パーティから追放された天才神官の私はチヤホヤされる為に女の子になりました。   作:節山

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武道家カリカ

「あああああああああああっ!」

 

 辺りに燃え広がる炎が、血の玉に混ざった油に燃え移り、更には激しく燃え上がると、辺りから絶叫が響く。

 血の玉を操る術者がこの周辺にいることは間違い無い。

 が、術者の姿は見当たらず、物陰やどこかに隠れている様子も無い。

 ということは、術者は何かしらの魔術を使って、自身の姿を透明にしているか、幻術か何かでこちらの視覚を歪めている。

 そうでなければ――何かに化けている。

 

 さて、化けているとして、何に化けているのか?どこに化けているのか?

 辺りには朽ちた柱や彫像が転がり、それに化けているという可能性もある。

 が、一方で術者は、そこかしこを動き回る俺に躊躇なく血の棘を突き出してきた。

 相手だってわざわざ自傷の可能性のある場所に棘を突き出したりはしづらいだろう。

 まして、化けているとはいえ、俺が近くにいたら、いつ正体がバレるか気が気でない筈だ。

 と、なれば、敵の位置は俺が寄り付かない場所――否、寄ろうとしても寄れない場所。

 つまりは、あのいくつもの血の玉が浮かぶところの中心だ。

 

 まあ、それもあくまで一つの可能性程度だったわけだが、幸いにも当たってたみたいだ。

 斥候の俺には血の玉を破壊する手段、広範囲に攻撃する手段は無いと踏んでいたのかもしれないが――残念だったな。

 なんならウチのパーティでこういう攻撃できるのはジョーと俺くらいだ!

 ついでに言えばジョーも水龍剣での攻撃限定だから火を使えるのは俺だけだ。

 やっぱこのパーティアンバランスすぎるよ。カシミールの後釜にもっと落ち着いた神官か賢者か魔術師入れようぜ。マジで。

 

 などと考えながら、燃え盛る火の海を眺めていると、そこから一つの影が飛び出してくるのが見えた。

 形の崩れた血の塊のようなそれは、びしゃりと音を立てて地面に落ちると、やがて力を取り戻すかのように盛り上がり、人の形を取り出した。

 

「へぇ……なるほど、お前か、カンナ」

 

「……」

 

 言いながらじっと見つめる俺を、カンナは凶悪な目付きで黙って睨む。

 あの血の玉のどれかに化けていたのなら、肌のいくらかは油で焼けた筈だが、見たところ既に治癒しているようだ。

 なるほど、魔術や神聖術じゃなく、単純に体の機能として自動で傷を回復している。

 

「となれば――吸血鬼ってあたりかな、当たりだろ?」

 

「……当たってる、抜け目ないね、斥候っていうのは」

 

「これでもA級なんでね、それでどうする?まだやるか?」

 

 俺の問いかけに、カンナはゆっくりと立ち上がり、答える。

 

「やるよ、まだロクに足止めも出来てないし――隠れなくても、あんただけなら、あたし一人で十分だ」

 

 そう言いながら、カンナはすっと腕を突き出し、拳をぐっと握り込むと、拳の内側から湧き出すように血が噴き出し、再びいくつもの血の玉となって浮かび上がった。

 ……というか、さっきよりも明らかに数が多いし、一つ一つの玉がデカい。

 さっきよりも激しく、強力な攻撃を続けられたら、俺一人じゃどうしようもないかもしれない。

 一人で十分、というのも決して見栄や根拠のない自信ではなく、冷静に戦力を判断した結果なのだろう。

 足止め、ともポツリと口に出してたし、さっきまではあくまでその為の動きだったのかもしれない。

 実際、あいつの本体探すのに結構時間使わされちゃったしな。

 威嚇するように、血の玉をゆっくりと広げながら、カンナがまた口を開く。

 

「カリカさんは最初に倒した。あとはロフトさんだけ、倒せばそれで良い」

 

「ごもっともだ、けど……どうかな……」

 

「?」

 

「悪いけど、うちの武道家は――思ってるより厄介なんだよ」

 

 俺がそう言うと同時、何かが砕けるような轟音が辺りに響き、砕けた血の棘の中心で、うちの無口な女武道家がただ静かに立ち上がっていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 しくったかもしんない。

 悠々と立ち上がった女武道家、カリカさんを見て、ついそう思った。

 ダウンしたカリカさんにすぐトドメを刺していれば――いや、でもあれは生かしておくことでロフトさんを逃がさない目的もあった。

 それに関しては今更どう考えても仕方ない。

 第一、あたしだってカリカさんを生かすからには、それなりの対策をしておいた。

 ダウンしたカリカさんに刺さった棘はそのまま固定していたし、万が一起き上がられた時、すぐに拘束できるように血の玉を周囲に設置しておいた。

 が――何故か今、それらの動きを封じる血の玉が全て、消え去っていた。

 

 術を解いたつもりは無いけど、あたしがさっきの油でダメージを受けた時につい解除しちゃってたとか?

