パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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俺以外はみんな馬鹿

 私、カンナルグ・トリフは吸血鬼だ。

 魔族としての特徴で言えば、日光に弱く、人や動物の血を啜り、高い身体能力を持ち、様々な術を使う怪物。

 とはいえ、あたしの魔術は師匠に比べたらまだまだだ。

 師匠は魔術の最大の強みを汎用性だと語り、事実、炎に氷に雷に、果ては空間魔術まで様々な魔術を使いこなせることができる。

 一方で、あたしの使える魔術は一つに特化しすぎている。

 自身の血を操り、肉体を変質させる吸血鬼としての魔術。

 

 あたしはじっとその場から動かず、辺りを見回す。

 城壁に囲まれた苔むした地面に、朽ちた柱が転がる回廊。

 念話では、師匠がいるところも同じく、苔むした地面の中庭だと言っていた。

 ここからそう遠くはないのだろう。

 そう判断したあたしは、今しがたそこを進む二人を襲い、カリカさんをダウンさせた。

 カリカさんがロフトさんを庇った結果のダメージだが……これに関してはラッキーだ。

 正直、立ち姿や雑魚敵との戦闘を観察するに、ロフトさんは他の二人、ジョーさんとカリカさんに比べて戦闘能力は一歩劣る。

 それでも実力者であろうことは間違い無いので、油断は出来ないのだが――さて。

 師匠に命じられた任務は彼らの足止め……だったけど……

 

「倒せるのなら、それに越したことは無い筈だよね」

 

 あたしはそう判断すると、ぽつりぽつりと垂らした血の玉を、ロフトさん目掛けて伸ばしていく。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「―――っぶな!!」

 

 そこかしこに浮かぶ血の玉から、俺目掛けて鋭い棘が次々に飛び出す。

 咄嗟に身をよじり、躱すものの、とてもじゃないが俺にはそれで精一杯だ。

 反撃の隙が無い。

 先程、カリカを襲ったような血の玉は、大小様々な多数の血の玉となって、あたかも海に浮かぶクラゲの群れが如く、空中にふわりと漂っている。

 厄介なのは、こいつらは放っておくと増えるということだ。

 一つの玉から同じようなサイズの血の玉が分裂して、また空中にふわりと浮く。

 そのせいで俺が逃げ続け、反撃の隙を伺っているうちにどんどん逃げ場が閉ざされていくのだ。

 

「せめて発生原因が分かれば良いんだけど……」

 

 言いながら、続けて血の玉が突き出す棘を躱す。

 これが迷宮の罠、という可能性も考えたが、行動が能動的すぎる。

 意識して俺を襲ってきているように感じる。

 の割には、回廊でダウンしているカリカにトドメを刺しには行っていない。

 俺を優先的に狙っている――というか、俺がカリカを助け起こそうと向かうのを待っているような節がある。

 相手は、それなりの知性を持っている。

 機械的に動く迷宮の罠や、目の前の敵をただただ襲い続けるだけの魔物とは根本的に違う存在だ。

 

 つまり――相手は人間、あるいはそれと同程度の知恵を持った存在だ。

 つい最近、迷宮に悪魔がいる痕跡を発見したばっかりだ。

 カシミール……いや、カミラか、あいつが倒した例の悪魔の仲間かもしれない。

 ただ、その線を探ったところで――

 

「これじゃ……どうしようもないだろっ!」

 

 一つの血の棘を躱したところで、次の棘が続けて飛び出し、それをギリギリのところで身をよじって躱す。

 どう考えても意識的に俺を狙った動き――術者がいるとしたら、絶対にすぐ傍にいる。

 これだけ精密な術を、状況を見ずに遠隔で操作できる奴なんてそうはいない、いる筈がない。

 絶対にこの血の玉を近くで操作している筈……なのだが……

 

「くそっ……姿が見えねぇ……!」

 

 チッと舌打ちをしながらも、息を整え、俺は一つ吐き捨てる。

 敵の姿が見えない。

 こういう面倒臭い術に対する一番の対処法は、術者本人を速やかに処理することだ。だというのに、辺りに術者の姿が一向に見つからない。

 柱や岩の影、はたまた地面に身を隠しでもしているのかと、血の棘を避けながら辺りを見回していたが、それでも怪しいところは一つも見つからない。

 クソッ、早くしないと、このままじゃいずれ追い詰められる。

 

『考えろ、大丈夫だ、落ち着けッ!』

 

 俺は心の中でそう叫び、精神を落ち着かせながら、尚も辺りを観察する。

 大丈夫だ、大丈夫、確かに俺はジョーやカリカに比べて戦闘能力は低い、カシミールみたいな瞬時に回復を出来る技能も持ってない。

 だが――それでも俺はA級冒険者だ、俺はこのパーティには欠かせない人材だ。

 

 何故なら――そうだ、俺がこのパーティで……一番ちゃんとしてるからだ!

