ーッ!」

 

 カリカの、声にならない声が響き、俺の体が強い力で吹き飛ばされる。

 何が起こったのか分からず、転げ回りながら、慌てて視線を戻すと、先程まで俺の体があった場所、丁度背中側にあたる位置に、もう一つ、血の雫が浮いていた。

 けれども、血の雫は先程までの球体とは打って変わって、激しく壁にぶつかった血痕のように、鋭利な棘を辺りに伸ばしている。

 本来ならば、俺の背中があったであろう、その位置、俺の背中に突き刺さっていたであろう、その棘は――

 俺の代わりに、倒れ伏したカリカの背中に突き刺さっていた。

 

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