 じゃなければ、魔術や神聖術……モンクだったりだとかで、武道家でありながら特殊な術を扱う人間、というのもいないわけじゃない。

 それらの術によるものか……などと考えるあたしを他所に、カリカさんは棘に刺されたダメージなど無いかのように、腕をぐるりと回して見せると、腰を落とし、一気にこちらへ駆け出した。

 小細工も何も無しに、一直線に駆けてくる。

 あたしからしたら良い的だ。

 すかさず、カリカさんの前方に幾多もの血の玉を集め、棘を突き出し、体を串刺しに――

 

「――は?」

 

 串刺しに、するべく突き出した幾多もの棘が、次の瞬間、全て打ち砕かれていた。

 見えなかったけど――いやいや、自分の拳だけで戦ってる武道家が、そんな一瞬であの棘の全てに対処できるわけがない。

 やっぱり術だ!何かしらの魔術か何かで対処している。

 

「棘が駄目なら、これで!」

 

 尚も迫るカリカさんに、距離を取るように後ろへ飛び退きながら、あたしは次の血の玉を送り出す。

 カリカさんの行方を塞ぐようにして広がった血の玉は、それぞれが更に細かく広がり、あたかも網のようになってカリカさんを覆い包む。

 『血の玉』状態のあたしの血はまだ液状で、それこそ風で吹き飛ばすか、水で薄めるか、油を混ぜて燃やすかでないと破壊できない。

 が、棘や網、形状変化した状態の血はそれなりの強度を保つ。

 この網だって当然、しなやかながら鉄の如き強度だ、普通の網だって素手の人間にはそうそう引き千切れないのに、この網を人間の武道家程度が――

 なんて思ったのも束の間、カリカさんが僅かにそう掛け声を発しながら、両の手で網を掴み、引っ張ると、あっという間に網が千切れ、再びカリカさんが足を踏み出す。

 

「はっ、ちょっ、嘘でしょ!?」

 

 もう大分近くまで迫ってきていたカリカさんに、あたしは慌てて血を刃のように薄く引き伸ばし、周囲から投げつける。

 が、これもカリカさんは難なく砕き、続いて飛び出した血の棘などは腕で受け止め、そのまま砕く。

 どんな形状の血をぶつけ、行く手を塞いでも、そんなもの意に介さないかのように、カリカさんは全てを砕き、ずんずん進んでいく。

 事ここに至って、ようやく気付いた。

 ――魔術とかじゃない。

 単純に筋力、肉体的なパワーと瞬発力で全ての攻撃を防ぎ、砕いている。

 というか、何なら最初に棘で突き刺した時の傷も筋肉で塞いでいる有様だ。

 ひょっとしたら、動こうと思えばすぐに動けたのかもしれない。

 だとしたら、何で動かなかった?あたしが姿を現すまで――いや、ひょっとして、あたしが姿を現したから?

 

 カリカさんの戦闘スタイルじゃ、いくら攻撃を防いだところで、術者本人を叩けないと意味が無い。

 もし本当に筋肉で全てをどうにかしていて、魔術が使えないのなら、敵の魔術自体を自分で解除したり、それこそ師匠の風のように吹き飛ばして無効化したりだとかは出来ないからだ。

 だから、あたしが姿を現すまでは死んだふりをしてじっとしていた。

 あたしが姿を現したのは――

 

「どうした、カンナ?顔が青いぞ?」

 

 ロフトさんのせいだ!

 くっそ!ひょっとして、こうなることを読んでて火であたしを引きずり出した!?

 自分一人じゃ勝てないけど、カリカさんがあたし本体を見つけさえすれば、後はもうぶつけるだけ。

 事実、今あたしはカリカさんが近距離に迫ってくるのを防ぐのに手一杯で、あっちにまで意識が向かない。

 

「ッ!」

 

「うっ、わっ!?」

 

 などと、一瞬そちらに注意を向けた瞬間、もうカリカさんが踏み込み、さっきまであたしがいた地面を拳で抉る。

 こうなったらもう、退くしかない。

 師匠に言われた足止めをこなせたかどうかは微妙だけど、一番マズいのは敵に捕まって情報から何から引き出されたり、人質になって足を引っ張ったりすることだ。

 そうするくらいなら、ここはさっさと逃げ……

 

「逃げるんなら、まあ当然、後ろに下がるよな」

 

 カリカさんの猛攻を逃れようと、後ろに飛び退き、地面に着地した瞬間――ぐにゃりと妙な感触をした地面にバランスを崩し、あたしはその場に尻餅をついた。

 

「くっ……何だこ……えっ、あれっ、う……動けなっ……!」

 

 慌てて立ち上がろうとするものの、粘ついた白い物体に手足と尻を固定され、引っ張っても全く取れない。

 

「トリモチってやつでな、俺はこういう罠もよく持ち歩いてるんだ、勉強になったな」

 

「ふざけっ……こんなの、また血に変化しちゃえば――あ」

 

 いつの間に罠を仕掛けていたのか、挑発的に口を挟むロフトさんに言い返しながら、変化して逃れようとするあたしの頭上に影が差す。

 無言であたしを見下ろすように立ち塞ぐカリカさんは、拳をグッと握りしめると、そのまま振り下ろし――

 直後、地面を揺るがすかのような鈍い音が辺りに響いたのだった。

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