 

 カシミールは駄目だ、あいつが一番駄目、クソカスだ、あいつは。

 美少女になってたから、そのへんの愛嬌で許せる気もするけど、基本的には駄目人間だ。

 頭は良いかもしれないし、実力もあるが、すぐに調子に乗ってピンチになって俺達の最悪の想定のちょっと斜め上の最悪を引き起こす。

 いや本当に駄目だな、あいつ、なんだ?俺が今こうして苦労してるのもあいつのせいじゃないか?カスか?

 

 大体ジョーも駄目だ、カシミールが馬鹿すぎて本人ちょっと冷静なパーティリーダーみたいになってるけど、普通ならジョーも大体が脳筋の類だ。

 確かに基本的に調子に乗ったりしないし、堅実だし、年相応の現実的な考えもあるけど――あいつは基本が冒険野郎だし、あと短気だ。

 カシミールのちょっとムカつく態度も聞き流せばいいのに、ジョーは正面から受け取って喧嘩する。不器用なんだ。

 だから勝手にキレて迷宮の壁殴って罠を起動させる。なんだあいつ、馬鹿か。

 

 カリカは正直いまだによく分からない。

 喋れないのは別に本人のせいじゃないらしいし、それに関して責めることは出来ない……けど、いや。

 だとしてもやっぱ直情的だ。武道家たから当然かもしれないけど、危険な時に一番先に突っ込むし、咄嗟の時に指示とか聞けないし。

 なんだこのA級パーティ、終わってないか?駄目じゃないかこれ?

 

 ていうかカシミールはもう追放されてるし、女の子になってるし、もう本当に……

 

「――俺がしっかりしてないと、駄目じゃねえか!!」

 

 そう叫ぶと、気持ち血の玉の動きがビクリと止まった気がした。

 やっぱり何らかの術者の意思がある。

 絶対ここら辺に隠れている筈だ。

 一発ちょっと叫ぶことで、一気に頭を冷静に出来た。

 そうだ、マジで俺がどうにかしないといけないし、俺ならどうにか出来る。

 戦闘能力は他のクソボケ馬鹿共と比べて劣るかもしれないけど、俺は斥候だ。

 観察能力に関しては他の三人に負けちゃいない、というか圧倒的に勝っている。

 が、いずれにせよこの棘共を相手にするには情報が足りないし、攻撃するチャンスも少ない、ならまずは……

 

「――この血の玉の術者の奴!聞いてるんだろ!提案だ!」

 

 俺の問いかけに、血の玉の動きがピタッと止まり、周囲からくぐもったような、掠れたような声が響いた。

 

「……提案?」

 

 魔術か何かで声を変えているのだろう、男とも女ともつかない声が、辺りに反響して響く。

 声から術者の居場所を特定するのは難しいか、だが、これで確実に術者が周辺にいることは確信できた。

 俺は術者の警戒を解くように、ゆっくりと、落ち着いた動作で問いかける。

 

「ああ、あんたの目的は何だ?俺達を必ず殺さないと達成できないものか?」

 

「…………」

 

「必ずしもそうでないのなら、俺はあんたに協力してやることもやぶさかじゃない、俺は他の冒険者連中の命や、迷宮の宝よりは俺の命の方が大切だからな」

 

 沈黙する術者に、俺はそう語り掛ける。

 実際のところ、この術者のメインの狙いは俺達じゃないと踏んでいる。

 ダウンしたカリカをすぐには殺さず、積極的に攻撃を仕掛けてきている、とはいえ、俺が絶対に避けられないような大技、確実に殺せるような大魔術といった術は仕掛けてきていない。

 自身の姿を見せないこともそうだが、必殺の意思、俺達を絶対にここで殺すという意識自体はそこまで感じられないのだ。

 どちらかといえば、俺達の足止め、あるいは観察、攻撃を仕掛けながらも俺の動きを見極めようとしてくる意思を感じる。

 血の玉から見えてくる感覚はこんなもんか。

 

「俺達を殺さないで助けてくれる、ってんなら、協力してやるが――どうだ?」

 

「……協力は断る、しかし、ここに留まり我々の邪魔をしないのならば……」

 

「ああ……感謝する、よっ!」

 

 俺の提案に僅かに警戒を解いたかのように、血の玉がふわりと下がった瞬間――俺は腰に下げた嚢から一つの壺を取り出し、集まる血の玉の真上へと投げ込む。

 

「っ!?」

 

 術者の驚いたような、息を呑む声が響くと同時、血の玉が壺を目掛けて棘を突き出すと、粉々に砕かれた壺から黒い液体が撒き散らされ、血の玉へ降り注ぐ。

 血のような赤黒い球に、真っ黒い液体が混ざり込むと、俺はすかさず嚢から取り出した松明に火を点け、それも血の玉目掛けて投げつける。

 と――やはり迎撃すべく血の玉が棘を突き出し、松明を破壊すると、しかし、千切れながらも尚、松明の炎は降り注ぎ――それが血の玉に触れると同時、辺りに炎が燃え広がった。

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